10年前の真実を確かめに行かなくてはならない
どうなっているんだ?
俺が魔法を使っていた?
そんなはずはない。俺は、生まれつき魔法が使えないはずだ。
それに、巨龍を倒したのは無限院トオヒサであり、俺ではないはずだ。
「巨龍を倒したのはマホロの祖父じゃなかったのか?」
そんなわけないよ、と笑うマホロ。
その笑みは、嘘をついていないように思えた。
だとすると、マホロは巨龍討伐の功績によって無限院家の影響力が強まっていることを、家から知らされなかったとでも言うのだろうか?
何かがおかしい。
「その後はどうなったんだ?」
「その後はね……」
マホロが俯き、小さく「その後は……」と呟く。
「その後は…………その後は……その後は、その後はその後は」
マホロが焦ったように言葉を紡ぐ。
「なんで!? どうして!? 私が……ッ! 私が! ユウタくんとの思い出を忘れるはずがないッッッ!!!」
「落ち着け!」
「そうだ……そうだ、そうだそうだそうだ! 思い出したッッ!!!」
マホロがバッと顔を上げる。
「あのあと、トオヒサ御祖父様に呼ばれたんだ……ッ!」
「今まで……ずっと……覚えていたのに、思い出せなかったッ!」
「でも、そんなわけない! 私が、ユウタくんとの思い出をすぐに思い出せないなんて、絶対に絶対に絶対にありえないッッ!」
「私の記憶は、その時に書き換えられていたんだッッ!!」
マホロが布団から身を出し、ベッドに座る。
「無限院家の記憶操作魔法は、完全ではないんだよ。強い思い出であるほど、書き換えるのが難しい。だから、強い思い出を消したい時は、記憶の中身を変えるんじゃなくて、『その記憶を思い出さない』ように変えるんだ」
つまり、マホロは祖父に記憶を消されていたとでも?
「そして、あのとき、呼ばれたのは私だけじゃなかった」
マホロが、俺を見る。
「もしかして、ユウタくん……御祖父様に、何かされてない?」
「俺が、マホロの祖父に、記憶操作の魔法をかけられた……そう言いたいのか?」
「ユウタくんは、10年前のこと、覚えてるよね?」
俺は、マホロの語る10年前の出来事を思い出そうとしたが、無理だった。
小さい頃の記憶などあやふやで、覚えていないのが普通だと思っていたから、考えたこともなかった。
「ごめん……マホロ、思い出せない。10年前のことは、何一つ」
ギリ……とマホロが奥歯を噛み鳴らす。
「そう……そういうことだったんだね。許さない……許さない……ッ!」
マホロはベッドから立ち上がると、玄関の方へと数歩進み、そして、振り返る。
「ユウタくん、真実を確かめに行こう」
「行くったって……どこに?」
ここから故郷の出日までは遠い。
今から考えなしに発ったところで、たどり着けるような場所ではなかった。
「ユウタくん、今日から何が行われているのか、それは忘れてないよね?」
「……統一国交会議」
考えてみれば、統一国交会議には各国の重鎮が出席する。東方で強い支配力を持っている無限院家の者が来ていないはずがない。そして、無限院家は、未だにマホロの祖父トオヒサが当主を務めている。
「今から会場まで向かえば、今日の会議が終わる頃に到着するはずだよ。だから、この件を、トオヒサ御祖父様に、直接確認する」
「サミット中は警備が固いんじゃないか。そんな簡単に会えるのか?」
「会うよ。絶対。それに、私に考えがあるの」
マホロの意志は固そうだった。
俺は、状況を整理して考える。正直、情報が多すぎて混乱していた。
話をまとめると、俺の幼い頃の記憶は、無限院家当主であり、マホロの祖父である無限院トオヒサによって何らかの手が加えられているらしい。
そして、その真相を確かめるために、トオヒサの居る統一国交会議の会場へと今から向かおうというのだ。
確かに、それが真実だとしたら大きな事件だろう。
巨龍を倒したのが本当に俺であれば、トオヒサは巨龍討伐の功を俺から横取りし、東方での影響力を高めた形となるし、孫の記憶すら改ざんしている。
だが、10年前のことは全く思い出せないし、現実感が一切なかった。
しかし、マホロの話の真偽はどうあれ、当事者であるトオヒサに話を聞く必要があるのは確かであろう。
それに、ここで俺が行かなかったとしたら、マホロは一人で行くに違いない。
マホロが俺のこととなると暴走してしまうことは分かったばかりだし、マホロの足は依然として怪我が治っていないのだ。
マホロを一人にするのは不安だった。
「分かった。今日使った馬車がまだ外に停めてある。それに乗っていこう」
俺とマホロは、馬車に乗って統一国交会議の会場へと向かった。
作者である自分は、今まで数々の世界を救ってきた勇者です。
当然、【評価ptの数だけ戦闘力が上がる】チート能力を保持しています。
というわけで、広告の下にある☆☆☆☆☆より評価をしておいてください。
約束ですよ。




