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Green Way 〜記憶を失って転生し、絶望を知る〜  作者: SS
1章 英雄の誕生編
23/49

20話 新しい生活

「......」


「......」


「......キキョウ、ここって何て読むのかしら?」


 ここはクルメト院の俺の部屋。俺とフィルクはベッドの上にうつぶせになって、二人で一つの本を読んでいた。


「若干意訳を混ぜて、なんだろ。ゾワゾワする〜みたいな意味じゃねぇか?」


「あぁ、理解したわ」


 バタンッ


 急にドアが開き、金髪のイケメン、タイカルが現れた。


「・・・なんかゾワゾワする〜!!」



××××××



 時は1週間前。フィルクがカニバリズムを公表した直後。


「俺嫌だ! なんでこんなカニバリズムロリサイコと一緒に居なきゃいけねぇんだよ!」


「近くに鳥とかが居るならそっちを食べるわ。好んで食べたりはしないわ。カニバリズムではないわ」


「意味ググってこいカス!」


「仕方ないじゃない。分身の性質上、全員を同時に動かすことはできないから、パパッと食べれる食料が欲しいのよ」


 たしかに合理的に考えれば正しい行動なのかもしれないが...... 異世界でカニバリズムに出会うとは思わなかった。


「まあ本人が良いなら個人の価値観だから...... うん...... まあ...... ちなみに美味しいの?」


 やや引き気味に聞くユズ。フィルクは自分が正しいとでも言うように、堂々と答えた。


「蛾よりは美味しいわ」


「......ガ?」


「気づかない方がいいぞタイカル」


 タイカルはそういうのに弱いから吐く可能性がある。吐かれたらクルメトに迷惑。


「えぇ、うん、まあ、その...... あの...... えーっと...... 待って頭の回転が追いつかない」


「アレだろ? 何を協力して欲しいんだってことだろ?」


「あ、それそれ。キキョウが手伝うって何を? そもそもフィルクって何者なの?」


 言われてみれば確かに。急に村に来たが、どうやって来たんだろう。明らかに村の住人ではないようだし。


「そうね......」


 フィルクは言うかどうかを考えている(というポーズをとっている)。5秒ぐらい経って、フィルクは言おうとする姿勢を見せた。何を言われても良いリアクションをする準備はできた。さぁ、来い。


「te...」


「「な、なんだって〜!!」」


「......キキョウ、タイカル、五月蝿い」


「すまん」「ごめんなさい」


「なんか...... 言う気がなくなったわ」


「ちょっ、あの、うちの馬鹿2人がすいません!」


「まあ別にいいわ。大したことを言うつもりはないもの」


 フィルクは改めて言った。



「アタシは天使よ」



「・・・」

「・・・」

「・・・」


 3人全員がポカンとする。なんだってーとか言える状況じゃない。俺の聞き間違いか? いや、でも、こいつ、確かに天使って言った......


「転移の神ケニエ様によって転移してきたわ。それはおいといて、アタシが手伝って欲しいことは......」


「ちょっと待てちょっと待て! え、何? え、ほんと何!?」


「だからケニエ様という転移を扱う神様の能力で、この村に来たわ」


 おっと転移できる神様。超重要そうな人来たけどそれより前に神って何?


「そっちじゃない。それも気になるけどその前!」


「天使の方? それなら後で話すわ」


「え、え、え、テンシってのは天の使いって意味? 転んで死ぬじゃなくて?」


「天の使いであっているわ」


「え、じゃあ、え...... フィルクが天使ってこと?」


「そうよ」


 聞き間違いじゃなかった。じゃあなんだ? こいつは本当は相当神聖で偉い立場ということか? この性格で?


「え、堕天でもしたの?」


「失礼極まりないわ。していないわよ」


「でも、格好とかまさに魔女じゃん......」


「白をベースとした服もなくはないわ。アタシは黒の方が好きだけれど」


「・・・なるほど。厨二病の妄言か」


「「あぁ」」


 納得したように頷くユズとタイカル。あまりにも成り切っていたから分からなかったぜ。


「突拍子もない話で困惑したと思うけれど、本当よ」


「もういいよ」


「聞く姿勢を見せるべきだと思うわ」


「そこまで暇じゃないし」


「いや、あの、ガチで......」


「あんま面白くないから」


「......」


 沈黙するフィルク。よし、さっきのはフィルクの妄言と言うことにして、俺らは何も知らなかったものとして今まで通り生きよう。


「解散解散。ユズ、タイカル、ご飯食べようぜ。あ、フィルクは自分の分身でも食ってろよ。近寄るな」


「幾ら何でも酷いと思うわ。理不尽」


「知らん。食べたかったら今すぐ山を治してこい」


「山を壊したのはアタシじゃなくて貴方よ」


「うるせぇ」


「イジメはこうして作られる」


 確かに雰囲気的にはイジメのそれに近い。罪悪感があるわけではないが、指摘されると気になるから話題を変えよう。


「ユズ、今から飯作ってもらえないか?」


「え、あ、あーね。了解。じゃあ抜ける。タイカルも手伝ってもらえない?」


「え、オレ? ......オッケー、じゃあオレも抜けます」


「はいはい」


 ユズは俺の意図をしっかり汲んでタイカルを連れて行ってくれた。タイカルも空気を読んでくれた。良い友達だ。

 最も敵意を向けられていなさそうな俺が残される。本当はあんま会話したくないが、村の危険が伴う可能性がある以上、気張らないといけない。


「そんなに二人きりで話したかった?」


 フィルクが早々に俺をからかい始める。ユズとタイカルを離したことを把握されているのがムカつくところだ。


「そうだからとっとと話したいこと話せ。分かりやすく説明しろ」


「取り付く島もないわ。害意は無いと言っているのだから、もう少し余裕を持ってくれると有り難いけれど」


「日頃の行いって奴だな」


「でも折角話を聞いてもらえる機会を作ってもらったわけだし、ちゃんと話すわ」


 フィルクは物体生成魔法で二人分の椅子を作り、腰をかけた。罠がないことを確認して、俺も腰をかける。座り心地は硬くて正直悪い。


「まず、天使というものを知っているのよね」


「大まかに神に仕えている存在って認識している」


「それでいいわ。それが実在している、と言ったら信じる?」


 前も似たような質問をされた気がする。なんて答えたっけかな。あの時は殺されるという恐怖感もあったから。でも、今の俺の答えは......


「信じない」


「前は『信じられなくはないけど、今は信じていない』って言っていたわ」


 俺は前の時を思い返す。あぁ、たしかにそう言っていた気がするわ。俺らしい無難な回答、多分フィルクが正しい。じゃあどうしようか。

 ............


「捏造許さない」


「卑怯ね。上等だわ」


 フィルクは臨戦態勢に入った。しかし証拠がなければ悪魔の証明。これは意味の無いレスバが始まる予感。

 と、思ったらフィルクは分身を作った。そしてナイフを手に取り、腹に刺そうとするのを俺が物体生成魔法で止める。


「なになに急に」


「アタシの分身の存在は神様の証明になるわ」


「じゃあここじゃなくてせめて山の中でやれ。血がわしゃー出て衛生と目に悪い」


「アタシの血は清らかよ。病気に一度もかかったことないわ」


「じゃあその血を今ここで2リットル飲んで身体壊さなかったらいいぜ」


 参考までに、1リットルの血液が失われたら生命に危険が及ぶ。そして2リットルも一気に飲むと水中毒。そしてそもそも血を飲んではいけない。

 フィルクは血を床に溢さないよう、分身の腕を抉って魔法のストローで吸うという、相当気持ち悪い行為をしているが、その方法だと時間が掛かるだろう。どちらにせよOKだ。


「......」


 チュー、チュー


「......」


「......気持ち悪いわ」


「同感」


 一瞬本気で2リットル飲む気なのかと考えていた。なんならフィルクがチューチューしている間、どうやって時間潰すかが頭によぎった。


「口の中の嫌悪感と胃の抵抗感がエゲツないわ。せめて火を通して肉と一緒に食べたい」


 カニバリズムでも味覚は正常なんだな。


「貴方も飲んでみる? 今なら口移ししてあげるわ」


「飲まない。そんなシチュに需要無い」


「でも困ったわね。神様の証明ができないわ」


 俺は自分の腕を噛みながら、フィルクの話に耳を傾ける。このまま終わってくれると楽なんだが......


「面倒くさいから貴方が神様を信じた体で話すわね」


「うわダルっ」


「神様は実際に存在していて、アタシはその下に置かれた天使。神リアム様に仕えることに形式上なっているわ。

 リアム様に仕える天使は他にも5人いるわ。それぞれ神様から加護という力、アタシなら分身の能力をもらっているわ」


 凝っている設定だ。ん? 形式上? まあいいや、細かいことはスルーで。どうせ時間潰さないといけないから、適当に相槌打ちながら聞いておこう。フィルクも自分の妄想を語れて内心満足していそうだ。


「アタシはケニエ様によってこの村に転移してきたわ。ケニエ様も神様だけれど、リィム様とは違う神ね。リィム様は治癒の神。ケニエ様は転移の神。多神教って思ってくれればいいわ」


 今更だけど、フィルクが様付けするって中々だな。普段の台詞も、ぱっと見礼儀正しいのかもしれないが、妙に無理矢理感が強いのに対し、この様付けは素で現れたもののような気がする。

 あと多神教とか気軽に言うと一神教の人に怒られるから止めて欲しい。


「神様の仕事は知らないけれど、アタシ達天使の仕事は神様のお手伝い。ここに来たのもそれよ」


「こんなに油を売っていていいのか?」


「金銭を貰っているわけじゃないから、別に問題ないわ」


 勤務態度に問題あり。神様にチクりたいわー。連れ帰ってくんねえかなこいつ。

 でも、考えてみると、神様がこんな少女に仕事をさせているっておかしくないか? 性格的にも能力的にもフィルクが必要以上の苦労を負っていることは無いと思うが、それでも子供である。子供が働くという響きが良くない。


「失礼だけど、神様っていうのは良い奴なのか?」


「アタシはケニエ様とリィム様以外は殆どお話ししたことが無いけれど、両方とも魅力的な人よ」


「具体的には?」


「......ケニエ様は自尊心に溢れているわ。リィム様は天使を管轄していて、顔が良くて社交性に富んでいるわ」


 それ本当に良い奴なのか? いやまあフィルクが他人の性格的な長所をしっかりと見ているとは思わないけど。俺らと価値観違うし。

 ただ自尊心に溢れているってどう解釈してもナルシストってことだよな。一番最初に出てくる褒め言葉がナルシストと外見か。酷ぇものだ。


「懐疑的な目ね。神様を侮辱するなら私は怒るわ」


「こわーいわー」


「怒ったわ」


 フィルクが軽い蹴りを入れてくるのを避ける。彼女はキチガイから狂犬にシフトチェンジしたらしい。


「そんなすごいなら見てみたいわ。特にケニエ様」


「いつか紹介してあげるわ」


 転移の秘密も分かるだろうか。おっと。


「キキョウー、ご飯できたよー!」


 早っ。俺を心配して早く片付けてくれたのだろう。もう少し聞きたかった感はあるが、ナイスタイミングだ。


「......アタシも同行していいかしら?」


「ダメと言ったら?」


「泣き落とすわ」


「うっぜ。ついて来い」


 クルメトとミゼが居る場でフィルクを除け者にするわけにもいかず、仕方なく連れて行く。

 むしろ、ここでクルメトの了承を得てフィルクを何処かに飛ばすチャンス。気を張ろう。


「......あ?」


 フィルクが手を繋いできた。冷たい感触がして、訳がわからず困惑する。


「どうした?」


「キキョウがアタシの涙目に屈したから。依存させるわ」


 ここで反論したらコイツの思う壺なので、代わりに俺はガン無視する。


「反応がイマイチね」


「察せ」


「その言葉嫌いだわ。甘えるのは止めなさい」


 甘えているのはどっちだ全く。逆張り精神でしっかり手を握り返して歩く。一応これが2回目か。今とあの頃の印象に大した差は無いけど、それでも違った感覚がある。当たり前か、敵じゃなければ可愛い女の子だもんな。


 ......あ、やべ!


 俺はユズを見て咄嗟に繋いでいる手で魔法弾を発射する。お互い、手首の先が木っ端微塵だ。


「......そんなに嫌だったかしら?」


「うん」


 クソ痛ぇ! ユズに気づかれていないといいが......


「えーっと...... じゃあご飯食べようか。フィルクもどうぞ」


 気づかれているなぁ。絶対変な誤解を植え付けた。


「先輩、大丈夫でしたか? ......ん!? 本当に大丈夫です!?」


 心配そうに駆け寄って、そして拳の潰れ痕を見て驚愕するのはタイカル。俺は治癒魔法で拳をなんとなく再生した。


「特に問題は無い。この傷は俺のせいだ」


「なら良かった...... のかな」


 ユズは俺の傷に治癒魔法を使う。ちょっとだけ綺麗になった。次にフィルクの手首も再生、とはいかずに、分身が2体いることに戸惑う。

 右手が潰れた方の分身が、左手を胸に当てると、そこから黒い光が放たれた。


「『黒き罪への白き天罰』」


 フィルクの分身は溶けた。よく見たら下に大きな桶が敷いてある。環境への配慮を覚えたそうだ。


「うわきっしょっ。食欲失せる」


「色がなんか汚い」


「あんまりな言い方だと思うわ」


 しかし環境への配慮より、人への配慮の方が大事である。


「話は......」


「ほぼ進展無かったぜ。プラマイゼロ」


 ユズとタイカルは、俺に一切の害が与えられていないことを確認して、安堵の息を漏らす。


「どんな話をしt」


「準備できたよーっ!」


 俺が詳細を伝える前に、ミゼの声が聞こえた。


「あれっ、ユズたちどこ?」


「そこに居るよ。何か話しているようだね」


「あっ、本当だっ。おーい! 食べよー!」


 ミゼがこちらを向いて手を振る。3人はおそるおそるフィルクに視線を向けた。


「じゃあ食卓、お邪魔するわ。これからよろしく」


 3人の思いが完全に一致した。『帰れ』




「「「「「いただきまーす」」」」」


「......いただきます? んっ、これ美味しいわね」


「......」


「見つめられると食べづらいって分からないの?」


 図々しくも誰よりも早くご飯を食べ進めるフィルク。ちくしょう、クルメトとミゼが居るからあんま強く罵倒できない。


「フィルクさんはもう魔法使えるんだね」


「そうね。フィルクでいいわ」


 あんま説明していないから、クルメトとミゼはフィルクをただの転移者だと思い込んでいる。ユズもタイカルもフィルクの異常性を説明する気はないようだ。


「どれぐらい魔法使えるの?」


「ここにいる3人よりも何倍も強く上手く多くの魔法を使えるわ」


「へー、すごいね! ユズよりもなんだ」


「えぇ。何かあったら言って。手伝うわ」


「本当? 心強いね」


「なんか大人だねー。かっこいいなぁ」


 無表情なのは崩さずに、むしろそれを利用して、可愛い&カッコいいの良キャラを演じている。


「フィルクちゃんは普段何しているのっ?」


「フィルクちゃん...... まあいいわ。そうね、趣味は日向ぼっこね。道端で寝ていることも多々あるわ。立ったまま寝ている時もあるわね」


「へぇ、立ったまま寝る。興味深い」


 おいそれ普段潜ませている分身のことじゃねぇか。さらっと情報操作するな。


「ユズたちも、話してていいよ?」


 クルメトが全く話さない俺らに違和感を覚える。タイカルなんか折角の来客だしな。何か誤魔化す必要があるか。


「僕はちょっと......」


 ユズは、モジモジと人見知りをする。演技は完璧だし、ユズは元々人見知り設定だったはず。まずバレないだろう。


「オレは...... 調子悪くて......」


 タイカルは箸を置いてそう言った。言われてみればさっきから箸全く進めてねぇな。この展開を予想していたのか。

 俺どうしよう。何も考えていねぇな。タイカルの言い訳をパクるか? でもちょっと露骨だよな。なんか違う奴にしよう。


「服装が際どくて直視できなくて」


「ぶはっ!」


 ユズがジュースを噴き出す。なんかパッと浮かんだのがコレだったけど、酷いな。ちょっと恥ずかしくなってきたわ。

 ミゼは若干頬を赤らめ、「デリカシー無い!」とごもっともな事を叫ぶ。クルメトは苦笑いをして暖かく見守っている。だけ!


「可愛いでしょう?」


 当の本人は、俺が適当言ったことを知っているためか、全く動揺していない。ミゼはそんな彼女を見て驚き、とんでも無いことを口走った。


「凄いねフィルクちゃん......! もしかしてもう子供いるっ?」


「「ぶはっ!」」


 そして被害拡大。


「馬鹿じゃねぇの!?」


「ミゼが一番デリカシー無い...... というか失礼」


「あ、ごめんフィルクちゃん......」


「ちなみに子供はいないわ」


「「「「「............」」」」」」


 お茶の間の空気、最悪になったんだけど。この村で初めてだ。やっぱりフィルクはクルメト院に入れちゃいけないな ←お前のせい。


「えーっと...... ミゼがごめんね」


「別に気にしていないわ」


「以後気をつけます......」


「でも、ここでキキョウと住むから、近々子供ができるかもしれないわね」


 おっと猥談になってきたぞ。珍しい。


 ............ちょっと待て今コイツなんて言った!?


「「えっ......!?」」


 あぁ、終わった。もうどうにでもなれ。あとユズ、タイカル、同情の目をやめろ。


「えっ、えっと、フィルクちゃんも一緒に住むことになるのっ?」


 落ち着け、冷静になれ。ミゼもクルメトも想像ほどのオーバーリアクションは見せていない。一つ屋根の下で同年代の男女→子供ができる。これはこの村においては当たり前のことなのだ。

 今は冷静に拒否しておこう。


「いや、フィルクは地面の下で寝るのが大好きだから。アリの巣ならぬフィルクの巣を作っているから」


「土の中は嫌だわ」


「嘘つくなって」


「えーっと...... ??? 一緒に住まないってこと?」


 ぽかーんとなっているミゼ。何も知らなければ、こいつは14歳のか弱い女の子。他の転移者と同様、クルメト院に住ませるという発想になるだろう。

 でも俺はコイツと住むなんて心の底からお断りだ。だから俺は、コイツの狂気を映し出す。その上で俺がこいつと居たくない旨をクルメトに察してもらう。強制的に移動させるんだ。

 手始めに、笑顔をキープしながら、加熱魔法でフィルクの足を思いっきり温めた。


「きゃっ」


「どうかした?」


「い、いえ......」


 フィルクも一瞬で表情を無表情に戻し、俺の方を横目で見た。俺が本気で嫌がっているのを理解したのだろう。


「なんだそれ。怖っ」


「......」


「えーっと...... もしかして、キキョウと何かあった?」


 先生、天才!

 このまま俺が有利なように誘導を続けたい。そう顔に出ていたのが間違いだったか。それとも、最初から想定済みなのか。フィルクは必殺技を放った。



「......アタシは彼のことが好きなの」



「は?」


 なるほど、さっきの話はそう繋がっていたわけか。鬱陶しい。

 俺がどう反論するか悩んでいると、フィルクは目をウルウルとさせながら......



「貴方も好きって言ってくれたでしょう? 一緒に居たいわ。......ダメ?」


「「えーーーー!!??」」

「「おーーーー!!!!」」


 こいつ、やりやがった。


「え、え、言ったの?」


「......」


(あ、言ってないのね)

(まあ言ってないっすよね)


 ユズとタイカルはあっさり察してくれたっぽい。もちろん、これは完全なるフィルクの嘘だ。


「あのっ、えーっと......」


「キキョウ、一緒に居てあげなよっ! こんな可愛い子を一人にするなんて可哀想だよっ!」


「まあ...... そうだな......」


 顔は笑顔を保っているが、声に若干「嫌だ〜!」っていう感情が混じっていた。どうしようか、こっからでも無理矢理断ることはできるが、ミゼに嫌われるのも納得いかない。何も知らない彼女らに、俺が嫌がる理由を正しく伝えるのも難しいだろう。


「えーっと......」


 なんとかフォローを入れようとしても何も思いつかないユズ。それと対照的に、タイカルは完全に表情を作りきって、スパッと言葉を投げかけた。


「良いなぁ。そんな可愛い子と一緒の部屋とか〜。お大事に!」


 いやフォローじゃないんかい! しかも無駄にそういうとこだけ演技が上手いんだよっ! ふざけんな多数決で負けたじゃねぇか!

 タイカルは「ごめんなさい!」って顔をしたが、俺はあとでぶん殴ってやると心に決めた。


「......僕の前でイチャつくのはやめてね」


 ユズまで敵に回ったとなると、もう俺に勝ち目は無い。終わった......


「まあ...... 羨ましいだろ?」


 俺には虚無感に満ちたマウントを取ることしかできない。


「っ...... キキョウ。ありがとう」


 完全に作られた声を発しながら、フィルクは俺に抱きついた。俺が視線を下げると、フィルクは顔を上げ、舌を軽く出した。

 ......本当に嫌だコイツ。



××××××



 これが一緒の部屋になった終始だ。それから怪我の治療として、1週間経っている。ユズは一人で山を治しに行ったため現在外出中。

 今読んでいる本はユズ特製の絵本、難易度4である。この村の言語学習の練習用として、適当に作っていたらしい。難易度は最高5だ。

 子供から大人まで見やすいように作っているため、子供騙しの展開が多いが、机の上の勉強よりはよっぽど楽しい。あと、これを読んでいるだけで魔法の知識が身につく、素晴らしい構成だ。

 ちなみに、フィルクには俺が記憶喪失であることは伝えたが、転移者であることはまだ伝えていない。


「1週間も来なかったからお見舞いに来たのに、本当に楽しんでいるじゃないっすか」


「治癒魔法と合わせて3日前にはぶっちゃけ完治してたけど、クルメトが念のためって言うから、お言葉に甘えた」


「しかも、いつのまにかめっちゃ仲良くなってんじゃん」


「いやぁ、やっぱ顔って大事だよな。可愛いってだけで勝手に愛着湧くもん」


「それもアタシの才能ね」


 最初の気持ち悪いやつという感想はどこに行ったか、今はちょっと残念なところがある可愛い妹みたいな感じになっている。年的にも2歳差だし。


「ってか、同じベッドって普通に考えておかしいよね。最初は先輩気の毒だな〜って思ってたのに、仲良くなったんじゃただ羨ましいだけじゃん」


「コイツ床で寝ているけどな」


「それは普通に最低」


「別に気にしていないわ。1週間前までは山の中で寝ていたし。むしろ同じベッドを追い出されたことの方がショックね」


 多少文句を言われたが、結局フィルクは俺の言うことはちゃんと聞いてくれる。というか、フィルクはこう見えて意外と寛容なんだと思う。あんまガチギレとかしないし。


「初日に床に追い出したから、まあそのままでいっかってなって。変な誤解されたくないし」


「別にいいじゃないっすか。フィルクが良いなら」


「いや、物好きって誤解されたくない」


「それはたしかnイタイ! なんでオレをぶった!? 今の悪いの先輩でしょ! イタイ!」


 俺に”は”寛容である。


「そういえば、結局先輩に手伝って欲しいことって何だったの? ずっと気になっていたんだけど」


「別に急ぐことではないから、天使って信じてもらえるまで待っているわ」


「で、俺は面倒だから一生信じないことにしている」


「もう面倒だからって言っちゃっているじゃん......」


「助けたいって思ってくれる時を待っているわ」


 そんな時は来ない。何をやらされるか分かったもんじゃない。俺はこのままずっと適当にのんびり暮らしていくのだ。


「絶対そんな時来ないだろうなぁ......」


 ここの生活に飽きたら考えなくはない。と、言っても、まだまだ楽しめそうだけどな。例えば......


「そういや、もうすぐ新しい家ができるだろ?」


「まあもう少し先になりそうですけど、そうっすね」


「俺まだレアっていう子に会ったこと無いからさ、家ができる前に一回会ってみたい」


「あ、そういう話題ですか。でも...... あぁ......」


 タイカルは少しトーンを落とし、結構真剣に悩んでいる様子を見せた。


「ちょっと明日聞いてみます。期待せずに待っていてください」


「そんぐらい期待させてくれよ。そんな人見知りなの?」


「人見知りというか...... 人嫌いというか...... ちょっと複雑なんすよ」


「ふーん...... そんなもんか」


 タイカルと一旦別れ、そして翌日、俺がついにクルメトから「もう良さそうだね。お疲れ様」と退院許可をもらった後、タイカルからの報告が来た。



「頑張って説得してみたけど、『絶対に嫌だ』って......」

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