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1 婚約破棄された私

あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!


暴力シーンがあります。

「エリザベス・テューダ! 俺は、お前との婚約破棄を宣言する!」


 顔しか取り柄のない馬鹿皇子ニコライ・ラズドゥノフは、私、ベスことエリザベス・テューダに指を突きつけると、そう宣った。


 ここは大陸の北にある大国、ラズドゥノフ帝国、貴族の子女が通うラズドゥノフ学園の大広間だ。


 今日は学園の卒業式で、その後に開催されたパーティーの最中、顔だけの馬鹿皇子はやってくれたのだ。


 私はラズドゥノフ帝国から西に位置するテューダ王国の王女だが皇子の婚約者(「だった」になるのか?)であるために一年前から留学している。


 祖国では貴族の子女が通うテューダ学院を飛び級で五年前、十歳で卒業した。


 ラズドゥノフ学園でも飛び級制度があるので、それを利用し最終学年の高等部三年から編入した。なので、高等部三年生で十八歳の皇子もだが私も卒業生の一人だ。


 ニコライ皇子は短いプラチナブロンドにアイスブルーの瞳の長身痩躯の美形だ。現皇帝ピョートルの唯一の子供だが皇太子ではない。


 テューダ王国のように能力至上主義ならともかく血統を重んじるラズドゥノフ帝国で皇帝の唯一の子供である彼が皇太子になれないのは、彼が顔しか取り柄のない馬鹿だからというのもあるが、その彼とは比べものにならないほど優秀な皇弟(こうてい)イヴァンがいるからだ。


 臣下達の間では次期皇帝が皇子派と皇弟派で分かれているという。


 そんな皇子だからラズドゥノフ帝国以外の大陸の国々を傘下に治めたテューダ王国の王女である私を婚約者に迎えたのだ。血統だけでは皇子が皇帝になれる見込みがなかったからだ。


 だのに、こんな公衆の面前で、そのテューダ王国の王女である私に対して婚約破棄宣言をやらかすとは。廃嫡になっても文句は言えない。


 事前に「皇子が卒業パーティーで婚約破棄宣言するかもしれない」と教えられていた私は冷静でいられたが、それ以外の大広間にいる人々は突然の皇子のありえない宣言に動揺している。


「婚約破棄ですね。承知しました」


 事態を終わらせるために私はそう告げた。


 こんな公衆の面前でやらかしたのだ。どちらにしろ、私との婚約は破棄され皇子は廃嫡されるだろう。


 皇子が何の過失もない婚約者の王女に対して一方的に婚約破棄してきたのだ。テューダ王国はラズドゥノフ帝国に対して大きな貸しができる。


 それだけは、よかった。


「え?」


 皇子は間抜け面になった。


 自分から婚約破棄宣言しておいて、どうしてそんな反応なのだろう?


 不思議に思ったが婚約者でなくなったのだ。皇子が何を考えていようと、もうどうでもよかった。


「それでは失礼いたします」


 私は王女らしく完璧な一礼をしてみせると出入り口に向かおうとした。


「ま、待て! 理由とか知りたくないのか!?」


 どういう訳か追いかけてきた皇子に私は淡々と言った。


「どうでもいいです」


 それに理由なら察しはつく。


 卒業パーティーに、こいつは婚約者の私を放ってアーニャ・カナーエフ男爵令嬢をエスコートしてきやがったのだ。


 アーニャは私と同じく小柄で華奢でありながら私と違って出るべき所は出ている女性美の極致の肢体(……羨ましい)、金髪碧眼の可憐な美少女だ。


 婚約破棄宣言の時もアーニャは皇子に寄り添うように立っていた。


 アーニャは高等部一年の十六歳。皇子は彼女が気に入ったらしく最近では婚約者(わたし)を放って彼女とばかり過ごしていた。


 それでいいのかと親切面して進言してきた生徒達がいたが、正直どうでもよかった。むしろ馬鹿王子のお守りをせずに済んでアーニャには感謝していたくらいだ。


 どうせアーニャと結婚したいから私との婚約を破棄したいというのが理由だろう。


 その結果、自分は皇太子になれないどころか廃嫡されるとは夢にも思っていないのだろう。考える頭があるのなら、そもそも公衆の面前で婚約破棄宣言などするはずもないが。


「お前は俺がこのアーニャに心奪われたのを許せず、散々彼女を苛めただろう!?」


 皇子は、どうしても「理由」を言いたいらしく喚きだしたが、それはありえない。


 ……誰に何を吹き込まれたのか。こいつは自分のお気に入りの発言は碌に確認もせず鵜呑みにする所がある。


 アーニャは、その可憐な容姿と皇子のお気に入りという事で学園内で知らぬ者はいない。それで私も顔だけは知っていたが実際には彼女と一度も接触していない。そんな事は大半の人間が知っている。私も皇子の婚約者でテューダ王国の王女という事で常に注目されているのだ。私とアーニャが接触していれば誰だって気づく。それで私が彼女を苛めているというのは無理がある。


 それに、何より私は皇子(こいつ)を愛してない。


 そんな事は私の皇子に対する態度で分かるはずだ。皇子の前では特大の猫を被っていても、その態度は政略で決められた婚約者に対するに相応しい、よそよそしく儀礼的なものだった。それで愛していると思うなら見る目のない馬鹿以外の何者でもない。


「そんな女は次期皇后に相応しくない! よって俺はお前と婚約破棄し、このアーニャと結婚し次期皇后にする!」


(……何言ってやがるのかしら? この男?)


 私は内心、王女らしくない悪態を吐いていた。


 顔だけの馬鹿皇子が皇太子、そして皇帝になれるのは、テューダ王国の王女である私と結婚するのが絶対条件だのに。


 婚約者だった皇子の前では特大の猫を被って、おしとやかな王女として振舞っているが、前世の私は異世界の日本国の十六歳の女子高生(JK)大池桜子(おおいけさくらこ)だった。


 十六歳の誕生日であり命日となった四月八日、双子の弟、桃梧(とうご)と高等部(私と桃梧が通っていたのは幼稚園から大学まである私立の一貫校だったのだ)の入学式に向かう途中、弟と周辺にいた人々と共に暴走車にはねられ、気がついたら今生の母親のお腹の中、胎児になっていた。……あれは衝撃だった。精神は十六歳のJKが胎児になっていたのだから。


 難産だったが何とか生まれる事ができ十五年(来月、()しくも前世の誕生日と命日である四月八日が今生の誕生日で十六年になる)前世とは違いすぎるこの世界の王女として生きている。


 胎児(最初)から前世の人格(わたし)だったせいか、この世界の人間、特に王女としては異質な思考回路だし、ふとした時に素が出てしまう。《脳筋国家》であるテューダ王国でなら問題ないが男尊女卑なラズドゥノフ帝国では歓迎されないだろうと公衆の面前や皇子の前では特大の猫を被って、おしとやかな王女を演じていた。


 学園でも最初はそうしていたが親しくなったのは揃いも揃って人を見る目がある人達だったので今では素の私として接している。皇子の前で猫を被っていた理由は、初対面から偉そうな彼が嫌いだからというのもあるのだ。好きな相手なら最初から素の自分を見せている。偽りの自分を好きになられても意味がないのだから。


「だが、お前が今までの非を詫び許しを請うなら妾妃にしてやってもいいぞ!」


 皇子のどや顔とその科白に私はとうとう切れた。元々お父様やお兄様達のように冷静沈着ではないのだ。


 皇子が本当に卒業パーティーで婚約破棄宣言しやがったら私が皇子に何をしてもお咎めなしという皇帝からの言質はすでにもらっている。


 なので、遠慮しない事にした。


《脳筋国家》の王女を怒らせたら、どうなるか思い知るがいい。


「寝言は寝て言え。バーカ」


「は?」


 おしとやかな王女としての私しか知らない皇子は私の科白が理解できないらしく、ぽかんとした顔になった。


 そんな馬鹿皇子に速足で近づいた私は、こうなった時のために用意していた鉄扇(拳だと痛めるから)で唯一の取り柄であるその顔を思いっ切り殴ってやった。


 油断していた皇子は思いっ切り吹っ飛んだ。


 周囲が騒然となるが、私は構わず床に倒れた皇子の胸倉を摑んで起こすと彼の耳元に口を近づけた。自分の都合のいい言葉しか耳に入らないステキなお脳をお持ちの皇子様なので誤解しようのないほど、すっぱりはっきり言うためだ。


「許しを請うも何も、私はあんたをまるっきり、これっぽっちも、全く、全然、愛してないから嫉妬して苛めるなどありえないんだよ。バーカ」


「……愛してない?」


 なぜか皇子はショックを受けた顔をしている。


 政略で決まった婚約であり、初対面で「このおれとけっこんできるなんて、こうえいにおもえよ! ブス!」と宣った相手を(その時は私が皇子をぶん殴る前に、皇帝が皇子に拳骨を落とした)どうして愛せるどころか好きになれると思っているのだろう?


 その顔の良さだけで好きになるのは、余程脳内が空っぽの女性だけだろうに。


 おまけに私は前世でも今生でも外見も中身も彼とは比較にならないほど素晴らしい男性達に囲まれて育ったのだ。容姿だけの男になど興味はない。


 ……何より絶対に手に入らないが、愛している人がいるのだ。


「第一さあ、浮気した自分を棚に上げて婚約者のいる男にすり寄る浮気相手(アバズレ)を苛めたとか公衆の面前で責めるって、どうなの? 挙句『許しを請うなら妾妃にしてやってもいいぞ』? お前、何様のつもりだ? ああん?」


 私は皇子を突き飛ばして再び彼を床に倒すと彼の頭を履いていたハイヒールで、ぐりぐりと踏みつけた。


 どこからか「ああ、女王様! ぜひ、わたくしにも同じ事を!」という男性の野太い声が聞こえた気がしたが……きっと気のせいに違いない。うん。


「……お、お前! 俺にこんな事して、ただで済むと思っているのか!?」


「陛下からの許可は頂いている」


 私の足の下で顔が腫れた皇子の喚きを私は一笑に付した。


「……父上が?」


 皇子は愕然としているが、皇帝である彼の父親が彼を愛してないどころか関心すらないのは一目瞭然だ。なぜ十八年も一緒にいて分からないのだろう?


 ……私は赤ん坊だった私を抱いたお父様を見た時に、お兄様二人は物心ついた時に、お父様が最愛の女性との間に生まれた我が子である私達を愛してないどころか関心すらない事に気づいたのに。


 まして、皇帝は私の母、テューダ王国王太女、エリザベス・テューダ(私は形式上の祖母と母の名前を付けられた)ことリズを愛しているのだ。私が敵に回したくないテューダ王国の王女である事を抜きにしても、愛している女性の娘であり彼女に酷似した私を何とも思っていない息子より優先するに決まっている。


「私の祖国、テューダ王国でも似たような事があってね」


 自分の浮気を棚に上げて公衆の面前で婚約者に対して浮気相手を苛めたとか糾弾し、挙句、婚約破棄宣言した馬鹿(おとこ)がいたのだ。


「公衆の面前で、ありもしない事を糾弾され婚約破棄宣言された彼女は、婚約者とその浮気相手をフルボッコしたけど」


 伊達に《脳筋国家》と言われている訳ではない。男女共に論破するよりも拳で片を付ける人間が多いのだ。


 私の言いたい事が馬鹿皇子でも理解できたのだろう。彼の腫れた顔が真っ青になった。


「や、やめてくれ!」


 私は、にっこり笑って鉄扇を振り上げた。


「十発で済ませてあげる」
























 






 































































 





 























 







 









 





 










 

























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