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岩院の名が持つ本当の意味

 翌日、俺はトオヒサが泊まっていたホテルの最寄りの病院へと来ていた。

 ここに無限院トオヒサは居るらしい。


 昨日の昼に、俺は学院の教員から事情を聞かれた。

 そして、トオヒサとの間にあったことを、詳細は伏せつつ学院に報告した。

 その際、トオヒサとの面会を希望したところ、当事者ということで許可が降りたのだった。たったの10分だけではあるが。


 俺は、トオヒサの居る部屋の扉を開ける。

 部屋に入ると、トオヒサは椅子に座っていた。

 あのときと同じ烏帽子(えぼし)に装束を纏っている。


「君か」


 こちらを向いたトオヒサの顔は、以前と変わらない。

 それでも、治療しきれていないようで、鼻が少し歪んでいるように見えた。


 あのとき、俺は正拳突きを思いっきり顔面にぶち込んだので、鼻は曲がって歯もボロボロになっていたはずだから、当然と言える。

 おそらく、歯も入れ歯を使っているのだろう。


「ワタシは、今でも無限院家の当主として当然のことをしただけだと思っている。君が来たところで謝る気もなければ、罪を犯したとも思っていない」

「お前……ッ!」

「だが、もう君たちに手を出す気も一切ない。君たちは10年前の件を告発する気がない……そうだろう?」

「……そうだ」


 俺は、マホロと話し合って10年前の件はうやむやにすることに決めた。

 俺の10年間をめちゃくちゃにしたと言っても過言ではないトオヒサに対して、怒りがないと言えば嘘になるが、そんなことよりも俺にとってはマホロが二度と傷つかないことのほうが大切だった。

 今更、事を荒立ててトオヒサと争う必要はない。


「ワタシと君が争う理由はなくなった。だから、そのように殺気を振りまくのはやめてくれ。無敵の”久遠”を破られたのは、ワタシにとって中々(こた)えたよ」

「……」


 トオヒサの言葉からは、あのとき感じた悪意のようなものが感じられなくなっていた。語気にも勢いはなく、どこか諦めたような口ぶりだ。


 ただし、もちろん、トオヒサの言葉をすべては信頼はしない。

 すべてが演技という可能性もあることは、思い知らされている。


「それに、敗北者であるワタシは、情けをかけられたに過ぎない身だ。分相応に生きることにするさ」


 自嘲気味にトオヒサが鼻で笑う。


「それで、ワタシに何の用なのかね」

「1つはもう終わった。俺とマホロに今後干渉しないという約束だ」

「分かったよ。さっきも言ったとおり手は出さない。約束するさ」

「もう1つは、10年前の大森羅僻覚法(だいしんらひがおぼえのほう)についてのことだ」

「ほう」


 トオヒサが、真面目な顔でこちらを見つめる。


「マホロは、大森羅僻覚法(だいしんらひがおぼえのほう)を魔力に介入して記憶を操作する魔法だと言っていた。だが、俺には魔力がないんだ。10年前、お前が大森羅僻覚法(だいしんらひがおぼえのほう)で記憶を操作できたのは何故なんだ?」

「魔力がない……? ハハハハハ、そういうことか」


 トオヒサが合点がいった、というように続ける。


「おそらく、君は当時、わずかとはいえ魔力を持っていたのさ。しかし、『自分の魔力のせいで巨龍が現れた』と責任を感じた君は、魔力を無意識のうちに作ることをやめていったのだろう。無意識とは、強力に自身の行動を制限する。それはワタシの”久遠”で、身を持って知ったのではないか?」

「じゃあ、今、自分の魔力がないのは自分のせいだと?」

「そうなる。だが、君は、それこそが天賦の才だと気づいていない」

「どういう意味だ」

「そうだな、ワタシが話した出日三院(いづるひさんいん)の開祖の話は覚えているかね? 当時、一番強い力を持っていたのは岩院アラマサ……」


 トオヒサは、無限院家の蔵にあった、最古の記述について語り始める。


 ――それによれば、岩院アラマサは魔力が少ない体質であったらしい。


 しかし、アラマサは大魔法使いとして知られている。使う魔法はそのどれもが大魔法であり、出日(いづるひ)の大地はアラマサの魔法で作られたという逸話すら残っているほどだ。


 さらに、その記述の続きには『アラマサが自身の魔力をなくす方法を探していた』とも書かれていた。


「おかしいと思わないか? この記述を見つけた時、ワタシはなにかの間違いだと思ったよ。魔力をなくすことに何の意味があるのかと、そう考えた」

「……」

「しかし、君のその一言で確信したよ。どのような方法を使っているかは知らないが、魔力が少ないほど強大な魔法を使う方法が存在している。そうだろう?」


 トオヒサは鋭い視線でこちらを見据えている。


「もしそうであれば、『魔力ゼロ』とは天賦の才と言って差し支えあるまい。そして、おそらく、その矛盾した力のキーになっているのは”魔眼”なのではないかな」

「何故そう思うんです?」

「今でこそ岩院(がんいん)は岩、すなわち大地すら操るアラマサの偉業を象徴した名だとされている……」


 悠久にそびえる岩を象徴する家系、それが岩院であることは、事実だ。


「だが、夢幻(ゆめまぼろし)の夢幻院が、歴史の中で無限院と名を変えたように、遥か昔、岩院は別の字を使っていた」


 岩院の家から冷遇されている俺にとって、それは初めて聞いた話だ。

 しかし、岩院(がんいん)……魔眼(まがん)……俺にも、ある程度予想することができた。


「察したと思うが、眼と書いて”眼院(がんいん)”だった時代があるのだよ」

「それだけで魔眼がキーだと?」

「推測に過ぎないがね。だが、君を見ていれば、それが真実だと分かる」


 直後、トオヒサのすべてを見通したかのような瞳に射抜かれる。


 本当に『魔力ゼロ』と魔眼の関係を見抜いているのか、それとも、ただの揺さぶりなのか、俺に推し量ることは出来なかった。


「まぁ、魔眼を持たないワタシにとっては、どうでもいいことだがね。ワタシが望んでいるのは無限院家の繁栄だけ。だからといって、君やマホロに手を出したら無限院家が潰れてしまうことだけは理解したよ」


 ふーっとトオヒサがため息をつく。


「さて、そろそろ時間だ。ワタシはサミットに出席しなくてはならない。君に負けようが、ワタシは無限院家当主……その責任を放棄する気はない」


 そう言うと、もう俺の話を聞く気はないといった様子で、トオヒサは立ち上がってサミットに向かう準備を整え始める。


「さぁ、もう行ってくれ。本当は君と話すのも嫌なんだ。君に負けて失った自信を取り戻さなくてはならないからね」


 イメージや思いが効果に直結する魔法において、自信とは大切な要素だ。

 トオヒサが俺と話すのを嫌がるのも、理解できる。


 もし、トオヒサがまだマホロに手を出すつもりがあるのなら釘を刺すつもりだったが、あの様子ならすぐに手を出してくることはないだろう。

 争う理由がなくなったというのは、本当の話だ。


俺は「ありがとうございました」とだけ言うと、トオヒサの部屋を後にする。


 ……部屋を出る時、トオヒサが何かを呟いたが、何事もなくトオヒサとの話し合いが終わり、気が緩んだ俺の耳にそれが届くことはなかった。


天岩院(てんがんいん)……”天眼(てんがん)”……まさか本当に存在していたとはね……」


作者である自分は、今まで数々の世界を救ってきた勇者です。

当然、【評価ptの数だけ戦闘力が上がる】チート能力を保持しています。

というわけで、広告の下にある☆☆☆☆☆より評価をしておいてください。

約束ですよ。

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