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Green Way 〜記憶を失って転生し、絶望を知る〜  作者: SS
1章 英雄の誕生編
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13話 日常会話

「長袖、お茶、虫除け、レジャーシート、お弁当...... よし、準備はいいね?」


「ピクニックかよ」


 山に入る当日の朝。昨日はガチで悩んでいたユズだったが、夜にある作戦を思いついたらしく、あまり重苦しい空気ではない。


「現地調達しているキキョウがおかしいよ。しかも焼くの苦手なのに」


「何故それを知っている!?」


「『フィルクは魚を焦がさずに何本も焼ける。加減の調節とかが上手いらしい』とかシリアスな顔で言ってたじゃん。タイカルが真顔で聞いてたよ」


「マジかよ。みんな焼けるのか」


「今度教えてあげるから、今は目の前のことに集中しよう」


 というわけで、その肝心の作戦は......


「奇襲からのズラかり大作戦」


 なんだろうこの聞いただけで主人公感がさっぱりしない作戦は。しかも、これが本能寺の変や日比谷焼打みたいな派手なことはせず、ただただ小突いて逃げるだけだ。

 詳細はこう。

 フィルクの分身60体の目をユズの隠密魔法で掻い潜る。俺にもかけてもらう予定だ。

 次に、デカブツ撃破。フィルクには聞こえないようにする必要があるため大変だが、ユズには策があるらしい。

 最後に、もう一回フィルクの目を掻い潜って村に帰り、フィルクの攻撃を待って、返り討ち。村人の避難経路は既に村の外にできている。

 何も知らない村人がどうやって思い通りに動いてくれるのかというと......


「クルメトって案外凄いんだな」


 クルメトが村のみんなを集めて説得してくれて、さらにマップやら経路やらを書いた紙を配ってくれた。


「先生も凄いけど、全部配り終えたミゼも凄いよね」


「全部の家の位置覚えているのかな」


 下手したら、家の位置だけじゃ済まないかもしれない。なにせ、この村にはポストや掲示板という概念がないのだ。一人一人の行動パターンとかを知っていて、適切な場所に適切な時間で配った。そうとしか思えないぐらい早かった。


「よし、僕らも頑張ろうね」


「タイカルは居ないのが残念だけどな」


 タイカルは、村人の誘導役ということになっていた。フィルクにバレた場合に備えて連れていくのも悪くはないが、逆に3人だとバレやすくなるからな。


「確認だけど、ユズがデカブツを殺せる前提で作戦立ててるけどさ、本当に勝てるのか?」


「相手は知能のない虫だよ? フェイントすらできないんだ。僕の独壇場だよ」


 凄い自信だ。これならまあ任せても大丈夫だろう。ユズの魔力は俺の2倍近いみたいな話だったが...... 実際は得意魔法とか魔法の扱いとかで、もう少し差が開くのだろう。ユズの方が何倍も強そうだ。


「はえ〜。そういや、ユズの得意魔法ってなんだったっけ?」


「結界魔法と物体生成魔法。あと補助系の魔法も全部得意だよ? 後で使う千里眼魔法とかも補助系。ポケモンでいう変化技だったら補助系」


「なんか俺より汎用性高い気がする」


 攻撃系がないのが地味だが、逆に言えばそれ以外はほぼ最強ということか。ユズの結界魔法の中で飯食ったこともあるし、それらの魔法の強さは折り紙付きだ。

 ちなみに、千里眼魔法はフィルクの分身を先に視界に入れるために使う予定だ。フィルクも使っているかもしれないが、フィルクが隠密魔法で隠れている俺ら2人が目的なのに対し、俺らの目的は60人。その分フィルクの視点も60倍なわけだが、分身60体が一斉に使うとしたら、かかる魔力は相当大きいだろう。総合的にはユズの視点の方が上のはずだ。


「代わりにキキョウは治癒魔法や炎魔法が僕よりできるから。特化型ってのも、かっこいいと思うよ」


 グッと本心で語るユズ。残念だが、そういう例外除いて負けてるし、炎魔法もそんなってわけじゃないから、大して励ましにならない。


「はぁ、せめて光魔法は勝ちたかったな......」


「あ、え、あと身体強化魔法もキキョウの方が上!」


 あぁ。ユズ、筋力とかにはあんま富んでないからな。肉弾戦は流石に無理ってことか。


「得意魔法が何となくスタイルに合っている気がするけど、なんかあるんかね?」


「僕はガンナーとかトラッパーとかシーフみたいな戦い方が好きだけど、キキョウは圧倒的な火力ー! みたいな?」


「そうそう」


「好みとかの問題もあるかもね。魔法ってイメージで大きく扱い変わるし」


「炎は大好きだからな」


 花火とかも好きだけど、あのメラメラジリジリ感には叶わない。反自然的なのにワイルドな雰囲気。その二つの特徴を併せ持つのが、炎だ。


「そういえばキキョウ、今更なんだけど、山を燃やそうとは言わないんだね」


「燃やしてもどうせ逃げられるじゃん。一瞬で燃え広がるわけでもないし」


「それだけ?」


 もちろん考えてはいた。山を一斉に炎魔法で焼き始めて、フィルクを完封するということ。逃げもせず攻撃もできずの圧倒的優位状態。けれど......


「そうだな。強いて言うなら...... フィルクを殺すのはマズイと思ったんだよ」


「......んっ」


「なんだよそのニマッていう笑顔は」


「いや、キキョウがそう思っててくれて嬉しいなぁってだけ。そうだよね。可愛いもんね。殺しちゃダメだ」


「あぁ。可愛いからな」


「可愛いは正義」


 俺のフォローをする会から話題が変わり、ちょっとエモい良い空気になった。うん、でもなんかフィルクが可愛いから俺は殺さないみたいな感じになってるな? さてはあまり信用されてないな? 昨日ちゃんと約束したのに、普通に信じられてないな?


「はぁ...... どうしてこんな大変なことになったんだろ。トーララオンの時はこんなになるなんて思ってなかったよ」


「うわ懐かしい〜。1週間も経ってないけど」


 デカブツにボコされた衝撃が強すぎて、正直忘れていた。今思うと大して強くなかったな。


「トーララオンに囲まれるぐらいだったら日常のちょっとした刺激で済むし、デカブツもまあペペロンチーノの唐辛子みたいなもんだけどさ、フィルクに関しては放置していてもいなくても洒落にならない実害が出るから面倒だよね」


「......ちょっと待ってペペロンチーノで困惑している。唐辛子は避けるか覚悟して食べるかすれば問題ないように、デカブツも放置して覚悟決めた時に倒せば良いってことか?」


「そんな時間かけて考えるものじゃないでしょ。理解力無いなぁ」


 ペペロンチーノに唐辛子が入っていないわけねぇだろ子供舌め。今度激辛ペペロンチーノ作ってやる。作り方知らないけど。

 でも、それを理解して言っていることを思い返すと、なかなか無視できるものじゃないな。ユズにとってはただの愚痴かもしれないが、俺にはユズがまだ精神的に参っているように見えた。

 何かしてやりたいが、フィルクの害悪性に関してはフォローが効かない。言っていることは御もっともだ。的確に表現している。

 俺は代わりにユズを挑発した。


「はぁ、おまえも子供なのか大人なのか謎だよなぁ。情操教育失敗寸前。義務教育が異世界に無いのが原因か?」


「僕が先生に正当な理由でチクったら、害悪ゴミキッズとかいって逆ギレするくせに。僕を都合の悪い時だけ大人扱いする前に、自分が大人になったらどう?」


「おいおい今日はパンチが強いな。俺も強いパンチをしてやろうか?」


「魔法の練習って言って僕の目を光魔法で焼き焦がしたのは未だに忘れない」


「魔法って便利だよな」


「僕の首に冷却魔法を使ったのも忘れないよ」


 現在の俺の功績はその2つだ。それ以外も沢山やっているが、綺麗に避けられているか受け止められている。

 魔法を使えるようになったら練習したいよなぁ。なら明確な指標が欲しいよなぁ。丁度いいところにムカつく天才少年がいるじゃんか。なら、やっちゃうんだよ。人間の自然の摂理だ。


「ユズはどうやって魔法を練習したんだ?」


「え? 普通に空気とか土とかに向けてやってたけど」


「つまんなくない? あと分かりづれぇし」


「ぶっちゃけ魔法が使えるってだけで楽しかったよ。計算すれば効果は分かるし。あと年齢的に感覚がやや鋭めだね」


 計算すれば効果が分かるってのにもツッコミを入れたいが、それより感覚が鋭いっていうのがなんかずるい。年齢とか誤差だろ、普通に才能だろ。


「身近に俺がいたら俺に向けてやってただろ?」


「そんな馬鹿なことしないよ。ミゼが怒るもん。......いや怒んないね。まあミゼが悲しんじゃうから」


「クルメトは?」


「魔法の威力に感動を覚えると思う」


 怒らないというわけでもないと思うが、実はクルメトは結構な実験気質だ。分からないことがあったら実験を繰り返している。弥生時代のこの世界で、何故かクルメトだけ平安時代ぐらいの知識を持っているのだ。たしかに感動を覚えるだろうな。


「全く関係ないけど、ユズから見たらクルメトの評価はどんぐらい?」


「それは身体的な意味で?」


「違うわ頭脳的な意味でだよムッツリ」


「うーん...... なんか凄いよね。昔の天才ってこんな感じだったのかなぁって」


 ムッツリには華麗なスルーを決めるユズ。ってか、ユズが語彙力を失うぐらいにはクルメトも凄いんだな。


「話すことないし、どうせならタイカルの話でもしとく?」


「需要ないかなぁ」


「可哀想に。哀れ。南無阿弥陀仏」


「勝手にタイカルを殺すな」




 既に結構な高さを登っていた。一回昼食を挟み、また再び登り出す。


「いやぁ、持つべきものは料理が上手い友だな」


「どうせなら女友達に作って欲しいなぁ」


「ユズとか彼女さんに圧勝しちゃうだろ」


「僕より料理が上手いって相当だからね。食材調達の時点でレベル差がつくし」


 やんわりとした口調で話しているが、もう人を見下しているとかの次元を超えた天才の発言である。


「誰か狙っている奴は居るのか?」


「まだ5歳以上年上の人しか見たことないから誰もいないよ。ミゼが発情しだしたとかだったら受け入れるけどね」


「俺の方が年近いから。ってか、同い年に会ったことないって転移前も?」


「8歳以降近い年の子とはあまり話してないなぁ」


「ぼっちじゃん」


「キキョウとは環境が違うもん。......あれ?」


 軽い恋愛トークをしていると、ユズが何かに気づいて立ち止まった。


「そういえば..... 千里眼の魔法を使っているのに、分身が見つからない」


 俺は前回の場所を鮮明に伝え、ユズもその場所から計算して丁度いいタイミングで使いはじめたと思う。千里眼の有効範囲は確認したから、間違っていることはないはずだ。

 ってことは......


「あいつ、何か仕掛けてくる気だ」


 フィルクは分身で俺らの行動を観察することを選ばなかった。とはいえ、頂上に近づきすぎると、24時間留まるのが虫の影響で難しくなるはずだ。なら、ふもと付近?

 ふもと付近だとしたら、俺らを待ち伏せする気か? けどピンポイントで待ち伏せないと逃げられるし...... どういうつもりか分からない。

 なんにせよ、警戒を解いてはいけないな。ユズにも伝えておこう。


「とりあえず、警戒を解いちゃダメだよ」


「おいそれ俺が今考えたばっか」


「知らないよ」


 一気に緊張感が高まり、それと同時に虫も湧き出てくる。


「うーん...... そろそろ虫も厄介だね。長袖に穴がちょっとずつできてる」


「もう少しで頂上だ。そしたら炎魔法を使おう」


「キキョウはそのために連れてきたまであるからね。あと荷物持ち」


「そして死体処理と。いくら俺でも30キロを担いで山を降るのはキツいし、虫の餌にでもしようかな」


 ユズの言った通り、俺の役割は炎で虫を追っ払うだけ。一応炎魔法の後に山火事にならないよう対処が必要だったりと、選ばれた役ではあるのだが、地味だ。

 ついユズの小馬鹿にした態度に毒舌で返してしまったが、緊張しているのに怯えさせるようなこと言って大丈夫だったか。


「失礼な。僕は29キロだよ」


「そっちじゃねぇだろ」


 訂正。余裕そうだ。普通だったら山を登るだけでも疲れると思うんだがな。この場は流石ユズと素直に賞賛しとこう。


 ってわけで、頂上にあっさりと着いてしまった。デカブツは見えないが、予想通り凄い数の虫だ。俺らは少し離れて話す。


「デカブツは土から出てくると思った方がいいね。とりあえず、炎魔法よろしく」


「ラジャー」


 俺は地表と木を薄い膜で覆うと、威力を控えめに長い時間使えるように調整して、炎魔法をブッパした。この前ほどの派手さはないが、虫がパタパタと死んでいく様子を見るのは悪くない。

 虫の大半を薙ぎ払い、周りを確認する。フィルクの分身が居ると思ったが、置いていないようだ。


「キキョウ、パクッとされないようにね」


「俺はユズとは違うんだよ!」


 デカブツが地面から出てくるタイミングを見計らって、ユズが深呼吸をする。

 ユズは三半規管に集中した。地面が揺れるタイミング。デカブツが進む角度。土の柔らかさ。それらを考えて、キキョウを守るために指示を出す。

 時間は一瞬。デカブツが土を震わせる時間はわずか数秒。その間に情報を集め、自分とキキョウの理想的な動きを考えなければならない。

 それはユズでも簡単なことではない。故に、深呼吸をする。5秒後か、10秒後か、はたまた1分後か......



「今! 43度左向いたら直進!」



「はいはい!!」


 俺が駆け出した数秒後、デカブツがユズめがけて飛び出した! それは着地と同時に、ユズの身体を押し潰し、そのまま地面を這っていく。

 そして、俺は安全なところから一言。


「・・・あんな自信満々で挑んで即死とか、笑えねぇよ!」


「死んでないよ!!」


 あ、よかった。ちゃんと生きてた。どうやらギリギリのタイミングでスライディング回避を発動していたようだ。ゲームのジャスト回避みたいな感じだ。リアルで見ると超カッコいい。


「キキョウは動かないでね!」


「返答は濁す!」


「今冗談に付き合う余裕はないんですけど!?」


 デカブツはユズが生きていることに気付かぬまま、他に仲間がいないかと周りを見渡す。ユズはその注意を惹きつけるように、木の上から槍魔法をデカブツの足下に突き刺した。

 デカブツの動きが若干制限されたため、デカブツは攻撃方法を変える。頭を軸に身体を回転させ、木を薙ぎ倒しながらユズを撃ち飛ばそうとし始めたのだ!


 ユズはデカブツの頭に物体生成魔法を使うと、デカブツを乗り越えるとともに、木の上からデカブツの頭に飛び乗る。


「ウ゛ア゛ア゛ア゛!!」


 デカブツは大声で咆哮し、さらに転がってユズを振り払おうとする。ユズは魔法で耳を塞ぎ、安定感を保ちながら、デカブツの頭に留まり続ける。


「ようやく裏が見れた!」


 ユズはデカブツの腹を見た。転がっている時の、一瞬の間だけだ。しかしそれは、ユズが完全に記憶するには十分な時間だった。

 さらにそれは、ユズがデカブツの身体の中身を理解したことを意味する。ユズは一旦デカブツの頭を離れ、地面に着地した。

 デカブツがユズを目掛けて走り出し、口を開いた瞬間......


 ユズの槍魔法が、デカブツの喉を突き裂いた。


「グア゛エ゛ア゛ウ゛ア゛ア゛ア゛!!!!」


 声にならない咆哮が聞こえる。デカブツの青い血が辺りに散らばった。


「おぉ!!! すげぇ!!!!」


「へへん、まあ僕だから!」


 圧倒的ドヤ顔! 自信と強さが比例する子供! 身長と強さが反比例する男!!


「けど、まだまだだね」


 しかしユズは、慢心はせずに冷静にデカブツの方を見た。デカブツはジャンプしてユズを押し潰すが、再びのジャスト回避で体制を整える。

 デカブツは折れた木をユズに飛ばしつけるが、それも器用に身体をくねらせ、ギリギリの間を通るように抜ける。


「マジですげぇなあいつ......」


 衝撃だった。ユズが強いとは知っていたが、いざ目の当たりにすると恐ろしいものだ。プロが動かすゲームキャラのように、美しい動きをしている。

 しかし、俺はこの戦いを長くは見ていられない。今のこの時間でなんとか習得した千里眼の魔法。それで周りを見渡すと、やっぱり居たのだ。


 ーふふっ、下に降りてきて?ー


 そのように口を動かすフィルク。


 俺は今から、コイツを......

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