氷の女王との戦いをギリギリ切り抜けた
バリウスは手袋をした手で拍手をしながら、ゆっくりと近づいてくる。
「まさか……驚いたよ。魔法を使ったように全く見えなかったのに勝ってしまうなんて。それは武術というやつかい?」
「ええ、実は習ったことがあって……」
「魔法がうまく扱える人ほど、自らの肉体の鍛錬など二の次になってしまうものだ。魔法の技術の洗練が進むほどに廃れていったのが武術だと言うのに、ユウタくんほどの魔法使いが武術まで扱えるとは、驚いたと言うしかないよ」
まぁ、俺は魔法が使えないわけですが。
「その上、『魔力障壁』を突破するために、わざわざ相手の身体を地面に叩きつけるような武術を使っていたね。武術も侮れないものだと感じたよ」
俺が”柔道”という武術、” 背負投げ”という技を使ったのには理由があった。
それは、この技が『魔力障壁』を展開している相手に有効な技だからだ。
『魔力障壁』によって魔法使いには直接的な攻撃が通用しないわけだが、『魔力障壁』はあくまで衝撃に対して障壁が硬化することで身を守る魔法である。
すなわち、さきほど俺がやった相手を投げて地面にぶつけるといった、「相手自身を動かしてダメージを与える」ことは可能なのだ。
むしろ、地面にぶつけた瞬間に魔力障壁が硬化してしまうことで、より衝撃が強くなっていることだろう。
相手の力を利用して戦いを制する。それが”柔道”という武術の真髄である。
……って、ジジイから教わった気がする。
「少しくらいは、ユウタくんの魔法を見てみたかったものだけどね。リージアくんも、決して弱いわけじゃないはずなんだけど……」
その時だ。
気絶していたリージアが目を覚ました。
「……ッ!? アイシクル――」
目を覚ましたリージアが取った行動は、俺に向けての魔法の詠唱だった!
そういえば、聞いたことがある。
戦いの最中に気絶した人間は、自分が気絶したことにすら気づかないから、目を覚ました瞬間に何事もなかったかのように戦いの続きを始めようとする、と。
あまりに突然のことで反応が遅れた俺は、とっさに腕を前に出してガードするくらいのことしかできなかった。
ちらりと見えた魔力の流れからすると、次の瞬間には俺の身体にいくつもの氷柱が刺さっていることだろう。
なんとか急場を切り抜けたっていうのにこれかよ!クソ!と、心の中で悪態をつきながら、その瞬間を待つ……
ズバン!
その時、目の前を光が爆ぜた。
「――ショット!」
リージアの放った氷柱は、俺の方に飛んでくることはなかった。
なぜなら、こちらに向けていたはずのリージアの手は、その隣に居るバリウスによって手首を掴まれ、違う方向へと向けられていたからだ。
だが、おかしくはないか?
バリウスはこちらに近づいてきてはいたが、決して至近距離というわけではなかった。まだこちらに向かってくる途中で、少し離れた位置にいたのだ。
一体何が起こったのか……
そんな事を考える俺は、ふとバリウスの二つ名を思い出す。
――【迅雷】のバリウス
【迅雷】というのは二つ名であり、それを名乗ることが許されているのは、世間にその優秀さが認められた魔法使いだけだ。
エリートの集うこのグランヴァザーナ学院ですら、教員を含め両手で数え切れる程度しかいないのが、二つ名持ちという者たちである。
そして、バリウスはその中の一人……二つ名の意味を考えれば、おそらくはバリウスが魔法を使い高速移動のようなものを行ったのではないだろうか。
「リージアくん、君は気絶していたんだ。この模擬戦闘はユウタくんの勝ちで、すでに決着がついている。理解してくれるかな?」
「そんな……」
「負けたからと言って、君が優秀な人物であることには変わりない。これからも裏生徒会の一員として頑張ってくれたまえ。ところで、怪我はしていないかい? どこか痛むようなら、保健室に行ったほうが良いだろう」
「いえ……大丈夫です」
「ユウタくんの正確な実力を測るには、もう少しデータが必要そうだね。今日はここまでにしよう。それじゃあ、解散!」
バリウスはそう言うと、早々に模擬戦闘場から一人で出ていってしまった。
残された俺も出ていこうとしたが、後ろからリージアの声が聞こえた。
「さすが、噂通りの実力。まさか、ここまで歯が立たないなんて」
「いや、本当にたまたま勝てただけだよ」
「嘘。魔法を使っていなかった。手加減をしていたのは分かっている」
バリウスといい、リージアといい、みんな俺のことをいかにも「分かってますよ」という語り口をしてくるのだが、本当に勘弁してほしいところだ。
手加減なんてする余裕はなかったし、未だに勝てたのはマグレだと思っている。
「そそそ、それに大胆にも、あんなことをするなんて!!」
「一体なんのことだよ?」
「こここ、子供ができたらどうするつもりなのッ!」
「いや、本当にどういうことだよ!」
「……そう。そういうつもりなら分かった。確かに、弱さは罪。敗者である内は仕方がない。……絶対に、次は負けない」
リージアはそう言うと、俺が向かっている出口とは違う出口へと歩いていった。
俺もまた、無事に模擬戦闘を切り抜けられたことに安堵を覚えながら、模擬戦闘場を後にするのだった。
だが、リージアが残していった言葉の意味は、最後までわからなかった。
作者である自分は、今まで数々の世界を救ってきた勇者です。
当然、【評価ptの数だけ戦闘力が上がる】チート能力を保持しています。
というわけで、広告の下にある☆☆☆☆☆より評価をしておいてください。
約束ですよ。