27話 転移と子供
「うわっ、本当に来た......」
「マジお前そろそろぶん殴るぞ」
「しかも1人増えて...... 可愛い」
「キュリアです!」
レアが両手を俺の方に向けてるので、仕方なくキュリアを渡す。結局山に行くメンバーは、タイカル・俺・フィルク・キュリアの4人だ。
「レアは来ないってことで良いんだよな?」
「行かないです。......私はレア。よろしくね」
「ちなみに、キュリアは山に登るぜ?」
「え? ......こんな小さな子が?」
レアはキュリアのほっぺをぷにぷにしながら、目を見つめた。魔眼に気づいたようだ。
「......? キュリアちゃんは、この目を......」
魔眼について質問をしようと言いかけて、そして眠った。キュリアの魔眼の効果はなかなか強いみたいだ。
「え、なになに。え? どゆこと?」
「魔眼だよ魔眼。レアが持っているやつ。相手を眠らせるんだって」
「はえー......? 大丈夫なんですよね?」
「寝てるだけだし、普通に起きるし。おら、起きろ!」
俺はレアの身体を揺さぶった。起きない。
「え、大丈夫だよね......? え、先輩?」
「いや呼吸はあるから、死んではない。起きろ!」
軽く頬を叩いた。少し赤くなる。虐待にしか見えない。しかし起きなかった。
「......強くやりすぎちゃったかも」
「なんで!?」
「だって早く出発したかったんだもん! 良いでしょ寝させれば!」
開き直ったよこの子。でも確かに寝させとけば良いのか。
「え、オレまだよく分かってないんだけど、本当に平気!?」
「これ以上やると痕残りそうだし、フィルク待たせるのも悪いし、ベッドに置いておこうぜ」
「何時間眠るか分からないけど、睡眠バランス壊れそう。この村時計も無いのに......」
タイカルは俺を叱ろうとして、しかし本来の原因は幼児にあることを思い出し、納得がいかない様子でレアをベッドに置きに行った。熟睡しないよう布団は被せず布だけ被せ、ユズ特製の簡易目覚ましをセットし、律儀に置き手紙を残して、準備が完了した。
「しゅっぱーつ!」
「おぉ〜」「おぉ......」
一人だけ、体力が既に尽きていた。
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フィルクと合流し、現在山の中を歩いている。フィルクは疲れやすいしキュリアは子供だしで、俺はキュリアをおんぶしながら左手でフィルクと手を繋いでいる。ちょっと重いけど、まあ誤差だ。
フィルクにキュリアは任せて、俺はタイカルと話していた。
「そういや、タイカルはレアの魔眼について何か知ってんの?」
「魔眼って何ですか?」
「あ、何も知らんのかいな。じゃあいいや」
「えぇ、気になる......」
レアはやっぱりタイカルに話していないらしい。レアとタイカルが2人きりの時は、何を話しているんだろ..... タイカルの性格的に、無言はあり得ないよな。
「タイカルって普段レアと何話してんの?」
「人より会話は少ないけど、普通に話していますよ? 先輩とフィルクが何故か嫌われすぎているだけっす」
「でも、魔眼については知らないんだろ?」
「だから魔眼って何すか」
流石に多少は話しているということだろう。そういう点では、フィルクとクルメトとかはそういう関係なのかもしれない。
フィルクは俺が何か言わなくとも、それなりにクルメトと話していた。例えばクルメトが今日の予定を聞いてきても、普段のフィルクなら「情報を渡したくないわ」なんて言っているが、泊めてもらう恩やクルメトの善人感があってか、「昼食の後に出かけるわ」などと答えている。
しかし、自分から話しかけたり、会話をあえて続かせようとはしない。決して冷たいというわけではないが、とにかく積極的には話さない。
フィルクとは違う理由だと思うが、レアも積極的には話さないタイプなんだろう。悪いとは思わない。普通だ。むしろ、俺が求めているのはそのラインだ。
「俺、言うて悪いことしたかなぁ......」
「不法侵入」
「インターホンが有ったら俺だって押したさ」
「ノックは?」
「多分してない」
「じゃあ不法侵入っす」
この世界ではノックしないと不法侵入になるらしい。いや、タイカルの家だけだわ。
「ってか、タイカルはなんでアイツと住むことになったん? 最初の転移者はどっちだっけ?」
「オレっす。オレはクルメト院に住んでたけど、レアが来たら成り行きでオレがレアの橋渡し役になりました」
「え、なんで? 同性で年も近いしミゼにクルメト院で世話見てもらっとけばよくね?」
「いや、なんかオレだった。謎です」
「謎だな」
タイカルはこんな性格だが、赤髪混ざりの金髪という、めちゃめちゃ派手な容姿をしている。レアが好きなタイプは実はこういうギャップ的な? いやいや、相手はJSだぞ。恋愛感情は無いだろ。
「まあ、自分で言うのもなんだけど、オレって良くも悪くもないっていうか、こう......」
「言いたいことは分かる。危険な感じもしなければ、尊敬されるってタイプでも無いよな」
「そう! オレは後輩タイプだったんです! ずっと先輩みたいなオラオラ系が欲しかった!」
悪口になりそうだから言わなかったが、能力が秀でているわけではないし、草食系って感じだし、一緒にいて安心ではある。
「ぶっちゃけ大変じゃねぇの? アイツ面倒そうだし」
「めっちゃ大変っす。人が来たらわざわざ外で話さないといけないし、それについて言ったらウザそうな顔してきたし」
「ははっ、押し付けられたのか。まあ頑張れ」
「んっ、頑張ります」
素直に頑張ると言うタイカル。やっぱ優しい。最初は俺とキャラ被りしているなーとか思っていたが、今は印象が全く違う。
「ってか、そういう点だとユズも意外と大変っつうか、一緒にいると結構疲れるんだよな」
「え? ユズが?」
「そうそう。ユズって何というか、むっつりっていうのかな。実はナチュラルで人の心が理解できなかったりするんだよ」
「ん? どゆこと? 人の心を読む力は、先輩と同じくらいにありますよ?」
「いや、そういうのも含めてよ。マニュアル通りに動いているような気がしたり、時々『えっ?』ってなることを言うんだよ」
ユズって、3人とかでいると普通なんだけど、2人きりだとなんか変なんだよな。若干人見知りが発動するというか、何が本心か分からなかったりする。
「例えば、ユズが机に向かって本を書いている時とか、嫌がらせで首に水を垂らしたくなったりするじゃん?」
ちなみに実は初情報となるが、ユズは参考書とかを書くのが好きである。俺はユズの本の恩恵を受けに受けている。
「ごめん、しないです」
「まあ俺はするんだよ。ただ、ユズは後ろの俺に気づくし、しかも水をかけようとすることも分かるわけ」
「そこは流石ユズっすね」
「そしたらアイツ、あえて首を前に倒して、水をかけやすくしてくれんの。ヤバいだろ?」
「......ちょっと何が言いたいのかあんま良く分かんなかった」
他にも、俺が嫌がらせに失敗すると、次に活かすためのアドバイスを教えてくれたりする。Mを疑ったが、そういうわけではないそうだ。
タイカルが微妙な顔をしていると、キュリアと手を繋いでずっと話し相手になっていたフィルクが、急に話し始めた。
「彼は陰魔法の使い手よ? キキョウなら違和感を感じて当然だわ」
「ユズって別に陰キャってわけじゃないんだけどな」
「エゴが極端に薄いのよ」
「ユズって言うて我儘じゃないです?」
「まあ俺たちの中では欲が薄い方だけど、絶対的に見れば別になぁ?」
何度説明を受けても、いまいち掴めない。ユズの性格が掴めないっていうのもあるし、魔法って概念も掴めないし、フィルクも掴めない。ようは分かりそうで全く分からん。
「いずれ分かるわ。もしくは一生分からないかしらね」
「何だその頭の悪いセリフ」
「なんだかんだユズも転移したばっかだし、そろそろ故郷が懐かしくなってきているんじゃないですか? ユズは多分、悲しい顔をするよりは無理に笑顔を作るタイプですし」
「あぁ、その説明だとシックリくるな。流石変な時に役立つ男。言語化能力も高い」
「褒めてます?」
「70%ぐらいは」
ホームシックだとしたらなんか同情できるな。最近はユズの顔を見る時が超少ないし、今日会ったらちょっと聞いてみよ。
キキョウは空気を読む力は高いくせに、自分のやりたいことをやるため、人の心にずかずか入ることが多い。とタイカルは分析した。
「そういえばそうだったな。記憶喪失だからすっかり忘れてたわ。タイカルは大丈夫なん?」
「オレはそういうのないですし。っていうか、先輩でもちゃんと可哀想とは思うんですね」
「え、なになに急に。そんなひとでなしに見える?」
タイカルが唐突に皮肉言ってきた。冗談とかならともかく、今の感じは自然に言われていた。心当たりは沢山あるが、急すぎてビックリである。
「まあ、うん。一応」
「なぜに」
しかし、次の一言で納得した。そして同時に、ほんのちょっとだけ反省した。
「だって先輩、レアに当たり強いじゃないですか」
「......」
頭の整理に時間がかかった。そっか。そうだよな。ユズと違って、レアは普通の子供だもんな。急に生まれ住んでいた故郷から離れて、こんな田舎に連れて来られたら、寂しくもなるだろう。
俺は記憶喪失だし、タイカルは故郷に心残りはないし、ユズだって少なくとも俺らに心配をさせない。しかし、それは俺らが例外なのだ。レアは普通の子供、心が弱って当然だ。
「......そっか。そういうことか。なるほど...... はぁ」
「なんだ。気づいてなかったんすね。もっと早めに言っとけばよかった」
「え、ちょっと待って、どういうこと? あまり分からなかったわ」
「フィルクには後で説明してやるから待ってろ」
ハイパーサイコパスのフィルクは置いといて、やっぱタイカルは良い奴だよな。レアがタイカルを選んだ理由が、ちょっとだけ分かった気がする。
今日はタイカルを連れてきてよかった。これを聞けただけでも、次からはレアへの見方が変わる気がする。
「センキューな。ちょっと反省するわ。完全に相手のことを考えてなかった」
「まあまあ。反省なんかよりオレを尊敬してください (ドヤっ)」
「......」
「その冷めた目やめて?」
「せっかく評価が上がったのに」
でもこれも、俺が引きずらないようにするために、あえてっていうところもあるんだろう。無意識かもしれんが。
「あ、お兄ちゃん! 壁あった!」
「あぁ、ごめんな変な会話して。魔法で持ち上げるから、物体操作魔法に備えといて」
「大丈夫、登れるよ!」
キュリアは俺の背中をスルスルと降りると、魔法で壁をひとっ飛びした。......着地も大丈夫そう。すごいな、こんな子供でもそれできるんだ。
「オレ、それできないんですけど......」
「幼女に負ける青年男子」
「うっさいです」
俺は代わりにタイカルを壁の奥に運んだ。俺とフィルクも続いて奥へ行く。
「ふぅ。それで話の続きなんだけど、キュリアも増えたし転移者組6人で今度集まろうぜ」
「......」
タイカルの返事はない。俺は横を見るが、そこにタイカルの姿はなかった。後ろか?
「......zzz」
「・・・は? 寝てる?」
キュリアの仕業だ。俺はキュリアに詰問しようとして......
「貴方、賢いわね」
「えっへんっ!」
目の前のある物体を見て固まった。
「......な、え? え?」
この山の壁の奥に、なぜか木が少ない理由。俺は気づいてしまった。気づかない方が良いことに、気づいてしまった。
「・・・ぎゃー!!!!!?????」
全力疾走で壁の外に戻ろうとして、フィルクの結界に止められる。
「安心なさい、アタシがいる限り問題ないわ」
違う、違う、そこじゃない! そういう問題ではない! 今すぐ逃げ出したい! 見るだけでバチが当たりそう!
「何この子、可愛い〜!」
膝下ぐらいの、普通の虫よりは大きいがデカブツよりは全然小さい虫。問題なのは、その見た目である。
「貴方の感性もなかなか狂っているわね......」
蜘蛛の身体に人の頭。6本の足のうち、前左が人間の右手で、後ろ右が人間の左足。そして残りが太い蜘蛛の足。
「おい、おい、おい、おい!! ちょっと待てよっ!!」
逃げ出したいのをフィルクに抑えられる。
「なんか来てる! 来てる! こっち来てる!!!」
それは俺らに気づくと、非対称なのに素早い動きで向かってくる。
「あそこまで気持ち悪いと、遠慮もないわ。殺しましょう!」
「ああああああああァ!!!!」
バリバリと噛みちぎった木を咥えながら、人面蜘蛛が襲いかかってきた!




