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第十四話 ゆずる 4

ほら、起きて。ゆずる、ゆ〜ずちゃん。ゆずちゃーん。朝だよ〜朝ですよ〜。……ごめん、嘘。本当は深夜二時。草木も眠る丑三つ時です。ねえ起きてよ〜。なに?寝たふり?も〜可愛いなー。……よ〜し、分かった。いいよ、こうなったらキチュちてやる。忘れられないような、濃〜いやつ。いわゆるディープねディープ。それじゃあ、アムロ、ディープイキま〜す。




これまで、一番最低の目覚めは三年前の年の暮れ。


忘年会帰りの酔った親父が、余興の女装姿のままで布団に潜り込んで来た時の事で、これは、譲れない。


生暖かい酒臭い息を頬に感じながら、妙に陽気でハスキーな裏声に意識を揺り起こされてみれば、そこにはパフューム(多分かしゆか)になりそこなったオッサンが、ポリリズムいいながら唇を奪いに来ている始末。


五感の内、一気に四つを犯されたおかげで、それからしばらく男性恐怖症になる。


忘年どころか、一生消えない傷が残る所だった。




だから、それは二番目に最低の目覚めだった。



(全身が痛い……)



だけでなく、なにやら吐き気までする。


事務用の椅子に座って、グルグル回されたあとみたいな、眩暈を伴う吐き気。


あと、なんか寒いような…………って、さむっ!


はっきりと意識が覚醒した時、自分の歯がかちかち鳴ってる音が最初に聞こえてきた。


歯の根が合わない、それくらい寒い。


視界には、まだぼんやりと白っぽい紗がかかっていて、暮れかけている景色は薄いピンクに見える。


にしたって、盛夏のこの時期にこの気温の下がり方は異常すぎ。


どーなってんだ気象庁! と、胸の内で怒鳴ってみるも、地面に触れた体の一部が微かに暖かい。


地熱がまだ冷え切っていない証拠だ。


てことは、あれ? もしかしてこれ、映画とかでよく見る縁起の悪い寒気?


何? 俺死んじゃうの?


その時脳裏に浮かんだのは、いつか見た戦争映画。


ジャングルで夜営中だった黒人の兵士が、暗がりから敵兵に撃たれて、死の際に似たような事を言っていた。



ーーさ、寒い。どうしてだろうな、凄く寒いんだ。…………ちくしょう、目が霞んできやがった! 目の前が真っ暗だ。何も見えねぇ!…………なぁ、まだそこに居るのか? もしお前が生きて帰れたら、お袋に伝えてくれ、愛してる、と。



ああ、段々目が霞んで……きてたまるかぁぁ!


俺は必死で目を見開いて、なるべく明るい方に視線を向けた。


自然と空を見上げる形になり、視界の真ん真ん中に毎度おなじみの姿が写る。


いつもの、やけに姿勢の良い立ち方で、細かい傷だらけの顔には、微かに笑みまで浮かんでいる。


手には革張りの本が開いてあり、前を見つめる視線の大元に、意地悪そうな光が宿っていた。


見るからに、犯人はお前だって感じ。


そんな事を思った瞬間、ぐるりと視界が暗転した。


赤も白もピンクもない。


唐突に、寒くない代わりに、なにもない暗闇の訪れ。


最初で最期の時。


ああ、だったらせめて、カッコイイ台詞を考える時間くらいは欲しかった。


ぼんやりと、そんな考えだけが浮かぶ。


……だって、これじゃあ、まるで何も思い付かなかったみたいじゃないか。






三度目の目覚めは、まどろみの中のとても短い時間。


柔らかく暖かいものに包まれ、体から徐々に痛みが引いていってるのが分かる。


重い瞼の向こうで、声が聞こえた。



「まだ、眠ってていいよ」



優しげな女の声。


そのまま諾々と従ってしまいたくなる。


意識が溶かされて、眠りの底に沈みそうになるのを、すんでの所で堪える。



「あ、あと五分だけ。まだ、なにも、お、思い付いてないんで……」



すぅ〜。


寝息のような語尾と共に、無意識の底へと落ちていく。


激しくリテイクを希望だった。

なんとかペースを上げて行きたいと思っております。

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