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浪矢の異世界転生旅行記(改)  作者: 無なる者
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雨の記憶


7 雨の記憶


ザザー ザザー

ぴちゃ ぽちゃ


雨粒が社の瓦の屋根を伝い地面へと流れ落ちる。

人気ひとけもない参拝者なども来る気配すらない。黒く寂れ忘れさられた社で一人と一匹の黒い犬が賽銭箱の前で雨宿りするかのように寄り添っていた。

黒い犬は少年の隣に脚を畳み座り。その犬の主人とおもわられる幼い少年は静かに賽銭箱前の木製の段差に足をかけ行儀よく座っていた。

そんな光景を矢崎霧乃君(浪矢)は透けた体で浮遊したまま遠目で観察していた。



暫くして幼い少年の肩が小刻みに震えだす。


「うう··寒い····。」


ぴと


幼い少年の隣で黒い犬の黒毛の胴体が身を震わしている幼い少年の身体に触れる····。


「クロ··ありがとう····。」


幼い少年は隣で寄り添うように座る黒い犬に笑顔で返す。


ワン! ワワン!

(どう致しまして!。ご主人!。)


黒い犬は少年の笑顔を見ると嬉しそうに長い黒い尻尾を揺らす。


「雨。やまないねえ····。」


少年は社の段差の上で雨粒が流れ落ちる空を見上げる。


「おじさんとおばさんに黙って家を出てしまったけれど···。もう··戻れないね··。」


幼い少年はクロという黒い犬にぎこちない笑顔をつくる。


ウ~ワン! ウ~!ワワン!

(あんな奴ら出てって正解でしたよ!。ご主人!。)


幼い少年の腕や顔には痛々しいほどの青アザや打ち付けられたような打撲が何箇所か見受けれた。



「こんな山奥まで来てしまったけれど···。これからクロと一緒に頑張っていこうね。」

ワン!ワワン!

(はい!ご主人!。)


雨粒が無情に流れおちる社で幼い少年とクロという名の黒い犬はじっと雨粒が落ちる山の景色を眺めていた。


「クロ、ここはねえ。社と言って神様が住まうお家なんだよ。雨宿りするために土足で勝手に社に入ってしまったけれど。神様もきっとそれくらい許してくれるよねえ?。」


幼い少年は眉を寄せ心配そうにクロに問いかける。


ワン! ワワン

(大丈夫ですよ!。ご主人。)


クロは尻尾を振り元気よく返事をする。

幼い少年は笑顔で再び空を見上げる。


「神様はねえ。人の想いを紡ぎ。人の想いを汲み取って願いを叶えるんだって。パパとママが言ってた。」

ワウ? ワオン?

(そうなんですか?ご主人?。)



パパとママという言葉を発した直後。幼い少年の表情が急に悲しげに曇る。

少年の顔はゆっくりと下を向きふさぎこむ。


「ううっ··ひっく··パパとママに逢いたいよ····。」


幼い少年は嗚咽を漏らし喉が震える。

涙を流す行為さえも少年は身体を力ませ耐えるように強く堪えていた。


く~ん····

(ご主人····。)


クロという黒い犬はそんな初めて弱味をみせた主人である幼い少年の姿を哀しげに見守っていた。


ザザー ザザー

雨水が静かに流れ落ちる。


「クロ··僕··少し疲れたよ···。少し休むね。」


痣が残る顔で幼い少年はそう呟くとそっと頭を隣にいるクロの黒の毛皮の肩辺りに預ける。


「·····。」

オウ··オオン····

(お休みなさい。ご主人····。)


クロは優しく鳴いて返事をする。


ザザー 

雨粒が静かに社に流れ落ちていく。

クロは暫くじっと社の賽銭箱前に座ったまま。日の光が当たらぬ曇った空を眺めていた。


ザーーーー ザーーーーー


ウオ···オオン···オン···

(雨··止みませんねえ···。ご主人···。)


「········。」


クオ·····?

(ご主人····?。)


ふとクロは隣で自分の黑毛の胴体に寄りかかり。休んでいる筈の主人の少年に違和感を感じた。眠っているとはいえ。息遣いで主人の幼い身体から僅かにながらでも鼓動がするはずなのに。今の主人である少年の身体は一切動いてはいなかった。それよりも何故か幼い主人の体温が段々と冷たくなっているような気がした。

クロは心配になり。黒い鼻先を幼い少年の口元に近づける。


·············っ!?


··あっ··ああっ···あ··ああっ···。


クロは少年の鼻先を近づき気づく。

主人である幼い少年の鼻と唇から呼吸も息遣いも一切していなかったのだ。ただ主人である少年の幼い顔は笑みを浮かべ安心したかのように眠っているようにみえた。だがしかし少年の唇も鼻からも一切空気の行き来はなかった。まるっきし無であった。


何故···何故··何故···

クロは何度も同じ言葉を繰り返す。


あんなに優しい主人があんなに明るい主人があんなに誰にも好かれそうな純粋な主人が。何故こんな目にあわねばならないのかと。何度も何度も何度も自問自答を繰り返し。そしてクロはさっき主人に教えられた神が住まう社を思い出す。


ワォ~~~っ!ワンワン! ワォ~~~ワンワン!


クロは何度も吠えた。何度も叫んだ。何度も何度も、後ろの神が住まう社に神をいることを信じて。何度も吠え。何度も叫び。何度も懇願し何度も願った。


ワォ~~~!ワンワン!ワォ~~~~!ワンワン!

(神様!!。そこにおられんるのでしょう!。何故!··何故!··何故!···。何故ご主人がこんな目にあう!。ご主人が何をしたっていうんだあああっ!!。)


クロの想いをぶちまけるように雄叫びを上げる


ワォ~~~~ワン! ワォ~~ワンワン! ワォ~~~っ!

(頼む神様!。私はどうなっても構いません!。どうかご主人をこんな辛い悲しい運命にしないでくれ!。父様ちちさま母様ははさまがいたあの幸せな日々に戻してくれ!。)


ワン!ワンワン!ワンワン!ワンワン!


何度も社に向けてクロは吠え続ける。

喉がかれるまで喉が切れるまで何度も願い。何度も吠え何度も叫び続けた。

暫くして社で長く吠え続けたクロは喉が渇れ。掠れ声で息切れするまで吠えた。

わずかな声の力を振り絞り神様に懸命に訴える。


··オウ····オン···オウ····

(··神様···頼む··頼む··お願い··だ····。)


クロの黒い首が低く項垂れ頭を垂れる。。


ザーー ザーー


社に雨が静かに流れおちる。

まるでクロを悲しみを形容するかのように雨はクロの周りを無情に流れ続けた。


ザーーーーーー ピタッ!


突然社に響いていた雨音が止む。

社から一切の音が消え。その代わりしんを貫くような情を込めぬ厳格な冷たい声が社中に響いた。



  “··その願い叶えてやろう······”



その言葉が響くとフッと社に雨水が流れ落ちる景色がブラックアウトし消える。

ゆっくり意識が蘇り瞼が開かれる。そこには黒い炎を纏う巨大な黒い犬の顔が覗いていた。黒い犬の頭には虫のような小人、蚤童子もいる。

巨大な黒犬の隣にはラベンダー色の髪と瞳をした闇月乃姫ジュネが隈と目皺の瞳を涙で滲ませていた。


《気がついたか·····。》

闇照やみてらす様·····。」


俺はゆっくりと地べたに横になっていた身体を揺り起こす。

自分が穢れに呑み込まれたのだと悟る。


「ろうやっ!?。」


バッ

闇月乃姫ジュネはいきなり俺の懐に抱きつく。

俺は抱きついた闇月乃姫ジュネのラベンダー色の長い髪を優しく撫で宥める。

ふと何か右手の平に硬いものが握られていた。

右手をすくいあげ握っていたものを確認する。

それは人魂のような形をした石であった。水晶のように光輝き。人魂の尾のようなものが曲がり。それはまるで勾玉のようだった。


《それは私の魂の一部を結晶化させて石にしたものだ。これを持っていればある程度の穢れに耐性にはなる。》

「そうですか······。」


自分の不甲斐なさと足手まといになってしまったことを矢座霧乃君(浪矢)を悔いる。


「矢座霧乃君の中に入っていた穢れは全て私が吸収した。もう大丈夫だ。」

「そうですか·····。」


ポロ ポロ 


「お、おいっ!?。小僧どうしたんだっ!?。」


蚤童子が驚愕する。


「えっ?。」


俺はそっと自分の顔の頬に手を添えると涙が零れ落ちていることに気づく。

止めどなく瞳から涙が溢れ流れ落ちていた。


「ろうや!誰に虐められた!。虐めた奴絶対に潰す!!。」


闇月乃姫ジュネは俺が誰かに泣かされたと勘違いして隈の瞳をぎらつかせる。


「何か··涙が止まらないんです!。とても哀しくて辛くて胸が苦しくて涙が止まらないんです。」


雨が降る社にいた幼い少年と黒い犬との悲しい別れ。そして喉を壊すほどの願いを込めた黒い犬の雄叫び。今になって浪矢は悲しみがあふれてきた。


《穢れの影響かもしれない。じきに治まるはずだ。》

「はい·····。」


矢座霧乃君(浪矢)は涙を拭う。

そして浪矢はじっと闇照のフサフサの黒い犬顔を見つめる。

あのクロという名の黒い犬···。

あれはもしかして····


《どうかしたか?。》


闇照は矢座霧乃君の視線に気付き問いかける。


「いえ、何でもありません···。」


子女思兼神シメヤカネ様!?。」


青年は穢れに呑まれ穢れ神になっていた子女思兼神シメヤカネ様を呼び掛ける。シメヤカネは境内の石畳の床で小さく倒れていた。お人形サイズの女神様は眠るように瞼を閉じていた。


パチッ

急に子女思兼神シメヤカネ様の瞼が開かれる。

子女思兼神シメヤカネ様は立ち上がりゆっくりと宙に浮かび上がる。


「坊····。」


子女思兼神シメヤカネは青年の姿に気付くと名前かあだ名のような名を呼んだ。


「良かった···子女思兼神シメヤカネ様。本当に良かった···。」


青年は嬉し涙を浮かばせ安堵する。


「どうやらあちらも無事のようだな。」


人と神様の光景に口元が緩み笑顔になる。



・・・・・・・・・・・・・・・・


「どうもお騒がせしましたの。」


境内の階段下前で朱い着物を着た小さな女神様はお辞儀をし謝罪する。


《いえ、穢れ神は誰にでもなる可能性があります。お気を付けて下さい。》

「どうもありがとうなの。」


子女思兼神シメヤカネ様は再びお辞儀しお礼を言う。


「本当にありがとうございました。」


青年も揃ってお辞儀をする。


《それでは我々はこれで···。》


闇照一同は別れ挨拶をすまし。子女思兼神シメヤカネ様と別れる。


宙に浮く小さな女思兼神シメヤカネ様と青年の姿が離れていく。


青年は恩人の神様を見えなくなるまで見送る。


「坊、もう大丈夫なの?。」


受験に失敗しふさぎこんでいた青年のことを子女思兼神シメヤカネは心配していた。


「はい、子女思兼神シメヤカネ様。ご心配御掛けしました。私はもう大丈夫です。もう一度大学受験頑張ってみます!。」


青年はこれ以上子女思兼神シメヤカネ様に心配かけまいと決意する。鬱という穢れも自分のせいかもしれないのに。もう俯いても挫けてもいられない。


「そう、坊なら絶対受かるよ!。ガンバ!ガンバ!。」


子女思兼神シメヤカネ小さな身なりで元気よく応援する。


「ありがとうございます。子女思兼神シメヤカネ様。」


青年は笑顔を浮かべる。


それを遠くの方で闇照の一同は聞いていた。神々は地獄耳なのである。


「闇照様、あの青年受かりますかね?。」


俺は隣でゆっくり四本脚で歩む闇照に問いかける。


《さあね。私は人間の俗世のことなど解らんよ。》

「まあ、あの浪人の青年しだいだろうよ。受験の願掛けというの殆んどが人間の実力で神様はそれを願掛けで少し割り増しにしてるだけだからなあ。結局受かるのも受からないのもあいつしだいだよ。だけど··まあ··」


蚤童子は後ろを振り向き。小さな朱い着物の女神と人間の青年楽しそうな会話をみいいる。


「あれだけ学問の女神に想われているんだからご利益がないはずはないさ。」

「そうですね。」


俺は笑いが込み上がる。

穢れによる悲しい記憶を垣間見たけど。穢れ祓いで救われた女神と受験に再びやる気だした青年をみると胸の内にあった悲しい気持ちをいつの間にかふきとんでいた。


《さあ、次の穢れのある場所に向かうぞ。その前に矢座霧乃君、やはりお主には神願術を教えねばならない。このままでは穢れ祓いもままならぬからなあ。》

「宜しくお願いします。」


黒き犬神と新米の神二人と一匹?は次の穢れの地へと向かう。


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