22話 トレーニング
「悪魔を倒して!」
「・・・キキョウ、やめといた方がいいよ」
「言われなくても分かってるよ。絶対やらねぇ」
「聞いておいて酷いわ。理由を説明しなさい」
なんでもなにも、フィルクが倒せないやつを倒すのすら無理な話なのに、悪魔なんていう物騒なやつと戦わないといけないとか、最悪死ぬやん。
「はいはい分かった聞くよ。悪魔の数と強さと倒し方。一つ一つ挙げてけ」
「数は不明。強さはアタシと同じくらい。倒し方はむしろこっちが聞きたいわ。出会ったことすらないもの」
「それは舐めてんだろ」
ー
「お願い! 貴方なら悪魔を倒せるって、ほぼほぼ確信があるの!」
「一応なぜそう思うのか言え」
「勘だわ」
「やっぱ舐めてんだろ」
流石サイコパス。正しい他人の利用の仕方を1ミリも分かっていない。
「そもそも悪魔って何? 神の敵対組織?」
「端的に言えばそうね。実はアタシもよく分かっていないわ」
「本当によくそんなんで人に頼み事できるよな」
「土下座ぐらいならやれるわ」
「いやそういう意味じゃねぇよ」
はぁ...... 加護は諦めだな。命の危機があるものに、わざわざ飛び込んだりしない。
「解散解散。もう寝るぞー」
「はーい」
「......はーい」
渋々と言った感じで、フィルクはこの話をやめた。
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フィルクの小さな吐息が聞こえる。普段は気にならないほどの小さな音だ。ただし今は、若干の罪悪感で少し意識してしまう。
溜め息が混じった。きっと眠れていないんだろう。もう30分も経っているのにだ。
「あの、フィルク?」
「......何?」
「なんで悪魔を殺したいんだ? 出会ったことないんだろ?」
さらっと言っていたが、出会ったことないのに殺したいとは、よくよく考えると大きく矛盾している。
「大した理由はないわ」
「その割には、やけに真剣じゃねぇか」
「......出会ったことはないけれど、悪魔は屑よ。殺した方がいい。絶対に殺したい」
「......」
こんな調子で本当によく人に頼んだよな。ここまで手伝いたいと思えない話は、なかなか無いと思う。何か同情できる話があるわけでも、神様からの伝言とかでも無いのか。
「フィルク。2つだけ交渉のコツを教えてやる。1つ目は対価を出すこと。俺は仮にユズ相手でもタダで手伝ったりはしない。助け合いなんて言葉は詐欺の1つだと思ってる」
「おぉ」
「いや、別に名言爆誕みたいな感じで驚いているけど、言っていることは大したことねぇぜ?」
「アタシはその考え方でいいと思うわ。カッコいい」
「......そうか」
どうしてだろう。フィルクに褒められると、非常に悲しい気持ちになる。今度からは厨二心を刺激しないように気をつけよう。
「2つ目は、相手のやることを具体的に示すことだ。悪魔を倒せーじゃ何をやればいいのか何も分からん。何を準備すればいいか、何処に行けばいいのか、どう倒すのか。俺の知りたいことを答えられるように情報をちゃんと集めておけ」
「一理あるわね。なら、アタシが今キキョウにやって欲しいことは1つ。戦闘力を上げておいて欲しいわ。筋トレでも、魔法の練習でも、とにかく対人戦をできるようにしてほしい。それ以外は今は望まないわ」
すらすらと俺の要求に応えるフィルク。一応そういうのは考えているんだな。仕方ない、俺から言ったことだし、少しは悪魔の件を前向きに捉えよう。
「それなら俺でもできるかもな。で、対価は?」
「この服を量産するとかでどうかしら。というかそれしか持っていないわ」
「いや1ミリも要らないんだけど。女装趣味もなければサイズも合わない」
布を量産できるのは普通に凄いと思うけど、残念ながら需要はない。ってか、露出度高いし派手だしで、コスプレイヤーかフィルク以外で似合う人はおそらく居ない。
「なんか、欲しい部位とかあるかしら?」
「部位?」
「内臓でもなんでもいいわ」
「要らない。ってかそれやめろ。変な夢見そう」
分身持ちは価値観が狂うのだろうか。
「なんか天国とかにいいものないの? 宝剣とか」
「うーん...... あ、綺麗な水があるわ」
「効能は?」
「汚い水よりも美味しくて健康にいいわ」
「......そうですか」
「それでいいの?」
「いや良いわけないだろ」
本当に何も無さすぎて、逆に俺の方が何かないか探してしまう。ってかコイツ、手ぶらでこの村に来たのか。余裕だな。
「なんか、俺のサイズにピッタリの服とか無い? こんな田舎のやつよりも、キラキラとしたカッコいいの着たい」
「......あ、天使の1人が持っているわ」
「じゃあそれ欲しい。交渉してきて」
「交渉の必要も無いわね。今アタシの分身が彼の元に居るから、籠から奪い取ってくるわ」
「酷ぇ。どうやって持ってくるんだ?」
「......流石にこれでケニエ様を呼ぶのは失礼ね。どうせそれだけじゃ手伝ってくれないし、やっぱ無理だわ」
無理なんかい。もっと頑張れチート能力持ち。
「......どうすんの?」
「どうもできないわね」
「え、いいの?」
「良いわけないわ。何か探してみせる」
「そうか。んじゃもう俺は寝るわ。おやすみ」
「おやすみなさい」
悪魔...... 悪魔か......
俺の物語の敵役に、ピッタリな存在だなぁ......
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「考えたわ。服をあのチビガキに作ってもらいましょう。布はさっき魔法で作ったわ」
「おぉ、頭いい」
フィルクの服が乱雑に50枚ほど放り投げられている。ユズにポンと渡せば、割と簡単に作ってくれそうだ。なんせユズだからな。
「常に新品の服着れるっていうのは良いよな」
「けれど、アタシの自己観察は本体しか対象にしていないから、キキョウの服はアタシ一人では量産できないわ」
「自己観察ってどういう仕組みなん?」
「本体というか最初の分身というか、それを対象としているわ。あくまでこの身体は物体生成魔法で作られたもの。精神は本体から分離しているだけ。自己として認識されていないようね」
「なるほど? 魔力最大量が完コピできないのと同じ感じか」
「ちょっと違うけど、感覚的にはそんな感じね」
フィルクの分身も、一応本体を探せば倒せるってことか。
「ちなみに、本体は何処にいるんだ?」
「たとえ味方でも言わないわ。情報は完全に自分だけで閉じているわね」
「慎重だな」
慎重というか、人間不信というか。絶対に油断はしないという強い意志を感じる。
「話が逸れたけれど、というわけで、今から彼の元に行きましょ?」
「......今からってダルくね? お互いに」
ただでさえユズに迷惑をかけているのだ。これ以上身勝手に巻き込むのは、微妙に罪悪感がある。ついでに朝起きたばっかで身体が活性化されていない。今からは面倒だ。
「でも夜遅くまで起きているのは疲れるわ。それに、相手は子供よ? 夜になったらきっと頭が働いていないわ」
あのユズにそんなことあるかね? とは思うけど、実際俺らの都合でユズの寝る時間を遅らせるのも問題だ。クルメトに怒られる。
「まあそれもそうか。じゃあ......」
「朝ごはんできてるよ2人ともー」
「「あ、はーい」」
「じゃあ、今日は俺が夜まで起きているから、ユズに内容を伝えてからな?」
と、いうわけで、朝ごはんを食べ終わったので......
「しゃーねぇなぁ。トレーニングしてやろうじゃねぇか! 感謝しろ!」
「割とノリノリで嬉しいわ」
パチパチパチ〜と気のない拍手をするフィルク。フィルクはトレーニングとかしているのだろうか。筋肉は通常ぐらいだけど、特に魔法関連は。
「フィルクは普段どんなトレーニングしているんだ?」
「そうね、扱える魔法の種類を増やしたり、魔法の扱い方を工夫したりしているわ。威力は分身を使えばどうとでもなるから」
「意外とちゃんと考えているんだな」
言われてみれば、フィルクが扱う技って多いよな。ユズから聞いた話だと、精神魔法とかも......
「精神魔法か。ちょっと気になるな。精神魔法......」
「相手が怒ったり悲しんだりするポイントを想像するといいわ」
「おけおけ。じゃあ...... いやフィルクが怒るポイントとか知らないんだけど」
今までコイツが怒ったこと...... タイカルにツッコミでぶったこととかかな。無表情すぎていまいち掴みづらい。
「要は適当に相手を煽ってみなさい。神経を逆撫でするようにって言うでしょう?」
「上から目線だなチビ。人に頼み事をする態度じゃねぇと思うけど、やっぱ背が小さいと器も脳みそも小さいんだな。もっと考えて生きろよ。何がしたいの?」
「......多分大して平均と変わらないわ」
やっぱこの程度じゃ怒らないよな。......あれ、微妙に悲しんでるこれ? ちょっと希望が出てきた。
「お? お? 悲しんでらっしゃるww? まあもう育ち終わってんだから、今言ってもどうしようもないよな。ごめんな、まだ子供だからって、フィルクにも良いとこはありまちゅよ。例えば、例えば...... わおっ、アイハブノーアイディア痛ぇ!」
「もう分かったから。その調子で精神魔法に応用してみなさい。相手をとことん煽るイメージで」
「へいへい」
相手をとことん煽る...... 俺は「ふんにゃふんにゃふんばー!!」と考えながら、魔法を使ってみた。
「あぁ、効いているわ。上手くできているわね」
「......本当? 全く表情変わっていないけど」
「表情豊かではない方だもの。それに、元々精神魔法への耐性は強いわ」
「やっぱフィルクって世界トップを自称するだけはあるよな。隙がない」
「隙を作りたいなら沢山やってみるといいわ。相手を喜ばせる、油断させる、自己嫌悪させる、発情させr」
「発情させる!? 精神魔法!」
「え?」
俺は聞いた瞬間1秒経つ前に魔法を使った。
「精神魔法:安定!」
「あ、何それずるい! 精神魔法!」
「ちょっ、ちょっと待って...... 『黒き罪への白き天罰』」
フィルクの身体は黒い液体になった。よっぽどヤバかったらしい。あれか、フィルクの分身は完全に感情を共有しているからな。精神魔法は弱点なのだろう。
精神魔法か、威力が分かりづらいな。俺自身に使ってみよう。ちょっとフィルク風に言ってみるとして......
「精神魔法:発情」
......あ、待ってこれヤバい。身体が誰かに熱されるような感覚。心臓が高鳴って、呼吸が荒くなる。
なるほど、対象の精神に直接作用するんじゃなくて、術者の魔法を感じて、そういう気分にさせられるんだ。はぁ、はぁ。ヤバい、これでフィルクが来たら大変なことになる気がする。精神魔法:安定。
「はぁ、はぁ...... ふぅ...... 精神魔法、精神魔法、精神m」
目を瞑って深呼吸をすると、目を開けた瞬間......
頬を赤く染めて妖しく目を輝かせた、黒髪の美少女が現れた。
「大丈夫......?」
やけに色っぽい声で、フィルクは俺の顔を覗き込む。明らかに距離感が近い。
お互いの呼吸音が聞こえ、暖かい風が唇を撫でる。
「はぁ、はぁ、待って......」
「はぁ、はぁ、ごめんなさい、離れるわ......」
フィルクから目を逸らせず、ただでさえ露出が多い黒の服を見てしまう。
「や、やべぇな精神魔法」
「ここまで強力な精神魔法は初めて見たわ。つ、次は伝言魔法を使ってみましょう」
「あぁ」
お互い微妙に精神魔法の余韻が残っている。伝言魔法...... あぁ、タイカルが合図に使っていたやつか。
どうしよ、なんて送ろう。こんな気分だと頭が変な方向に回ってしまう。変に考えても逆にキモくなるな。よし...... これにしよう。
『この発情女。もっとまともな服を着れ』
「は?」
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「ってなことがあってよー。いやぁ、色っぽいフィルクもむちゃ可愛かったわ」
「これは酷い」
「結局あれから、伝言魔法と精神魔法と千里眼魔法、ついでに腕立て100回と腹筋100回と持久走10キロやったな」
「おぉ、すごい」
「とりあえずは全部順調だな。千里眼魔法はちょっと苦労したけど、伝言魔法と精神魔法は俺得意っぽい」
「その調子で頑張って。ちなみに僕は精神魔法はそこまではできないから、自信持って良いよ」
実際今日は少し強くなれた気がする。この調子で練習を重ねれば、ユズに勝てる日もそう遠くないのだろうか。
と、惚気混じりの俺の話は置いといて、本題はこっちだ。
「明日さ、ちょっと手伝ってくんね? やりたいことがあってさ」
「やりたいこと?」
「服を作って欲しいんだよ。布は用意した。どうせできるだろ?」
「決めつけが酷い。いやできるけど」
やっぱりそこは安心と信頼のユズ。できるに決まっているんだよなー。
「でも、明日はちょっとキツイかなぁ。今、山の中すっごいことになってて。いつ戻るかも正直分からない......」
「すごいこと?」
「まあ詳しくは言う気ないけど、虫がすっごいことになっててね......」
「なぁ、さっきから語彙力死んでない?」
「言うのも嫌なぐらいなんだよ」
頭が良いだけで子供なのに無双しているユズ様だ。説明しようと思えば簡単にできるだろう。逆に言えば、今は俺に説明したくない事態ということだ。
ユズは優しいからな。変な心配されたくないんだろう。
「気になる......」
「それが終わったら作ってあげるよ。あと、もう少ししたらお肉食べられなくなるかも。僕も明日からお弁当持ってくことにする」
「......え、肉食べられなくなるの? 嫌なんだけど」
「村の外から持ってこれば食べられないこともないよ。結構遠いけどね。50キロメートルぐらい」
「流石にそれは遠すぎるな」
「見つけ次第持ってくるよ。先生には伝えてあるから、相談して。僕はそろそろ寝る」
「へーい。そっちもよく知らんけど頑張ってな。おやすみ」
「おやすみ〜」
うーん...... 明日、こっそり山に入ってみるか。




