18話 決着
「『プリズム・サンライズ』!!」
赤みがかった太陽の光の柱が、一帯を覆った。日差しが少し強くなり、景色が明るくなった気がした。木々の葉の露がキラキラと光る。
タイカルはユズに治癒魔法を使い、水を飲ませた。ユズはタイカルにお礼を言うと、怪訝な目で俺の方を見ている。静寂の時間だ。
俺の右手には、光の魔力が集っている。直視するには眩しすぎるが、俺は目を覆う気にはならなかった。光の粒子は俺の手のひらの前で集まり、それにつれて光は強くなっていた。
「タイカル、ユズ、物体生成魔法で日陰を作っておけ。最悪焦げ死ぬぜ」
「え、え? あ、あ、はい! わかりました!」
光の粒子はまだまだ集まる。当たり前だ、俺の全魔力を込めているんだ。ちょっとやそっとの量ではない。
木々の露が消えた。日差しが強くなり、蒸発してしまったのだ。葉が太陽の恩恵を受けようとピンと全身を張り、少しずつ景色が変わっていく。
光の柱は細くなっていた。それと同時に、明るさも増していた。
木々の隙間から流れてきた光が強調され、黒と白の対比が美しく映える。俺の右手の光は、茶色い地面にさらなる明るさのグラデーションを作っていた。
突如、右手に小さな炎が湧いた。今にも消えてしまいそうなぐらい小さいのに、何故か絶対に消えないという強さを感じる。山の風邪なんてもろともしない、武雄い炎だ。
右手が焼ける。右手が燃える。そして、肌が焦げていく。
「ははっ、あははっ、熱い! 熱いぜ!」
「冷却魔法...... いる?」
「要らねぇ。それより見てろよ、まだまだ強くなるからな!」
炎が腕まで燃え広がり、もう小さいとは言えない大きさになった。長くて厚手の服の袖すらも、その炎は遠慮なく燃やしていく。
肌が溶けそうになるが、煙は立たない。視界はクリアなままだ。感覚を鋭くして、全神経で太陽の光と熱を受け止める。汗が吹き出てきて、急な温度変化に目が眩む。しかし、その炎はもう止まらない。
光が強くなる。上を見なくても眩しすぎるレベルだ。タイカルは完全に目を覆って、ユズは心配そうに俺の方を見ている。しかしそれでも、俺は目を開けずにはいられなかった。
この景色を、脳裏に焼き付けてしまいたい
炎が全身に回る。鋭い痛みが全身に走る。ああ、今にも目の奥が焦げてしまいそうだ。炎越しに映る小さなトカゲが、熱から逃げようと必死に走っている。
あぁ、死ぬぜ。走れ走れ。全力を出さないと、肉すら残さず塵になるぜ。
「ふははっ、はははははっ!! あははははははっ!!」
キキョウを囲む炎に照らされて、茶髪の中の緑が照らされた。パッチリと開かれた緑色の目は、純心な子供のようにキラキラと輝いている。
右手に宿る光の粒子が、強く地面を焼き付ける。植物の繊維は焼けて壊れるが、チリチリという音はかき消されて聞こえない。
爆発音がした
頂上はきっとここよりも熱いのだろう。仕掛けた爆薬に火がついて、
爆発音は連鎖する。それはそうだ。頂上の木は、前から何度も燃やしたり壊したりして、既に原型を保てていない。仕掛ける前から既に、虫の死骸やら木屑やら血やらで埋め尽くされていたのだ。
視界が壊れる。もう80度は超えている上に、強い光と炎で囲まれているのだ。目をパッチリと開いていれば、失明なんて余裕だろう。人が生活できる限界は、たったの50度だ。
しかし、80度なんて物足りない。100度を超えろ。200度を超えろ。300度。それが俺の目標だ。
「ちょっ、ば、馬鹿なの!? 治癒魔法!」
よろけかけた俺を見かねて、ユズが治癒魔法を使う。火傷が治り、目も回復して、そしてまたちゃんと立てるようになった。
俺は感謝代わりにユズの目を見た。今一言でも話せば、肺が焼けてしまいそうだから。
さぁ、自然発火のその先へ
山一つすらも焼き尽くせ
また爆発が起きた。その爆発を合図に、3つ目、4つ目と爆発が起きる。フィルクの出口は封じたはずだ。
今までとは比較にならない大きな音と同時に、空気の振動を感じた。きっと近くで爆発したのだろう。ビリビリとした感触に、嬉しさで震えが止まらない。
太陽を手懐ける感触。炎が生んだ高揚。そして爆発が最高の音楽を響かせる。それは俺が支配者になったような、神になったような、悪魔になったような、そんな気分だ。
「ふふっ、はははっ、あははははははは!!!」
目の前で爆発が起きた。俺の全身を吹き飛ばし、全身が痛みで歓声を上げる。もう何も感じない。これは俺の俺による俺だけのフィナーレだ。
あぁ...... そうだよ......
ユズが傷つくとか、フィルクを倒すとか、そんなんじゃない......
俺はただ......
「......綺麗だろ」
この美しい景色を、気分良く見たかっただけなんだ
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「......ん、んぐぅ... んぁ......」
「あぁ起きたっ! 師匠、キキョウが起きましたっ!」
「え、あ、今行こう!」
ミゼの声が聞こえた。なんだろう。全身がめっちゃ痛む。例えるなら、思いっきり火傷した時のように......
「うーん...... あぁ!!! 山はまだ燃えてる!?」
「大丈夫だよっ。ユズから聞いたけど、もう燃えているところは少ないだって。なんt」
「なんでだ〜!!!!」
ちくしょう、ちくしょう〜! 山が完全に燃えているところを見たかった〜!!
「ち、ちなみに俺、何時間ぐらい寝てた?」
「えぇっと...... 昨日の夕方から今日の昼までだから...... 12-4+10で......」
「18時間!!??」
「うん...... 魔力の使いすぎじゃないかなっ?」
「あぁ... どっちにしろあれで限界だったのか。山を炎上させるにはまだまだだ......」
俺の野望が虚しくも崩れた瞬間だった。
「そ、そうだ! 爆発は!? 連鎖するのは知っているけど、どんぐらい続くのか俺知らねぇんだよ!」
「連鎖? ごめん、あんまり分かんないよ?」
せめて爆発している光景を見たい! そう思って動こうとしたら、身体に激痛が走った。
「いったい!」
「だ、大丈夫!?」
「うぅ...... 大丈夫......」
「大丈夫ならよかった」
ドアが開いて、クルメトがやってきた。
「私とタイカルで治癒魔法を使ってみたが、あんまり変わらなかった。ごめんね」
「あぁいや、大丈夫だ。ユズはどこに?」
「ユズなら魔力切れな上に小さな怪我が多かったから、今は寝ているよ。昨日の夜は寝れなかったみたいで、もうぐっすりだ」
「それはよかった」
ユズへの言い訳は何も考えていなかったからな。とりあえず、フィルクの分身を......
「そういやフィルクは? あの短い黒髪でカッコいい服を着ている可愛い女の子」
「あぁ、それなら隣の部屋で寝ているよ。みんなぐっすりだね」
残念だが、それはきっと永遠に覚めない眠りだ。ってか、クルメトとかミゼにバレるのは正直予想外だった。どうやって誤魔化そうかなぁ......
「あとは...... タイカルは家?」
「いや、ここに居るよ。もうすぐ来るはずだけど......」
「......あれ、来ないね?」
「あぁ、来ないな。なんでだ?」
「おーい、タイカル〜!」
俺が呼んだと同時に、ドタドタと全力で走る足音が響き始め、徐々に近づく。タイカルがドアの前に大袈裟に息を切らしながら立ち止まり...
「先輩のバカー!!」
全力の水魔法が飛んできた。
「うおっ、危ねぇ!」
俺が結界魔法で防ぐと......
「きゃっ!」
「......すまん」「ごめんなさい」
ミゼに水魔法が飛んで、理不尽に服をビショビショにした。
「うぇ〜。びしょびしょ〜」
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「お前のせいでミゼがむっちゃ濡れたじゃねぇか! 病室で魔法使うな!」
「魔法弾を撃たなかっただけマシですよ! 元はと言えば先輩が意味分からない作戦で自爆したからでしょ!」
ミゼは家に服を取りに戻っているところだ。隣だからもうすぐ帰ってくるだろう。
クルメトは俺らの口喧嘩を、気まずそうに見守っている。
「意味分からない作戦とはなんだ! 粉塵爆発は成功しただろ!?」
「先輩があんな自信満々に言うから、オレも成功するもんだと思ってましたよ! ちょろっと爆発しただけで、全然続いていなかったです! 何が爆発のエキスパートだ!」
「な...... そんな.......」
爆発ももう終わってしまったのか......
「......ん、待てよ!? 爆発が成功しなかったとしたら、フィルクはどうなったんだ!?」
「あんな高温にして生き残れるわけないでしょ! 爆薬とか木の屑とかやんないで、最初からあの魔法使っておけば楽だったのに〜!!!」
「えぇ...... 80度ごときで...... 不完全燃焼すぎるだろ......」
「怪我していなければグーで殴りたい。っていうか、爆薬とか考えなければ自爆することもなかったんですよ。本当に、反省してください」
「あ、そっか。爆薬のおかげで俺は直に爆発を浴びれたのか。よかった、無駄じゃなかった」
「たしかにマイナスだから無駄ではないですね!」
よしよし、俺の作戦はひとまず40点だな。次は粉塵爆発も300度も達成しよう。今は人が死ぬ温度を作れただけでも満足だ。
「ふっふっふ〜。俺最強〜♪」
「うっざ」
「は?」
「いえ、なんでも。ちなみに、ユズの方は問題ないっすよ。今回の作戦の唯一の評価点」
「問題ない? ......あぁ、傷がないってことな。よかったよかった」
俺はタイカルにアイサインを送る。クルメトが居るから言えないが、傷がないことではなく、まだフィルクが死体であることに気づいていないということだろう。それは素直に嬉しい。
しかし......
「ユズが起きる前に、一旦フィルクを起こしとくか。タイカル行ってきてよ」
「......あぁ、分かりました」
「私が起こしてくるよ。怪我があるかもしれないからね」
「あぁ、多分フィルクは大丈夫だと思う。ただ軽く頭打っただけだし。それに寝起きで知らない人が居たら、ビックリするだろ? ソースは俺」
「たしかにそうだね。タイカル、フィルクさんに怪我があったら私を呼んで」
「はーい」
ま、怪我もクソもないんだけどね。あとはタイカルが上手くやってくれるだろう。元々の作戦通り、フィルクの死体をどっかに隠して、フィルクが消えた〜とか叫んで貰えばいいだけだ。
「いやぁ、頑張った〜! あんまスムーズじゃないけど、結果的には目的は達成だ。あんな絶望的な状況でよくやった俺」
「うんうん、私はよく分かんないけどよくやった。村の責任者として誇りに思うよ。よく分かんないけど」
「ふっふっふー。ドヤa
「はー!!??」
「うおビックリした! なになに?」
「ちょっと行ってくる!」
クルメトがドアを開けると、ゴツンッという音がした。
「あぁ、ごめん!」
ぶつかったらしい。何やってんだよ馬鹿かよタイカル。
「ごめん、フィルクさん!」
......え? フィルク?
「ちょっ、ちょっと待って! あと少し待って! 待ってくれたらフレンチトースト作ってあげるから! ユズ特製!」
「......それ、その子と会話した時にも言われたわ。スイーツはあまり好きではないのだけれど」
なんでフィルクが生きているんだ? あれは間違いなく死んでいるはずだが。
「あっ、あっ、えっと... 一発芸! 液体になったマイケル!
ママっ、イ〜? けっけっ、けるる〜んウゲッ」
「うるさいわ」
何やってんだバカかよタイカル......
「えっ、ってか、割とピンチなんだけど。頑張れタイカルー! もっと頑張れー!」
「さっきの腹パンで動けない......」
「役に立たねぇなァ!」
完全にネタキャラと化している。もっと頑張れ! 気体になれマイケル!
「あっ、あっ、それ以上近づいてみろ。ユズが仕掛けた罠が作動するぞ!」
「何があっても立ち向かうことは素敵ね。けれど、具体性に欠けるわ」
「筆記問題の採点みたいなこと言うんじゃねぇ!」
「ふふっ、言ったじゃない。アタシは宇宙トップクラス。そう簡単に倒せるとでも?」
「能力がチートなだけだろ! もう!」
「安心なさい。今は敵対するつもりはないわ」
そしてフィルクは言った。
「協力してほしいの」




