2話 小さな少年
「なぁ、腹減ったからご飯食べたい」
「あ、作る作る! ちょっと待ってて、ユズがもう少しで帰ってくるから!」
「今は山で魚を取ってもらっているんだよっ」
相変わらず木製の部屋の中。俺は普通に歩けるらしいけど、一応安静にしといたほうがいいというクルメトの助言によって、布団の中にうずくまっている。ちなみに枕は木の実の殻的なやつが入っていて、シャカシャカしている。
ミゼとクルメトと適当に話して、なんとなく掴めてきたことがある。まず1つ目。
「師匠と私は料理が得意だよ♪」
「自分で言うのもなんだけど、この村で2、3番目に上手く作れるという自信があるね」
「代わりに、運動ができないのが師匠の特徴」
「できないわけではないよ。面倒だからしないだけ」
これである。「師匠」 ミゼはクルメトのことをそう呼んでいる。ちなみに、クルメトにだけは敬語である。俺に対しては自然体に話すようになった。
「魔法は私の方が得意っ。あと力仕事もっ!」
「クルメトの治癒魔法が如何程か知らんけど、普通に便利だな。俺も早く使えるようになりたい」
そして2つ目。魔法。俺が見せてもらったのは、「物体生成魔法」「水魔法」「光魔法」「加熱魔法」「冷却魔法」「物体操作魔法」「身体強化魔法」
火魔法や風魔法と言ったものもあるらしく、これらは使用者が適当に名前をつけているらしい。だから別に、細かいグループ分けとかはされていない。
俺も早速魔法を使ってみたいんだが、もちろん全くやり方が分からない。火魔法とかが家の中で暴発するとマズイから、体を休めたら外で練習しようということになっている。
あ、あと忘れてた。重要なのが、意思疎通魔法。俺が今、ミゼやクルメトとかと話せている理由だ。ちなみに魔力の概念もちゃんとあるらしく、これは魔力の消費量が大きいんだとよ。
それに加えて色々な魔法を見せてもらったおかげで、ミゼの残り魔力量はピンチらしい。ちなみに、一定数までは時間経過で回復するらしい。魔力を一瞬で回復するアイテムなどはない。
「そういや、ミゼが意思疎通魔法を維持できなくなったらヤバくね?」
「ユズが帰ってくるから、焦んなくていいよ。もうすぐ帰ってくるね」
「ふーん」
そして最後。ユズという男の子に対する信頼度がすごい。元々は俺と同じ転移者で、ここで皆で済んでいるらしいが、相当の天才とクルメトが言っている。
具体的には、「料理が村で一番」「魔法の扱いが村で一番」「魔力量も村で一番」「なんでもできる」「かわいい(byミゼ)」「小さい(byミゼ)」
ミゼのユズに対する好意はおいといて、結構すごそうだ。もうすぐ会えるらしいから、是非会ってみたい。
「ユズかぁ。俺と同じ日本人だったりしねぇかな」
「確率的には...... 相当厳しいだろうね」
「意思疎通魔法があれば大丈夫だよっ!」
「なんかさ、意思疎通魔法? って微妙に変なポイントあるんだよ」
「例えば、固有名詞に対する説明が頭の中に刷り込まれて、なんとなく意味が分かっちゃうとかだよね。初見の筈なのに知っているような、ニュアンスのズレが発生するんだよ」
「そうそう、多分それ」
そんな非日常的な会話を、いたって普通の日常のように行える環境。それが異世界だ。まだまだ分からないことは沢山あるが、やっぱり異世界っていうのは分かる。
でも、変な言い方だが、クルメトとかミゼが普通の人間っぽくて良かった。見た目はThe・美少女なのはむしろメリットだから置いといて、性格もまともだ。というか、ものすごく良い性格をしていると思う。
「ユズの意思疎通魔法なら、そこら辺の調節できるのかなっ?」
「意思の伝達が本質だから、調節は難しいんじゃないかな。ユズならできそうだけど」
「別に大して悩んでいるわけじゃないぜ。ただ同じ環境の人が居ると嬉しいなって思っただけで」
「ユズの出身地って...... ユズは言ってたっけっ?」
「たしか言っていないはずだね。言ってたとしても覚えていない」
「まあ、聞いてみるしかないか」
「ただいまー」
元気な声が響いた。声変わりを迎える前の男の子の声...... 噂をしていたらユズがやってきたのパターンか。
「おかえりー」
「おかえりー!」
おかえりって...... なんか良いね。俺もここに住むことになるんかな。流石に男女の差があるし無理かな。誰かと同棲できることを祈ろう。
「あれ、ミゼー。クルメトー。どこ〜?」
それはおいといて、ユズっていう子の声を聞く限り、至って普通だ。ちょっと可愛い。まだ純粋さがある、10歳前後ぐらいかな。天才少年と聞いているが......
「ユズが来たみたいだね」
「迎えに行ってくるっ!」
ミゼが部屋から出て、ユズに事情を説明する。
「おかえり〜!」
「あ、ただいま〜。何でその部屋に居たの?」
「新しい転移者だよ〜」
「・・・おぉ、転移者」
「ご挨拶してね。お客さんだから」
「はーい」
お前らは親子か! ってツッコミたくなるやりとり。
ドアの前に現れたのは、黒髪で背の小さな......
「バタンッ!」
勢いよくドアが閉まった。ぶっ壊れそうな勢いだ。
「「え?」」
俺とクルメトが呆然とする。ん? なんで閉められた?
「えーっと...... どうしたのっ?」
「いや...... えーっと...... あの...... ノックはしなきゃなぁって思って」
「あぁ、うん。うん? じゃあノックしようねっ」
?????
なんというか、独特のセンスをお持ちらしい。普通の子なんて言って悪い、変な子だった。ってか、ミゼも少しぐらい何か言えよ!
コンコンっと律儀にノックをし、キーッという音を立てながらゆっくりとドアが開く。ユズは少し目を逸らして、オドオドしながら入ってきた。
「えーっと......」
「......これからよろしく?」
視界に映るのは、黒髪黒目の小さな男の子。顔立ちはとても良く、可愛さの奥にイケメン感が溢れていて、将来の期待値は高い。少し庇護欲が刺激される、美形の子供だ。
なんというか、さっきと印象が違う。声のトーンも変わった感じがする。ユズは俺の目をしっかりと見て......
「......ドアはゆっくりと閉めてね?」
クルメトに注意を受け、向きを変えごめんなさいと謝った。
「人見知り?」
「えっ?」
「うん、そうかも。この前転移したばっかで、あんまり人と話していない......のかな?」
「あぁ...... うん。たしかに、少し人と話すのは苦手かも」
ユズは一回戸惑いつつも、人見知りだという自覚があるそうだ。なるほど、そういうキャラか。可愛い系の子供キャラじゃん。
「ユズ...... です?」
「俺は...... なんだろう。君とでも呼んで」
「......君?」
「彼は記憶を失っているらしい。名前とかは分からないけど、知識だけは残っている... で良いんだよね?」
「あぁ。なんでかは知らんけど。ちなみに日本出身。ユズは?」
「えっと...... ちょっと待って、記憶が無いの?」
「うん、マジで。母親の名前すら覚えてねぇ」
「へぇ......」
目を見開いたまま、呆然と俺を見ている。可哀想な人を見る目だろう。初対面の子供にすら心配されてると思うと、結構悲しい状況だな。
「そんな目で俺を見ないで良いよ。別に辛くもなんともないから」
「そ、そう......? なら良かった......」
根はいい子なんだろう。なんか素直そうだし、可愛いし、結構印象はいい。
「ま、改めてよろしくな」
「はい...... よろしくお願いします」
俺はユズに右手を差し出し、ベッドの上というややしまらない体制だが、友好の握手を交わした。
「でも、き...... 君? で良いの? 名前」
「あぁ...... いつか変えたいな。適当に考えておくよ」
「記憶が無くなったなら、アニーザとか」
「なにそれカッコよ。けど...... なんか好みじゃないな。もっと呼びやすい名前が良い」
「メモさん。メモリーからとって」
「メモさん...... そう略されんのはなんか嫌だな。なんか便利さだけあるやつみたいな感じがして」
適当に名前の論争が始まる。さっきまではオドオドしていたが、ちゃんと話せるタイプのようだ。なんなら結構グイグイきてる。
「なんか仲良くなれそうで良かったですねっ」
「そうだね。ユズが人見知りとは初めて知ったけど、問題なさそう」
後方彼氏ポジの2人。いや、違うな。これは歳の離れた姉妹ポジだ。
「ま、一旦名前については置いといて、最強と噂のユズ様の魔法を鑑賞したい! 実はずっと気になってた!」
「えぇ...... ちょっと外に出ないと、全部の実力を出すのは難しいかも......」
お、自分からハードルをあげていくスタイル。嫌いじゃねぇ。ただ、俺ってもう動いていいんかな。
「俺ってもう外に出ていい?」
「まだ安静にしといた方が良い気がするけど......」
「僕が治癒魔法かけとくよ。それで問題は無くなるはず」
「めっちゃ自分の力に自信持ってんじゃん」
「えへへ。異世界の魔法、使ってて楽しい」
彼は幼くも立派な転移者。つまりなろう主人公ということか。強い魔法が使えて興奮しているのだろう。
俺らは部屋から出て、クルメトが丁寧にドアを閉める。この建物は廊下を挟むように4つ×2列の部屋があって、そのうちの何個かには「風呂」「ユズの部屋」「クルメトの部屋」等と看板がかけられている。
「終わったら昼食にしようか。部屋から器具持ってくるから、外で待ってて」
「僕も...... 少しトイレに行きたい」
「了解しました!」
「へーい」
俺とミゼだけ先に庭につく。映る光景はまさに田舎で、奥には大きな山があり、今いる場所は平原で草が生い茂っている。この建物の外装は、完全に木製の豆腐ハウスだ。
「魔法ってどうやって使うんだ?」
「感覚を掴めばいけるよっ。例えば目の前にある魔法を使いたいと思ったら、手をその場所にかざして、腕に力を込めて魔力を絞るように出すのっ。どういう魔法にするかは、魔力を出す前に考えないとねっ」
「なるほど?」
ミゼは手をかざした先に、水を生成した。ついでに、その水は浮いている。これが魔法というやつか。
俺も早速腕を前にかざし、水を生成しようと思って腕に力を込める。すると、垂れ流しではあるが水が作られた。軽くビックリだ。
「おぉ、上手い上手い!」
「へぇ、結構簡単だな。詠唱とか魔法陣とかが必要だと思ってた」
「詠唱......? そんな長くないけど、使いたい時に『水魔法!』とか宣言すれば、頭の中でイメージが作りやすくて、良い魔法が使えるよっ!」
なるほど。確かにそれは理にかなっている。それなら大して恥ずかしくもないし、次から言ってみるようにしよう。
「お待たせ、持ってきたよ。材料はおいおいで」
「そうだな。いつも外で料理するのか?」
「......? あぁ、この世界の家は木製だからね。外の方が安全だ」
クルメトの理解が早い。それに対して、俺は考えれば分かることをわざわざ聞いている。アレだな、なんだかんだまだ動揺しているな。当たり前で仕方ないとは思うけど。
「火は...... あ、摩擦じゃなくて直接魔法で起こせば良いのか。便利だな魔法」
「薪なら持ってきたよ。重かった」
「火を出すときは、手元で作ると火傷しちゃうから注意ねっ」
「あぁ、それやりそう...」
せっかくの初めての魔法なのに、会話していることは小学生のマッチレベルのもの。悲しいなと思いつつも、少しワクワクしていた。
「みんな魔法を使えるのか?」
「うん。人によって得意魔法や苦手魔法にも個人差が出るけど、火や水の生成ぐらいなら誰でもできるね」
「俺の得意魔法はなんだろ。オールラウンダーがいいな」
「特殊な魔法が得意なケースもあるよ! ユズとか、自分で新たな魔法を作ったしっ」
「イメージすれば、大体のことは魔法でできるよ」
万能だな魔法。どういう仕組みでやってんのか分からんが、本当に何でもできるとしたら凄すぎる。
「あ、ユズが来た!」
「遅れてごめん。じゃあ、魔法を使うね。少し離れた方が良いと思うよ」
「本当に自信満々だな。何メートルぐらい離れればいい?」
「うーん... 2メートル」
「なんかショボい()」
俺的には、10メートルぐらい離れなきゃいけない特大の魔法を見たかった。まあ、そんなもんか。そんな凄いことできたら、普通に考えて荒れるよな。この村。
「おっと、期待が少し下がったね。見ててよ、度肝を抜いてあげるから」
「まあ期待っつぅか、好奇心は刺激されるな。村最強」
「じゃあやるね」
ユズが手を前に出し、手には黒と青の粒子が纏わりつく。......なんかヤバそう。確かに、なんかヤバそう。
やがてその粒子は一つの塊へと変化し、そのタイミングでユズが宣言する。
「槍魔法」
その瞬間、青がかった黒色の槍が手から放出される。速い。比較するなら、電車や車よりも速い。槍が向かった先では、何かがバキバキと音を立てて、崩れ落ちていた。俺が視線を向けると...
「ふぁ?」
大きな太い丸太が思いっきり破壊され、辺りに飛び散っていた。しかも衝撃なのが、太いと言っても10メートル以上先の一本の丸太を、綺麗に頭から尾まで貫いているのだ。
「これ...... 人死ぬよな?」
「うん、そうだね」
「防ぐ方法は......」
「鉄レベルの密度の物体を生成すれば、相当避けやすくなるはず」
こ、これが魔法...... ヤバヤバじゃん。水魔法とか言ってはしゃいでたのが馬鹿みたい。え、エグっ。こんなん人に当てたら、思いっきり貫通して死ぬぞ。
「別に人に当てたりなんかしないから大丈夫だよ。きっ...... 君? が想定するような、人VS人みたいな構図はないから......」
「魔物とか居ないの?」
「うん、居ないね。ちょっと気性が荒い動物とかは居るけど...... でもこんな魔法、危ないしグロいし使えない」
これを熊とかライオンに使ったら、即首が跳ねられるだろうな。あ、危ない異世界じゃなくて良かった...... こんな魔法の撃ち合い、俺は無理だわ。
「やっぱ凄いね......」
「なんというか、唖然......」
ミゼとクルメトも俺と同じ感想のようだ。ユズだけ圧倒的に強い、そういうことなんだろう。
「きっ、君も、魔法、なんか使ってみてよ!」
「そうだな...... 炎魔法?」
俺は手を前にかざし、火を作るイメージ...... こう、ブワァっと、メラメラ派手に......
「オラァ!」
俺が気合を入れて叫んだ瞬間、目の前で火が爆発した!
「あ、あ、あっつい! 待って! 思ったより大きい!!」
ミゼの言う通り少し先に作ったのに! 見積もりが甘かった! キャンドルファイアーぐらいを想定してたのに、キャンプファイアーぐらい燃えたんですけど!
「だ、大丈夫っ!? あ、地面に燃え移ってる!」
「僕が消火しとく」
「大丈夫? ほら、治癒魔法......」
「あ、俺の服に移ってる!」
「あ、あ、水魔法!!」
ミゼがそう叫ぶと、俺の全身に水が押し寄せる。水というのは案外重いもので、俺は後ろへと押し倒された。
「ち、治癒魔法がまだできていない...」
「ぎゃ! 虫出てきた! 土掘り返してたらなんかでっかい虫出てきた!」
「大丈夫ユズ!?」
「ミゼ、それよりこの人がまだ火傷が酷いから......」
「や、火傷より全身泥水まみれの方がキツい......」
俺の初の本気魔法デビューは、やけに慌ただしかった。
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火はユズが土を物体操作魔法で被せることでなんとか消火でき、俺の火傷はクルメトが応急処置。俺が治癒魔法をかけたら、なんかボコボコしだした。ユズが治癒魔法を使うと、一瞬で完治したのがやるせない。
ユズが魔法で炊いた風呂に入り、体から泥を落としている時に分かったが、俺の魔力はもうあんまり無い。時間が経つと、めっちゃ疲れて、魔力の残り量がなんとなく分かるのだ。
俺の魔法の評価だが...... 伸びしろを考えると強そうだが、初っ端のユズが凄すぎて残念って感じ。ユズはあんな魔法使っても、まだまだ余裕があるようだ。なんなら、意思疎通魔法を使い続けてもらっている。
「うーん...... 俺つぇーがしたかった」
「僕は『僕つよっ』て感じかな」
「なんかダセェなそれ。ま、俺の強さは期待ってところかな」
「まあ僕には勝てないだろうねー」
そんな最強宣言をする生意気なユズは、現在料理中だ。......魔法で。物体操作魔法で食材や器具を一気に短時間で運び、食材を全て空中で切る。それを手に持ったフライパン的なものにぶち込み、今は加熱を待っている。
「あぁ、めっちゃ良い匂いする」
「香辛料があると、もっと香りが引き立つんだけどね。今は肉の脂で我慢」
「何作ってんの?」
「ハンバーグ。ケチャップ付き」
「そういうところは子供っぽいな。俺も好きだけど」
「パンも作ってあるから、葉物と合わせてサンドにでもしよっかな」
「お、それ良い」
ハンバーガー的なものを作ってくれるらしい。ユズは器用にフライパンを振ってハンバーグを裏返し、さらに鍋に水を入れ、一瞬で沸騰させ、そこに葉物を通す。全て魔法でやっているため、余計な器具は無い。
「本当に便利だなぁ」
「結構難しいよ。細かいものだと、盛り付けは自分の手でやってるし」
「へぇ」
とか言いながら、魔法でハンバーグとパンと葉物を操作し、空中で皿に盛り付ける。もちろん繊細だ。
「お、できたできた! ユズの料理、早いし美味しいんだよっ」
「一家に一人ユズが欲しくなるね。素直で聞き分けもいいし」
「あと可愛い (о´∀`о)」
「ベタ褒めだな。全部本当っぽいけど」
「はい、『僕の特製完璧肉サンド』です」
「自分で完璧って言うのか」
憎たらしいほど完璧なのに、性格も良いとか。もう神だなコイツ。
「「「「いっただっきまーす」」」」
手を洗い、ハンバーガーを両手で持ってかぶり付く。
うん、美味い!!
これが、俺とユズの最初のエピソードだった。




