17話 光
『スター・ナイツ・スナイプ』
光魔法を織り交ぜながら作った槍魔法に、陰を使って空気抵抗を消し、邪魔な物体を拒絶し、対比的に光を強調した技。光を質量0の型に入れたと言うと分かりやすいだろうか。光速に近いスピードで飛んでいき、相手を貫く技だ。
しかし、威力は弱く、心臓を貫かないと殺せなかった。デカブツの身体の構造を把握するのに時間と魔力を使いすぎてしまっている。
「ねぇ、フィルクは大丈夫なの? それで最後の分身だったら、死んじゃうけど」
こっからは、ポーカーフェイスと時間稼ぎだ。
「『月光』......だったかしら」
「ん?」
「あの時、貴方の気配が一気に変わった気がしたわ。貴方に対する認識が変わった瞬間ね」
「......」
僕はあの時、『月光』のための新たな魔法を使った。その名も......
「陰魔法」
「へぇ、意外と有名なのかな。僕は月魔法って呼んでたけど、それでしょ?」
「えぇ、そうね。特殊な魔法として知られているわ」
「特殊...... そうだね。僕も僕のオリジナルだと思ってたんだけど」
「ほぼ当たりよ。使えるのは、世界にあと1人だけだもの」
月魔法は、僕が村に来て初めて習得した魔法だ。その能力は複数あるが、特筆したのは......
「情報の伝達の遅延ね。貴方は『月光』という技を使うにあたって、精神魔法で情報を感知するのを遅らせて、さらに隠密魔法を使って不意打ちで首を切り落としたわ」
「......意外と頭良いんだね。その通りだy」
「まだよ」
遮られた。陰魔法の最たる使い方を、フィルクは知っていたのだ。
「自己の客観化。貴方は私情を完全に排除して、文字通り “陰” の存在として動き続けた」
「......」
「貴方がアタシを躊躇なく殺したり、息を切らさず走り続けたり、精神魔法を無効化したのはその魔法のおかげね」
「......それで? 何が言いたいの?」
「そんな難しいことではないわ」
フィルクは続けた。僕の陰魔法の使い方を全て暴いて、そして考え直したのだ。
「アタシは貴方を勘違いしていたわ。その魔法が使えるなら、その強さは納得ね。おそらく、既に常人とは何かが違う。その上で......」
フィルクは殺意を捨て、嫌悪感を捨て、しかし穏和な雰囲気は出さずに、機械のような冷たい無表情で言った。
「品定めをしましょう」
......なんか怖い。
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「はぁ、何の変哲もなく純粋に足が遅いね!」
「子供の割に煽りが上手じゃない。体力勝負になるのかしら」
僕は魔法も使えないので、ただただ走って逃げていた。
「僕はフィルクのせいであんまり眠れていないから、はあ、手加減してくれると嬉しいな!」
「息の使い方がなっていないわ。もう少し疲れを出さないようにしなさい」
傾斜の強い山を全力で駆け降りているため、足元に集中力を奪われ、さらに捕まったら終わりというリアル鬼ごっこで緊張感がヤバい。
フィルクは女子にしては速いぐらいのスピードだから (山でそのスピードをキープしているのは正直エグいけど) 、速さ自体はあまり変わらない...... が、
「粘液魔法」
ヌルヌルとした液体が絡みつく。不快感がある上に、足場に不安定感が増す。水魔法で無理やり落とすのも可能だけど、ここは魔力の温存のためにそのまま走るしかない。
「電撃弾」
フィルクが電気を帯びた魔法の弾を生成し、飛ばしてくる。なるほどね! この液体は電気を通しやすいのね!
僕は滑り気を活かして、滑るようにして魔法の弾を避け、さらに加速していく。
「身体強化魔法」
この距離だと妨害することは難しいと感じたのか、フィルクは身体強化魔法で少しだけ速くなり、徐々に距離を詰めてきた。
この分身の魔力量が高いのが厄介で、遠慮なく地面を動かしたり魔法弾を飛ばしてきたりするのだ。しかも魔法のバリエーションが多い。変なところで魔力量の高い分身が機能してる!
「ふぅ、ふぅ、槍魔法!」
「......っ!」
これはブラフだ。フィルクは結界魔法を張ってしまい、ほんの少しとはいえ速度を落とす。速度を落とすのも目的だけど、どちらかというとただ嫌がらせをして判断力を奪っているだけである。
「貴方、戦い方を分かっているわね。躊躇いがあるのは問題だけれど、陰魔法でカバーできるからいいわ。戦闘に関しては75点をあげる」
「躊躇いがあるんじゃなくて優しいんだよ! 優しいから36点プラスして111点を期待する!」
「自己評価はそれでもいいわ。アタシの評価は75点。変わらないわ」
無駄話で時間をかけてくれないかなと思っても、フィルクは自分から話を振ってきたくせに取っ付きづらい。
「『スター・ナイツ・スナイプ』。あの技は強かったわ。必中の技、光速の一撃といったところね」
「はぁ、はぁ、分身持ちのフィルクに言われても!」
「おそらく、右手に陰の魔力を集めて、光の魔力ベースで作った槍魔法を純化したのね。それで、光線魔法のように槍魔法を放つことができたわ。.......アタシも今度物体生成魔法で試してみようかしら」
なんか知らぬ間にネタがバレてる!?
「貴方なら、加護は5個あれば良さそうね。もっとも、5個手に入れられるかは貴方次第と言ったところだけれど」
え、え、加護!? まあいいや、せっかく話してくれてるし、今のうちに返しとこう!
「フィルクは何個持ってんの! そのカゴっていうやつ!」
「3個よ」
フィルクも5個持っていないのね!? あ、待って待って! 転びそう!
ダメだ、会話できたと思ったら意味が分からなくて僕の方が集中力切れる。やりづらいことこの上ない。
「ねぇフィルク、美味しいスイーツを食べたくない? 僕はプロのパティシエを超える実ry痛い!」
「戦闘中にそれは舐めすぎね」
小さくて速度重視の槍魔法が頬を掠る。危なかった、大きくて威力もあったら、普通に死ぬかもしれなかった。
「げ、げ、『月光浴』」
「!?」
「月光浴ってなんだよ! ばーか!」
再びのブラフだ。必死に今名前を考えたの。性格は悪いけど、こうやって冷静さを奪って相手が転ぶことを祈ろう。転んだ瞬間、槍を作って投げてやる。
「......意思疎通魔法を半分解除しようかしら。いや、けど......」
「うーわっ、独り言とか気持ち悪!」
「......浮遊魔法。風装魔法」
フィルクの黒い短い髪が軽く浮く。なに、風でも纏ったの? あ、待って。これ違う! 強い!
フィルクは飛び込んで横になると、まるで空気の塊にでも乗ったかのように、山を滑り落ちた!
「色が黒いからマジでゴキブリみたい! 無理無理キモい!」
「それ以上言ったらぶっ飛ばすわよ」
「あ、ごめんなさい」
ちょっとマズイ。ドンドンと距離が詰まっていく。フィルクは風装魔法を解除して、浮遊魔法で減速しながら着地した。
「ようやく射程圏内に入ったわ。結界魔法」
結界魔法が僕を囲む。一応、全魔力と体力を消費すれば壊せるかもしれない。けれど......
「へぇ、抜けないのを選んだのね。残念、失敗よ」
フィルクが半径3メートルは超えるだろう魔法弾を真上から落としてきて、それと同時に結界魔法を解く。これは、魔法で防げるような威力じゃないね!
「け、結界魔法!」
僕は地面を蹴ると同時に結界を纏って、爆風を活かしてより前へ飛んでいく。
結界を解除して前転しながら受け身を取って、酔いを我慢しながら額を押さえて再び走り出す。
酔い+集中で体力と魔力と同時に頭が限界を迎えてきた。はぁ、だったら結界を壊しておけばよかった......
「げはっ、ごほっ。こほっ、こほっ、こほっ」
あぁ、やばい...... キツい......
そもそも、陰魔法で自分に精神魔法をかけるだけで辛かったんだ。主観で動くはずの脳を無理やり客観に変えた。入ってくる情報量も増えるし、何より自分が自分じゃなくなってしまうみたいで、できるだけ使いたくなかった。
魔力を使ってでも、さっさとデカブツを倒しておけばよかったかなぁ。それか、フィルクが僕らに気づいた時点で一旦帰るとか...... あぁ、ダメだよ。もっとポジティブなことを考えないと......
「絶望しているところ悪いけれど、まだ貴方は戦えるわ。諦めないで、つまらない。『量産人形の断末魔』」
おいおいマジで...... 追い討ちされてんじゃん......
分かったよ。こっから耐えてみせるよ...... ぶっつけ本番だけど、僕なら行けるでしょ。
キキョウから貰ったこれもある。これが勝負の鍵だ。手始めに、この魔法、成功させろよ!
「煙幕魔法!!」
よし、成功。いつもの爆発魔法に、煙幕を追加したものだ。風導魔法と隠密魔法で姿を眩ませる。
「おっと、頑張ったわね。偉いわ。隆起魔法、物体操作魔法、雷撃弾」
「はっ?」
急上昇した地面が僕を空中へと飛ばし、転ぶ。そして上からの雷撃! 僕は物体生成魔法で金属を作り、電気を逃して耐えた。
危ない、このまま電撃を浴びていたら、動けなくなって見つかって終わりだった。この子、意外と頭も良いな。ちょっと頭に障害を抱えている人だと思っていたわ。
「魔力量多いわね。だいぶ無理しているでしょう?」
フィルクの分身が四方八方から襲ってくる。位置調整が完璧。全部計算尽くか。
死体の膨張。爆発の前兆だ。下からの後ろ蹴りで突き飛ばし、背中で攻撃を受ける。追加の爆発は結界魔法。手加減されているのか、2、3発は耐えてくれそう。けど、隆起魔法のせいか動き回るのが難しくなっている。これ以上は魔力的に厳しそう。なら......
タイミングよくバク転をして、さらに頭を踏み倒しながら、分身の集まりから抜け出す。1つの分身を蹴り飛ばし、僕は宣言した。
「無理? どっちが不利なのか分かってないみたいだね」
「......ふーん。嫌いじゃないわ。追尾弾」
フィルクは不敵に笑うと、またもや魔法弾を放つ。ぐんぐんと曲がり、追尾してくる弾。僕の余力で避けることは不可能だ。
考えろ。これは不意打ちの最終手段。適当に使ったら、負ける。だったら、1つか2つ細工を...... いや、3ついけるね。
「手榴弾!」
僕はポッケから出した手榴弾を投げる!
「結界魔法」
追尾弾と手榴弾の衝撃がぶつかり、破裂する。隆起魔法やら爆発やらで土煙が酷い。目に集中しろ。反撃に備えないと...... 来る!
案の定フィルクは貫けていない。追尾弾は対処できたけれど、肝心のフィルクには結界にヒビを入れただけだ。
「物理学も便利ね。けれど、もう少し良いタイミングがあったでしょう? 焦っても脳死で投げちゃダメよ」
......よし、上手く決まりそうだ。
「水魔法! 物体操作魔法!」
フィルクに水を打つ。正面の水を弾いても...... 重力に従って上から!
「冷たい......」
さらに、フィルクの電撃弾の時に、マジカル電池に溜めた電気を解放する。魔法が混じることで汎用的かつお手軽に使える電磁だ。
フィルクの目の前で最大火力を発揮するのは...... ここだ!
「土を使わなかったから、不思議とは思っていたのよね。水をかけるというのも露骨すぎるわ」
青白い光が走る。フィルクは物体生成魔法で壁を作り、冷静に対処した。けど、これだけじゃ終わらせない。
「あっ」
爆発がフィルクの右足を消し飛ばす。いつ設置したかも分からないだろう、それは手榴弾だ。 キキョウが作ったやつの改造版、威力は純粋な魔法を超える。結界でも防ぎきれなかっただろう。
なんで手榴弾が使われていないのか。難しい理屈じゃない。分身に囲まれているのを抜け出す途中に植物の蔦でピンをいつでも外せるよう僕の手と繋ぎ、手榴弾を放り込んだ後、爆発魔法を使っただけ。もっとも、手榴弾がフィルクの足元に飛ぶように計算するのは、ダルかったけど。
そして、爆発魔法の魔力を節約するために、追尾弾は打ち消したように見せかけただけ。追尾性能を利用して直撃を避け、踵で地面に穴を開けて身体を固定したのだ。とはいえ、思いっきり爆風を喰らっている。痛みで吐きそうだ。
「一瞬で普通そこまでできる......? ははっ、あははっ、おかしくない......?」
しかし、フィルクは生き残っている。けど、虚勢を張らないと。そしたら...... 勝てる......
「......まあ僕、ユズだから」
「でも、このあとはどうするの?」
「こうだよ」
残しておいた魔力で小さな槍魔法を放つ。そして......
「遅れて悪かったな」
瞬間、爆発音が響いた。
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「とりあえず山をぶっ壊そうと思う」
「とりあえずで大切な山をぶっ壊さないでください!」
「いや待て、そうじゃないとユズが出会って2秒でバチコーンされる。絶対にフィルクはそんな甘くない」
「それは分かっているから、もっと真面目に山をぶっ壊してよ。......真面目なら良いってわけじゃないけど」
俺は新たな作戦を考えた。山を燃やすのはダメだ。ユズにギリギリまで気づかれないよう、違う作戦にしないといけない。
「爆薬は今日の夜にはできると思う。タイカルも手伝えよ。で、問題は設置と点火だな」
「ツッコミどころが多い! 早い!」
「まあ聞いてくれ。一応考えたんだよ。フィルクの分身を1体見つけたら、いい感じに炎魔法で決着をつけるんだ。タイカルにもこっそりと付いてきてもらうから、そこんとこよろしく」
「え、嫌っすけど」
「で、タイカルはその炎の近くで待機。そこにいたらフィルクが来ると思うから、全力で時間を稼いでくれ。男の見せ所だ」
「男しか居ないのに誰に見せるんすか! 正直怖い!」
「大丈夫、俺はもっと危険だ。なにせ...」
俺は両手に石と木を持った。
「俺がやるのは粉塵爆発だ」
俺は木を石で思いっきり砕き、叩いて叩いて木屑を作った。約10分砕き続け、手のひら一杯分ぐらいの粉屑ができた。
「ふぅ、ふぅ、意外と時間かかるな。これを両手でパッとばら撒いて、炎魔法!」
俺は軽く炎魔法を使った。しかし、その威力は桁違う。これは炎ではなく爆発だ。
「けほっ、けほっ、あぁ、オレの服が!」
「けほっ、けほっ、悪ぃ。思ったより上手くいってよかったぜ」
木屑が舞った。ちなみに、空調魔法で空気中の木屑を飽和させたりしている。本来はここまで上手くいかない。
「この粉塵爆発の特徴は、一回爆発したらさらに周りも巻き込み爆発させることだ。つまり、木屑の粉末が空気中にある限り、ずっと爆発する。
あと、炭化した木屑が燃え終わったら一酸化炭素も出るから、息もできなくなるだろうな。確実性は高い」
「本当に山を殺しに来てるじゃないっすか。で、どうやって木の屑を蔓延させるんです? しかも、一気にやらないと結局逃げられちゃうし」
タイカルの言ったことは正しい。いくら爆発の威力が高くても、軽くやっただけなら魔法で防がれて逃げられてしまう。さらに相手は分身持ちで、山中に居るだろう。
「ふっふっふ、でも安心しろよタイカル。俺は爆発や放火に関してはエキスパートなんだ」
「えぇ、実は先輩って転移前は指名手配犯だったりとかしないです?」
「違うと信じてる。まあそれは置いといて、木屑を蔓延させるのはそう難しいことじゃないぜ。なにせ、木をまとめて粉砕してくれる人が相手だからな」
「......粉砕できるんです? そのフィルクっていう子」
「まあ粉砕じゃないかもしれないけど、多分大丈夫。デカブツを怯ませていたが、俺に衝撃は飛んでこなかったなら、衝撃か熱か電気かを操る魔法だろ?
少なくとも、木を脆くするぐらいはできるはずだ。上手くいけばそこで炭にまで持っていける」
「なるほど? ......たしカニ?」
「で、俺の光魔法でばら撒いた木屑に一斉に火をつけて、タイカルがそれを合図に爆薬を適当にばら撒いたら爆発だ」
「うーん...... うーん......?」
「幾つか爆発が発生したら、木の粉は空気中に舞ってくれるだろう。つまり、これで炎に刺激に空気中の可燃物が揃った。1人犠牲にするだけで、無限爆発の発生だ!」
「......あれ、その作戦だとオレ死にます?」
「いや、死なない死なない。あとで治癒魔法で治してやるから、五体満足とはいかないだろうが、命は多分残っているさ」
「......却下!」
「not却下!」
「嫌だ嫌だ! なんでオレが爆発に自分から巻き込まれないといけないんだ! 先輩が行ってくださいよ!」
「俺だって死にたくねぇもん! いいだろ? どうせ他にはなんも活躍できないんだから!」
「先輩だって山中に光魔法を使うだけでしょ!」
「俺があれを開発するのに何時間かけたと思っていやがる!」
「ユズに教えてもらっただけじゃん! そういうのはせめて3桁時間超えてから言ってよ!」
「合計82時間だ! 四捨五入したらギリ3桁じゃねぇか!」
「十の位を四捨五入したら誤差が大きすぎます! そんなこと言ったら百の位を四捨五入して0だ0!」
「はっ、四捨五入してもしなくても0のくせによく言うぜ!」
「......まだ生後1ヶ月の赤ちゃんのくせに」
「なんだと!?」
30分後
「ふぅ、やっと形になったな。これならなんとかなりそう」
「はぁ、そうっすね。あとは先輩の光魔法が上手くいくかどうか......」
「ま、多分大丈夫だろ。責任は取らねぇけど」
結局、タイカルが自爆することはなくなり、細かくなった木を受け取ったら爆薬と一緒に適当に撒く役になった。フィルクと出会しても、炎魔法で自分から爆発させれば大丈夫だろう。
爪が甘いところも修正し、とりあえずの作戦だ。
a.ユズと俺で山に入る
b.タイカルもこっそり山に入り、隠密魔法を使ったら木を倒して積み上げまくる
c.ユズがデカブツと戦闘開始
d.俺はその間に、フィルクの分身を倒すと言って抜け出す
e.その分身を、諸々の手順でぶっ倒す。最後は炎魔法で終わらせるのが重要
f.タイカルは炎の近くで待機。俺はユズの下へ戻る(戻る際に会った分身は粉塵爆発で倒す)
g.戦闘時の俺以外の誰かの存在が気になったフィルクが、タイカルの下に戻ってくる
h.炎に木屑と爆薬を投げ込んで、その分身を倒す
i.タイカルにはフィルクが追ってくるので、気合いで逃げる
j.逃げる途中に、積み上げた木を分解してもらう
k.俺とユズで木屑と爆薬をばら撒く
l.頃合いを見て麓付近で合流して、俺が光魔法を使う→大爆発
m.ユズorタイカルの残った魔力で爆発から身を守りながら帰還
我ながら、悪くない作戦だと思う。もちろん成功率は正直高くないと思うけど、それでもチート魔法少女と化物相手によく考えられた作戦だと思う。
しかし、あと1つだけ問題があった。それは......
「ユズにどう説明するんですか......」
「お前はいいのか? 人が一人死ぬけど」
「まあ、そうしないとオレも先輩もユズも死んじゃうし...... オレが何かするわけじゃないから良いかなぁって......」
やや罪悪感がありそうな顔だが、迷いはない。変に緊張で動けなくなったりとかはしないだろう。信じてよさそうだ。
「そう言ってもらって安心したよ。本当に」
「で、実際どうやって説明するんです......?」
「うーん...... そうだな。説明の前に、もう1つ考えていた作戦があってさ」
「へ?」
「爆薬をフィルクにバレないように撒いて、村のみんなで麓から一斉放火。だけどこれだと、頂上まで炎が回るのはだいぶ時間がかかるから、フィルクには1つの分身に魔力を集めて回復させる時間があっちゃうんよ」
「まあ...... そうっすね」
「だから、ユズを山の中に送って、デカブツの代わりに分身を倒してもらうんだ。魔力の回復の時間を与えないためにな」
「え、でもそれって......」
「そう、ユズには酷な話だろ? 俺はこの前、フィルクの泣き叫ぶような演技でちょっと怯んだけど、ユズがそれを見たら一生のトラウマものだ」
「まあそうですよね...... そっちの方が楽そうだったのに」
だから、その作戦はユズが変な作戦を思いついたせいで没になった。
「今回の作戦の強みは、俺がフィルクと直接戦えることだ。分身を殺した後、俺はその分身を軽く治療する」
「はい?」
「俺はその分身をもってユズの元へ向かうんだ。コイツは気を失っただけで生きてるってな」
「......?」
「フィルクの分身を1人持ち帰れたら、ユズは何も気に病む必要はない。それであとは、その分身をどっかに埋めれば終わりだ」
「......キキョウ。それって......」
タイカルは気づいたようだ。そう、この作戦の最も難関なところは......
「ユズを騙す」
タイカルは複雑な面持ちで黙り、俺は続けた。
「間違っていると思うなら他の作戦を考えろ。それすらできなきゃ皆で集団自殺だ。ユズを騙しさえすれば俺は幸せ。ユズも幸せ。タイカルには悪いと思ってるけど、直接的な害はないから俺を責めるのは門違いだ。そういうもんだと受け入れろ」
「......間違っているとは思わないです。オレはフィルクを殺すことに賛成した。むしろ、ユズのことをそこまで考えているって分かって、少し嬉しいです。もっとゴミ.….. 性格悪いと思っていたから」
「なぁ、今ゴミって言わなかったか?」
「......一回やり直します?」
「え...... じゃあ」
タイカルは一瞬だけいつも通りのトーンにあげ、そして俺が肯定すると、またシリアスな雰囲気に戻った。
「......間違っているとは思わないです。オレはフィルクを殺すことに賛成した。むしろ、ユズのことをそこまで考えているって分かって、少し嬉しいです。もっと性格悪いと思っていたかr」
「結局性格悪いんかい!」
「先輩は性格悪いでしょう!?」
「お前にとっては悪くても、俺にとっては最高の性格しているんだよ! 変に口出ししてくんな!」
「最高な性格しているなら、きっとフィルクと和解する道を選びますよ!」
「そして虚しく瞬殺されるんだろ!? それはただの馬鹿って言うんだよ!」
「馬鹿は馬鹿でも良い馬鹿だよ! 悪い天才より上です!」
「しらねぇよ良い馬鹿!」
「はぁ!? 馬鹿じゃないし! 悪い天才!」
「やっぱりただの悪い馬鹿じゃねぇか!」
「良い天才に言われたくない!」
「......」
「......」
「良い天才ってただの褒め言葉じゃね?」
「たしかに...... そうっすね......」
ちょっと恥ずかしそうにしているタイカル。
「えぇっと...... 結局良いんだよな? 悪い馬鹿」
「はい.….. 良いです......」
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「けほっ、けほっ、けほっ」
「木の粉のお味はどうだよ。フィルクにピッタリだろ?」
「ここで貴方が来るのね...... さっきまで、アタシの分身を持っているだけだったのに」
開幕ブッパ。ユズに最低限の治癒魔法を使い、期待の目を浴びながらフィルクと会話する。
「この分身をどうすると思う?」
「興味ないわ。それはアタシの見た目をしているだけでアタシじゃないわ。煮るなり焼くなり食べるなり、お好きにどうぞ」
「ふーん。じゃあフィルク、右見てみろよ」
「はい」
「そこは左見ろよ!」
「じゃあ見てあげるわ」
「......」
「......」
「え?」
「ん?」
「......何も来ないの?」
「はいwww?」
「......さっきから、そういうことしかされていない気がするわ。冷却魔法」
「冷たっ!!」
ユズが信じられないものを見る目で俺を見ている。期待が裏切られた時の目だ。俺だってタイカルがもっと大胆に動いてくれたら、カッコよく決めたかったさ。
タイカルが慎重だから、こんな変な茶番を入れる必要があった。
「本当に冷たいんだよ...... ま、今から暖かくなるから良いけどな」
「電撃魔法!」
「っ......!」
タイカルが死角から全力の電撃魔法を使った。結界を貫き、それはフィルクの動きを奪う。
あの4体の分身を同時に倒した時の後、タイカルは無事役目を果たして、さらに何故か俺と合流できたのだ。
よく分からないが、最初はフィルクが順調に追ってきたものの、フィルクの足が思ったより速くない上に分身を1体しか追わせていなかったから、途中から距離が開いてきて、「......速いわね。一旦抜けるわ」とか言って消えたらしい。
おそらく、ユズに意識を集中させたかったのだろう。俺の方にも分身は来なかった。合流した後は、2人で木屑と爆薬をばら撒いた。
「ユズ、やってくれ」
「そこは僕なんだ......」
「タイカルに頼むには荷が重い」
「あははっ、たしかに。槍魔法」
「......お疲れ様、とだけ言っておくわ」
しつこくユズを追っていたフィルクの分身は、ユズとタイカルによってあっさりと倒された。
「タイカル、この分身を持っとけ」
「了解です」
「じゃあ...... これで決着だ!」
俺は全力で右手に光を込めた。
「『プリズム・サンライズ』!!」
次回、決着




