ソ連軍の攻撃
1945年4月20日。ヒトラーはその日、五十六歳の誕生日を迎えた。しかし、その日の彼の目覚めは今までの誕生日の中で最悪だった。
「この音はなんだ」
ヒトラーは地下壕に響き渡る地上の爆発音で目覚めた。彼とともに寝起きしているエヴァはまだ眠っているが、不愉快そうに眉をしかめている。
轟音とともに地響き、天井から伝わってくる部屋全体を包み込む振動、それが何度も繰り返されている。
ヒトラーは寝間着から背広へ着替え、自室を出た。そしてすぐに副官に命じて一人の士官に来させた。
「今何が起きている。敵爆撃機が爆弾を落としているのか」
「いえ、総統閣下。敵がベルリンに近づき、砲撃を加えている模様です。どこから撃っているのか、現在各地の観測所に調べさせています」
「砲撃だと、敵はそんなに近くまで来ているのか」
そこに別の士官がかけてくる。
「総統閣下、電話口までお越しください。空軍参謀長のコラー中将よりお電話です」
ヒトラーは副官についてくるようにいい、歩きながら、作戦会議を三十分後に開くので高官たちに招集をかけるよう命じた。
「コラーか、ベルリンは砲撃を受けている。この音は君にもきこえるだろう?」
「いえ、聞こえません」
「それで、どこから撃ってきている。長射程の列車砲が近くに来ているようだ。空軍はただちに攻撃を加えてくれ」
「いえ、敵が投入している長距離砲というものは確認されていません」
「ではこれはなんだ」
「もっと小さな砲です。それもせいぜい100ミリ前後の」
そこで、ヒトラーは思わず息をのんだ。
「それでは、敵はかなり近くにいるのか……わが軍は何をしている」
「ブランデンブルク各観測所の報告を総合したことによりますと、ソ連軍はベルリンまで十数キロの位置まで進撃し、戦車や大砲でベルリンに攻撃を加えているようです。
なお、現在空軍にはこれに攻撃を加えるだけの兵力はありません。各歩兵部隊も前線の維持に手いっぱいで、進撃はできません」
「なぜ誰ももっと早く敵の接近を知らせないのだ。空軍司令官は全員クビだ」
ヒトラーはそう叫んで電話をおいた。
彼は爪を噛んでいた。