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Green Way 〜記憶を失って転生し、絶望を知る〜  作者: SS
1章 英雄の誕生編
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1話 転移


「ん... あ... う...!」


 間抜けな声が出た。ベッドから身体を起こし、腕と背筋を上に大きく伸ばす...


「@@@@@@ (あ、起きたっ!?)」


 はい? 誰かいる? なんか言っている?

 俺は声の持ち主の方向に視線を向けた。


「わお」


 思わず声が出てしまった。何という美少女。桃色の髪に、桃色の目と目立つが、自然色の茶色の服は田舎っぽい。そして可愛い顔。やや幼い印象を受けるが、コスプレイヤーなのだろうか。

 でも、この髪色...... 染めている? にしては自然っていうか、目立たせるようにしていないというか... あと、服もなんつぅか田舎って感じする。どゆこと?


「......ん? あれ?」


 そもそも、ここは何処だ? 目に見える限りの全てが木製の部屋で、やや広いものの、あるのはベッドと椅子と棚とゴミ箱ぐらいだ。新手の宿? そう思ってしまうぐらいには、なんもない。


「えーっと...... すんません。ここ、何処ですか?」


「@@@@@@@@ (あ、あ、えっと...... 病院? 的なところっ!)」


 ......? 何言ってんだこの人? あ、ここアレか。外国か。違和感の原因はきっとそれだ。彼女の桃色の髪は地毛で、言語はきっと俺も知らないやつで、この建物は...... 多分宿的なやつだ!

 ・・・何で俺、外国に居るん? いや、そもそも、ん? え? 何? 俺って...... 誰?


「・・・・・・」


「@@@@@@@@@@@@@@@ (あ、そういや意思疎通魔法かけるの忘れてたっ」


 桃色の少女が何か焦っているが、俺はそんなことは気にせず自分の腕を見つめていた...... 現実。動く。えらくムッキムキだ。なんか鍛えていたのかな?


「あー、あー、聞こえる?」


「え? 話せるの!?」


「ごめん、意思疎通魔法かけるの忘れてて......」


 おぉ、可愛い。......ん? 何? 魔法?


「今の状況を説明するねっ。君は...... 君...... なんて呼べばいい?」


「え、え? 俺で」


「俺...... 俺? 俺さんはさっき、危険な状態だったので運んできましたっ。私が運んだっ 」


「あ、ありがとうございます?」


 腰に手を当てドヤっている桃色ちゃん。キョドッた結果、適当に俺って言ったせいで、俺の名前がこれから俺さんになってしまった。


「俺さんは、なんと...



 異世界転移しましたっ!!」




「・・・」


「・・・」


 固まる俺。苦笑いをしている彼女。彼女は果たして何を言ってんだろう。


「あの...... よく分かんなかったです、すいません」


「前世...... って言っていいかな。前世で死んだら、こっちに来たのっ」


「......はぁ」


 おかしい、さっきまで顔だけで好印象だった彼女が、今や宗教勧誘の人を見てる感じになっちゃったぞ。

 さっきも魔法とか言ってたけど...... 異世界って、俺の想像してる通りのやつってことだよな。え、でも、え......?


「論より証拠! ちょっと見ててっ。氷魔法!」


 小さな氷の塊が、俺と桃色ちゃんの間にできる。握り拳半分ぐらいのサイズだ。無から生み出されたのを直接見て、信じそうになっている自分がいる。


「......触っても?」


「あ、どうぞどうぞ。なんなら食べれますので」


「食べるのかい」


 俺は指先で氷に触れてみる。ちゃんと冷たい。俺の知っている氷で合っている。食べるのは、なんか怖いからやめとこう。


「え、他にもあったり.....」


「えっと...... 物体生成魔法!」


 次は、俺の目の前に大きな緑色の板が出てきた。隠す場所すらないほど大きいサイズ。何か非現実的なことが起きているとしか、思えなかった。......これはもう、言い訳できねぇ。


 これ、ただの夢だ。寝よ。


「あ、忘れてた。私はミゼっ! よろしくね、俺さん! ......俺さん?」


 鼓膜に高い声が響いている気がするが、きっと気のせいだうん。もしくは幻聴かなんかだ。これは寝ないといけないな。健康に大きな被害がある可能性が大。


「......まあいっか。おやすみー」


 ドアが「キーッ!」と音を立てて開き、桃色ちゃん、改めてミゼが外に出て行ってしまった。

 さて、状況を確認しよう。とりあえず、手のひら同士を思いっきり叩きつける。赤くなり、ジンジンとした痛みもある。あ、待って。手首痛い。強くやりすぎた。

 これは夢ではない...... としたら、あの氷と板はなんだ。どっから出てきた。氷は説明できる。あんなに小さかったし、見落としていただけだろう。じゃあ板は? 本当に急に出てきたぞ?

 そもそも、俺ってなんだ? 誰だ?


 なるほど、分かったぞ。これはつまり......


「記憶喪失」


 言葉に出したことで、強い実感を得た。なるほど、俺は頭がおかしくなっちゃったらしい。あれは幻覚&幻聴か。妄想と現実の境目がつかなくなった。ありがちな展開だ。

 なるほど...... なるほど...... どうしよ。んなこと自覚しても、これどうすりゃいいんだろ。やっぱ寝る? 寝ているべきか? んじゃ寝よう。


「......zzz」


「俺さん、私はクルメトです!」


「うおぅビックリしたァ!!」


 すごい勢いでドアを開き、部屋に入ってきた女性。桃色ちゃんと同じ茶色い服を着ていて、ロングストレートの綺麗な白髪がよく似合っている。


「あ...... 驚かせてごめん」


「あ、えっ、大丈夫だぜ?」


「私はクルメト。この病院の長をしているよ。これからよろしくね」


 あ、この人も頭おかしいけど、ギリ会話は通じそう。よかった。っていうか、幻覚と幻聴に新キャラ現れたんだけど。なんか怖くなってきた。一応返事しておくか。


「こっちもよろしく頼みます」


「どこか痛むところはない?」


 心配してくれているらしい。病院の長...... ここは病室で、彼女は先生ということか。先生ならドアの開け方を考えてください。超ビックリしました。

 頭が混乱しすぎて痛いが、痛いところはありませんとだけ告げる。


「そう、よかった。痛いところがあったら、遠慮なく言ってね。私は治癒魔法を使えるんだ」


「お、おう。......?」


 やっぱり設定は健在らしい。チユ魔法というと、治癒のことだろうか。俺の今の状態も治してくれませんかね。


「えっと、俺さんは...... 俺さん...... 俺さん......?」


「あ、君でお願いします。それはうっかりミスです。俺の名前は俺でも俺さんでも俺さんさんでもありません」


 なんとなく敬語になっているが、彼女は年上なのか? 自分の歳が分からないからなんとも言えない。


「君...... 名前は無いの?」


「あぁ、えーっと...... なんつぅか...... 無いですね」


「・・・無いなんてあるんだ」


 名前が無いんじゃなくて、記憶に無いんですよ。信じてくれるかどうか分からないけど。言わないけど。


「それより、異世界転移......? したって設定なんですよね?」


「設定じゃないよ。信じづらいとは思うけど、君は異世界から来たんだ」


「寝たいんですけどアイマスクってあったりします?」


 きっと俺は今、人体実験かなんかの影響を受けているんだ。「記憶を失った状態で、人はどこまで信じられるか」という悪趣味な実験なんだろう。非人道的だ、寝て抵抗してやろう。


「待って待って! ほら、治癒魔法! ジワってなるの、分かる?」


「うーん...... たしかに肩が軽くなった気がする」


「そうそう、それが魔法」


 俺はマジマジと自分の肩を見た。特殊な痕跡はない。磁波か電波を当てたと考えるのが普通だ。目の前にいる女性は、人為的に作られた幻覚......

 なるほど、見えてきたぞ。これは相当な費用がかかっている、科学者及び心理学者の実験だ。倫理性も考慮すると、日本以外の国が関わっているのかもしれない。俺はおそらく、そこで中々の地位を持っている学者。


「ふっ、仲間よ。俺はもう気づいたぜ。早く元の場所に戻してくれ」


「全く信じてくれてない!」


 俺がカッコつけながら発したセリフは、クソ科学者どもには届いていなかった。うーん...... これは、もう少し付き合ってあげなきゃいけない感じか?


「しゃーねぇ、少しぐらい実験に付き合ってやるか」


「実験?」


「あぁ、え、で、あぁ...... 異世界転移したっていうのは信じる」


「信じてくれるんだね。ありがとう」


 俺は異世界転移したという設定を受け入れることになった。郷に入っては郷に従え的な精神だ。損がないなら幾らでも受け入れてやりましょう。

 それは良い、それは良いんだよ。ただ......


「それはおいといて、俺、転移...... 転移...... の前? の記憶がないんすよ」


「・・・記憶がない? 忘れてしまったということ?」


「うーん...... まあそんな感じですね」


 こっちの方が問題だ。なんというか、心がホワホワと軽く薄くなっている感覚。


「お母さんの名前は?」

「分かりません」


「自分の名前は?」

「分かりません」


「住んでた場所は?」

「残っている知識や使っている言語的に、日本の都市部だとは思う」


「なんというか...... 大変だね」


 記憶喪失と言っても、話している時点で当たり前だが頭がパーになっているわけではない。知識は大体残っていて、ただ自分に関するエピソードの記憶が消えた感じだ。


「1番残っている知識は何かな? もしかしたら、深く君の記憶に関係しているかもしれないよ」


「プリンに醤油をかけるとウニの味がするらしい」


「プリン...... ショウユ...... ウニ...... 君の名前は、多分その中のどれかだね」


「多分違います」


 目論見は良かったけど、流石に安直すぎる。


「うーん、記憶がないのか...... どうしよう。時間で治るかな。とりあえず、頭に治癒魔法をかけてみるね」


 新手の煽りを喰らった気がしなくもないが、俺の頭にほのかな温もりが広がる。......それだけ、ちょっと暖かいだけだ。記憶が蘇る気配は全くない。


「どうかな?」


「何も感じないっすね」


「うーん...... そこまで忘れるのが早いと、ボケているのかもしれないね。運動が必要......」


 ここには記憶喪失という概念は存在しないらしい。腕を見る限りピッチピチの身体だけど、これでボケていると思われているのか...... なんか嫌だな。訂正しておこう。


「記憶喪失っていう事故みたいなものがあるらしいですよ」


「......っ! へぇ、そんなものがあるんだ!」


 急にテンションが上がる。怖い怖い、何この人。常識人っぽかったのに。


「どういうものなの?」


「えっと、記憶が無くなるっていう症状のことを指しています。理由は色々あるけど、外傷とかが多いイメージですね」


「治る可能性は?」


「知らないですね。詰みっす。あはは」


「あー...... そうだね。仕方ないね。君が良いなら良し!」


 無理して笑顔を作ってくれる優しい先生。俺は乾いた笑い声を上げた。


「いや笑っている場合じゃないですよっ!」


 ドアの奥から、桃色ちゃんの冷静なツッコミが飛んできた。なんだっけ、ミゼだっけ。たしかそんな感じの名前。彼女はドア付近で待機していたが、ツッコミを耐えきれなかったらしい。


「その症例って初めてですよね」


「君が初めてだと思う」


「おぉ、異世界で初の偉業を達成か。やったぜ」


「やったね」


「やったね じゃないです! え、大丈夫なのそれっ? 後で大変なことになったりしない?」


 真っ当な指摘だが、答えは大丈夫だ。俺はなんも感じないし、身体的な異常もない。いくら記憶がいじられても、俺にとって今の状況より悪化することは無いだろう。ただ、記憶喪失で一番キツイのは俺じゃなくて......

 あれ、今友達も家族も誰もいないな。ここが本当に異世界だとしたらだけど。仮にそうすると、記憶喪失が引き起こす問題って、実は大したことない?


「あぁ...... あんま問題ないかなぁ」


「ないんだっ。なら...... 良いのかな?」


「あとで色々考えてみよっか。けど、今は大丈夫そうだね」


 結論、俺はとりまOK。こんなにも平和な記憶喪失がかつてあっただろうか。そもそも記憶喪失自体が珍しいものだけど。

 うーん...... まだよく分からないことが色々あるけど、とりあえずは仕切り直すか。挨拶ぐらいは、改めてやっといた方がいいだろう。


「まあ何にせよ...... これからよろしく頼みます」


「よろしくねっ!」

「よろしくね」


 漫画の中にはありふれる「異世界転移」。そして俺にも、その現象が起こってしまったらしい。名前すら忘れてしまった青年の、異世界転移...... いや、違うな。たとえ転移していたとしても、俺に転移前の記憶はない。

 これは一度目を飛ばした二度目の人生だ。つまり、俺に起きたのは異世界転移ではない。


 異世界転生だ

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