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疑惑の娼婦






「んっ?!ちょっと待て、ユース!経緯を説明しろ」

騎士団総司令官、スカーレットを前にユースは淡々と語った。

「はっ。以前より総司令官に相談しておりました、遅漏の件でご紹介いただいた娼館に行って参りました。そして、件の名器と迎合し、結婚する事にしました」

そう、散々引き伸ばしたが、ユースは遅漏なのである。


スカーレットは、なんだコイツ?という目でユースを舐め回すように見る。

そして、何かを思い付いたように、ユースを問い詰める。

「んー?では、俺の姪のルイーシュは要らぬと申すか?」

ユースは些か取り乱し、こほんっと咳を一つする。

「ルイーシュ嬢には大変申し訳なく思っておりますが、嫡子を臨む為に自分だけでは無く、女性に多大な心労を掛ける自分などは到底おすすめは出来ません」

スカーレットはニヤリと皮肉げに笑い、ユースを見る。

「で、良かったのか?ジルバは」

ユースはへにょりと色男らしからぬだらし無い顔になる。

「良かったも何も、まだ何もありません!」

「そんな馬鹿なっ。お前ちゃんと付いとんのか?!」

スカーレットは驚愕する。

「まずは彼女を身請けしたく思います!自分の妻が私以外に肌を預けることに我慢出来ません」

「しかし、カルデット家はどうするのだ?到底娼婦など受け入れまい」

スカーレットの言う事も最もであった。

下位の男爵子爵ならいざ知れず、侯爵家のカルデット家嫡男の立場では無理だろう。

「はっ。弟に家督を譲り、貴族位を返還致します。彼女と婚姻した後は、騎士団の俸給で十分生活していけます」

スカーレットは非常に困った顔をしてユースを見つめ、ため息を吐いた。


「知り合って間もないのだから、焦らずにもう少し楽しむように」

と、ユースに伝えて退室を促した。

くれぐれも早まって実家に連絡などしないように、と釘を刺された。



総司令官は唯一の相談相手だった。

老齢の為か、腰を痛めた事をキッカケに不能になったと聞く。

好色ジジイと有名な総司令官は夜からは事実上の引退をせざる得ない状態になってしまったのだ。


ある時軍議の後の酒の席でポロリと告げられてから、下半身紳士同盟を組んだ仲だ。

その流れでスカーレットの姪のルイーシュを勧められたのだ。


スカーレット曰く、非常に心根が優しく、少々豪胆であるらしい。

そして見目は非常に麗しいが、その気質がある為、領地から殆ど出ず暮らしているという。

ユースは自分の恐ろしく遅漏な下半身で大抵の女性はユースが達する頃には足腰が立たなくなってしまうので、スカーレットの姪に申し訳が立たないと言って一度辞退した。

しかし、スカーレットは田舎の野山で鍛えた健脚であるルイーシュなら大丈夫であろうと太鼓判を押して更に勧めた。

ユースとルイーシュの気質を良く理解するスカーレットの申し出に二度目の辞退は出来なかった。


更にスカーレットは、目の玉が飛び出るほどルイーシュは美人であり、欲情しない男などいないと言った。

案外遅漏も相手に対する精神的なものではないか?と慰められ、ユースは顔も知らぬ令嬢を娶る事を決めたのだった。

カルデット家は、名将スカーレットの姪ならば、と両親弟妹は非常に好意的に受け入れられたのだった。

両家円満な下半身紳士同盟がもたらした婚約であった。



スカーレットとは上手く話を纏められなかったが、ジルバに求婚をしよう。


そう決めて、ユースは娼館へと急いだ。










ジルバはポカンと口を開けて驚いている。


「ジルバ、結婚して欲しい。身請けに掛かる費用も準備する。どうか私を受け入れてくれないか」


ユースは、自分の瞳の色のブルーダイヤが付いた指輪を片膝をつけてジルバに差し出し、求婚した。


ジルバは目を泳がせ、えーっ、聞いてない。と呟いた。

「ユース様?私は娼婦よ?えーと、頭……」

先は言わなかったが、ユースは分かってしまった。

ユース自身も思っていたからだ。

どんな貴族よりも貴族らしいと言われたユース・カルデットが、娼婦に入れ込み求婚するなど、十分社交界の醜聞だ。

だが、ユースは折れない。

ジルバと早く愛し合いたいからだ。


「勿論、君にも色々事情もあるだろう。すぐに結論を貰わなくていい。十日だ。私は十日君の元へ通う。その後に返事をして欲しい」

ジルバは困った顔をして黙り込んだ。

そんな顔も美しい。

彼女のナカは一体どうだろうか。

達する事が出来なくても良い。

ただ、肌を重ねて眠ってみたい。

ユースはそう考えて、ジルバを寝台に引きずり込んだ。


そして今日もただ愛しいジルバを抱きしめて眠る。

今日の彼女はシルクの高級な夜着を纏っていた。

ーーークソッ!ジルバめ、どの男にこんな高級な夜着を貢がれたのだ!

ユースは嫉妬で煮え滾る気持ちを落ち着けようと、ジルバに初めての口付けをした。

ーーークソッ、クソッ、!!ジルバめ。私の趣味を察したのか!その初心な口付けが私は堪らなく興奮するのだ!

嫌な娼婦だ、とユースは初めて思った。

ユースを手のひらで転がす手練れの娼婦。

いつだって付き従う振りをして男は女に転がされているのだから。

ジルバはまるで初めての口付けのように肩を上下させながら、ユースを潤んだ瞳で見上げてきた。

ユースはジルバに翻弄されている。

そう感じることを好ましく思うユースだった。












訓練場で鍛錬を終え、副官に充てられた副官室に入ろうとしたところ、呼び止められた。

「やあ、ユース。最近入れ上げてるらしいじゃないか。えーっと、確かジルバという名器」

不躾な男はスピアという同じく副官の優男だ。

「退勤後のことまで共有する必要があるのか?」

ユースは冷たく言い放つと、スピアは肩を竦める。

「どんなに素晴らしいのかとこの前行ってみたんだが、なかなか良かったよ」

ユースは目の前が真っ赤になる感覚がして、気付いた時には医務室に居た。


軍令違反の乱闘騒ぎを起こしたユースは十日間の軍務停止命令を受けた。

スピアは七日間の停止だ。

副官同士の闘争という事で、かなり事態は悪かったが、スカーレットの取り成しにより、減俸降格は無かった。


スピアもジルバも悪くない。


ただの客と娼婦だ。


だが、ユースは他の客は付けるなと十分な金銭を渡した筈だ。

高級娼館がどうして?

ユースは一つの疑問があり、ジルバが客を取らない日に娼館を訪れたのだった。










受付にいる男性はいつもの支配人ではなかった。

ジルバの名を告げ、支払いを済ませると、いつものジルバの部屋とは違う部屋に通された。



いつもは笑顔で迎えてくれるジルバは居ない。

今日は予約で一杯で、少し待たせると言われた。



ジルバが居ない間に様々な事を考えていた。







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