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Green Way 〜記憶を失って転生し、絶望を知る〜  作者: SS
1章 英雄の誕生編
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15話 各自の作戦

 何故タイカルが居るのか。それはまあ俺が無理矢理頼み込んで、チョロいタイカルが嫌々納得したからなんだが、一応その経緯をしっかり話しておこう。

 遡ること、1ヶ月前... と言ってみたかったが、実際はせいぜい20時間前ぐらいだった。1日も経ってなかった。20時間前って言っても回想感が出ないな。


「もう少し前にタイカルに頼むべきだったか」


「オレは日中ずっと家作ってるんで、夜じゃないと無理だったですよ......」


 吐き気がまだ治っていないのか、顔色を青くして声が死んでいる。俺が背中をさすって1分ぐらい吐き続けているが、もう話せるようになったら俺はユズのところに戻ろう。

 どうせ勘付かれてるし、タイカルはもう隠れたから、そろそろ戻ったほうが良いだろう。


 ってなわけで、20時間前の夜。クルメトとミゼに村の避難を手伝ってもらった後、ユズが作戦に頭を悩ませているところに戻る。


「あぁ......! 分身ってなんだよっ!」


「荒れてらっしゃる......」


 ユズは結構精神的に追い込まれていた。クルメトには多少ボカしながら話を聞かせて、少しユズの心配をさせてしまったが、ミゼは目に悪いということでこのユズの様子は知らせないでいる。


「だって! 何!? 分身ってもうチートじゃん! 山の中におおよそ60体でしょ!? 全員を捕らえるのはほぼ不可能だし、一体一体殺していったら勢い余ってフィルクちゃんが死んじゃうし!」


「別に俺はそれでも良いんだけど」


「ダメっ。ダメなのっ」


「我が儘なんだよなぁ」


 他人のために頭を捻らせて、偉いとは思うんだけどなぁ。まあ俺は俺で、ユズがなんも思いつかなかった時の作戦は考えている。

 そう、山を燃やすのだ。何を隠そう、俺は現代の知識を受け継いだ転移者。爆薬に向いてる素材などは分かるし、なんなら既に制作に取り掛かっている。

 麓から一斉に炎で囲って、村には炎が来ないよう防御して、逃げ場もないままデカブツごとフィルクを燃やす。

 分身を削ると最大魔力量が増えるらしいので、ユズの追い討ちで魔力回復の時間を与えない予定だ。


 ただ、まあ、ユズが何かを思いついたら、俺はこの案を却下しないといけないんだよな。悔しいけど。


「そうだ! 隠密魔法!」


「隠密魔法?」


「この世の不可能は大抵魔法で解決するんだよ! 多分これも行けるよ!」


「で、どういう効果?」


「ほらっ、ジャンプ!」


 ユズがぴょんぴょんと跳ねる。そのまま俺の後ろにまで回り込んだ。鬱陶しかったので髪を掴もうとしたが、華麗に躱された。


「ねっ、音が出ないし気配も出さないから簡単に避けれるよ!」


「あぁ...... まあそうなん?」


 正直普段でも割とあっさり避けられる気がするから何とも言えない。でも、言われてみたらなんか音しなかったような......


「多分だけど、これって僕を目立たなくすることができるんだよ! 自分から出る情報を減らすって意識したから、視覚的にも見づらくなっているはず!」


「本当に言ってる? ちょっと離れてみろよ」


「はーい」


 部屋の角と角、約5メートル。俺の視力は3.0近くあり、分かりやすく言うなら爪楊枝に書かれている矢印の向きを識別可能ってレベル。

 もちろんユズの爪の長さですら正確に分かるほどの自信があるのだが......


「あぁ...... んー?」


「出力最大にするね」


「おぉ、すげぇ。輪郭がぼんやりとしてきた」


「今はキキョウがもう僕を認識しているからアレだけど、例えばふと視界に映ったとしても、道端の石ころみたいなそんなレベルになるんだよ! きっと!」


 理屈はなんとなく分かる。今俺がユズから一瞬目を外して、もう一回ユズを見た時、なんとなく何処にユズが居るのか見失うのだ。効果は正しいっぽい。


「これを使ってこっそり山のデカブツ倒して、後は村の皆でフィルクちゃんから避難! フィルクちゃんが気付くまでに準備して、近づいてきたら僕が迎え撃つ! 完璧!」


「ちなみに、フィルクは分身に分配した魔力を戻したらデカブツをあっさりと倒せるみたいだけど」


「僕だってデカブツぐらい簡単に倒せるし! それに、相手は攻めてくる方でしょ? 好きなだけ準備させてくれるもん。負ける未来が見えないね」


「ちなみに、何を仕掛けるつもり?」


「そうだね...... 金属はまだちょっとしか掘れてないし...... とりあえずは原始的に地雷と落とし穴とガスと爆発と酸性地面と......」


「よし分かった。もうそれでいいよ」


 ユズも俺とはまた違った現代人だ。そしてユズは天才少年。強い罠をポンポンと仕掛けられるし、ユズなら配置を全て覚えて、かつ上手く誘導することぐらいできるだろう。

 ってか、何が原始的だよ。酸性地面って単語を聞いただけでヤバそうなんだが。


「あれだね。罠の質も魔法で底上げできるかもしれない。魔力の素をまだまだ理解しきれてないからね。研究が成功したら、さらに上手く扱えると思うよ」


 若干研究者的な執着を見せてくる。ちなみに、ユズや俺が短期間で魔法をはちゃめちゃに上手く使えるようになったのは、ユズが魔力の素について研究し、その性質を幾らか理解しているからである。

 今度魔法について、詳しく語ろうと思うが、まあ今は魔力 (回復可能 上限あり) を消費したら多種多様の魔法 (個人差あり) が使えるって理解しておいてほしい。


「で、返り討ちにしてどうすんの? 放置?」


「罠を張りまくって、戦意喪失してくれたら良いんだけど......」


「してくれなかったら?」


「山の全分身を倒して、最後の一つだけ拘束する」


 なるほど。たしかにそれでも、分身の能力を封じられれば問題はない。戦意喪失なんてものを期待するより確実だ。


「で、どうやって全分身を倒すの?」


「隠密魔法の効果があることが分かったから、それを使って全員の位置を把握したら、あとはなんとかする」


 ......何言ってんだコイツは。まあ、うん、いいや。うん、今日ぐらいは放っておいておこう。俺は深く聞くことすらせず話題を変えた。


「俺もその隠密魔法ってやつ使えるかな」


「いやキキョウは無理だよ」


「いや幾ら何でも即否定は酷くねぇか?」


「だってキキョウ、自分が発する情報を制限するってどうやるか分かる?」


「......さっぱり」


「それを理解したとしても、キキョウは基本的に目立ちたがり屋なんだから、得意なわけがないよ。むしろ対極だよ」


 試しに魔法使って腕をブンブン振ってみたが、まさかの音すら消せない。残念だ、非常に便利そうなのに。


「チェ、俺は一旦タイカルのところに行ってくる。起きて待ってろよ」


「行ってらっしゃーい」


 そして何十分か後、タイカルの家に着いた。日は沈み、既にタイカルは家の中に戻っている。俺は扉の前で呼びかけた。


「おーい! タイカル〜! 入るぞ〜!」


「え」

「え?」


 ん、なんか声がハモった。タイカルの家にタイカル以外の人って...... あぁ、なんだっけ。レアとかいう子だ。


「お邪魔しまーす」


 女の子が居るなら無遠慮で入っちゃダメだな。ちゃんと靴を揃えて、お邪魔しますとだけ言って玄関で待ってよう。

 やがてタイカルが出てきて、俺に近づき、何故か小声で囁いてきた。


「先輩、一旦外出てください」


「ん? まあいいや。失礼しまs」


「そういうの良いから。黙ってください」


「あ、すまん」


 なんかいつもより圧が強い。なんかやらかした気がする。


「離れて離れて。あと10m以上」


「まあいいけど......」


「......よし、ここなら大丈夫! ごめんね、家のレアが音にはうるさいんですよ」


 やっぱりそういうことだったか。一度レアっていう子に会ってみたいな。けど、この調子なら会えないか。まあそれはとりま置いとこう。


「まあそれは良いんだけど、ユズが作戦を思いついたんだ」


「へぇ、どんな作戦ですか?」


「言う必要もない。絶対失敗する」


「酷すぎる」


 俺は自分の意見を率直に言った。ユズはフィルクのことを常人の尺で測っているが、アイツはそんな甘くない。


「教えてくださいよ」


「何か隠密魔法っつぅ強そうな魔法をユズが新たに開発したんだけど、それが......


......っていう作戦なのよ」


「まあ...... たしかに難しいけど......」


「まずフィルクが戦意喪失とか有り得ねぇ。アイツは俺に嫌がらせするためだけに腹を切り破って腸を見せてくる女だぞ?」


「ヤバいなフィルクさん」


「それで、全員倒してかつ最後の1体を拘束!? そもそも1%の魔力でデカブツを怯ませるような魔法を持ってる奴を、どうやって拘束するんだよ!」


「たしかに......」


 全力を出せばデカブツなんてあっさり倒せるとか言ってたし、拘束は無理ゲーだろう。それ以外にもツッコミどころが多すぎる。


「じゃあどうします? いっそ逃げます?」


「いや、逃げても多分簡単に殺される。フィルクは俺に変な執着あるし」


「スイーツで交渉するとかは?」


「......ユズがいれば案外なんとかなるかもな。ちょっと頭の片隅に置いておこう」


 ユズの料理は全部美味しい。多分食材さえ揃えれば全ての料理においてプロ級の腕を見せてくれると思う。まあそんな余談は置いといて......


「今から俺が考えている作戦を言うから、聞いてくれ」


___________________________



「ふぅ、ふぅ、がはっ!」


 デカブツの攻撃をギリギリで躱そうとして、結界魔法に全身で打ち当たる。なんとか爆発魔法を使って被曝しながら避けて、血を流したまま耐性を立て直す。


「あはっ、大丈夫かしら?」


「けほっ、けほっ」


 ユズはデカブツの攻撃を避け続けているだけで、デカブツをまだ殺せていない。しかし、デカブツの身体の構造を把握した時は、ユズはもう勝利の目処は立っていたのだ。

 キキョウは気づいていなかったが、フィルクはユズの邪魔を的確にしていた。結界魔法による妨害、魔法弾による攻撃などだ。

 ユズはそのせいで決着をつけれなかった。ただ、それはまだ良かったのだ。フィルクの攻撃パターンを、ユズはあの短時間でも把握できる自信があった。

 しかし、フィルクはある意味ユズへの最適解を導き出したのだ。


「あぁ、殺さなくてもいいじゃない...... すっごく痛いわ......」


 フィルクはユズの前で血を浴びせまくった。時には溶けて、時には爆ぜ、時にはユズの攻撃を自分から被った。

 ユズは吐き気を抑える。ユズは死体をできるだけ踏もうとしなかった。ユズは服についたフィルクだったものを拭おうとはできなかった。

 しかしその分、死体を踏んだ時と皮膚についた時は、目に見える形で動揺を見せるのだ。


「休む暇を与えるとでも?」


 精神面でもキツイが、体力的にもキツかった。デカブツの攻撃を避け続けるのにも消費するし、触れたことのない血への動揺と時間経過による疲れによる身体の震えでさらに体は冷えていった。

 しかも、爆発魔法による回避が増え、魔力を使わなければならない上に被曝する。液体と化した人体でもユズは壊せず、皮膚が段々と抉れていく。治癒魔法を使う余裕はない。


「『黒き罪への白き天罰』」


 ユズの身体に手を伸ばすと、フィルクの手が怪しく光った。ユズは、とっくのとうに気づいていた。フィルクの手に触れると恐らく即死。さらに、試したところ結界魔法も一瞬で壊れてしまった。気を抜いたら死ぬということが分かり、緊張で震えは加速する。

 そして......


「貴方のお友達は今、どうなっているでしょうね」


 キキョウがこの場を離れたことが、気がかりで仕方なかった。フィルクの分身の扱いのレベルによるが、ユズが見る限りフィルクは本気を出しておらず、十分2つ同時に操作している可能性はあった。

 周りの分身の動きを全て封じ込められたとしても、キキョウの方に向かったフィルクが本気を出してしまうかもしれない。フィルクの注意を引くことも、ユズにとって必須事項だった。

 デカブツが木を飛ばしてくる。フィルクはそれを魔力を使って力技で対処する、もしくはその分身を殺すことが可能なのに対して、ユズはギリギリで回避しないといけない。

 

「フィルクさん!」


「フィルクでいいわ」


 ユズにできることは、もはや話しかけることしかなかった。


「何が目的かとか教えてよ!」


 前転し、体制を低くジャンプして、身体を捻ってフィルクとデカブツの攻撃を避ける。


「特に目的はないわ。成り行きね」


「はあ!?」


「いつのまにか、こんなことになってたわ。強いて言うなら面白いから続けているわね」


 何を言っているんだこの人!? とユズは冷静さを乱した。これが冷静さを欠くための作戦だったら、ある意味すごい。

 ユズは相手の分析を怠らず、体力と魔力を減少させながら情報を集める。特に、フィルクは未だ考え方が分からない。当たり前だ、とうに人間の枠から外れている。


「そんな理由なら、僕の味方になってくれないかな? みんな信用できるし、暇はしないと思うよ!」


「そう。じゃあ、今度見てみるわ」


「ごめん、やっぱ来ないで! 代わりに隣に良い土地があるよ!」


「ふふっ、一瞬で手のひらを返されたわね」


「別に僕は来て欲しいなんて言ってないもん! ただ自慢しただけ! すごいでしょ!」


 頭に血が昇ってきて、変な言葉しか出てこない。自分では最低なことを言った気がしたけど、フィルクはなんとなく嬉しいっぽい。謎だった。


「適当に戦いを終わらせる気はないのね。貴方、名前は?」


「僕への攻撃を止めたら、教えてっ!! あげるよっ!」


 フィルクの結界魔法が変なタイミングで出てきて、思わず言葉に詰まる。僕がデカブツの攻撃を受けながそうとした時に、フィルクの結界魔法が間に挟まり、タイミングがずれたのだ。会話中でも容赦がない。

 僕は様子見で一旦離れ、フィルクの服を掴んでデカブツから離れる。フィルクは、一切の抵抗をしなかった。少し重いが、空気抵抗と摩擦を消せば引きずれる。


「ふふっ、案外おもしろいことするじゃない」


 デカブツは予想通り僕を追ってくる。僕はフィルクと会話を続けながら、なんとか距離を良い感じに保とうとして......

 フィルクが僕の腕を掴んだ!

 僕はフィルクの手首より下を魔法で消し飛ばすと、フィルクを投げ飛ばす。


「ごめんね、少しは痛い目を見てもらうよ」


「大丈夫よ、慣れているから」


 僕の身体が癒えた。フィルクの治癒魔法だ。全回復というわけではないけど、常に全力でこの悪い地を走らないこの状況だと、すごく身体が楽になった気がする。


「何が目的?」


「貴方はここで殺すには惜しいわ。会話をしたいのなら話しましょう」


 よし、油断している。僕がフィルクに話しかけた理由は、引きずっているのは、会話をしたいからじゃない。会話をしても無駄なやつだっていうのは分かる。

 こうやって自然に一箇所に集まって、デカブツの狙いをこっちに引き寄せて......


「『スター・ナ......」


 デカブツにカウンターを決めようとした時、横から衝撃波が飛んできた。


「あははっ、油断したのはそっちだったわね」


 吹っ飛んでいくが、大きな痛みはない。もっというなら、デカブツの飛ばしてきた木を、吹っ飛んだおかげで無償で避けれた。


「安心して。さっき言った言葉に嘘はないわ。貴方はここで殺すには惜しい。お話ししましょう?」


 フィルクは再び僕を吹っ飛ばす。隠密魔法か結界魔法か使っていたのだろうか。僕は、デカブツの視界から逃れた。

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