黒き犬神
2 黒き犬神
ドおおオン
浮かび上がった文字が不確定な歪な黒い塊に直撃し。黒い歪な塊は背伸びしように胴体を伸び大きくくねらせて怯む。
『ゲゲゲ、ゲゲ、寂しい···。ゲゲ、哀しい···。ゲゲゲ、一人はゲゲ··虚しい···ゲゲゲゲ、ゲゲゲゲ。』
不確定な歪な黒い塊は人語を発していた。しかしそれは脈絡もなく奇声に近いほど奇妙な言語であった。
「おい、そこの見たからに穴の青そうな神二人。」
何処から声がする。しかし辺りを見回しても人っ子一人見あたらない。
「ここだ!ここ、茂みの上にいるだろう!。」
よく見ると境内の庭に生えている盛り上がった草の葉っぱの表面に虫のような人がちょこんと座っていた。
「こっちに来い!。戦いの邪魔だ!。巻き沿いくらうぞ!。」
矢座霧乃君(俺)と闇月乃姫は盛り上がった草のうえの葉っぱに止まる小さな虫のような人の元に近づく。
「たく、だから半人前の神は困る。兄貴のお役目の邪魔だからここでおとなくしくしてろ!。」
庭の盛り上がった草の上に止まる小さな虫のような人は偉そうに叱咤する。
「いったい何をしているのですか?。」
状況を掴めていなかった矢座霧乃君(浪矢)は腹を立てず大人しく問いかける。
「はっ?、穢れ祓いを知らんのか?。」
「穢れ祓い?。」
聞いたことのない単語だ。ラーシアやジュネなら知っていたかもしれい。俺の場合は転生して誕生したときから今の自分の自我に目覚めるまで記憶の欠損がある。神に転生して自我に目覚めるまでに教えてもらっていたのかもしれない。
「穢れ祓いはさ迷える穢れを祓う作業だ。人間達の負の想念が具現化したのが穢れだ。上級神であらせられる兄貴と俺はその穢れを祓っているのさ。危険だから近付くなよ!。人間の穢れは神にも大きく影響を及ぼす。もし穢れに堕ちてしまえば穢れ神になりかねんからなあ。」
「穢れ神?。」
また知らない単語だ。どうやらこの日本の古事記のような異世界には独特な世界観を持っているようだ。
目の前に穢れという歪な黒い塊に対峙する炎を纏った黒い犬は人語をかえし呪文のようなものを唱える。
《御身願い奉るは不浄なる穢れ。祓い結い浄め結えと請う。想に生まれいずるは想に還り。万物の常闇へと回帰せよ。》
神願『穢れ祓い』
黒い炎を纏う巨大な黒い犬の前に文字が浮かび上がる。
複雑な繋ぎ字ような文字が巨大な黒い犬の前に現れ。繋ぎめの字と尻尾が折り重なり巨大な黒炎を纏う尾と化す。巨大な黒炎の尾を不確定な歪な黒い塊に叩き落とす。
ドォオオオ
『ゲヒャアアっっ!!。ゲゲ···一人は··ゲゲ··辛い···。」
スーーー
穢れと呼ばれる歪な黒い塊は形が崩れ黒い瘴気と化す。
黒い瘴気は空気中に漂っていたが巨大な黒い犬が近づくと一瞬にして吸い込まれ黒い胴体に溶け込む。
巨大な黒い犬はこちら気づくとゆっくりと四足歩行の脚を使い黒い炎を灯しながら近付いてくる。
「お疲れ様です。兄貴。」
草の葉に止まる虫のような小人は元気よく挨拶する。
《ああ、それよりも其方達は?。》
つきだした黒い鼻と黒い毛皮帯びた犬顔がじっと衣と袴を着る青年と着物を着る少女を見据える。
「どうやら新入りの青二才の神のようです。危ないと注意しておきました。」
《そうか···感謝する。》
「いえ、兄貴の為なら雨ん中水ん中ですよ。」
虫のような小人はぴょんぴょんと嬉しそうに跳び跳ねる。
「私達は下界に降りたばかり新米の神でございます。私は矢座霧乃君そしてこちら隣の紫の髪と瞳を宿した女神は闇月乃姫といいます。」
目の前にいる巨大な黒い犬はどうやら上級神のようなので浪矢は目上を敬う形でとりあえず自己紹介することにした。
《そうか···私は闇照だ。》
「惜しいっ!!一文字違いっ!!。」
矢座霧乃君は一瞬思ったことが口からもれだす。思ってしまったことを口走ってしまった。
「?·····。」
「すみません···。相手が上級神だったのでちょっと興奮してはしゃいでしまいました。」
矢座霧乃君(浪矢)はペコリとお辞儀して謝罪し上手く誤魔化す。
「へへ、まあ兄貴は偉大な神だからなあ。天界のお役目ではこの下界にとって重要な位置にあるしなあ。」
ぴょんぴょんと跳ねる虫のような小人は自慢気に呟く
「ちなみにおいの名は蚤童子ってんだ。」
「蚤?。」
「蚤じゃねえ!蚤童子だっ!!。」
蚤童子という名の虫のような小人はぴょんぴょん跳び跳ね憤慨したようにいきり立つ。
「蚤じゃん。」
「蚤じゃねえって言ってんだろっ!。たく、近頃の神の小僧供は口の聞き方がなっちゃいねえ!。」
蚤童子はぶつぶつと愚痴を溢す。
「······。」
ふと隣で沈黙を保っていた闇月乃姫に目が入る。
闇月乃姫はただじっと黙ったまま下瞼に隈と皺を帯びた幼いラベンダー色の瞳を目の前にたつ炎を纏う黒い巨大な犬に注いでいた。
「ジュネ?。」
闇月乃姫はスッと前に出て目の前たつ巨大な黒い犬の胸元の毛並みに触れ身を寄せる。
ぴと
「クロ(黒)····。」
「コラっ!。闇照様に向かって何という口の聞き方だ!!。」
蚤童子はぴょんぴょん飛び跳ね憤慨する。
当の闇照は何故か一瞬目を見開き驚いたが直ぐに顔色が変わり穏やかに牙の口が緩む。
《善い·····。》
「し、しかし闇照様···」
《善い。気にはせぬ。》
「解りました。闇照様がそこまで仰るのなら。」
蚤童子はひとまず怒りの矛先をおさめる。
《クロか····懐かしい名だ···。》
闇照の牙のついた大きな口許が仄かに緩む。闇照という犬の姿をした巨大な神は何故かクロという言葉に機嫌を良くしていた。
『浪矢様お話があります····。』
突然ラーシアの声が頭に響く。
どうかしたのか?。
話の最中に割り込むような真似をラーシアは本来しないのだが
会話が終了した時に思念を通して会話を始めるのだが。
『浪矢様、目の前の闇照という巨大な黒い犬神、クリエイスを所持しております。』
何だってっ!?。
矢座霧乃君(浪矢)は目を見張り。目の前にいる黒い炎を纏った巨大な犬を強く凝視する。
闇照という巨大な黒い犬の神はジュネによって胸元を優しく撫でられていた。
闇照という犬神はそれを気持ち良さそうにされるがままされていた。
こんなにもはやくクリエイスが見つかるとは···。
浪矢は直ぐに思考しどう交渉するか迷った。
クリエイスが所持しているならどうにか譲って貰えないだろうかと考える。ただクリエイスという核の入った結晶石は世界を構築する程の力を持った石である。状況によっては易々手放すような代物でもない。ここは近づいて様子見するのが得策か?。浪矢は闇照という黒い犬神に交渉の余地があるかどうかを考える。交渉が不可能なら実質戦闘も想定しなくてはならない。だが悪人ならともかくクリエイスの交渉に善者との戦闘は避けたい。穏便にすませられるのならすませたい。ここは近づきつつ信頼高めてクリエイスの交渉に持ち込むのが得策なのかもしれない。ならば互い神同士信頼高める方法としては前女神の先生である桃華咲耶姫様が言っていた上級神に仕えて奉公すると言う手もある。
矢座霧乃君(浪矢)は意を決し目の前の黒い巨大な犬神に進言する。
「闇照様、私達はまだ右も左も解らぬ半人前の神でございます。下界に降りましたがまだ自分達はどう動けば分からぬ始末です。故に是非闇照様の下につきとうございます。是非我が二人の神を奉公として付き従わせてくれませぬか?。」
矢座霧乃君(浪矢)は丁寧に時代ががった口調で進言してみる。
闇照の毛並みある犬顔の黒い瞳が薄く細める。
「話を聞いていなかったのか?。おい達のお役目は他の神のそんじょそこらのお役目とは訳が違う。寧ろ危険極まりないお役目なのだ。世界に蔓延する穢れを祓い浄化することがおい達お役目だ。穢れの浄化は穢れそのものと対峙しなくてはならない。一般的な神格を上げる神のお役目とは全く違うのだ。戦闘に特化した役目であり。穢れと対峙することは穢れ神になる危険性を秘めているのだ。」
蚤童子は自分達の坦々と説明を述べる。
また穢れ神か。穢れ神になることがそんなに恐ろしいことなのか正直解らない。それでも目の前にクリエイス所持者がいるのだから退くわけには行かない。
《私達のお役目は危険なもので神格を上げることが望みなら他の良い役目などいくらでもある。正直穢れ祓いは汚れ仕事だ。わざわざ貧乏くじを引くような仕事を引きうけなくても善かろう。》
目の前の黒い巨大な犬神は穏やかに説く。
「いいえ、私達は神格よりも是非闇照様貴方様の元につきとうございます。是非我が半人前たる我々にどうか遣えることをお許しくださいませ。」
矢座霧乃君は畏まって丁寧にお辞儀をする。
「······。」
闇照の黒い犬顔が気難しげに引き締まる。
「解った。だが私達もあるお方に遣える身。その方の許し得たなら私達についていくことを了承しよう。」
「ありがとうございます。」
矢座霧乃君(浪矢)は深くお辞儀する。
「私達も報告の為に天界に戻る。そのついででよいか?。」
「はい!。あの···自分達は天界に降りたばかりなので戻り方が解らないのですが。」
「···ふむ、まあしかたあるまい···私の背中に股がるがよい。」
闇照は巨大な黒い毛並みに背中をみせる。
「宜しいので?。」
外見は巨大な黒い犬だとしてもれっきとした自分達よりも格上の上級神である。浪矢は失礼でないかと思われた。
「構わぬよ。その方が移動が楽だし。蚤童子も移動するとき私の頭にいつも乗せているしなあ。」
「寛大なる闇照様のお心遣いに感謝せよ。」
蚤童子はぴょんぴょん闇照の頭上で跳ねながら偉そうに述べる。
「解りました」
矢座霧乃君(俺)と闇月乃姫は巨大な黒い炎を纏った巨大な犬の姿をした神の背中に股がる。
《では行こうか。》
ダッ!!
闇照は前足と後脚を強く蹴り天空を舞う。
ひゅー~~るる~~
風音が耳に流れ下界の畑や神社の気色がみるみる小さくなる。
「闇照様お聞きしたいことがあるのですが?。」
《何かね?。》
俺はすぐにクリエイスの所持をしているかの確認をすることにした。交渉は闇照という神がクリエイスをどれ程価値を身言い出しているかによる。
「核というか円球が入った結晶石を知りませんか?。」
「円球の入った結晶石?。知らぬなあ。このかた私はお務め一筋でなあ。女性が好みそうな宝石類には縁がない。」
「そうですか····。
矢座霧乃君(浪矢)は眉をよせ難しげに押し黙る。
どういうことだ!?。どうみても隠しているという雰囲気じゃない。クリエイスを所持しているのにクリエイスを知らないなんて有り得ない。クリエイスを欲するものは殆ど何らかの野心野望を持っていた人種だった。色んな異世界で旅をして大半は悪巧みをする敵対者が所持していた。そうでないことも稀にはあったが
『浪矢様、その事に関して重大なお話が有ります。』
突然ラーシアの真剣な面持ちの声が頭に響く。
ラーシアこれはどういうことだ!?。闇照という神がクリエイス所持しているんだろ!?。なのに本人が知らない何て。
『浪矢様、確かにその黒き犬神がクリエイスを所持しているのは確かです。ただそのクリエイスがその犬神の魂と因果レベルで結合しています。』
何だって!?それはどういうことだっ!!。
浪矢はラーシアの言葉に絶句する。
理解できなかった。クリエイスが魂と結合している。確かにクリエイスという石を前の異世界の敵対者どもは悪用したり力を蓄えたり。振るったりしていたが。クリエイスそのものを魂まで結合するなど初耳である。
『浪矢様、その黒き犬神にはクリエイスが何故か魂レベルで結合されているのです。この所業は自然ではなく人為的に行われたものだとおもわれます。』
何だって!?何のために·····。
闇照という犬神本人がクリエイスを知らない以上力を蓄えたり力を振るうという野心がないなど明白である
『私にも到底理解できません。確かにクリエイスは巨大な力を秘めています。世界を創造できるのですから当たり前なのですが。ですがクリエイスを魂の因果レベルまで結合させるなどその身体の負荷は多大なものと想われます。もし一歩間違えれば魂いえ存在そのものを消滅する可能性に繋がるのです。そんな危うい橋を渡らせるなど私には到底理解に苦しみます。』
普段冷静なラーシアの言動でも今は動揺を見せていた。
当然であろう。自分だって理解に及んでいないのだから。
ラーシア、今度のクリエイス回収はどうするんだ?。
魂の因果レベルまで結合したクリエイスの回収する方法など正直解らない。
『それに関しての報告です。魂と結合した身体からクリエイスを回収する方法···それは···。』
それは?····
ラーシアの発する声が息を飲む。
『闇照という黒き犬神を殺すことです!。』
「なッ!?。」
浪矢は絶句し思わず実際の口から声が漏れだす。
ラーシアから告げられた衝撃な事実に浪矢暫く身体が硬直し凍りついたように動けなかった。




