3話 名前
異世界転移して2日目。昨日の夜、分かったことがある。まず、俺とユズとクルメトは「クルメト院」という病院で過ごすこと。安直すぎて草。ミゼは隣の家で、朝からクルメト院に通い、夕食後くらいに抜けている。
次に、俺の転移前の所持品が全て消え去ったこと。この前、炎魔法を使ったら服を焦がした。ユズに見てもらったが、流石に直せないとのこと。結構あの服カッコよかったのに......
最後に、俺の顔だ。氷魔法と光魔法の応用で、ユズが鏡を作ってくれた。見てみたところ......
イケメン。冗談抜きで、一目惚れしてもおかしくないぐらいのイケメン。何やってもイケメン。顔が良いのは本当にマジ感謝だわ。
細かくいうと、薄めの茶髪のやや高身長で、目元は丸く、輪郭は普通。目は黒くて肌は白めだ。
ただ、1つだけ解せないポイントがあったのだ。俺の髪のうち、何割かが緑色になっている。正確には、蛍光色の黄緑って感じの色だ。染めているのかと思ったが、触っても感触は変わらないし、水を使っても落ちない。
どういう理由かはサッパリだが、個性になっているから許す。なんだかんだカッコいいし。
で、朝食をクルメト&ユズ&俺&合流したミゼと食べ終わり、今日からは本格的に異世界生活だ。
というわけで、まずはユズに魔法を教わろうということになった。魔力は時間が経てば回復するようで、昨日の夜には既に全回復していた。よく寝たので、体力も魔力もバッチリだ。
「今から、実は一番私生活で使う魔法、水魔法の授業を始めます」
「お願いしゃーす」
「ではまず、き... 君って年上相手だと言いづらいね。君さん、水魔法を使ってみてください」
俺は右手を前に出し、水を流す。最初はドバッと出てきたが、調節すると量が少なくなった。ちょうどいい感じだ。
「うい。簡単です」
「よしよし。じゃあ、それを空中でキープしてみてください。物体操作魔法と僕は呼んでます」
次にするのは水を浮遊させるイメージ。画像化が簡単だから、意外と簡単だった。
「なるほど。簡単です」
「じゃあ、それの温度を上げてみてください。これは加熱魔法とか火魔法とか、炎魔法とか。もう何でもいいです」
次のイメージは、水を加熱...... 水を加熱するイメージって、あんまり湧かないな。色々やってみるが、なんか火が出てきたりするだけで、水の温度を直接上げることができない。
「先生、イメージがしづらいです!」
「水の中にある粒子を振動させるイメージで」
「先生、余計にイメージしづらいです!」
「うーん...... 水の中に、炎を作るイメージで」
「なんだそれ...... あ、できた」
よく分かんないけど、水が結構熱くなった。そのまま温度が上がっていき......
「ま、空中で沸騰してる! 跳ねる! 熱い熱い!」
耐えきれなくなって、お湯は落ちてしまった。なんというか...... 魔法難しい。
「アレだね、君さんは火魔法が得意なんだね。前の爆発とか」
「熱血系キャラってことかな」
「あ、そう。今までの経験とか、信念とか、価値観とかが魔法には影響してくるよ」
「え、じゃあ俺ガチの熱血系キャラってことじゃん。冗談で言ったのに」
俺が熱血......熱血か? 別に熱血系とは限らないか。今までの経験、信念、価値観ね。あぁ、確かに思い当たる節はあるな。
「ユズの得意魔法は何なんだ?」
「あぁ...... 1番得意なやつは、結構特殊なんだよね。でも、他のも全部得意だよ」
「そんな自慢を言われても、何故か嫉妬の念が湧かない不思議」
「可愛いからね。この容姿と声」
「自覚はあったんだ」
「絶対将来有望だよね」
案外ユズは腹黒いのかもしれない。純粋さしか見えない見た目なのに。まあ、でもそんぐらいの方がむしろ付き合いやすいってもんだ。
「俺もさぁ、見た目ヤバくない? かっこよすぎると思う。マジ惚れる」
「まあ、うん。たしかに」
「いやさ、俺初めてこの顔見た時、俺は異世界転移したって信じたわ。っていうか、もう転移前に戻りたくないわ」
「はいはい、すごいすごい。き... 君ってやっぱ言いづらいな。君さんは転移しましたよー」
適当に流すユズ。ユズ的には、「君」と言うのは結構違和感があるようだ。まあ、普通に違和感はあるよな。俺も子供に君って言われると違和感がある。
「そろそろ、俺の名前を決めたいな」
「......後でね。今は魔法の練習。ちょっと移動して、火魔法の練習しよう」
「へいへい」
俺らは火が燃え移らないよう草が無いところに移動して、ユズが魔法で薪を作り、火魔法の練習をする。
「絶対に爆発させないでね。一応結界魔法を貼っとくけど」
「結界?」
「うん、空間を隔てる魔法。結構難しいけど、慣れると便利だよ。今回は、魔力を通らないようにしてみる。応用すれば、魔力を通したり空気穴を作ったりできるよ」
「なんか凄そうだな」
便利そうな能力だ。結界...... 異世界っぽい。いいな。ただ、イメージはしづらい。よく分からないが、俺には難しそうだ。
「僕の得意魔法の1つ」
「あぁ、性格が得意魔法に影響する。人を拒絶する的な?」
「いや、それより安全なところから確実に勝ちたいっていう意思だと思う」
「流石です」
ということで、俺は安心して火魔法を使う。炎をイメージしながらも、威力は弱くするように。魔力を絞るというよりは、少しだけ出すレベルに......
俺の想定通り、薪にはちょうどいい火がつき、魔力の消費もあまり感じない。いい感じだ。
「うん、上手上手。あとは...... 物体生成魔法とか? 足場や壁を作る魔法」
そんなこんなで練習し、俺の魔力が尽きるまでに、
・水の生成 ・火の生成 ・治癒魔法 ・物の加熱&冷却
・威力の調節 ・物体生成 ・複雑な形の物体の生成
・色々な性質の物体の生成 (粘土みたいなのとか)
・物体の操作 ・魔法弾(エネルギーを操作して爆発させる)
・光魔法 ・同時に色んな魔法を使う
これらをできるようになった。ユズいわく、
「相当の魔力量だよ。多分、僕の半分を超えてる」
とのこと。魔法を上手く使うことで、さらに魔力の消費を抑えられるらしいが、それは練習あるのみらしい。
今のところ得意な魔法は、炎魔法と光魔法、治癒魔法、加熱魔法、魔法弾の5つだ。特に炎魔法は楽しかった。
「ふぅ...... 疲れた」
「飲み物とか要る?」
「じゃあよろしく」
ユズはクルメト院から幾らかの果物とコップを飛ばし、それを絞った。100%のフルーツミックスジュースだ。飲んでみたけど、やっぱり美味しい。
センキューとお礼を言うと、ユズは満足そうに微笑んで、絞り終えた果物にかぶりついた。
「いやそれは食べるものじゃないだろ」
「皮も案外美味しいよ。この村だと、捨てるっていうのも難しいし。自然環境的に」
「硬くない? カミカミしているだけで食べれてないじゃん」
「ゆっくり切りながら食べているから、実は結構食べれている」
なんだそりゃ。そこまでするぐらいなら燃やせよ。そんなんで自然環境にどう影響するよ。
「ふぅ、満腹中枢の味がする。甘い」
......本人が良いなら良いんだけどさ。
「日本語になってねぇな」
「あはは、実際日本語じゃないしね。君さんは日本ってところに住んでいたんだよね。どんな場所か覚えている?」
「なんか五月蝿くて、人間関係がダルかったってのは覚えてる」
「き...... 君って本当に言いづらい! 君さんの顔だと、周りの人は寄り付いてくるだろうね」
イケメンだろとドヤ顔したい気持ちは置いといて、ユズが毎度 君 と言う度に詰まっている。そろそろ鬱陶しくなってきた。
「なぁ、やっぱ名前決めようぜ? 俺的にも面倒だし。君が定着する前に、とっとと名前を決めたい」
「あぁ...... うーん...... 先生とミゼが一緒の方が良くない?」
「んじゃクルメト院に戻るか。まだ居るよな?」
「うん。まだ僕コピーしてないから居るはず」
ミゼとクルメトは、本当はこっちを見たかったらしいが、この村の他の家に俺 (転移者) が来たことを知らせる必要があるので、クルメト院に籠ってポスター的なものを書いている。
あの2人は、村の中心的な立ち位置に居るらしい。ユズが俺を超上手く模写して、クルメトとミゼで見た目以外の情報を書く。
それができたら、ユズが魔法でコピーして、ミゼがみんなに配りに行くらしい。元気に動き回るミゼと、上手くまとめるクルメト。2人とも村の人と仲が良いため、適任と言えるだろう。
「ただいま〜」
「ただいまー」
「あ、おかえり〜。長かったね〜」
「おかえり。こっちは順調だよ。そっちはどう?」
ユズが色々クルメトと話し、俺はミゼと配り紙のデザインを見る。B4ぐらいの大きな紙に、もはや写真な俺の容姿が真ん中に描かれていて、周りに箇条書きに情報が書かれている。
記憶がない 名前も生まれた土地も、転移前のことは何も覚えていないらしい けど、知識は残っていて頭は良さそう 私達は君と呼んでいる ・・・・・・
半分ぐらいが記憶喪失についてなのが気になるが、良い出来だ。
「異世界も思ったより凄いな。なんつぅか、文明レベルというか、ちゃんと進んでいる」
学校も無いのに、ミゼとクルメトは頭いい。現代っ子だからといって、異世界人より技術力があると思い込んではいけなさそうだ。
「裏も見て見て! こっちは私が頑張ったからっ」
「裏もあるのか」
紙を裏返してみると、映ったのは......
「ちなみに、表はクルメトが書いたの?」
「うん、師匠が書いた。私のは私のはっ!」
「えーっと......」
小学生の悪戯書きみたいになってた。
「良いと思うぜ? こう、配色とか、凝ってる」
「でしょでしょ」
デザイン性は良いんだが...... 俺の説明が適当。「目 緑色!?」とデコられまくった文字と吹き出しで描かれている。まぁいっか。うん。
「ドヤッ」
「そっちの話は終わったー?」
ドヤっているミゼは可愛いが、紳士な俺はもちろんミゼに文句を言ったりはせず、ユズとクルメトの方に話を振る。
「あ、ちょっと待って! 先生、き...... 君さんの名前をつけましょう!」
「おぉ、私が考えていいの?」
「全然良いぜ。あ、もちろんミゼも。俺が気に入ったらだけど」
「やったー!」
こうして、大喜利大会が始まった。
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「えーっと...」
「えるみゃん!」「テハ」
「かーりゃん!」「マダジ」
「にゃーたん!」「パ」
「パって何だよ()」
こんな感じだった。異世界のネーミングセンスが無いのかと思ったが、クルメト...... ミゼ...... 普通に良い名前だよな。ってことは、コイツらのセンスが致命的に無いだけか。
「ユズもさぁ、狼狽えるだけじゃなくて何かアイディア言ってよ」
「えぇ...... なんというか、僕なんかの言葉で、き......みの人生を変えるのは抵抗あるっていうか......」
「別に気にしなくていいぜ?」
「分かったっ! チェアリンはどう?」
「せめてこれよりマシな名前を付けてくれれば」
これで本当に酷い名前だったら、それこそ自分で自分の名前を考えるしか無いが、まあユズなら心配はないだろう。
できるだけカッコよくて、でも自然で、言いやすくて馴染みやすい名前が良い。さぁ、ユズの答えは......
「......キキョウ」
「......キキョウ?」
なんか不思議な名前だ。元の世界に居たかな、こんな名前の人。
「あぁ、いいねっ」
「うん、私も好き」
「悪くないな。どっかから取ってきたん?」
軽い気持ちで言った言葉に、返答は3秒かかった。
「うん、僕の転移前の友達の名前」
あぁ...... 俺が転移時に記憶を失っているから忘れていたが、ユズは記憶が残ったまんまなのか。
「なんか...... それでいいのか? ユズは」
「うん、良いよ。むしろ、僕がそうして欲しい」
「......」
そうだよな、まだこんな小さいのに、友達と別れてしまったんだ。もう何日も経ってるとはいえ、やっぱりまだ悲しいだろう。
「ね。だからあんまり言いたくなかった」
「悪いな。けどこんな空気になったところで、俺らが何か言えるわけじゃねぇし。はいはい、空気入れ替えていこうぜ〜」
俺が両手を叩くと、ミゼはユズから離れ...... てないな。ユズの右腕をガッシリと掴んでいる。まあいいや。とりあえず、しけった雰囲気は霧散した。
「話戻すけど、キキョウはもうキキョウで良いんだよね?」
「あぁ。実は結構好き。かっこいいし、言いやすいし」
完全に空気が払拭できたところで、クルメトがこの会話を締める。
「じゃあ改めて、キキョウの名前はキキョウに決定しました!」
「パチパチ〜!」
俺の名前はキキョウ。青年になって、新たな名前がついた。




