トオヒサとの対話を終えて
俺は、その話を聞いて当主としての立場を考えれば、分からなくはないと思った。本当は、俺は被害者のはずだが、なんせその時のことを覚えていないのだ。
どこか他人事のように感じてしまうのも仕方のないことだった。
一方でマホロは、当主としての責任を理解しながらも、そのやり方が気に食わないようだった。
「だからといって、幼いユウタくんにまで手をかけるのは許せないッ!」
「先程からユウタくんユウタくんと煩いな」
トオヒサがピシャリと言い放つ。
「お前も、無限院家の跡取りだと言うことを忘れたか? これだから、ワタシがいつまで経っても当主の座を引退できぬのだ。確かに、ユウタを利用したことは謝ろう。しかし、これが当主としての責任なのだとなぜ気づかない!」
トオヒサは俺の方を向き、続ける。
「なに、君には本当に悪いことをした。申し訳ない。ワタシだって、本当はこんなことはしたくなかったさ。だが、当主の立場というものは、多くの責任によって雁字搦めにされるのだ。それは理解してほしい」
「ええ、それは分かっています」
「もちろん、謝罪だけでは納得がいかないだろう。だから、ワタシはこの件を公表することにしようと思う。出日に戻ったら、出日三院で会議が行われるから、そこでこの件は報告する。岩院家の者には許してもらえないかもしれないが、できる限りの償いはしよう」
トオヒサの目は、真剣そのものだった。
最初の頃のこちらを茶化すような空気は消え、そこには一族を代表する責任を背負った、無限院家の当主が居た。
「分かりました。そういうことであれば、俺から言うことは何もありません」
俺は、正直にそう答える。
確かに、トオヒサの言い分は開き直りに思えるものだ。
しかし、過ちを受け入れて謝罪した者を許さないほど、狭量ではない。
「ユウタくん!! コイツはユウタくんの記憶を……!」
「マホロ、もう良いんだ。トオヒサさんだって、この一件を公表すれば大きなバッシングを受けるだろう。それでも謝罪して公表を約束してくれたんだ」
「……」
「俺に魔法の才能があったこと、それと、俺がマホロを大事にしていたこと……この2つを知れただけでも、俺にとっては価値があった」
「ユウタくん……」
マホロは、優しい目で俺のことを見てくる。
それでも、マホロはどこか納得がいっていない様子だったが、俺がこの件を終わりにしようとしているのを察して、トオヒサに食ってかかるのをやめた。
トオヒサはその様子を見て話が一段落ついたことを感じたのか、立ち上がり、棚から箱を取り出して、その中を漁り始める。
「話はこれで終わりかな。君たち、馬車で来たんだろう? もう遅いから、周囲を照らす魔道具を持っていくと良い。暗い道でも馬車で走れる優れものなんだ」
トオヒサが取り出したのは、ランプのような形をした道具だった。
「これは、流した魔力に応じて光を放ってくれる道具でね。馬車を走らせられるほどの光を放つ特注の品さ。本当はここに泊めてあげたいところだけど、ここにいるのは本来なら大問題だからね。さぁ、気をつけて帰りたまえ」
そう言うと、トオヒサは俺に魔道具を手渡してきた。
俺は、それを受け取るとトオヒサにお礼を言う。
「わざわざ、ありがとうございます」
「いや、こちらこそすまなかったね」
こうして、俺とマホロはトオヒサの部屋を後にする。
最初こそトオヒサを嫌な奴だと思ったが、話してみれば意外と分かる人だった。
俺は、話し合いが無事に終わったことに安堵を覚えていた。
作者である自分は、今まで数々の世界を救ってきた勇者です。
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