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Green Way 〜記憶を失って転生し、絶望を知る〜  作者: SS
1章 英雄の誕生編
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22話 トレーニング

「悪魔を倒して!」


「・・・キキョウ、やめといた方がいいよ」


「言われなくても分かってるよ。絶対やらねぇ」


「聞いておいて酷いわ。理由を説明しなさい」


 なんでもなにも、フィルクが倒せないやつを倒すのすら無理な話なのに、悪魔なんていう物騒なやつと戦わないといけないとか、最悪死ぬやん。


「はいはい分かった聞くよ。悪魔の数と強さと倒し方。一つ一つ挙げてけ」


「数は不明。強さはアタシと同じくらい。倒し方はむしろこっちが聞きたいわ。出会ったことすらないもの」


「それは舐めてんだろ」

「お願い! 貴方なら悪魔を倒せるって、ほぼほぼ確信があるの!」


「一応なぜそう思うのか言え」


「勘だわ」


「やっぱ舐めてんだろ」


 流石サイコパス。正しい他人の利用の仕方を1ミリも分かっていない。


「そもそも悪魔って何? 神の敵対組織?」


「端的に言えばそうね。実はアタシもよく分かっていないわ」


「本当によくそんなんで人に頼み事できるよな」


「土下座ぐらいならやれるわ」


「いやそういう意味じゃねぇよ」


 はぁ...... 加護は諦めだな。命の危機があるものに、わざわざ飛び込んだりしない。


「解散解散。もう寝るぞー」


「はーい」


「......はーい」


 渋々と言った感じで、フィルクはこの話をやめた。


___________________________



 フィルクの小さな吐息が聞こえる。普段は気にならないほどの小さな音だ。ただし今は、若干の罪悪感で少し意識してしまう。

 溜め息が混じった。きっと眠れていないんだろう。もう30分も経っているのにだ。


「あの、フィルク?」


「......何?」


「なんで悪魔を殺したいんだ? 出会ったことないんだろ?」


 さらっと言っていたが、出会ったことないのに殺したいとは、よくよく考えると大きく矛盾している。


「大した理由はないわ」


「その割には、やけに真剣じゃねぇか」


「......出会ったことはないけれど、悪魔は屑よ。殺した方がいい。絶対に殺したい」


「......」


 こんな調子で本当によく人に頼んだよな。ここまで手伝いたいと思えない話は、なかなか無いと思う。何か同情できる話があるわけでも、神様からの伝言とかでも無いのか。


「フィルク。2つだけ交渉のコツを教えてやる。1つ目は対価を出すこと。俺は仮にユズ相手でもタダで手伝ったりはしない。助け合いなんて言葉は詐欺の1つだと思ってる」


「おぉ」


「いや、別に名言爆誕みたいな感じで驚いているけど、言っていることは大したことねぇぜ?」


「アタシはその考え方でいいと思うわ。カッコいい」


「......そうか」


 どうしてだろう。フィルクに褒められると、非常に悲しい気持ちになる。今度からは厨二心を刺激しないように気をつけよう。


「2つ目は、相手のやることを具体的に示すことだ。悪魔を倒せーじゃ何をやればいいのか何も分からん。何を準備すればいいか、何処に行けばいいのか、どう倒すのか。俺の知りたいことを答えられるように情報をちゃんと集めておけ」


「一理あるわね。なら、アタシが今キキョウにやって欲しいことは1つ。戦闘力を上げておいて欲しいわ。筋トレでも、魔法の練習でも、とにかく対人戦をできるようにしてほしい。それ以外は今は望まないわ」


 すらすらと俺の要求に応えるフィルク。一応そういうのは考えているんだな。仕方ない、俺から言ったことだし、少しは悪魔の件を前向きに捉えよう。


「それなら俺でもできるかもな。で、対価は?」


「この服を量産するとかでどうかしら。というかそれしか持っていないわ」


「いや1ミリも要らないんだけど。女装趣味もなければサイズも合わない」


 布を量産できるのは普通に凄いと思うけど、残念ながら需要はない。ってか、露出度高いし派手だしで、コスプレイヤーかフィルク以外で似合う人はおそらく居ない。


「なんか、欲しい部位とかあるかしら?」


「部位?」


「内臓でもなんでもいいわ」


「要らない。ってかそれやめろ。変な夢見そう」


 分身持ちは価値観が狂うのだろうか。


「なんか天国とかにいいものないの? 宝剣とか」


「うーん...... あ、綺麗な水があるわ」


「効能は?」


「汚い水よりも美味しくて健康にいいわ」


「......そうですか」


「それでいいの?」


「いや良いわけないだろ」


 本当に何も無さすぎて、逆に俺の方が何かないか探してしまう。ってかコイツ、手ぶらでこの村に来たのか。余裕だな。


「なんか、俺のサイズにピッタリの服とか無い? こんな田舎のやつよりも、キラキラとしたカッコいいの着たい」


「......あ、天使の1人が持っているわ」


「じゃあそれ欲しい。交渉してきて」


「交渉の必要も無いわね。今アタシの分身が彼の元に居るから、籠から奪い取ってくるわ」


「酷ぇ。どうやって持ってくるんだ?」


「......流石にこれでケニエ様を呼ぶのは失礼ね。どうせそれだけじゃ手伝ってくれないし、やっぱ無理だわ」


 無理なんかい。もっと頑張れチート能力持ち。


「......どうすんの?」


「どうもできないわね」


「え、いいの?」


「良いわけないわ。何か探してみせる」


「そうか。んじゃもう俺は寝るわ。おやすみ」


「おやすみなさい」


 悪魔...... 悪魔か......

 俺の物語の敵役に、ピッタリな存在だなぁ......


___________________________



「考えたわ。服をあのチビガキに作ってもらいましょう。布はさっき魔法で作ったわ」


「おぉ、頭いい」


 フィルクの服が乱雑に50枚ほど放り投げられている。ユズにポンと渡せば、割と簡単に作ってくれそうだ。なんせユズだからな。


「常に新品の服着れるっていうのは良いよな」


「けれど、アタシの自己観察は本体しか対象にしていないから、キキョウの服はアタシ一人では量産できないわ」


「自己観察ってどういう仕組みなん?」


「本体というか最初の分身というか、それを対象としているわ。あくまでこの身体は物体生成魔法で作られたもの。精神は本体から分離しているだけ。自己として認識されていないようね」


「なるほど? 魔力最大量が完コピできないのと同じ感じか」


「ちょっと違うけど、感覚的にはそんな感じね」


 フィルクの分身も、一応本体を探せば倒せるってことか。


「ちなみに、本体は何処にいるんだ?」


「たとえ味方でも言わないわ。情報は完全に自分だけで閉じているわね」


「慎重だな」


 慎重というか、人間不信というか。絶対に油断はしないという強い意志を感じる。


「話が逸れたけれど、というわけで、今から彼の元に行きましょ?」


「......今からってダルくね? お互いに」


 ただでさえユズに迷惑をかけているのだ。これ以上身勝手に巻き込むのは、微妙に罪悪感がある。ついでに朝起きたばっかで身体が活性化されていない。今からは面倒だ。


「でも夜遅くまで起きているのは疲れるわ。それに、相手は子供よ? 夜になったらきっと頭が働いていないわ」


 あのユズにそんなことあるかね? とは思うけど、実際俺らの都合でユズの寝る時間を遅らせるのも問題だ。クルメトに怒られる。


「まあそれもそうか。じゃあ......」


「朝ごはんできてるよ2人ともー」


「「あ、はーい」」


「じゃあ、今日は俺が夜まで起きているから、ユズに内容を伝えてからな?」


 と、いうわけで、朝ごはんを食べ終わったので......


「しゃーねぇなぁ。トレーニングしてやろうじゃねぇか! 感謝しろ!」


「割とノリノリで嬉しいわ」


 パチパチパチ〜と気のない拍手をするフィルク。フィルクはトレーニングとかしているのだろうか。筋肉は通常ぐらいだけど、特に魔法関連は。


「フィルクは普段どんなトレーニングしているんだ?」


「そうね、扱える魔法の種類を増やしたり、魔法の扱い方を工夫したりしているわ。威力は分身を使えばどうとでもなるから」


「意外とちゃんと考えているんだな」


 言われてみれば、フィルクが扱う技って多いよな。ユズから聞いた話だと、精神魔法とかも......


「精神魔法か。ちょっと気になるな。精神魔法......」


「相手が怒ったり悲しんだりするポイントを想像するといいわ」


「おけおけ。じゃあ...... いやフィルクが怒るポイントとか知らないんだけど」


 今までコイツが怒ったこと...... タイカルにツッコミでぶったこととかかな。無表情すぎていまいち掴みづらい。


「要は適当に相手を煽ってみなさい。神経を逆撫でするようにって言うでしょう?」


「上から目線だなチビ。人に頼み事をする態度じゃねぇと思うけど、やっぱ背が小さいと器も脳みそも小さいんだな。もっと考えて生きろよ。何がしたいの?」


「......多分大して平均と変わらないわ」


 やっぱこの程度じゃ怒らないよな。......あれ、微妙に悲しんでるこれ? ちょっと希望が出てきた。


「お? お? 悲しんでらっしゃるww? まあもう育ち終わってんだから、今言ってもどうしようもないよな。ごめんな、まだ子供だからって、フィルクにも良いとこはありまちゅよ。例えば、例えば...... わおっ、アイハブノーアイディア痛ぇ!」


「もう分かったから。その調子で精神魔法に応用してみなさい。相手をとことん煽るイメージで」


「へいへい」


 相手をとことん煽る...... 俺は「ふんにゃふんにゃふんばー!!」と考えながら、魔法を使ってみた。


「あぁ、効いているわ。上手くできているわね」


「......本当? 全く表情変わっていないけど」


「表情豊かではない方だもの。それに、元々精神魔法への耐性は強いわ」


「やっぱフィルクって世界トップを自称するだけはあるよな。隙がない」


「隙を作りたいなら沢山やってみるといいわ。相手を喜ばせる、油断させる、自己嫌悪させる、発情させr」


「発情させる!? 精神魔法!」


「え?」


 俺は聞いた瞬間1秒経つ前に魔法を使った。


「精神魔法:安定!」


「あ、何それずるい! 精神魔法!」


「ちょっ、ちょっと待って...... 『黒き罪への白き天罰』」


 フィルクの身体は黒い液体になった。よっぽどヤバかったらしい。あれか、フィルクの分身は完全に感情を共有しているからな。精神魔法は弱点なのだろう。

 精神魔法か、威力が分かりづらいな。俺自身に使ってみよう。ちょっとフィルク風に言ってみるとして......


「精神魔法:発情」


 ......あ、待ってこれヤバい。身体が誰かに熱されるような感覚。心臓が高鳴って、呼吸が荒くなる。

 なるほど、対象の精神に直接作用するんじゃなくて、術者の魔法を感じて、そういう気分にさせられるんだ。はぁ、はぁ。ヤバい、これでフィルクが来たら大変なことになる気がする。精神魔法:安定。


「はぁ、はぁ...... ふぅ...... 精神魔法、精神魔法、精神m」


 目を瞑って深呼吸をすると、目を開けた瞬間......


 頬を赤く染めて妖しく目を輝かせた、黒髪の美少女が現れた。


「大丈夫......?」


 やけに色っぽい声で、フィルクは俺の顔を覗き込む。明らかに距離感が近い。

 お互いの呼吸音が聞こえ、暖かい風が唇を撫でる。


「はぁ、はぁ、待って......」


「はぁ、はぁ、ごめんなさい、離れるわ......」


 フィルクから目を逸らせず、ただでさえ露出が多い黒の服を見てしまう。


「や、やべぇな精神魔法」


「ここまで強力な精神魔法は初めて見たわ。つ、次は伝言魔法を使ってみましょう」


「あぁ」


 お互い微妙に精神魔法の余韻が残っている。伝言魔法...... あぁ、タイカルが合図に使っていたやつか。

 どうしよ、なんて送ろう。こんな気分だと頭が変な方向に回ってしまう。変に考えても逆にキモくなるな。よし...... これにしよう。


『この発情女。もっとまともな服を着れ』


「は?」


___________________________



「ってなことがあってよー。いやぁ、色っぽいフィルクもむちゃ可愛かったわ」


「これは酷い」


「結局あれから、伝言魔法と精神魔法と千里眼魔法、ついでに腕立て100回と腹筋100回と持久走10キロやったな」


「おぉ、すごい」


「とりあえずは全部順調だな。千里眼魔法はちょっと苦労したけど、伝言魔法と精神魔法は俺得意っぽい」


「その調子で頑張って。ちなみに僕は精神魔法はそこまではできないから、自信持って良いよ」


 実際今日は少し強くなれた気がする。この調子で練習を重ねれば、ユズに勝てる日もそう遠くないのだろうか。

 と、惚気混じりの俺の話は置いといて、本題はこっちだ。


「明日さ、ちょっと手伝ってくんね? やりたいことがあってさ」


「やりたいこと?」


「服を作って欲しいんだよ。布は用意した。どうせできるだろ?」


「決めつけが酷い。いやできるけど」


 やっぱりそこは安心と信頼のユズ。できるに決まっているんだよなー。


「でも、明日はちょっとキツイかなぁ。今、山の中すっごいことになってて。いつ戻るかも正直分からない......」


「すごいこと?」


「まあ詳しくは言う気ないけど、虫がすっごいことになっててね......」


「なぁ、さっきから語彙力死んでない?」


「言うのも嫌なぐらいなんだよ」


 頭が良いだけで子供なのに無双しているユズ様だ。説明しようと思えば簡単にできるだろう。逆に言えば、今は俺に説明したくない事態ということだ。

 ユズは優しいからな。変な心配されたくないんだろう。


「気になる......」


「それが終わったら作ってあげるよ。あと、もう少ししたらお肉食べられなくなるかも。僕も明日からお弁当持ってくことにする」


「......え、肉食べられなくなるの? 嫌なんだけど」


「村の外から持ってこれば食べられないこともないよ。結構遠いけどね。50キロメートルぐらい」


「流石にそれは遠すぎるな」


「見つけ次第持ってくるよ。先生には伝えてあるから、相談して。僕はそろそろ寝る」


「へーい。そっちもよく知らんけど頑張ってな。おやすみ」


「おやすみ〜」


 うーん...... 明日、こっそり山に入ってみるか。

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