塔
塔
堅固な塔が今、崩れ落ちた。
ありえない事だ。塔が崩れただと?
この世の大半の人間は、まず目を疑うことだろう。そして、神に問う。
そこに、神はおられなかったのですか、と。涙を流し、張り裂けそうな胸をおさえ、絶望する者だっているはずだ。
崩れてはいけないのだ。美しく、壮大な、塔は。塔は我々の希望だった。
そしてその希望は静かに欠片となった。割れて、塔ではなくなった。
深い悲しみの涙にくれる人々を見て、神はまた塔を建てた。今までにない程素晴らしい塔を、人々は歓喜で迎えた。
いつしか、過去に塔だった欠片は、気づかぬ足に踏み砕かれ、地へとかえった。
新しい塔は、風に吹かれ、雨に打たれても、びくともしなかった。人々は喜んだ。これで安心だと、と。
ところがある時、神が自ら塔を壊した。崩れ落ちた塔を見て、人々は、再び悲しむこととなった。
崩れた塔はもう塔ではない。人類には塔が必要だった。存在していなければいけなかった。
人々は塔がなくなってしまった原因を、深く恨んだ。そして滅ぼそうとした。
しかし人類は、神に近づく術を持っていなかった。その手は、天に届かなかった。
大きな階段を作ればいい。そう言った人がいた。その階段を上っている時、風に吹かれたら落ちてしまう。
人々はその意見を受けいられなかった。雨だって降る。そう言った人も少なくなかった。
家をたくさん重ねればいいじゃない。小さな子供が言った。確かにそうだ。
人々はたくさんの家を重ねたような建物を作った。そしてできるだけ、天へ近づこうとした。
人類は気付かなかった。今まで自分たちは、塔を作ろうともせず、ただそれを欲しがっていただけだったと。
そしてその塔を利用しようとはせず、知らぬうちに神として崇めていたことを。
そして今、神を滅ばさんと、神を造ろうとしていることを。神はこう思うだろう。
私はなんだ。神なのか、塔なのか、それとも塔を建てる塔なのか。私は塔ではない。神であるはずだ、と。
ーーーーーENDーーーーー
作ーかえるの神様ー
編集ーきつねのるかー
最後までお読みいただき
ありがとうございました
これからは長編も書いていく予定なので
なにとぞよろしくお願いします。