24話 人見知り少女の苦難
「ようタイカル! 順調かー?」
壁の中を覗いて、一回タイカルの元に戻ってきた。ユズがなんか大変な目に遭っているのかなぁとか思っていたが......
「千里眼魔法」
さ、ユズは何処に居るかな......
あれ? 普通にご飯食べているぞ。口いっぱいにサンドイッチを頬張ってるな。......急いで食べているわけでも無さそう。ってかいかにも「ん、美味しい......!」って言ってそうな顔している。
......帰るか。
ってな感じだった。まあ俺も筋トレ&山登りの後で本調子じゃなかったしな。フィルクの分身を一応向かわせたし、多分問題ないだろう。フィルクが馬鹿なことしなければ。
「あ、先輩ー。今日は勝手に家に入らないでくださいよー」
「はーい。大丈夫だー、あんな命の危険がある場所もう入らないー」
タイカルは現在工事を頑張っている。うむ、なかなか順調そうだ。
「ってわけで俺は勝手に入らないから、フィルク、let's go」
「今山歩いているから油断したら転びそうなのだけれど......」
「別に転んでもいいだろ。ゴー」
フィルクは同時に分身を操ることは難しい。さっきまでは手繋いでなんとか来たが、タイカルの家は俺が入ったら下手し死ぬ。
「まあ歩くぐらいなら大丈夫だけれど、殺すとなると少しキツイわ」
「うん、お前は俺に許可なく攻撃系魔法使うの禁止な。今は許可しない」
「あくまで話すだけね。了解したわ」
「ただいまーは忘れずにな」
というわけで、俺はフィルクが勝手に入ってしまったことにして、玄関前で待機。俺はともかく同性の (しかも意外と年近い) フィルクなら、問題ないんじゃねぇかなと期待しておく。
「追い出されたわ」
「うわっ、速っ。どうだった?」
「魔法を1発防いで、帰ってきたわ」
「もう少し話してこようぜ? 気合いで気合いで。頑張れ」
入ってから30秒も経たないうちに死にかける。ここはとんだデスハウスだ。
そして10分が経った。仲良くなれたんかなーとか思っていると、フィルクの分身が目の前に居た。あぁ、死んでたのか。可哀想に。
「大丈夫か?」
「手足を押さえつけて、拘束しようとしたら魔法でゴリ押しされたわ」
「なんてことしているんだ馬鹿野郎」
「殺していいのなら楽だったのに。やっぱり分身の同時操作はキツいわ」
「俺話すだけって言ったよな?」
「だから話そうとしたんじゃない」
「......はぁ」
いつのまにか関係が悪くなってらっしゃる。ってか同時操作しながらでも手足押さえつけたって、やっぱフィルクは強いな。いつかユズとガチ勝負してほしい。
「どうする? ラスト1回ぐらい行ってくる?」
「えぇ。あの生意気な子に本物の恐怖を教えてあげるわ」
「よしフィルク、やっぱもう許可なく行動するの全部禁止」
「それはもはや奴隷ね」
「人聞きが悪い」
この調子で俺が村の敵になったらたまったもんじゃない。フィルクには行動を自重してもらおう。何故か言うこと聞いてくれるし。
「ふふっ、別にアタシは嫌いじゃないわ。キキョウの奴隷なら喜んでやってあげる」
「メンヘラ気持ち悪い」
「メンヘラじゃないわよ」
「俺が最初に見た時は、そんなキャラじゃなかった気がするんだけどなぁ......」
少なくとも、誰かに服従したいというような奴ではなかった気がする。そんな俺の偏見を察したか、フィルクが言葉を付け加えた。
「別にキキョウに服従したいわけじゃないわ。キキョウには強欲で傲慢になってほしいだけ」
なんだその理由は。あぁでも言ってたな。欲が強い人が好き〜とか。分からなくはないけど...... 俺にそれを求められるとなんか複雑。いや、まあ欲強い方だとは思うけどね?
「はぁ、俺もだんだんフィルク色に染まりそうで怖い」
「似ているものね」
「え...... 一緒にしないで?」
「ガチトーン......」
珍しくションボリとしたフィルク。その調子のままドアを開けて......
爆発を結界で覆った。
「学習能力って言葉、分かるかしら? 貴方には程遠い言葉よ」
音も結界で防ぎ、家の損傷も少ない。レアちゃんだけが爆発に巻き込まれていた。火傷の痕が痛々しくて、虐待しているみたいで若干罪悪感。治癒魔法使ってあげよ。
「あ、ちなみに今回は俺は完全に無実なんで。1から100まで全部フィルクの責任だから。むしろ治癒魔法使ってあげる勇者。尊敬して」
フィルクが物言いたげに俺を見ている。フィルク、これがお前が見たかった傲慢だ。ちゃんと期待には応えていくスタイル、やっぱ優しいな俺。
「治癒魔法かけたけど、痛くない? この馬鹿がごめんね。ほら、フィルクも謝れ」
「勝手に魔法を使ってごめんなさい」
「俺じゃなくてレアに」
「えーっと...... あー...... あ、煽ってごめんなさい」
絶対フィルク何が悪いのか分かっていない。まあ確かにあの煽りも酷かったけど。
「......キキョウさんが自分で仕向けた......」
「あ、名前知ってんだ。タイカル経由?」
「......話題が逸らされた」
「逸らしてない逸らしてない。俺は仕向けてないぜ? この黒髪が全部悪い。迷惑をかけるつもりはなかったんだ」
「......」
俺はフィルクに全責任を負わせる。いやぁ、分身っていいな。フィルクに対しては何しても罪悪感湧かない。だってどうせ死なないし。
「まあお互いタイカルには怒られたくないだろ? あとでコイツは叱っておくから、今回は許してくれないかな? 迷惑をかける気は本当になかったんだよ」
まあ俺、同居人と話に来ただけで、アポなし訪問が当たり前のこの世界だと、別に何も悪いことしていないけどな? 前回も今回も、俺が悪いみたいになってるけど、普通に俺悪いことしていないからな?
という内心は内に秘めつつ、俺はニコニコの優しいお兄さんとして接する。
「......」
レアは首を縦に振って、奥へと戻っていった。
「あ、お邪魔しまーす」
「お邪魔するわ」
「え?」
「いやー、ありがとな。フィルクが今疲れてたからさー。中に入れてくれて助かるわ」
フィルクの影響で、レアはもう安易に魔法は使えないだろう。つまり、レアは俺ら2人を追い出せない。
のちにタイカルが俺らに詰めてきても、「レアが入れてくれた」って言えばこの状況だと水掛論まで持っていける。俺らに隙を見せたのが失敗だったな。
「え、あのー...... そのー......」
この子、見た目通り押しに弱いな。暴力性が高いだけで所詮引きこもりだ。フィルクがいる以上、俺らに負ける要素は無い。
「一人で普段何やっているの?」
「......」
「キキョウが喋っているわ。話しなs」
「フィルク、急かさなくていい」
俺はレアの顔を指で持ち上げ、こっちを向かせた上で優しく語りかけた。
「警戒しなくていいぜ? 俺は待ってるから」
「......」
よし、これはイケメンブーム。どうせなら香水魔法とかないかな。まあ俺の性格なら多分できるだろ。ちょっと試しに使ってみよ。
俺は身体全体を花のベールで包むかのように、魔法をかける。お、流石俺。良い香り...... ちょっと強すぎたかな。
「結界魔法!」
「え?」
思ったより強い香りが出たその途端、フィルクが俺とレアを結界で囲った。
「ん!?」
待って! この香り俺から出ているから、結界で囲まれて、香りが強すぎて逆にキツい!
「あれ、毒が消えたわ」
この馬鹿野郎、香水の香りを毒ガスの匂いと勘違いしてやがる! しかも無駄に反応が早い!
「けほっ、けほっ」
「んー......!!」
レアは咳き込み、俺は息を止める。ここは地獄だ、頭がクラクラしてきた。
「ちょっ、フィルク...... 解いて」
「......敵襲じゃない?」
くそっ、結界のせいで俺の声が聞こえてねぇ!
(キキョウは意思疎通魔法と読唇術と持ち前の人読みでフィルクの言うことが何となく分かる)
「あ...... 魔法弾」
「え、レアさん?」
結界ごと爆発、これで3度目である。
「はぁ、はぁ、はぁ...... 痛いし吐きそうだしでもう帰っていいか?」
「ん、うっ、ひぐっ...... 勝手に入った......」
「げはっ、痛い」
お互いに床に倒れた状態。レアの後頭部が鳩尾に入ってキツいと思っていたら、頭突きでちゃんと急所を突いていく。もう俺コイツ嫌い......
「ヤバい、すげぇクラクラする」
「キキョウ、大丈夫?」
「あぁ、ありがとう。ってかフィルク、俺の魔法を毒と勘違いしただろ?」
「えぇ、強かったわ。キキョウは特殊な魔法が得意ね」
「うんそうか。できるだけマイルドな匂いにしたのに、結界のせいで地獄かと思ったぜ」
「消臭魔法を使えばよかったんじゃないかしら?」
「クソがっ」
消臭魔法ってどんな感じだろ。消臭しそうな物体を空気中にばら撒いて...... あ、マジかよすげぇ。ちゃんと効果ある。消臭魔法マジ便利。
「......もう帰ってくれませんか?」
ってわけで、ちょっとしたハプニングは有ったものの、レアとの話し合いの場がようやく整った。




