35話 1人居なくなって
「今日ユズに会ってきたんだけどさ、ユズから伝言を授かっているんだ」
「へぇ。なになに?」
「それは......」
ユズは帰らないと単刀直入に言ってしまうと、ミゼとクルメトが過剰に心配するだろう。俺は前から考えていたセリフを喋った。
「ユズが新たな転移者を見つけた」
ユズに怒られないよう、慎重に言葉は選んだ。変な嘘をついたら後で何を言われるかわからない。これは、ディスアの誰かさんをいつか見つけるはずだから、ギリセーフ。
「それは大変だね、連れて来なくて大丈夫なの?」
「俺はその人のことは全く知らないんだけど、少し複雑な事情があるらしくて、俺らは会わない方が良いらしいんだ」
「?」
「とにかく俺らが会うのはまずいってユズが言ってた。俺も理由は詳しくは知らない」
少し複雑な事情 (人面蜘蛛をばら撒くクソ野郎) なので、これも大きな嘘はついてない。セーフライン。細かい部分はどうせ忘れているだろうし良いだろう。
「で、その転移者はずっと山に居るわけだから、ユズもそいつのために山に泊まってやるんだってさ。よく分からんけど、その転移者の加護? で寝床や食べ物になんやかんやあって、とりま山に泊まるにあたって問題はないらしい」
嘘は言っていない。一応全部本当だ。セーフセーフ。
「なるほど。でも、そしたらユズがずっと帰れなくない?」
「その辺は良い案が思いついたら帰ってくるらしい。最悪なんも思いつかなかったとしても、1ヶ月以上経ったら流石に顔は見せるって言ってくれた」
「えぇ...... 全然ユズと会えないよ......」
「ま、アイツは元気そうだったし、1ヶ月ぐらい待ってやろうぜ。俺の前の世界だと、友達でも10年以上顔を見なくなることなんてザラだし、それに比べればこの世界で1ヶ月なんて全然マシだよ」
「10年......!!」
「10年...... 3500日以上......!?」
ミゼとクルメトにとってはなかなかの衝撃だったらしい。ちょっとおもしろかった。
「でも、豆とかないと身体に悪いんじゃない? お肉がないし」
多分大豆等のタンパク質のことを言っている。流石村のお医者さんだ。食べ物とかの知識は多い。
「へぇ、そういうのも知ってんだ。でも大丈夫だろ。なんせ生物学者のユズだし」
「それもそうか」
「......アタシ、結構前から気になっていたのだけれど、なぜ彼はあんなに知識が豊富なの? 解剖をしたり、本を作ったり、いくら天才でもできなくないかしら」
「さぁ? 前世で本でも読みまくってたんじゃね? あと前世でも解剖しまくってたか」
「解剖し続けているって...... 彼ってそんなキャラじゃなくない?」
「うーん...... まあ解剖っつったって9割植物だし」
さっきの人面蜘蛛の件を思い出しそうで嫌だが、ユズは人間の命以外は大事に思っていない気がする。もっと言うなら、命とかじゃなくてもっと違う何かを重要視しているだけなんじゃないか。
まあそこら辺はおいといて、要は動物ぶった斬ろうがユズはなんとも思わないだろう。トーララオン追い返した時もあったけど、何匹かは普通に殺してたし。
「私も植物の解剖は見せてもらったことがあるよ。参考になった」
「俺も色々見せてもらったけど、解剖って意外と勉強になるんだよな。生物辞典とあわせて既にそれぞれの大体の性質は答えられるようになったぜ」
ユズは学者気質なところはあるし、メリットと殺すことへの抵抗感を天秤にかけた時に、メリットの方が勝っただけだろう。
フィルク風に言うなら、優先順位を考えただけだ。
「ちなみに、もし相手が動物なら、彼はアタシと同じぐらいには強くなるわ。あの大きな幼虫10匹ぐらいなら同時に相手できるでしょうね」
「え、それそんなほんわかと話す内容じゃないだろ。なかなかの衝撃度だぞ」
「強いならむしろ好都合よ」
「そうなんか」
そう思うと、俺はだいぶ期待されているんだな。少なくとも、人を殺せないユズよりは役に立つと思われているのか。
俺はユズについての質問に色々答えて、ご飯を食べ終え、自分の部屋に着いた。
「つっかれた〜!」
「ふぅ、アタシも疲れたわ」
「頭も身体ももう動かねぇよ。風呂入ったら寝る!」
俺はベッドに背中からダイブする。フィルクも俺の横で足をプラプラさせながら座っていた。
「色々と問題を解決しなきゃいけない人たちがユズとレアとキュリアか...... ガキばっかだな」
「キュリア様以外は後回しでいいわ」
「ま、どっちにしろタイカルの家行くならレアとも話す必要あるんだけどな。ユズもタイカルと話すのに絶対話題になるし」
ユズについて説明するのは、結構骨が折れる。ミゼとクルメトはなんでも信じてくれるからまだ楽だったけど、タイカルはもっと大変だろう。
いっそ変に誤魔化さないという選択肢もある。ただ、ユズの事情を正直把握できてないから、タイカルにも疑問を残すことになるし、ユズへと悪い印象を植え付ける可能性がある。誰も得しない。利得と倫理をどっちを重視するかという話だろう。
「そういや、金髪には何を話すの? 彼女たちには咄嗟にそれなりの嘘をついていたから驚いたわ」
「まあ、後で考えようって感じかな。頭疲れたのもあるし、考えるならユズのことについて考えたい。情報量が多すぎて処理ができてない。ってか、フィルクは結構ユズを評価するんだな」
「彼は成長の速度も速いでしょうし、既にあのレベルの魔法を使えるなら、おそらく世界でもTOPレベルは行けるわね」
「マジでなんでユズより俺を選んだの?」
フィルクはユズをなんとなく見下している節があったから、意外だ。相当の高評価だった。
「彼が幾ら強くても、人質をとったら勝てるわ。裏方に回そうと思っても、人を殺さない程度の機械工作ぐらいしかできないから、アタシの分身と相性悪いわ」
「ちゃんと考えているんだなぁ......」
「キキョウもしっかりと考えながら生きなさい。というか、そうしないと普通に雑魚だからアタシが八つ当たりで殺すわ」
「うーん、善処します」
フィルクからの信頼度は高いはずなのに、何故か命の危機に怯えないといけないそうだ。酷い。
「じゃ、風呂入ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
俺は脱衣所的なところで服を脱ぎ、水を浴槽に入れ、加熱魔法であっためる。魔法を使えば1分でお湯を張れるのだ。
「いてっ」
ちなみに、調節を失敗すると大変なことになる。沸騰した時はどうしようもなかった。今日は傷が痛むから、39度ぐらいと少し低めに調節する。
「......あれ、そういえば魔眼ってどこやったっけ」
ズボンのポッケに入れっぱだったかな。だとしたら風呂を出た後に触るのはなんか嫌だわ。先に取っとくか。
俺はドアを開けた。すると、何かがコロコロと転がってきて、足にぶつかる。
「うわっ、何?」
俺は1歩下がってそれを見つめた。
ギラギラと輝いた、緑色の十字架が映る。
ヘぇ、今まで気持ち悪かったからあんましっかり見たことなかったけど、こんな感じだったんだ。
「・・・え、かっこよ」
俺の魔眼は、そんな厨二的な見た目だったらしい。
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「魔眼...... 魔力を見る...... 『インサイト・アイ』だな」
「清き1票を入れるわ」
緑色の十字架が刻まれた魔眼をハンカチ越しに持って、名前をつける。フィルクはこの模様についてとっくのとうに知っていたらしいが、俺は今知った。
「よし、名前は決まったし...... つけるか」
「そうね。痛みを中和する魔法」
「センキュー。ふー...... せーのっ!」
俺が何をしたかは気持ち悪いので言わないことにしよう。俺は左目に作られた痛々しい痕を手で押さえて、治癒魔法で治した。
「あ、待って! 目を復活させるな!」
魔眼を入れる前に、眼球が復活する。
「無意識化で視界を治したいっていう欲求が出ているわ。気をつけなさい。もう一回、3,2,1」
「どーn痛い!!!」
俺はもう一回治癒魔法で治す。今度は眼球を復活させないように......
「あ、待って。これ無理」
「失礼するわ」
「痛い痛い痛い痛い!」
フィルクに回復されかけた目を抉られた。ってか衛生的に人の目を触るな。フィルクの指が汚いとか言うつもりはないけど、なんか嫌だから許可なく急に突っ込むな。
「よし、目は塞いだわ。傷跡を治しなさい」
俺は治癒魔法を使う。物体生成魔法で塞がれているため、もう眼球は復活しない。目の傷の跡はおそらく消えただろう。
「ふぅ、ふぅ、風呂入る前にやればよかった...... 変な汗出てきた」
「じゃあ、次は魔眼を入れ込むから、顔の力を抜いて」
「なぁ、なぜ魔眼を手に持つ? 魔法で入れればいいじゃないか」
「こういうのは力ずく...... で!」
俺は悶絶した。痛みを中和されているとはいえ、指で眼球を入れられているとか普通に無理!
「治癒魔法!」
俺は魔眼が入った目に治癒魔法を使う。これで傷も癒え、おそらく神経系も繋がるはず...... だけど......
「あれ、見えない」
「よく見たらこれ、左右反対だわ」
レアは左目だったからなんも考えず左目でやったけど、ダメだったみたいだ。しっかり見とけばよかった。
「もう一回痛みを中和する魔法をかけとくわね」
「......俺の魔力、治癒魔法で結構消えているんだけど」
「あぁ。じゃあ、明日続きをやりましょう」
......魔眼をマスターするにはまだまだ先は長そうだ。




