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娼婦の謝罪





「ジルバ……」



馬車から降りたユースの眼前には正しく礼をする美しきジルバが居た。


「いいえ、ユース様。わたくしはルイーシュ・ボルザーグと申します。お会い出来て大変光栄ですわ」

クスリと蠱惑的にルイーシュは笑った。

ユースは大混乱していたが、一つだけ分かった事があった。

「私が嵌められたのはジルバ……いや、ルイーシュ嬢だったんだな。……だが、何故?」

ユースが狼狽えて問うと、ルイーシュは背筋をピンと伸ばして答えた。

「婚約者の殿方にお会いしたいと思う気持ちはいけない事でしょうか?わたくしのようなじゃじゃ馬を二つ返事で貰うと言ってくださった方にずっとお会いしたく思っておりました。けれど、貴方様はいつまで経ってもお会いしてくださらない。ですので、伯父様をキュッと捻って訳を聞き出したんですわ」

総司令官をキュッと捻る事が出来るのはじゃじゃ馬では優しすぎるだろうと思ったユースであった。









その後、スカーレットの取り成しで、場所を応接室に移す。

そこには、娼館の支配人と、いつかに会ったジュリエッタという娼婦が居た。

二人は丁寧に礼をすると、名乗った。

「カルデット様、ボルザーグ家の執事をしております、コナーと申します。カルデット様に行った数々の無礼をお許しください」

コナーが深々と頭を垂れる。

「ジルバと申します。カルデット様、ルイーシュお嬢様からの依頼といえカルデット様を謀りました事、誠に申し訳ございませんでした」

本当のジルバは確かに赤毛の肉付きのしっかりした女性であった。

二人はルイーシュの座るソファの後ろに静かに移動した。

「今回の件は総てわたくしの企みです。スカーレット伯父様以外のジルバさんも、コナーも、娼館の者たちも大反対でした。それでもどうしてもユース様と直接言葉を交わしてみたくて無理を言って付き合わせてしまったのですわ」

槍玉に挙げられたスカーレットは首を竦める。

「一応、ルイーシュに会うように勧めたんだが、ユースは問題が解決するまでは会わぬと言うし。ルイーシュも我慢の限界だったのだ。元々堪え性のないルイーシュなだけに抑えきれなんだ。すまんの、ユース」

スカーレットは眉尻を下げ、両手を拝むポーズで謝罪の意を示すが、目と口は完全に笑っていた。

「普通にお誘いしてもお会い出来なかったので、わたくし考えましたの。ユース様の問題を解決する、ないしは理解が出来ている事がお伝え出来ればよろしいのではないか、と。そこで、コナーとジルバさんと仕込みをした娼館に伯父様からユース様を誘導していただいたんですわ」

ユースは黙してルイーシュの話しを聞いた。

「最初は、初めてお会いした日に種明かしをするつもりでいました。お人柄と、ユース様の状態を少しでも理解出来ればと思って始めたんですけれど、思いの外娼館街の活気が楽しくって。田舎にずっと引きこもっておりましたから、開放的な空気が楽しかったのです。それから、《ジルバ》という娼婦に対するユース様の態度が心地良かったのです」

そう言ってからルイーシュは遠慮がちに、でも、と言葉を続けた。

「わたくし間違っておりました。男性のナイーブなご事情に身分や名を偽り、しゃしゃり出て。ユース様を深く傷つけてしまいました。周りの者にも迷惑をかけてしまいました。ユース様が、《ジルバ》に対する愛情を注いでくださるたびに愚かなわたくしは悲しくなってしまうのです。とんだ茶番に付き合わされているのはユース様の方ですのに」

ルイーシュは一粒涙を零した。

スカーレットがギョッとして、何故かユースを睨んだ。

「ユース様、こんな無作法者、婚約を解消されても文句は言えません。こんな結果になってしまい、申し訳ございませんでした。素晴らしいユース様の経歴に傷を付けてしまいました」

ルイーシュはなるべく感情的にならないようにする為か、言葉を確かめるように淡々と謝罪したようだった。



「責任を取ってもらうしかありませんね。ルイーシュ嬢」

ユースはルイーシュの瞳を見つめ、そう告げた。





★★★





この日は素晴らしく晴天であった。


天の祝福を受けるかの如く、晴れ渡った空に白い鳥が群れで羽ばたいた。


ユースはバージンロードを父親に引かれ静々と歩く新婦を見つめている。

教会の天窓から差し込む光が新婦の長いトレーンに当たり、弾けて乱反射している。

新郎であるユースの独占欲は並々ならぬものがあり、新婦が極力肌を晒す事に不快を示した。

その為、昨今のウェディングドレスにしては流行とは真逆の流れを汲む総レース仕上げの一分の隙も無いドレス。

父親からユースに渡されて、神父の誓いの言葉をおざなりに進める。

そして、新婦のベールをユースが上げると、肌の露出がほぼ無いドレスと新婦の神々しいまでの美貌が相まって参列した者らを圧倒した。

白い騎士団の正装を着たユースとは正に完璧な一枚の絵だった。

ユースは新婦をじっくりと見つめ、

「約束を破りましたね?」

と告げる。

「破るつもりはいつだってないの」

新婦は怯みながら答える。

「でも、約束は約束だ。他の人を魅了しないという約束を貴女は破ってしまった。守れない約束をしてしまった貴女が悪い。……ルイーシュ、悪い女だ」


ゆっくりと二人は誓いの口付けをする。


割れんばかりの拍手や祝いの言葉。

ユースはルイーシュを横抱きに幸せ一杯に見つめる。

ルイーシュも、ユースを満面の笑みで見る。




「ルイーシュ、ルイーシュ、永遠の私だけの。私を惑わす悪い女」








end

これで一先ず終了です。お付き合いくださりありがとうございました!!!

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