28話 最悪の虫
人面蜘蛛
それはまるでキモいを具現化したようなキメラである。俺ですら思う。倫理的にヤバい。ヤバすぎる。
「食べるなら隣の女を食えー!! こいつは無限に食料だぞー!!!!」
「キキョウ、虫に言葉は伝わらないわ」
「意思疎通魔法で今相談しているんだよー! たしかに俺の方が体積的には多いけど、隣のやつは食べ放題だから! バイキング形式で食べ放題だから! バイキングっていうのは、あ、あ、ホテルのやつー!!!!」
「本当に会話をしている......?」
ヤバい、こいつら会話にならない! ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
フィルクの結界を素手でぶっ壊す。火事場の馬鹿力という奴だ。そのまま寝ているタイカルの腕を掴み、壁を魔法で乗り越えようとする。
しかし、フィルクの魔法で身体が急に重くなり、動けなくなる。
「キキョウ、戦いなさい。相手はそんな強くないわ」
「そういう問題じゃねー!!!」
「お兄ちゃん、がんば!」
「おまえら、炭屑にでもしてやろうか!!!???」
爆発魔法でフィルクを吹っ飛ばす。しかし、魔法で防がれて身体への重力は変わらない。
「あ、あ、『プリズム・サンライズ』!!!!」
俺は目の前に半透明の結晶体を作ると、太陽の光を一気に集め、解放した。レーザーのように1直線に光は向かい、そして人面蜘蛛に放たれた。
これは俺が『プリズム・サンライズ』を使った最初の技だ。太陽の光をプリズムに集め、その光の方向を自由に操れるという技だ。
フィルクを倒した時は溜めに溜めたが、これぐらいの軽い攻撃にも使える。失明させるぐらいはできるだろう。
「へぇ、そんなこともできたのね」
「なんかまだモゾモゾ動いてる! 怖い!」
「本当に強い人は心が強いわ。刺してきなさい」
「はぁ!?」
目が見えなくなったせいで、余計に動きがキモくなっている。ものすごい歯をガチガチしてる。......無理なんですけど。
「ちょっとフィルク...... 怖いから俺に手を握らせて」
「? 逆じゃない?」
「いいから」
フィルクは右腕を出した。俺は左手を近づけると、フィルクの手首を掴む。右手でフィルクの二の腕を掴み、そのまま体勢を変えてフィルクを持ち上げ、人面蜘蛛に思いっきり叩きつけた。一本背負いというやつだ。
「痛い......」
「よし、倒したぜ」
「腕と手首と背中の骨が折れたわ......」
「大丈夫? お姉さん」
「分身が2つ近くにいるから大丈夫よ」
「?」
ふぅ、ふぅ、今でもまだ心臓がバクバク言ってる。もう帰ろう。興味本位で入ったのが間違いだったんだ。
俺はできるだけ目を向けたくなかったが、仕方なく土をかける。罪滅ぼしというわけではないが、これぐらいはやっておくべきな気がする。
「すまんフィルク、やっぱ吐きそう...... 埋めといて」
「埋める?」
「そういう俺の国の伝統だ」
「分かったわ」
水を一杯飲む。少しはマシになった。
「ほら、キュリア。帰るぞ」
「え〜! やだ〜!」
「ダーメ。......タイカルは寝かせて正解だったな。フィルクが迷惑って言った理由はこれか」
タイカルを壁の外に移動させ、俺とキュリアも壁の外に戻る。タイカルを起こすけど、何も言わないようにしよう。
「ほら、起きろタイカル」
「キキョウ、彼は放っておいてもう一回入りましょう」
「あぁ、壁の中に入る前に分身を作ってたのか。俺はもう2度と山の中には入らん」
「ディスアはどうするの?」
「あんなキメラ作るやつと関わりたくない」
じゃあいっかとでも言うように帰る準備をするフィルク。お前はそれでいいのか......
とりあえず鼻と口を塞いで、無理やりタイカルを起こす。そういや、ユズにこれをやろうとしたら1秒も経たずに起きたなぁ。
「......あれ? ユズは?」
俺は咄嗟にタイカルから手を離した。
「ユズはアレの存在を知らないのか? フィルク、あの人面蜘蛛って山にどんぐらい居る?」
「30匹ぐらいかしら」
・・・あぁ、そういうことか。ユズが話そうとしない理由って、これかよ。ってことは......
「おい、ユズは近くに居るか?」
「えぇ。人面蜘蛛に食べられないよう、種を集めているわ。壁の外も危ないから、色々植えているわね。それと、飛ぶ系の虫を殺しているわ」
「人面蜘蛛は殺さないのか?」
「そうね」
なんで殺さないのかは正直分からない。ただ、ユズは優しいから、もしかしたら、人の顔をしている生物を殺せないのかもしれない。それか......
その時、俺の脳裏に最悪の予想がよぎった。それは俺の新たな人生で、明らかに初めてのトラウマとなった。
「おい、キメラってことは、あれって元になった人間も居るのかよ」
「えぇ。ディスアで人を集めるのに長けている人が居るわ」
「じゃあ頭以外はどこにある」
「さぁ? 虫の餌にでもなっているんじゃないかしら?」
......吐き気がする。そしてそれ以上に、そんな常軌を逸した存在に、生物の本能が怒りを呼ぶ。
「なぁ、おまえは何でそれを知ってて言わなかったんだよ」
「言ったらキキョウが来ないでしょう? アタシだって、ここまでキキョウが怯えるとは思っていなかったわ。気分を悪くしたなら謝るわ。帰りましょう?」
そうだ。フィルクは俺以外に、ユズには興味がないんだ。忘れていた、コイツは狂人だ。
「フィルク、山に入る。キュリアはタイカルと一緒に帰れ」
「え、何で〜?」
......キュリアは何も知らないのか? 人面蜘蛛を見ていなかったのか?
「......もしかしてフィルク、キュリアを呼ぶことにあんま反対しなかった理由って......」
「アタシ小さい子の面倒見るの苦手だから。こっちは思っていた反応と違かったわ」
「もうお前山に捨てていい?」
トラウマを負わせる気だったのかよ......
「そしたら勝手に付いていくわっ」
「うわすげぇ迷惑」
フィルクは自己中だし、キュリアは何も分かっていない(?)し、ユズはこんな状況でも何も言わないし、レアはホームシック中(?)だし、ミゼとクルメトはシリアスな話について行けないし......
いっそタイカルだけ山に連れて行って、フィルクにキュリアと帰らせるか。そして2人でユズを褒めた後に1発ぶん殴ろう。そうだそれがいい。
「やっぱフィルク、おまえがキュリアと帰れ。俺はタイカルと行く」
「アタシが居ないと、最悪キキョウが死ぬわよ?」
「んじゃ俺の視界に映らないところで付いてこい」
「え、もう歩くの疲れたわ」
「本当迷惑極まりないな!」
くそっ、なぜ俺の異世界生活はこんなんに仕切られているんだ。いつかハバネロを口の中に詰めてやる。
「ほらっ、手を繋ぎましょ?」
「フィルクって、わがままを言う時だけ目を大きく開くよな」
「賢い生き方よ」
もっと言うなら上目遣いである。多分、顔が可愛くなかったらフィルクは生ゴミの中にでも放り込まれてたよな......
「ッチ。交渉、ユズを必死に探せ」
「珍しくめっちゃ本気じゃない。普通に今日の夜まで待てば?」
「夜より今の方がぶん殴るには力出る」
「キキョウが本気で殴ったら、多分彼の首が折れるけれど......」
とりあえず、電気魔法でタイカルを起こす。
「あっつ!」
「悪い、キュリアが寝かせちった」
「それより電気で起こした理由は何!?」
「キュリアを連れて一旦村に帰れ。よく考えたら、連れて行こうにもタイカルじゃ足手まとい」
「えぇ!?」
タイカルには後で適当に説明するとして、キュリアはどう諭そうか......
「キュリア、夕飯はハンバーグだぞ」
「?」
「早く帰れないとタイカルが全部食べる」
「嫌だ! 帰らない!」
ダメだった。そういえば、そろそろ肉が尽きそうなんだよな...... まあそれは置いといて、キュリアはどうしようか。いっそタイカルに無理やり運んでもらう? いや、魔眼で眠らされるのがオチか......
「......帰るか歯を頭に打ち込まれるか、選びなさい」
「!?」
「コラ、そんなエゲツない拷問を教えるなよ」
「じゃあ指詰めね」
「!?」
「あと10秒で決めなさい」
「帰ります! ごめんなさいでした!」
フィルクから逃げるようにタイカルを盾にするキュリア。やっぱこの子天才だな。早速タイカルの使い方を学んできているし。
「んじゃ、頑張ってくださーい!」
「頑張れお兄ちゃん!」
さぁ、2人を帰らせることに成功したし、山に入るか。
壁を乗り越えて、着地する。そういや、さっきの人面蜘蛛はちゃんと死んだかな......
「へ?」
「うわっ、気持ち悪い」
人面蜘蛛が群れになって、人面蜘蛛の頭を食べるという地獄絵図。ゴキゴキとした音が、非常に不快感を催す。
「ちょっ...... コイツら共食いまでするのかよ......」
「人間の頭だからかしらね。雑食で視野も広ければ頭もいい」
「うぷっ、そういうのやめて......」
「あ、アタシの分身もいつのまにか消えているわ」
「・・・」
吐きそうになりながら、フィルクの疑問について頭を回す。そういや、何でだろう。
......考えなければよかった。
「ぎゃーーーーー!!!!!?????」




