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Green Way 〜記憶を失って転生し、絶望を知る〜  作者: SS
1章 英雄の誕生編
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10話 作戦

「トゥっトゥっトゥっトゥ...... 上手に焼けました!」


「まだ10秒も焼いていないわよ」


「でももうこんがりしている筈だけど...... なんかヌメヌメしてる! クソマズ!」


「もう少し焼くべきよ。あと、多分口洗った方がいいわ」


 川を見つけに山を一周して1時間ほど。試しにフィルクに「手を繋ごうぜ? ほら、デート気分で」と言ったら「? まあそうね」とマジで手を繋いでくれた。郷に入れば郷に従え精神だとか思ってんのかな。文化でもなんでもなくただ俺が適当に言っただけだけど。

 隣を警戒し続けていた上に結構時間がかかったため、お腹が空いている。ようやく川を見つけて、フィルクが魚を取り (分身に取らせたため濡れていない) 、炎魔法を使ってもらい、魚を焼く。

 全てフィルクにやってもらっているため、魔力は全く消費していないが、フィルクの情報はあまり集まらない。強いていうなら、川に入る時に転びかけてて危うく爆笑しそうになったぐらいだ。頑張って堪えた。


「そろそろかしら。先に戴くわね」


「どうぞ。......俺は引き際が分からない」


 代わりの情報として入ってきたのは、実は俺料理ヘタクソ説だ。記憶の中に何一つレシピは残っていないし、俺は魚を焼いたら煮魚みたいになると思ってた。

 野菜みたいな感じで汁が出てきて、魚の脂とかも混じって、柔らかい煮魚になると思っていたんだ。ただ、目に映るのは焦げて白目を剥いた硬い皮膚の生き物。もしかしたら異世界の魚だからかもしれないな。


「ちょっと、焦げているわ」


「へぇ、これが本物の焦げか」


 幸いモン◯ンの記憶は残っているので、生→生焼け→こんがり→焦げ というのは分かっている。昔の俺に感謝だ。


「おぉ...... なんか不味そう」


「実際マズイと思うわ。焼き過ぎね」


「いただきまーす。あむっ」


 さっきと違い、硬くてかみごたえがある。それでいて少し脆くて粉っぽい感触もあり、食感に要らないコントラストが生じていた。舌には旨味を引き立てない苦味が広がり、新鮮な魚特有の脂はそれを強調していた。

 オブラートを外して言うと、クソマズイ。


「うげぇ......」


「大丈夫? 捨てた方がいいんじゃ......」


「そうだな。埋めよう」


 俺は土の中に焦げ魚を埋め、手を2回叩いて一礼しといた。フィルクも俺の真似している。こいつ、案外素直なのかな。


「うーん......」


「不味いか?」


「いえ、不味くはないわ。ただ...... 思ったより貴方がポンコツだった」


「うるせぃやい。記憶が無いだけだ。覚えれば多分できるようになる」


「その理論だと、料理できるようになるまで何種類もの食材がゴミと化すわね」


 フィルクの意味分からない戯言はおいといて、俺は万能らしいフィルクに魚を焼いてもらった。うん、普通に美味い。クルメトが時々作ってくれる焼き魚の味だ。


「ところで、アタシを殺す手段は思いついているの?」


「思いついてはいるけど、実行できるかは不明」


「ちなみにもしアタシを殺すことができたなら、貴方は世界のTOP5よ」


「マジか。急に殺せる気しなくなったわ」


「ふふっ、せいぜい頑張りなさい」


 強者の余裕というやつだ。世界のTOP5...... よく分からないけど、何となくヤバそうなのは分かる。

 というか...... この余裕さ、多分何か奥の手を隠していると思った方がいいな。それがどのレベルかももう少しで判明する。今は我慢だ。


「じゃ、俺はそろそろデカブツのところに行ってくるよ」


「......それで死なれたら、アタシも全く面白くないのだけれど。勝算はあるの?」


「勝てたらいいなぐらい。今回はただの偵察だ。なんだったら付いて来いよ。俺もここで死んだらマズイから、死にそうになったら助けてくれ」


「言われなくてもそのつもりだわ」


 ......あれ、待てよ? これ、作戦の大幅なショートカットが可能なんじゃね?


「今、貴方から何かを仕掛けられる感覚がしたわ」


「お、逃げるか?」


「......そうね。何をされるか気になるけれど、相手の誘いに乗るほど馬鹿ではない。逃げさせてもらうわ」


「あれ、え、ん? 逃げるの? 逃げちゃうの? 逃げちゃうんですかw」


「......いいわ。付いていこうじゃない。返り討ちにしてあげるわ」


 ッシャァ! 大幅ショートカット成功! チョッロ!


 今日は俺にツキが来ている。ことごとく作戦が上手くハマってくれる。俺の確かめたいことが手に取るように全て分かる!


「ははっ、ふははははっ、あははっ!」


「......ちなみに、何をする気なの?」


「な・い・しょ」


 怪訝そうな顔で不貞腐れるフィルク。俺らは2時間ほどさらに歩く。その間、フィルクと俺は他愛もない雑談を続けていた。


 ネタバラシをすると、デカブツとフィルクを戦わせて、フィルクの分身一つの力を見る。

 デカブツのようなワームは、基本的に視覚と触覚で動く。ということは、囮になって引きつけることも可能だ。実際ユズは、デカブツを魔法で引きつけていた。デカブツが平等にフィルクも襲うことは、さっき確認をとった。デカブツにフィルクを襲わせることも可能だろう。

 本当は上手く誘導するつもりだったのだが、フィルクが来てくれたため楽に襲わせることができそうだ。


 どうせならこれも語っておこう。フィルクに会った本当の理由。さっきは「フィルクの強さを確認できた」とボカして言ったが、本質は違うところにある。


 川を見つける時、俺はあえて遠回りをした。川はずっと上に続いているため、普通は川の位置が分からないなんて有り得ない。俺が遠回りした理由は、同じ高さでフィルクの分身は何体いるかを確かめるためだ。

 周りに分身が居るかどうかを確かめる方法は簡単で、フィルクの手首の脈と視線の向きを確認していただけ。

 フィルクの視線が不自然に違う方を向いた回数は10回と少し。均等に分布されていたと考えれば、60体ほど配置されている。一応頂上に行くまでの道も遠回りして歩いたため、分身の配置の標高がほぼほぼ変わらないのも確認済みだ。


 俺は一つ、分身について疑問を持ち、ある仮説を立てていた。果たして本当に、何体もの分身を操れるのか。例えば、目だけで考えよう。分身3体を同時に動かすとしたら、視界3つを正確に把握しないといけないのだ。

 跳び前転をやってもらった時、3つの分身はどれも同じ行動をしていた。それは、それぞれに違う行動をさせるのが相当難しいからではないか? 右手で正方形、左手で三角形を同時に描けと言われてもできないのと同じように。

 俺の予想だと、60体も配置したのは、分身を同時に動かすことはできないから。60個のモニターを配置するような感覚で、分身を配置したのだろう。

 何故もっと頂上付近に行かなかったのか。その方が分身の数が少なくて済む。つまり魔力の消費も断然少ない。答えは簡単だ。ここより高いところに行くと、虫に食べられてしまうから。

 最初にフィルクが出てきた時、10秒ほどのタイムラグがあった。このタイムラグは、治癒魔法で回復していた時間ではないだろうか。皮膚が食いちぎられたと話していたが、それまで放置していたのもやはり同時操作ができないからだろう。


 分身を複数同時に操ることが難しいのは分かった。ここで、デカブツをぶつけて、残機1つでの強さを知る。そしたら撤退だ。あとは、情報が最大限暴かれた分身60体に向けて、作戦を練れば良い。

 あえてフィルクに多少の真実を伝えることで、フィルクは俺の目的を探らなくなる。フィルクは俺の作戦に気付かぬまま、まんまとデカブツの前までついてきてくれたのだ。

 っと、そこで虫の軍団が現れた。空を埋め尽くすほどの虫の数、フィルクは物体生成魔法の金属板で防御しながら、電気魔法で近寄る虫を殺している。地味に頭脳プレイだ。


「いよいよだな」


「......」


 相変わらずの無表情だがフィルクが警戒しているのは分かった。


「そんな警戒するなよ。ま、見てな」


 俺はデカブツに開幕の炎魔法を放つと、フィルクに優しく微笑み......


 渾身の回し蹴りで横腹から吹っ飛ばした。


「えっ」


「じゃ、バイバイ!」


 俺が開幕ダッシュで逃げると、デカブツはフィルクに襲いかかる。よし、デカブツがフィルクを襲うっていう予想はあってた!

 最初の分岐点だ。フィルクがデカブツに殺意を向けるかどうか。勝つにしろ負けるにしろ、とりあえずはデカブツを殺そうとして欲しい。一切の実力も見せずに死なれるのが、一番面倒だ。

 一応の牽制のセリフは考えといてある。できるだけ気持ち悪い擬音語を選んできた。


「あ、自殺はさせねぇよ? デカブツを倒さない限り、治癒魔法で回復し続けて、ジュクジュクとちょっとずつ消化してやるからな!」


「ッ!?」


 よし、効果は抜群だ! 珍しく驚きの表情を見せている。痛覚はちゃんと働いていて、消化されるのは人並みに嫌だそうだ。

 フィルクはデカブツの方を向いて立ち上がった。右手を前に出す。どうやら戦う気になったみたいだ。


「氷槍魔法。放電魔法。隆起魔法」


 大きめの氷の槍がデカブツの中心目掛けて投げられる。デカブツの目の前に広がる電撃を放たれて足止め、さらに土が盛り上がってデカブツの動きが封じられた。

 しかし、肝心の氷の槍はデカブツの皮膚の一部を傷つけただけで、大きなダメージは入らない。デカブツはあっさりと体制を立て直し、フィルクを押し潰した!

 フィルクは、分身の能力が強いだけで、実は魔法はそうでもない? 分身を一体とはいえ、あっさりと殺すことができたのか?

 だとしたら......



「ッシャァ!!」



 俺の作戦は、最後まで完全に成功した。



「あ、ちょ、やべやべ。俺も逃げないと。締まらねぇな」


 グッと両拳を握りしめ、気分よくこの場を離れる。本当はカッコよく締めたいが、そこまでの余力は残念ながらなかった。

 とはいえ、もう既に大きすぎるほどの戦果を上げている。フィルクの情報を最大まで集め、かつ怪我もなく生きて帰ることができた。


 俺の作戦は上手く進んでいた。予定通り、いや予定以上の収穫はあっただろう。しかし、物事が上手くいったのには明確な理由があった。

 ー彼女は、まだ全くの本気を出していないー


「『黒き罪への白き天罰(ピュリフィケーション)』」


 その瞬間、俺に向かっていたデカブツが、初めて怯んだ。

 咆哮をあげ、クネクネと器用に頭を遠ざけ、木を薙ぎ倒しながらゴロゴロと転がり距離を取る。


「ふふっ、ふふふっ、あははははっ! 理解したわ。やっぱり貴方は強い! そうね、そういうことだったのね! あははははっ!」


 いつも澄ましているフィルクが、狂喜を表すように笑った。その服には一切の乱れがなく、とても土の上で寝転がっているとは思えない。

 彼女はデカブツの前に両手を広げて立ちあがった。


「アタシをここまで追い詰めたご褒美として、情報をあげるわ。アタシの分身は、魔力を分配することで魔法を使える。例えば、分身が2つだと半分以下の魔力しか扱えないし、60体だと1%も使えないわ。分身とのリンクが切れたら最大値は戻るけれど、失った魔力は再び回復するまで待つしかないわ」


 彼女は分身を作り、結界魔法を何重に張り、デカブツの攻撃を受け止める。


「本当はもう少し話してあげてもいいけれど...... 今回はアタシの負けね。今のアタシは魔力がほとんど残っていないから、この虫は倒せない。けれど、分身を減らせば、こんな怪物、簡単に倒せるわ」


 結界は全て壊れ、彼女はデカブツの攻撃を喰らい、木に押しつけられるような形で吹き飛んだ。血がべっとりと木に付着する。


「次は少し本気を見せてあげる。せいぜい足掻いてみなさい」


 彼女は、死亡した。


 頭脳戦ってものを考えてみたけど、初っ端から飛ばしすぎてもうこれ以上の頭脳戦を考えられる気しない()

 1章の前半(VSフィルク)、第二ラウンドへ続きます。

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