第四話 ゆずる 2
わかったから、みんな一回冷静になろうぜ。
まずチミだ。
そこに居る俺の顔見知り。
チミ今何つった?
「良いですよ」
良いって言った? ねえ、良いって言った?
なんで? なんでそういうこと言っちゃうかな?
明らかに怪しいでしょうが。
怪しいって言うか、意味分かんないでしょうが。
分かってる? このお姉ちゃん魔法で世界とろうって言っちゃってんだよ?
そのツッコミで天下を、とか、このバッテリーで甲子園を、とかじゃない。
魔法だよ? 魔法使いになろうっつってんだよ?
それ高校どこ選んだらいいの? 魔法に有利な高校ってどこ? 県外?
「でも、面白そうだろ」
ハイハイ、格好いい格好いい。
お前が格好いいのは分かったから、取り敢えず落ち着いてくれ。
落ち着いて、和尚におはぎ届けようぜアミーゴ。
そのあと、大人しく家に帰って感想文書くの手伝ってくれよ。
鼻血まみれなんだ。
それから、そっち、そこの姉ちゃん。
あんたもあんただ。
あんた自分が何て言ったか分かってんのか?
「やっと見つけた。君は選ばれた者だ。さあ、あたしと一緒に世界と闘おう」
うん、面白い面白い。
でも、ここ寺だから。
ここで見つかるの悟りくらいだから。
てか、それ最初に俺に言ってきてたじゃん!
断られて十四秒で別の奴に言える台詞じゃないだろそれ!
あ、だ、だからって、別に信じてたわけじゃないんだからね! お、男の救いようがない部分が出ただけなんだからね!
えーっと、それに、なんだっけ?
「ここだけの話、そいつは魔法の本ってやつだ。それもあたしが魔力を込めた一級品。も、超強力。これさえあれば世界は君の思うがまま。あー、よかったね、オメデトー」
あー、そうそう、それ。
あのさ、自分で一級品とか言っちゃうのどうかと思うよ俺。
もうちょっと謙遜って言うかさ、只でさえトンでもないこと口走ってんだから。
まあ、確かに、その本ちょっと、雰囲気あって、オマケに高そうで、硬そうだけどさ。
言うにことかいて魔法の本って。
てことは、なにかい? その中には普段使わないような口調で書かれた、アイタタタな呪文とかが書いてあるんだ。
はーん、じゃあ、ちょっとお兄さんにそれ見せてみなさい。
いいから、ほら。
あれ? 何だ、殆ど白紙じゃん。まともに書いてあるのは一ページ目の上半分だけ………………って、痛いポエム書いとるうううぅーーー!
「って、痛いポエム書いとるうううぅーーー!」
一瞬で背中があわ立ち、ぷつぷつと今度こそ悪寒から鳥肌が浮かんでくる。
思わず、一也から横取った本を放り投げた。
――小鳥さんたちが、朝の訪れを伝えてくれる。彼らは素敵な目覚まし時計。あたしはお礼にママの焼きたてのパンをあげ――
ここまでが限界だった。
どうして殆ど白紙なのかとか、なんで明らかに日本語じゃない文字が読めたのかとかは、この際どうでも良い。
許容量超えたポエムに、アレルギー反応が。
今は只ひたすら全身が痒い。
「か、痒い! 満遍なく痒い! 山芋だ! それ読む山芋だ!」
「……失礼だなぁ」
どこか不満気に、自称魔法使いの姉ちゃんが呟く。
あ、あんたか! あんたがその怪物を世に送り出したのか!?
「取り敢えず自己紹介だけしておきましょうか」
えええ、どういうタイミング?
とは言え、今この場で一也が一番冷静で、俺の放り投げた本を受け取り、機嫌を損ねたお姉さんにも対応できそうだった。
俺は背中を掻きながら、一也に任せる事にする。
ポリポリ。
「俺は佐藤一也。ご覧の通り、どこにでも居る極めて平凡なイケメン中学生です。で、向こうの、のた打ち回るのが何より好きなほうが、南ゆずる。痛いポエムが、さぶイボ出るほど嫌いなヤツです」
なんでお前がイケメン中学生で、俺はおもしろアレルギー持ちなんだよ。
「あたしはベアトリーチェ・ヘンケル。……詩人だ」
あれっ!? 魔法使いどこいった!?
キラリと銀色の虹彩が光ったかと思うと、俺のほうを見ながらそんな自己紹介。
負けず嫌いと意地っ張りを足して二で割ったような表情だ。
「お前たち……そんな所で何やってるんだ?」
ああー、和尚だ!
僕らの和尚だ!
今なら、その唐突に頭に巻いてるタオルも素敵!
助けてください、この人たちちょっと変なんです!
「おや、ベアトリーチェさんも一緒か」
おおおおおお前もか! 平間義夫!
この、頭にタオルなんか巻いて色気づきやがって!(?)
「ええ、なんだかそんな事に」
頬をかきながら、ベアトリーチェ・ヘンケル(魔法使い改め詩人)と名乗った女は、頷いた。
なにやら二人は顔見知りらしく、続く会話は親しげだった。
「どうやら、お探しの物は見つかったようですな」
「はい、おかげさまで」
和尚が合掌すると、ベアトリーチェが一也の方を見た。
無言で視線をやり取りし、二人どちらからとも無く、ふっと微笑む。
――いやああああああああ、不潔よおおおおおおおおおお、村の長老達に言いつけてやるうううううううううう。
「……それで、一也、あいつはまたどうした?」
「多分放っとかれて拗ねてるんですよ」
ええ、ええ、どうせそうでしょうよ。
流石幼馴染、よーく、分かってらっしゃる。
「でかくなったと思っても、ナリばっかりだな」
「まったく」
三人は勝手なことを言っては、うんうんと頷いた。
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