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Green Way 〜記憶を失って転生し、絶望を知る〜  作者: SS
1章 英雄の誕生編
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16話 本気

 フィルクのおかげでデカブツは僕を見失う。謎な行動だ。


「ふぅ、やっと落ち着いたわね」


「時間稼ぎなら乗らないよ」


「あ、ちょっと、行かないで」


「槍魔法」


 僕は軽く魔法を使う。魔力の消費は少なくても、筋肉を越えて心臓を刺しに行く、強い一撃だと思う。


「あまり痛みは無いわね。手加減...... というよりは魔力の消費を抑えるためかしら。技術力も高いわね」


 1つ分身を消しても、もう1つの分身が出てくる。もう20体目だ。千里眼魔法で見る限りだと、あと10体ほど居そう。キキョウの周りには分身はもう居ない。ひとまず安心か。


「なんで僕らを殺そうとしていたのかと、なんで僕をここに呼んだかの説明が欲しいな」


「アタシの質問には答えていないのに?」


「じゃあいいよ」


 フィルクに再び槍魔法の1撃が入る...... と思いきや、結界魔法が予め張られていた。僕は一旦放置をする傾向で、ピョンピョンと山を駆け登った。


「危なっ、もう少し話を聞きなさいっ」


「うるさい」


 ユズの機嫌は相当悪かった。キキョウにフィルクにデカブツに振り回されすぎて、やや人間不信に陥っている。


「結界魔法」


「物体生成魔法」


 結界がユズを囲むが、咄嗟に生み出したナイフによってピンポイントの一突きを入れ、ヒビ入ったところを殴って突破する。ユズはナイフをそのまま後ろ向きに投げつけ、フィルクの足を傷付けた。


「痛っ」


 フィルクはただ話すためだけに、わざわざ窮地のユズへの攻撃を止め、逆に助けまでしたのに、一切話を聞いてもらえそうにない。己の戦闘以外での不器用さに素直に落ち込んでいた。

 そんなことは知らないまま、ユズはデカブツを追いかける。このチャンスを、無駄にはしたくなかった。


 一番最初の時は、デカブツに僕は強い攻撃をしていない。しかもキキョウが炎魔法で暴れたせいで、キキョウにしかターゲットが向いてなかったのかも。キキョウは炎魔法に関しては僕より強いし。

 だけど、最初はキキョウの姿が分からなかった。2回目にキキョウが現れたとき、キキョウは開幕に炎魔法を使ったり、フィルクがデカブツに『黒い罪への白き天罰』を使ったりしたらしい。だからデカブツは、危険度が高いと認識しキキョウを執拗に追ったんだ。

 つまり、このデカブツはそれなりに頭が良い。今回の僕は強い魔法こそ使っていないものの、善戦を続けている。デカブツが追いかけてきて村に降りてきたりなどしたら、悲劇だ。


 ユズは今のうちにデカブツにケリをつけようとする。しかし、フィルクが足を傷つけた程度で妨害を緩めるはずもない。

 ユズが走っていると、結界を纏いながら、再びフィルクが現れた!


「ふぅ、やっぱり子供はアタシを怖がるのかしら......」


 またもや現れるフィルク。ユズは持ち前の洞察力で、(え、もしかしてこの人悲しんでる?) と理解した。


「あの、えっと、それは今忙しいからで......」


 貴方のせいだけどね! とは思いつつも、頑張って言い訳しようとするユズ。フィルクは無表情ながらも敵意は無さそうだった。ユズは緊張は緩めた。


「急いでいるのは分かるわ。いいわ、行ってきなさい」


「あ、はい。ありがとうございます」


「......ん? いや、やっぱりここは通さないべきね。ここを通りたければ、アタシを倒してみなさい」


「??????」


 カオスだった。一回上げてから落とすスタイル、大嫌い。


「えーっと...... 一旦最初からやり直しませんか」


「賛成票を入れるわ」


「じゃあ僕は5歩下がって......」


 ユズが走っていると、結界を纏いながら、再びフィルクが現れた!


「ここを通りたければ、アタシを倒してみなさい」


「ふぅ、鬱陶しい」


「......そういえば、アタシはあなたと会話をしたいんだったわ。やっぱり戦闘はやめましょう」


「自分の言葉に少しぐらい責任持ってくれないかなぁ! もう意味分かんない!」


「あははっ、ごめんなさいね」


 ケラケラと笑うフィルク。一瞬本当にフィルクが敵なのか疑ったけど、そういえばさっき殺されかけてた。本当に意味不明な人だ。......本当に殺そうとしていたのかな。


「ねぇ、どうして僕らを殺そうとしているのか、聞いていい?」


 僕は聞いてみた。フィルクは実は悪い人じゃないんじゃないか。上手くいけば戦闘をあやふやにできるのではないか。そんな甘えた打算があった。

 しかし、帰ってきたのは想像より何倍も斜め上、いや斜め下だった。


「うーん...... 特に理由は無いわね」


「ふぁ!?」


 何を言っているんだこの人。え、実は違う意味? 解釈間違え? そうとしか考えられない。


「なんというのでしょう...... 成り行き? いつのまにかこうなっていたわ」


「......え?」


 僕の解釈は合っていた。そんなゴミみたいな理由で僕とキキョウの命を狙わないでほしいんだけど!?


「じゃあ...... えっと、止めてくれないかな。ね?」


「正直、もう止めてもいいのだけど......」


「やめよやめよ! やめるんだ! その意気だ!」


 ユズは珍しくハッキリとした大声で叫び、フィルクの決断を応援したい。ユズにはプライドというものは無いようだ。


「せっかくだし、もう少しだけ遊んでみたいわ」


「嫌です」


「貴方が嫌でもアタシはやりたいわ」


「じゃあ僕だけキキョウを連れて帰る!」


 ユズは分かりやすく駄々を捏ねた。声の調子も子供っぽく寄せられている。ユズには本当にプライドが無いようだ。


「不可能よ。アタシが本気を出したら、貴方程度なら倒せるわ」


「うわっ、脅すのってどうかと思う」


「この程度で脅しと思うのは自分が弱いって言っているようなものよ」


「僕はまだ10歳だから弱いもん。ワガママぐらい聞いてよ!」


 もはや自分からプライドを捨てにいっていた。


「弱い...... ところで、貴方はどうしてそこまで強いのかしら」


「弱いもん。あと強いのは僕だからだよ」


 一言で矛盾を作り出したユズ。自分でも自分が何言ったのか分からなかったが、直後フィルクがさらに意味不なことを言った。



「貴方は誰の加護を受けているの?」



「......え、加護って何?」


「神様が能力をくれたでしょう? それよ」


「......?」


「え?」


「え?」


 謎の間ができた。ユズはキキョウと同じように、(記憶は失っていないが) 異世界に来て一つ一つ魔法を覚えていった。強いていうなら、神様は僕を拾ってくれたミゼとクルメトだ。


「......まあいいわ。貴方の性格、本当に面白くないわね」


「嘘を吐いているわけじゃないんだけど......」


「目的達成に盲目的になって、リスクとメリットを天秤にかけられない。その才能と合わせれば、叶えられる夢が殆どだったでしょう? アタシ、90点の生き方は嫌いなの」


 え...... 勝手に嘘つきにされた上に謎の理屈と感情論で90点とか言われた。しかもこの顔面偏差値以外20切ってそうな女に。微妙にショック......


「決めたわ」


 彼女は、僕に失望とでも言うべき目を向けて、力強く言い放った。


「貴方はここで殺す。神様がどうジャッジするか、貴方は運命に祈りなさい」


 さっきまでの余裕で試すような態度とは違う。さっきまでの可愛らしい少女とは違う。警戒し、睨み、圧を放っている。表情の変化が乏しい面持ちが、逆にそれを強調して......


「『月光』」


 底知れない恐怖を感じた僕は、初めて自分からフィルクの血を浴びにいった。


「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ」


 焦ってはいけないと分かりつつも、呼吸が乱れそうになりながら全力で山を駆け登る。返り血は乾ききっていた。

 フィルクに何かをさせないために、先にデカブツを倒すべきだ。


「槍魔法」


 槍魔法で楽に殺せているのを見る限り、さっき『月光』を使ったのは間違いだったっぽい。回復し続けているとはいえ魔力がカツカツな今では、少し焦りすぎたっぽかった。


「ふぅ」


 初めての生死を分ける戦いで、心臓が高鳴る。それでも冷静さを崩さずに、自分のやらなければならないことを考えていた。

 「他人に任せるぐらいなら、自分で全て背負う方が確実で気楽」。天才で優しい少年は、そう考えていた。キキョウには何の責任も負ってほしくないのだ。

 だから、デカブツを倒そうと......


「『黒き罪への白き牢獄』」


 ユズの周りが黒色の壁で覆われた。結界魔法と物体生成魔法の間にあるような魔法の層が何重にも重なり、硬く貫けない状態になっている。


「貴方の特徴は分かったわ。一撃の精度と技術は高いけれど、威力はあまりない。なら、ボロが無いよう丸くて硬いもので閉じ込めればいいだけね」


 ユズは物体操作魔法で結界の下の地面を取り除いた。しかし、結界は深くまで地面に刺さっていて、これ以上土を取り除こうにも土が重すぎる。


「結界魔法の硬さは魔法の才能に依存する。けれど、結界を何重にも張れば、数に比例して硬度が上がっていくわ。魔力の消費が激しいけれど、分身持ちのアタシなら簡単。

 アタシの分身8体分。硬度は1人の時の結界の8倍以上。貴方に殺せるかしら?」


「......さっきは隠していたんだね」


「あの大きな虫との戦いを見たかったのよ。物理攻撃だけ外側から通すのは不可能でしょう? それに、結界で貴方が朽ち果てるまで待つなんてじれったいわ」


「じれったいなら今も止めてくれないかな」


「今は本気ってことよ」


 僕は光線魔法を結界に向けて打った。光は結界で遮られ、結界の奥には通らない。完全に穴がない証拠だ。水や酸素すら供給できない。つまり、このまま放置されれば詰みだ。


「じゃあ、結界を壊すしかないよね」


 炭素と水素と酸素と窒素とナトリウム。空気と土と植物さえあれば、様々な物質が作れる。


「いやさぁ、魔力ってビックリするほど酸やアルカリに強いんだよ。濃度上げまくった塩酸が効かないレベル」


「......」


 フィルクは義務教育を受けていなかった。


「魔力ってすごいよね。薬品には強いし、原子の結合を簡単に変える力がある。下手に使ったらこの星が壊れちゃうよ」


 フィルクには星を壊す方法なんて思いつかなかった。ガキは想像力豊かねとか考えていた。義務教育の敗北である。


「つまりね、魔力は何でもできるっていうこと」


 ユズは化学について詳しく知っていたため、魔法で化学を扱うのは比較的得意である。木から炭素とタンパク質だけを丁寧に抽出し、硬いなんて表現では収まらないほどの、強すぎる釘ができあがる。


「ふぅ...... 魔力の消費を抑えようとすると、頭を使う.......」


 ユズは釘を持って、思いっきり結界に打ち付けた!

 ヒビが入り、さらに叩く。さらにヒビが入り、さらに叩く。1つ目の結界が壊れ、2つ目の結界にヒビが入り、叩き、壊し、再生し、打ち付けて......


「良い技だね。頭も魔力も筋力も集中力も使ったし、折れるかと思ったけど、ようやく越えたよ」


「......チッ。何の緊迫感も爽快感もないわ」


「そう」


 ユズは釘を物体操作魔法でとばした。

 倒した分身の数、合わせて25体。


 デカブツが千里眼魔法を使わなくても見える距離に来て、僕はそれを追いかけていた。

 所々に血の痕が残る。きっと僕は吐きたがっている。けれど、僕は吐かなかった。冷静に、ただトントンと、分身を倒し続けていた。

 服に血が付いている。自然的な茶色の素朴な服は、赤と黒の液体によって見るも無惨な姿になっている。不快感は感じても、行動を鈍らせてはいけない。

 身体から血が出ている。筋肉は一部抉れ、肌は山の冷たい空気に晒し続けて赤くなり、関節はもう外れそうだ。それでも、怯みなどはしない。

 そして今も、心臓だけを高鳴らせて、空気に触れる肌の感覚を確かめながら、冷静さを捨てずにいた。


「時間稼ぎができてよかったわ。おかげで間に合った」


 デカブツを目前にして、またしてもフィルクが現れた。僕は槍魔法を撃つが、また結界魔法に遮られる。


「鬱陶しいね。緊迫感がないのも爽快感がないのも、その能力のせいだと思うんだけど」


「それは同感ね。もう少し派手な能力の方がよかったわ」


「一撃必殺と複数のライフとか。エンターテインメント性に欠けすぎじゃない?」


 いつ死ぬか分からないという状況が続き、正直ストレスしか溜まらない。元々戦闘狂では無いが、それでも高揚感とかは無かった。もう2度と御免、というのが正しい反応か。


「でももう分身も数少ない。多少は楽しめるかもしれないわ」


「まだ半分も残っているでしょ」


「半分も残っていないわ」


 キキョウは分身の数は60体って言っていた。今まで会った分身の強さもキキョウが言っていたのと同等、もしくはそれよりやや弱いぐらいな気もする。もし60体居ないなら、魔力量が一致しないな。ということは......

 

「この身体は他の分身より多くの魔力を持っているわ。ざっと分身20体分。言わば強化分身とでも言いましょうか」


 うわぁ、魔力配分の調節も自由自在なわけか。魔力が多いだけ、魔法の威力はほぼ変わらないとはいえ、流石に20倍ともなるとキツイ。魔力消費が多いよりの物体生成魔法すらもバンバン使えそうだ。20体が集まったというのに、強化分身の防御力が高くて、もっと時間がかかりそうだ。

 そしてさらに絶望的なことに、デカブツがフィルクのバックで佇んでいる。これ、デカブツの操作とかしてこないよね。


「......さぁ、大きな幼虫さん。あの少年を殺しなさい」


 フィルクはデカブツに命令をした。フラグ回収早すぎるって! キキョウ、操れないとか言ってなかった? ......なるほど、これも強化分身の魔力量のおかげか。そりゃ分からないね。

 っていうか、さっきの『黒き罪への白き牢獄』は最悪失敗しても、時間稼ぎができるようになっていたのか。意外と頭脳プレイじゃん。


「それだけじゃないわ。精神魔法:罪悪感」


 精神魔法......!? なんかやばそう!

 警戒心MAXで後ろにステップを踏むが、何も起きない。僕が避けたのか、何かの術にかかっているのか。一旦考える時間を作らないといけない。


「結界魔法!」


「『量産人形の断末魔』」


 結界魔法で精神魔法の魔力がこっちに来るのを防ぐ。しかし......


「......は?」


 頭に釘を貫通させたフィルクの分身が、こちらに近づくと同時に、黒いオーラを全身から放出した。魔法弾だ。何で生きているんだ!?


「風導魔法!」


 フィルクを牽制しながら、爆風で飛ばされる方向を調節してデカブツの攻撃を避ける。既にボロボロな服が、また荒々しく破け散った。


「どう? 貴方が殺した分身が、復讐のために帰ってきたわ。頭を貫かれて、まだ痛いって痛いって......」


「ご褒美なんでしょ?」


「......こんな小さな子にもそう思われているのね。この余裕な態度が悪いのかしら」


 『量産人形の断末魔』、これはおそらく死体を操る魔法だ。これも大量の魔力で運んできたのだろう。精神魔法とかいうのと合わせて、さっきのように僕を精神的に追い詰める気だ。


 けれど、今の僕はさっきまでとは違う。


「暗黒魔法」


 突如、暗闇がデカブツを覆った。


「聴覚は使えるのは、調整ポイントだね。本当はもう少し極めてから使いたかったんだけど...」


 魔力の残りは、あとギリギリ。デカブツが闇の中、何も見えずに暴れ出す。デカブツの姿は僕も見えない。だから、頭を使うのだ。闇が解けた時、デカブツはどんな体制か。


「その魔法は...... 」


「今だね」


 フィルクが何かに気づいて口を開けたまま動きを止めた時、ユズは右手を前に突き出して、闇を解いた。

 ユズの手のひらに黒い魔力の渦ができて、その中心から光の矢が創られる。


「『スター・ナイツ・スナイプ』!!」


 光速の速さで飛んだ矢は、とてつもない速さと熱を帯びながら、空気抵抗すら無効化し、デカブツの1点へと狙いを定めた。


「君の心臓は、そこだよ」


 矢はデカブツの身体を貫通し、その身体を地へと堕とした。

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