練習作1
いつもの学園、いつもの日常・・・それがある転校生が転校してきたことで一変した。
これはそんな男子学園生の物語である。
この物語の主人公は一人の平凡な男子学園生である、南本 明である。
彼は今日もまた眠りの帳から覚めようとしている。
「うーん・・・なんか、変な時間に目が覚めちまったな・・・まあ、いいか!少しゲームしてから登校するかな!」
明はゲーム機を取り出すためにクローゼットをゴソゴソしている。
「あーれ?ない・・・?また親父勝手にやったな、気にはしてないけども」
明は生粋のゲーマーなのだ。
特定のジャンルのゲームでは世界的にも少しは名の知れた存在だったりもする。
「2回はマルチ行けるかな?っとゲームの前にトイレ行ってくるか」
(よし・・・ゲーム機はどこにあるのかなあー?)
明は家の中をゲーム機を探して歩き回った。
「・・・どこにいったんだ?」
どこを探してもゲーム機は見つからない。
それはそのはずである、ゲーム機は明の部屋のクローゼットの奥の方に移動していたのだ。
明はそれを見逃してしまったようだ。
「もしかして昨日奥の方に放り込んじゃったか?」
とりあえずは思い出したようだ。
明は一度自室に戻ってまたクローゼットの中を探し始めた。
「お、あったあった!良かった!そういえば昨日眠すぎて適当に放り込んだんだった・・・」
明は一応、ベッドに置いてある目覚まし時計を確認してみた。
「うわ・・・もうこんな時間かよ、ゲームできなかった・・・」
時刻は8時半、遅刻確定である。
「もういいや、洗顔と歯磨きと着替えだけして行こう!ご飯は昼多めに食えばいいし!」
明は慌てて学園に行く準備を始めた。
明が学園に到着したのは一時限目が始まる一分前だった、もちろんホームルームは遅刻である。
「つ、つかれた・・・久しぶりに全力で走ったぜ・・・」
明は家から学園まで全速力で走って登校した。
「お?明が遅刻とは珍しいこともあるもんだな、どうしたよ?」
明の後ろの席の悪友が聞いてきた。
「ああ、変な時間に起きたから2戦ぐらいマルチしてから来ようと思ったんだけど、ゲーム機探すのに時間かけすぎて気づいたら8時半になってたんだ」
「なんだいつものか」
「このー、いつものとはなんだいつものとはー」
明は笑いながら答える。
「そういえばホームルーム来れなかった明は知らないだろうから言っとくけど、今日転校生来たぜ?」
「ほう?転校生とな?してそれはどんな人だい?」
「とりあえず、女の子とだけ言っておこう!」
「そして席は・・・お前の隣だ!」
明は一気に眠気と疲れが吹き飛んだ。
なにより明はあまり女子とは接点が無いのでどうしたらいいのか分からないのと、どんな女の子なのかという期待で意味が分からない感じでハイテンションになりかけていた。
「おい、明!職員室から戻って来たみたいだぜ!」
教室の扉の方を見るとそこには凄く可愛い女生徒がいた。
その女生徒は注目されるのが恥ずかしいのだろう、下を向いて少し縮こまりながら自分の席へと歩いてきた。
明と悪友は小さな声で話す。
「・・・明はあの子みたいなのが好みか?」
「・・・ああ、凄く好みだ!」
明も何故か下を向いてしまう。
すると転校生の女生徒の方から話しかけていった。
「あ、あの・・・初めまして、転校生の水谷 姫乃です・・・よろしくお願いします」
「う、うん、こちらこそよろしくね!」
悪友は明に耳打ちをする。
「なんだ?お前らしくもない、どうしたんだ?」
「いや・・・ただ、緊張してるだけだよ・・・」
「はっ!お前が緊張とはね!」
「ほっとけ・・・」
その日の授業は全く頭に入ってこなかった明であった。
「あの・・・明さん、学園の案内を頼めないですか・・・?」
放課後、明は姫乃にそんなことを言われた。
「え!?あ、ああ、いいよ・・・!」
(いきなりすぎてびっくりした・・・)
「案内か・・・どこから行こうか?」
明は頭の中に学園の案内図を展開してみた。
(まあ自分の教室から近い順でいいか)
「じゃあ、水谷さん付いて来てよ」
「は、はい」
「そして最後に学食兼購買だね!ここは昼になったらかなり混むから俺はあまり来ないんだけどね」
明は笑いながらそう言った。
「明さんはいつもお弁当なんですか?」
「いや、コンビニで適当に何個か菓子パン買ってるだけだね」
「・・・あの、明さんはどの辺りにお住まいなんですか・・・?」
いきなりのことで明は変な声を上げてしまう。
「うへぅ!?・・・な、なんでかな・・・?」
「実は富士枝町に越してきてまだそんなに経ってなくて・・・同じ町内だったら案内してもらおうかなって・・・」
「あ、ああ!そう言うことな!いいよ!」
(いきなりデートのお誘いかと思ったぜ・・・)
富士枝はほとんどが住宅街で一部が駅の近くに大型商業施設などがあるどこにでもあるような町である。
正直あまり案内するような所もないのである。
「といってもほとんどただの住宅街だからなあ・・・駅の方に行ってみる?」
「はい、お願いします」
明は姫乃と連れ立って学園を出た。
「俺も富士枝に住んでるんだけど・・・水谷さんは富士枝のどこら辺に越してきたの?」
「え、えーっと・・・二丁目の辺り?・・・に越してきたんです」
「近いじゃん!俺も二丁目だよ!」
明も姫乃も家が近いことを知ってびっくりしていた。
「じゃあさ、水谷さんはゲームとかやったりする人かな?」
明は仲良くなりたいからなのか趣味の話を持ち出した。
「やります!明さんはどんなゲームをしてるんですか?」
「俺はFPSとかアクションとかをよくやるね!ときどきシミュレーションとかRPGもするよ!
「私もFPSはよくやりますよ!もしかしたら何度もゲーム内では会ってるかもしれませんね!」
段々会話が弾んできていた。
「じゃあ!提案なんだけどメールアドレス交換しないか?ゲームやるとき誘うからさ!」
明は思い切って提案してみた。
「はい!いいですよ!ゲームのフレンド登録もしたいですね!」
姫乃があっさりOKして明は一瞬だけ思考がフリーズした。
「・・・んあ?フレンド登録?いいねじゃあ家帰ったらID送るから探してみて!・・・そろそろ駅に着くよ!ここら辺だけにカラオケ屋とかゲーセンあるから同年代も多いんだ、大型のお店もこの辺りにしかないし」
夕方のラッシュでかなりの人が駅の周辺にいた。
「すごい人の数ですね・・・早めに離れましょう」
「どうしたの?」
「私、人がいっぱいいる所にいると気持ち悪くなっちゃうんです・・・」
姫乃は人混みがかなり苦手なのであった。
「そういうことね!了解、公園課どこかで落ち着いてから帰ろうか」
明は家の近くの公園へと案内した。
「明さん、今日はありがとうございました」
明は自販機で買ってきたコーヒーを姫乃に手渡した。
「いいよ、それに俺も今日は楽しかったし!今日、家に帰ったら一回メールするからね!」
「はい、分かりました!」
明はすでにテンションが振り切れそうになっていた。
それを炭酸飲料でなんとか押し留めていた。
(落ち着け俺、ここでいきなりはっちゃけたらダメだ・・・!)
生まれてこの方今まで女の子との接点が全くというレベルで無かったので舞い上がっているのであった。
「今日時間があったらゲーム一緒にしましょうね!」
「了解!じゃあ、俺そろそろ帰るわ!」
「はい、私ももう少ししたら帰りますね!」
そうして明は姫乃と別れて家に帰った。
(あー、今日は多分寝れないだろうなあ・・・)
帰宅後、明は早速姫乃にメールをしていた。
「・・・よし、これで送信してみよう」
メールの文面は自分のゲーム機使っているIDとゲーム出来るかという簡潔なメールだった。
お風呂の準備をしていると早くも姫乃から返信が来た。
「おおう・・・返信早くてちょっとびっくりしたぜ・・・」
明はスマホに届いたメールを確認してみた。
「お?もうフレンド申請送ってくれたんだ!何もかもがなんか早いなあ!」
(というか可愛い顔文字とかハートがいっぱい・・・もしかして・・・脈アリか!!?)
メールの文面を確認して、嬉しすぎてバタバタしていた。
「おい!バカ明!うるさいぞ!」
バタバタしすぎて親に怒られる明であった。
(メールの方の水谷さんが素なのかな?)
明は純粋な疑問としてそんなことを考えていた。
「まあ、考えても仕方ないか・・・お風呂と晩御飯済ませた後ゲーム出来る?っと」
メールを送ってまたすぐに返信がきた。
「お!いいですよ・・・か、楽しみだな!準備出来たらまたメールするね!・・・送信!」
そのあとお風呂と晩御飯を速攻で済ませた明であった。
「よし!ゲーム機の準備もできたし準備できたよ!ってメールしないとな!」
明はいつも以上に気合が入っていた。
「初めて女の子とゲームするんだ・・・いい所見せないと!」
ゲーム機の電源を入れてフレンド申請を見てみる。
「これかな?・・・え?このID・・・ランカーの中のランカーじゃないか!?」
明はフレンド申請が届いているIDを見て震えあがった。
(まさか水谷さんがあのランカーだったとは・・・)
「手合せしたことはないけど噂は世界中で囁かれてる・・・」
(いったいどんなプレイングをするんだろう?)
明は慄きながらもフレンド申請を許可した。
そして早速ゲームを起動して姫乃にパーティーとゲームへの招待を送った。
「く・・・手が震えてやがるぜ・・・」
明は柄にもなくゲームで緊張していた。
それはそうである、一緒にゲームをする相手が全世界的なランカーであり女の子でもあるのだから。
(水谷さんの動きを見て勉強させてもらおう!)
そうこうしていると姫乃がパーティーに参加した。
「あ、水谷さん?こんばんわー!」
「はい、明さんもこんばんわです!」
ふとそこであることに気づいた。
「ねえ、水谷さん、なんでいきなり名前で呼んでるの?」
「えっと・・・ダメ・・・でしたか?」
「いや、ダメじゃないけど女の子に名前で呼ばれるのに慣れてなくてなんだか気恥ずかしいだけだから・・・そのうち慣れると思う」
(ほんと俺ってそういうのに全く免疫ないよなあ・・・)
「じゃあ、名前で呼んでも大丈夫ですよね?」
明は一瞬考えてから答えた。
「うん、大丈夫!俺も慣れていくから」
「お、俺も水谷さんのこと名前で呼んでもいいかな・・・?」
言った瞬間に明は耳まで真っ赤になった。
「あ、あの・・・は、恥ずかしいですけど・・・明さんが呼びたいなら・・・いいですよ・・・?」
「じゃ、じゃあ・・・姫乃・・・さん・・・」
明もかなり恥ずかしかったようだ。
しばらく沈黙していると姫乃の方から話をふってきた。
「そ、それじゃあゲームを始めましょう?」
「そう・・だね!はじめようか!」
ゲームが終わってから明はずっと唖然としていた。
(なんだよ、あの化け物じみた強さわ・・・ランカー数人で取り囲んで攻撃仕掛けたのにものの10秒足らずで皆やられるって・・・でもあんなに物静かだった姫乃さんがあんなに楽しそうに笑ってたのは良かった)
学園にいるときの姫乃とゲームをやっているときの姫乃はかなり印象が違っていた。
「ん?誰だ、こんな時間にメール送ってくる奴は・・・」
なかなか眠れないなかな用途していると突然メールが来た。
「なんだ、あいつか・・・」
(姫乃さんからだと思って期待しちまったよ・・・)
「えーっと・・・来週水谷さん誘って遊びに行こうぜ?・・・行くに決まってるだろ!」
明は速攻で悪友に返信した。
「あー、来週の楽しみが増えたぞ!」
さらに目が冴えてしまって全く眠れなくなってしまった明であった。
「仕方ない、少しゲームでもしてよう・・・そうすれば眠れるかもしれないし」
そんなことを言い出してまたゲームをやりだしてしまう。
「ん・・・?ま、まだ姫乃さんインしてるのか・・・俺と同じ感じなのかな?」
ゲーム機の電源を入れてみるとまだ姫乃がインしたままであった。
明はさすがにこの時間に誘うのはどうかと考え招待は送らなかった。
そのまま登校時間になるまでずっとゲームをしていた明なのであった。
姫乃が転校してきてから一週間が過ぎた。
この一週間で恒例の転校生への質問攻めも大人しくなり姫乃自身も学園に慣れてきたようだ。
そして今日は明が待ちに待った席替えの日であった。
「おい、明!今日の約束覚えてるよな?」
「ああ、ひめ・・・水谷さん誘って遊びに行くって話だろ?覚えてるよ」
「誘うのは明にお願いするわ」
「はあ?言い出しっぺの法則というのがあってだなあ・・・まあ、いいや、俺が誘うわ」
そんな話をしていると担任が教室にはいってくるなり席替えをすると言い出した。
「今日のホームルームは席替えするぞー」
いきなりクラス中がざわつき始めた。
「おい明、席替えだってよ!楽しみだな!」
「おお!だな!水谷さんがまた隣なら嬉しいんだが・・・」
あとの言葉は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いていた。
「よーし!クジ作ったから皆順番に引きにこーい」
「明、後でクジどうなったか見せてくれよ、俺も見せるから、水谷さんも見せてよ!というか3人で見せ合いっこや!」
悪友はどこか子供じみていた。
しかし今はそんなことはどうでもよく、クジを引くことに全力を注ぐと明は精神統一していた。
「これだああああ!!!」
明はいきなり大声を出した。
「うお!?明、お前うるさいな!静かにしろ!」
担任に注意されて明は耳まで真っ赤になった。
(ひいい・・・皆の前で注意されるとか・・・恥ずかしい・・・)
俯き気味に明は自分の席に戻っていった。
「おい、明、何だったんだ?さっきの雄たけびは?」
「気にするなし!つかお前の番だろ?」
恥ずかしさを誤魔化す為に少し苛立たし気に言う。
「お?おお、行ってくるわ!」
悪友がクジを引きに行った後、姫乃が話しかけてきた。
「明さん、何故にいきなり大声出したんですか?私びっくりしちゃいました」
「ああ・・・絶対に後ろの方の席になりたかったからな、居眠りしやすいし!」
(姫乃さんの隣になりたい!なんて本人の前で言えるかあああ!!)
明は心の中で自分の机をバンバン叩きながらそんなことを思った。
「まあ、びっくりさせてごめんね?姫乃さん」
「いえ、気にしてませんから」
「というかあいつ遅いな、何やってるんだ?」
明は教壇の方を見てみる。
悪友は未だにクジの入った箱をゴソゴソやっていた。
「あいつ、まだ箱ゴソゴソやってるよ」
「どこか取りたい席でもあるんでしょうか?」
そんな話をしていると悪友が戻って来た。
戻って来た悪友はどこか上機嫌であった。
「なんだか上機嫌ですね、なにかいい事でもありましたか?」
「いやさ、引いたクジが今日の俺のラッキーナンバーだったんだよー!これは何かあると思ってね!」
(お前・・・子供かあるいは女の子かよ・・・)
明は心中でそんなことを思った。
「よっし!皆で見せ合おうぜ!」
「いいですよ!」
「おう、いいぜ!」
(こいつ本当にガキだなあ・・・まあ、そこがいい所でもあるんだが・・・)
「じゃあせーのっで出そうぜ!」
「常々思うんだが・・・お前ってガキだよなあ・・・」
「「「せーの!!」」」
3人が一斉にクジに書かれている数字を公開した。
「俺は12だ!今日のラッキーナンバーだぜ!」
「私は5です」
「俺は11だよ」
(ん?これって・・・姫乃さんの隣じゃないか?)
明は二人に気づかれないように小さくガッツポーズをした。
「皆クジ引き終わったか?では各自番号が書かれてた所に移動しろー!」
クジの結果、皆上機嫌だったりガッカリしていたりして見ていて面白いなと思った明だった。
「・・・なんでお前もまた一緒なんだよ・・・」
「また前と同じような感じの席の配置ですね!」
「こんなことなかなかないんじゃないか?俺のラッキーナンバーの効果だろ、これ!」
「だからお前は子供か女の子かって!」
「ははは!いいじゃねーか、また面白いことになりそうだな!」
悪態をつきながらもやはりどこか嬉し気な明である。
「明さん、明さん・・・また隣同士ですね!」
「うん、そうだな!またよろしくね!」
「はい、こちらこそまたよろしくお願いしますね!」
明は姫乃を遊びに誘うということを思いだした。
「ひめ・・・水谷さん、今日こいつとカラオケ行くんだけど一緒にどうかな?」
「今日ですか?・・・いいですよ!」
(さっきの微妙な間は一体なんだったんだ・・・?)
「今日カラオケ一緒に来れるみたいだぜ」
「ありがとね、水谷さん!」
明はその日の授業を上機嫌で受けていた。
そして放課後、明たちは駅周辺の大型商業施設に併設してあるカラオケ店にいた。
「私、カラオケって初めて来ました!」
「そうなの?」
「はい、お父さんが転勤族なのでなかなか仲のいい友達ができなくて・・・」
「そうなんだね・・・今日は楽しんで帰ってよ!」
明が姫乃と話していると悪友が小声で耳打ちしてきた。
「なんか最近お前水谷さんと仲良くないかい?」
「お前の気のせいだろ」
明は目を逸らしながらはぐらかした。
「あ、水谷さん何か飲んだり、食べたりする?」
「あー、俺ジンジャエールとポテトな!」
「私はオレンジジュースで!」
明は備え付けの電話で注文している。
「なんか水谷さん最近明と仲がいいよね?」
「はい、同じゲームが好きな者同士なんです!」
「ああ、そういう繋がりか!ちなみにさ・・・もう連絡先とか交換しちゃってるの?」
「ええ、しちゃってます」
悪友が注文中の明に近づいていく。
「・・・死にさらせやあああ!!」
明が注文し終わった瞬間に悪友の左ストレートが鳩尾に直撃した。
「・・・っ!?・・・ば、ばか・・・なんだよ・・・!」
「ふう・・・スッキリしたぜ!」
「すっきり・・・したじゃねえよ・・・かなり息苦しい・・・」
明は未だに床で転げ回っている。
「ふん、お前が悪いんだろ?まあこれで勘弁してやるよ」
「ああ・・・やっと治ってきたわ・・・」
「お前が!俺の知らない間に!水谷さんと仲良くなってるからだぞ!」
明は殴られた理由が分かった。
「理由は分かったがいきなり殴るなよ・・・水谷さんポカンとしてるぞ」
「はっ!二人とも、ケンカはダメですよ!?」
「大丈夫・・・いつも俺が一方的にやられてるだけだから!」
明は極端なレベルで非暴力主義者である。
「しかし鳩尾だけは何度殴られても慣れんなあ・・・」
「よし!俺から歌うぜえ!」
悪友がマイクを持って思い切り立ち上がった。
「大体お前が一番最初に歌うよな」
「いきなりトップギアだぜ!」
「いきなり喉破壊するなよー」
そしてカラオケ大会が始まったのだった。
「姫乃さんはどんな歌を歌うの?」
「私はちょっと古いアニメのOPとかEDとかをよく歌いますね!」
「明さんは?」
「俺もおんなじ感じかなー!」
明が姫乃と話していると注文した食べ物と飲み物がやってみた。
「えー・・・ポテト、ジンジャエール、オレンジジュース、烏龍茶です、ごゆっくりどうぞー・・・」
なんだかやる気のない店員であった。
「な、なんだかすごくやる気なさげな店員sんでしたね・・・」
「なんだったんだろうね、さっきの」
悪友は気にせずに歌い続けていた。
「まあいいや、今度は・・・」
「次は私が行きます!」
悪友が歌い終わったところで姫乃は自分が歌う歌を入れた。
「おお!水谷さんそれいくのか!俺も明もよく歌うよな!」
「だな」
明は簡単に答えながら自分の歌う歌を探している。
(姫乃さん、どんな風に歌うのかな?)
明は最初に歌う歌を見つけて入れた。
「お前、それ某ゲームのOPだろ?」
「そそ、お前そういうゲームやらないのによく知ってるな?」
「歌だけは知ってるっていうパターンな!」
「あるあるだな、それ」
姫乃が入れた歌が流れ始めた。
「よし、明!静かにしとけよ」
「わかってるよ」
そして姫乃が歌いだした。
カラオケ大会が終わり3人はおしゃべりしながら家に帰っていた。
「いやあ・・・水谷さんかなり歌上手いじゃん!俺びっくりしたよ!」
「俺の歌はどうだったよ?」
悪友が冗談めかして聞いてきた。
「は?いつも通りだよ」
「ですよねえー」
「お二人はよくカラオケとか行くんですか?」
「うん、この町この辺りぐらいしか遊ぶ所ないからね」
明は内心の興奮を抑え込みながら答えた。
(ほんとに姫乃さんの歌った歌は全部最高だったなあ!)
自分も上手くなれるように練習でもしようかと思った明だった。
「しかし・・・そこそこ遅くなっちまったなあ・・・腹減った!」
「だな、久しぶりに駄菓子屋にでも寄ってみるか?」
「お、いいね!」
「私、駄菓子屋行くのも初めてかもしれません!」
姫乃は少しワクワクしたような感じの顔でそう言った。
「水谷さんの親って転勤族って聞いたけど引っ越した先に駄菓子屋なかったの?」
「はい、何故かそんな感じの所にしか引っ越さないんですよ」
「そういう掟とか呪いでも・・・」
「なんでやねん!」
悪友とバカをしながら歩いているともう駄菓子屋に着いた。
「・・・マジか、今日はもうやってないみたいだ」
「まじかー、腹減ったー!」
「私もお腹空きました・・・」
するとどこからか小動物の鳴き声らしき音が聞こえた。
辺りをキョロキョロ見ていると姫乃の顔が赤いのが明の目に入った。
(さっきのもしかして姫乃さんのお腹が鳴った音なのかな?)
「なんかものすごく可愛い音がしなかったか?」
「あ、ああそうだな」
「そうですね・・・」
姫乃はごまかそうとそっぽを向いて言った。
「うーん・・・仕方ない今日はもう解散かな」
「だな、晩御飯食わないと腹減りすぎてヤバい」
それに明は早く帰りたい理由もあるのだった。
(この前密林で注文したゲームが届いてるはずだしな!)
「てなわけで皆の者、解散じゃ!」
「おう、また来週の月曜日なあー」
「お二人とも今日はありがとうございました!また学園で!」
皆、各自の家に帰っていった。
「おーい、親父ー!俺の荷物密林から届いてなかったー?」
「ん?ああ、届いてたぞ、よくあんなの残ってたな」
「新品のレトロゲーの本体とカセットだろ?密林でも探すの大変だったわ・・・」
明は通学用の鞄をソファに放り投げると速攻で自分の部屋に入っていった。
(しかしこれを買ったせいでヘソクリがほとんど全部消えたんだよなあ・・・)
「まあ、物が物だから仕方ないか!」
(早速、準備してプレイしてみるか!)
明は早くやりたいという気持ちでいっぱいであった。
「よっし!後は電源入れるだけー!」
(この世代の頃はまだ生まれてさえなかったからなあ・・・どんな操作感なんだろう?)
明は対戦可能なシューティングゲームを購入したのだった。
「これで直で姫乃さんとゲームができる!・・・かもしれない」
それまで特訓だとばかりにやる気を漲らせてゲームをプレイし始めた。
「あー・・・やっと操作に慣れてきた・・・」
明は今まで今の世代のゲーム機しか触ったことがないためにレトロなゲーム機の操作感にはなかなか馴染めなかったようだ。
(操作に慣れるまでに何時間もかかるとか・・・なんか凹む・・・でも面白い!)
「というか飯食ってないし、風呂にも入ってねえ!!」
明は今何時なのかと時計を見てみた。
「げえ・・・!もう三時かよ!さすがにオールする気はないぞ!とっとと飯と風呂済めせて寝よう!」
明はその前にいいことを思いついた。
スマホを取って姫乃にメールを送る。
「よし飯食お」
(というかこんな時間にメールするとか俺はバカか阿呆か!!)
明は急げとばかりにご飯をかきこんでいった。
「風呂から上がったら速攻で寝よう・・・ふあああ・・・」
明は烏の行水をしてから布団にダイブした。
するとタイミングを見計らったかのようにメールがきた。
「うわああお!?びっくりした・・・まさか姫乃さんかな?」
(お叱りのメールだろうか・・・?)
明はメールを確認してみる。
「とりあえず姫乃さんからか・・・」
(本文はっと・・・)
明は色んな意味でドキドキしながらメールの本文を見てみた。
読んでいくうちに明の思考は固まっていく。
(マジか・・・!明日姫乃さんが家に泊まりに来るとは・・・!)
「明日の午前中の間に部屋の片付けしとかないと!」
明はそう言いながら布団に入った。
「・・・あー、寝れそうにないな・・・もう静かに片付けでもしてるか、自然と眠たくなってくるだろ」
そういいながら片付けを始めた。
「しかしどこから手を付けたものか・・・」
(とりあえず机の周りからやっていくか・・・)
これを機に掃除や片付けの習慣をつけようと思った明であった。
「あー!物が多すぎてヤバい!」
「・・・とりあえず過去のプリント類はもういらないだろ」
「んお!?なんだよ、親父!?」
「手伝ってやる、うるさくてかなわん・・・」
突然の父親の登場に明はポカンとしている。
「・・・」
「どうした、掃除するんじゃないのか?」
「あ・・・うん、するする」
明はようやくはっとした。
「もしかして・・・俺が風呂入ってる間に俺のスマホ見たな?」
「・・・ああ、自分のPCがご臨終して、密林使えないからな、使わせてもらったぞ」
(この・・・俺が非暴力主義者じゃなければぶん殴ってたぞ!)
「その・・・家に招待した娘はどんな感じの娘なんだ?」
「なんだ?親父興味あるのか?」
「そりゃ、もしかしたら家族になる娘かもしれないだろ?」
明はその発言にかなり顔を真っ赤にした。
「な、なな、なんだよそれ・・・!」
「何って、お前の彼女なんだろ?」
「違うわ!バカか!姫乃さんは最近転校してきてこの辺り不案内だから色々案内とかしてあげただけだ!その時に少し仲良くなっただけだってーの!」
明は早口でまくし立てる。
「そんなに大きな声出すな!近所迷惑だろうが!」
「あ、ごめん・・・」
「まあ・・・とっとと終わらせて寝ようや、明よ」
「そうだな、親父」
そこから空が白んでくるまで片付けと掃除は続くのであった。
「明・・・今何時だ・・・?」
「今、6時丁度だよ・・・」
二人ともフラフラしている。
「姫乃さん来るちょっと前まで寝ておこう・・・」
「ワシもそうしよう・・・老体にはきつすぎるわ・・・」
二人はやっと寝ることができるようだ。
「あ、親父晩飯は一人前多く頼むな・・・」
「ああ、分かってる・・・」
(今日こそは姫乃さんに俺の想いを打ち明けるんだ・・・!)
姫乃を誘ったのはゲームだけが理由ではなかった。
「そんな、ことより・・・少しでも寝ないとほんとにヤバい・・・」
そして明はベッドに倒れこむように横になった。
明が布団に入ってから数分がたった。
「駄目だ・・・かなり眠いのに何故か眠れない・・・」
寝ようとするたびに頭に姫乃の顔が思い浮かんでパッと目を開けてしまうのだ。
「俺、いつから姫乃さんのこと好きになってたんだろう・・・?」
明はそんな答えの出そうにないことを考え始めた。
(初めて会ったときは俺がどうすればいいか分からなくて、それどころじゃなかったしな・・・)
「あ・・・考え事してたら・・・なんか眠れ・・・そう・・・」
そして明の意識は眠りの中へと落ちていった。
「あー!よく寝た!!」
明は時計を見てみた。
「午後2時、うーん、丁度いい感じの時間だ!」
(お腹もあまり空いてないしゲームでもしようかな)
買ったばかりのレトロゲームをやり始める。
「うーん・・・まだ少し操作に違和感があるなあ・・・」
明はうんうん唸りながらゲームをしていた。
「まだ並レベルな操作しかできないからなあ」
「おーい、明-、飯どうするー?」
下から父親の声が聞こえてきた。
「軽く頼むわー!」
「了解やでー」
あまりお腹が減っていない明であった。
(晩飯はいつもより多く出るだろうから腹一杯にしたら食えなくなるしな)
「しかし・・・今更だがコントローラー持ちにくい・・・」
今のゲーム機のコントローラーに慣れていればそうなるのは当たり前である。
それから少したったあと、姫乃からメールがきた。
『ちょっと急用が出来たので待ち合わせ場所に行くのが30分ほど遅れそうです。』
「用事なら仕方ないな!」
「明ー、飯出来たぞー!」
「はいよー!」
明はいい匂いのする下へ降りて行った。
姫乃との待ち合わせまであと30分程度である。
明は時間がたつにつれてどんどん緊張してきているのか、何故か表情が硬い。
「あと30分・・・そろそろ出るか」
明は待ち合わせ場所である駅前へと出発した。
家を出て程なくして姫乃からメールがきた。
「姫乃さんも今から出る・・・か、丁度いい感じに駅前に着けそうだ」
緊張で喉がカラカラだった明は公園にある自販機で何か買おうとした。
しかし昨日あったはずの自販機が何故か撤去されていた。
「マジか・・・喉渇いたな」
(まあいい、駅前行けば自販機なんて腐るほどあるしな)
再び明は駅に向かって歩きだした。
明が待ち合わせ場所である駅前に着くとすでに姫乃が待っていた。
「ごめんね!待たせたかな?」
「いえ、私もついさっき着いたばかりなので気にしないでください!」
「よかった、待たせたんじゃないかと思ったよ・・・」
明は姫乃にちょっと一休みしようと提案した。
「ちょっと喉がカラカラになっちゃってね」
「あ、ならこれ飲んでみませんか?」
姫乃から大きめの水筒を差し出された。
「これは?」
「私特性の紅茶です!あとクッキーも焼いてきましたよ!」
姫乃は小さくてかわいい袋に包まれたクッキーを明に渡した。
姫乃はクッキーと紅茶を作るために少し時間をずらしてもらったのだった。
明は嬉しすぎて思わず泣きそうになっていた。
「ほ、ほんとに貰っちゃってもいいの?」
「ええ、いいですよ!たんと召し上がれ!」
明はクッキーを一口食べてみた。
「姫乃さん、これすごく美味しいよ!」
「ふふ、ありがとうございます、明さん」
「そういえば着替えとか、パジャマは持ってきた?」
姫乃が水筒とクッキー以外に何も持っていなかったので聞いてみた。
「大丈夫ですよ、ちゃんと持ってきてます!」
「クッキーと水筒しか持ってないように見えたからさ」
「まあいいじゃないですか、そろそろ行きましょう?」
明は姫乃に急かされ、姫乃と一緒に自分の家に向かった。
「ここが俺の家だよ!」
「ここが明さんのお家ですか」
「何もおもてなしできないけど上がって、上がって!」
明は微妙に上ずった声で言った。
「では、お邪魔しますね!」
姫乃は勢いよく玄関のドアを開け放った。
「うわー、凄くいい感じのお家ですね!」
「お、いらっしゃい!明の父親です、よろしくね!」
「お、親父・・・なんでエプロン姿・・・」
明の父親が可愛い熊が縫い付けられたエプロンを付けて出てきた。
「こちらこそ、今日はよろしくお願いします!」
姫乃は明の父親にニコリと笑いかけながら言った。
「じゃあ、姫乃さん俺の部屋に行こう」
「はい、ゲーム楽しみです!」
「・・・部屋の中あまり物色しないでね?」
明は冗談めかして言ってみた。
「何か見つかるとヤバい物とかあるんですか?」
姫乃は何故か興味が出てきてしまったようだ。
「ほ、ほんとにやめてね?」
「どうしましょうか・・・?」
ますます興味津々になってしまったようだ。
(・・・これはもう何を言ってもダメかもしれない・・・)
明はそんなことを思いながら自室へと入った。
「ここが明さんのお部屋・・・ちゃんとお片付けとかしてるんですね!」
「う、うん!定期的にしてるよ!」
(ほぼ徹夜でやったなんて言えない・・・)
「私、もっと散らかってると思ってました」
そう言いながら姫乃は物色を始めた。
「あ、あのー、姫乃さん?クローゼットと机の棚とベッドのしたと本棚の本は見ないでね?」
それを聞いた姫乃はさらに物色に力を入れ始めた。
「あっ!ちょ・・・!」
明が制止する前に姫乃はクローゼットを開け放ってしまった。
「ふむふむ・・・あ、私このアニメの円盤持ってますよ!それにこのフィギュアも!このグッズも持ってます!」
「あ、あれ・・・?まさかの反応・・・」
姫乃のまさかの反応で明は動揺してしまった。
「姫乃さんも深夜アニメとかみるんだね・・・」
「はい、自他共に認めるオタですよ!」
「はは・・・隠さなくてもよかったのかあ・・・」
(俺の徹夜はなんだったんだ・・・)
「って机の棚はほんとにやめてえ!!」
明は思わず情けない声を出してしまった。
「えいっ!」
「うあああああ・・・」
机の棚を開けた瞬間、姫乃は顔を真っ赤にした。
「な、なな・・・!なんですかこれはあ!」
「だから見ないでって言ったのに・・・」
明の学習机の全ての棚はの中はエロ本で占拠されていた。
「え、ええと・・・あのですね・・・」
「なんで・・・?」
「え・・・?」
姫乃は何事かを呟いている。
「え?なんて言ってるの?」
「なんで・・・なんで、エッチな本人妻ジャンルしかないんですか!?」
明はその言葉に一瞬、呆けた顔をしてしまった。
「あのね、ちょっとだけ言い訳させて?」
「・・・いいでしょう」
(うう・・・なんだか下手なこと言うとヤバい事になりそうな気が・・・)
「その机の棚に入ってるエロ本は全部親父のなんだ・・・!」
明の部屋に微妙な空気が流れる。
「なんだ!そうだったんですね!よかった!」
姫乃は真っ赤な顔のままそう言った。
(納得して・・・くれたようだ・・・明日、姫乃さんを説教してやる!)
明が胸を撫で下ろしたのも束の間、次は本棚を物色しようとしていた。
(もう好きなようにしてくれ・・・)
「いっぱい薄い本がありますね!あとエロ漫画も!」
「姫乃さんはそういうの大丈夫なの?」
「え?私もよく読んだりしますよ!」
また二人の共通点が見つかった。
「よ、読むんだ・・・誰の作品が好きなの?」
「私はこの先生の本が好きです!」
「お!俺もその人のが一番好きだな!絵は上手い・・・というかすごく綺麗で実用性だけじゃなくてちゃんと深いストーリー性がある!」
(俺は何を語っているんだ・・・)
内心明はそんなことを思っていた。
「と、ところでもう物色はいいよね?」
「そうですね!一息ついてからゲームしましょう!」
「了解でーす!」
二人は一休みしてからゲームをやり始めたのだった。
そして夕食の時間になった。
「お二人さーん!そろそろ晩御飯だぞー!」
「はいよー!今から降りるー!・・・姫乃さん、飯食べに降りよう」
「はい、私お腹空きました!」
明は部屋のドアを開けた。
「お!なんかすごく美味しそうな匂いが!」
「ほんとですね!早く降りましょう!」
姫乃は一人で階段を駆け下りていった。
「おお!こりゃあ・・・量がすげえ・・・食べきれるのか・・・?」
「おう明、早く座れ!食えないだろ!」
「明さん!早く早く!私お腹ペコペコなんです!」
明は二人急かされながら自分の席に座った。
「しかし・・・親父よお・・・見事に肉ばっかりだな」
「二人とも育ち盛りだろ?じゃんじゃん食いなされ!」
明の眼前にはゆうに6から8人前の肉料理だけが並んでいた。
「見るだけで胸焼けしそうだな・・・しかし美味そうな匂いだなあ」
明はチラッと姫乃の方を見てみた。
姫乃は物凄い勢いで食べていた。
「ひ、姫乃さん?そんなにがっついて大丈夫?」
「らいじょうぶ、れふよ!・・・物凄く美味しいです!」
「姫乃ちゃんはよく食べるねえ!おじさん嬉しいよ!」
「私まだまだ行けます!」
(姫乃さんが食べた物は一体どこに行ってるんだ・・・)
明は少しゾッとした。
(俺も食べるか・・・)
「いただきます!」
(さあ、何から手を付けるか!)
明は目の前にあった餃子を食べてみた。
「ん!これは美味い・・・!」
「お、明も美味いか?腕上げただろ!」
「いつの間にこんな美味しいの作れるようになったんだ?」
明は純粋に驚いている。
「まあ、こんなこともあろうかとってやつだ!」
そこで姫乃が耳打ちしてきた。
「あの・・・もしかしてお母さまがいらっしゃらない・・・のですか?」
「ああ・・・俺が小さい頃に病気にね、でも死んではいないよ!入退院の繰り返しなんだ」
「さっきからお母さまらしき人が居なかったからつい・・・」
「気にしないでよ、もう慣れてるから!」
(よし!いっぱい食うか!)
明はそんなことを思いながら晩御飯を食べた。
「ふう・・・食った食った!」
「私ももう、食べられません・・・」
「いやいや、姫乃さん?いったいどれだけ食べてるのさ!」
明は姫乃の食べっぷりを思い出して微妙な顔をする。
「軽く5人前ぐらいは食べてたよね!?いつもそうなの?」
「大体大食いですよー」
「食べた物は・・・その体のどこに行ったんだ・・・」
明は父親と後片付けをしながら言った。
父親と明自身は一人前食べただけでお腹がいっぱいになっているのだ。
不思議に思うのもしょうがないと思う。
「おい明、そろそろお風呂溜めとけ」
「はいよー」
「あ、私熱めの方がいいです!」
それを聞いてから明はお湯を溜め始めた。
「姫乃さん、45℃にしたけど大丈夫?」
「それくらいが丁度いいです!ありがとうございます!」
姫乃は無意識に明に笑いかけた。
その笑顔に明は気恥ずかしくなって目をテレビの方へと逸らした。
「と、とりあえずお風呂溜まったら姫乃さんから入りなよ」
「遠慮なく一番風呂貰いますね!」
「お風呂から上がったらゲームの続きする?」
明は分かり切った答えが返ってくる質問をしてみた。
「まだまだやりましょう!」
そんな話をしているとお風呂のお湯が溜まったようだ。
「姫乃さん、お湯溜まったみたいだから入っておいでー」
「はいー、では行ってきますねー」
姫乃は一度、明の部屋に行って着替えを持ってきてからお風呂へ入った。
「おい、親父何をソワソワしてるんだよ・・・傍から見たらただの不審者だぞ・・・」
「いや・・・俺が一番風呂がよかったなあと・・・」
「お前は子供か!?」
明は父親にきつめなツッコミを入れる。
「うおおお・・・久しぶりに強烈なツッコミが・・・」
父親は頭を抱えながらうんうん唸っている。
(ちょっと強くやりすぎたかな?)
明はテレビを見ながら姫乃が上がるのを待った。
「うーん・・・おそい・・・」
(女の子のお風呂ってこんなに遅いものなのか?)
「親父ー、チャンネル変えていいか?」
「ん?いいぞー」
明は毎日見ているニュース番組にチャンネルを変えた。
「明はいつもこのニュース番組みてるな、なんでなんだ?」
「うーん・・・よく分からないけど・・・気づいたら見るようになってた感じだからな」
「まあ、ニュースを見るのはいいけど報道されてることがすべてだと思うんじゃないぞ?」
明は、父親は時々いい事言うなと思ったのだった。
「うん、分かってる」
すると風呂場の方から姫乃が戻って来た。
「明さん、上がりましたよ!いいお湯でした!」
「んじゃ、親父先に風呂入ってくるな」
「明、とりあえず上がる前に足し湯しといてくれ」
明はその言葉を聞きつつ自分の部屋からパジャマを持ってきてからお風呂へ入った。
「よし!ゲームの続きをやろう!」
明は自室のドアを開けるや否やそんなことを言った。
「はい、待ってましたよ!」
姫乃は飼い主が帰って来た時の犬のような反応をする。
それを見るだけでも姫乃を誘ってよかったと明は思った。
「じゃあ電源入れるね!」
しかし付かない。
「うーん・・・6〇特有の電源入れてもゲームが始まらないやつか・・・」
昔のゲーム機あるあるである。
明はカセットを抜いて息を吹きかける。
「あ、それやると端子がダメになってしまうらしいですよ?」
「え!マジで?」
(これが6〇の伝統的なものなんだけどなあ・・・)
明は再び電源を入れた。
「よし、今度はちゃんと起動したぞ!」
「次は敵同士でやってみませんか?」
「お!いいね、そうこなっくっちゃな!」
それから日付が変わるまで二人はゲームを楽しんだ。
「姫乃さん、そろそろ寝よう・・・もう2時半だよ・・・」
「そうですね、私も眠いです・・・」
(俺はここで寝ちゃったらいけないんだけどな・・・)
明はこの時を待っていたのだ。
しかし緊張で上手く言葉が出てこない。
「え、えーっと・・・姫乃さんは俺のベッド使いなよ、俺は布団敷いて床に寝るから」
「あ、ありがとうございます!」
(違う!こんなことを言いたい訳じゃない・・・!俺は・・・!)
「ちょ、ちょっと下から布団取ってくる!」
明は下に布団を取りに行くついでに心を落ち着けていた。
(よーし・・・だいぶ落ち着いてきたぞ・・・つか布団一式重すぎ・・・)
「今日は姫乃さんに告白するんだ・・・!」
明はようやく自分の部屋の前に着いた。
「ごめーん、姫乃さんちょっとドア開けてー」
「はーい」
姫乃の返事のあとすぐにドアが開いた。
「ふう・・・布団重たかった・・・」
布団を下ろして布団を敷こうと部屋の中を見て明は驚いた。
「うわ・・・なんか俺のベッドがかなりぐちゃぐちゃに・・・」
(なんでこんなにベッドわやってるんだ?)
「姫乃さん、俺のベッドで暴れたりした・・・?」
「い、いえ、そんなことはしてないですよ!?」
明が聞いてみると姫乃は体をビクリとさせた。
(なんか怪しいけどまあ、追及することでもないか)
「よいしょ・・・よし、布団敷き終わったから寝るか」
(まだ寝れないけど・・・)
明は心中で告白のタイミングを計っている。
(そろそろかな・・・)
明は一世一代の大博打を打つ人間並みに色々振り絞って声を出した。
「あ、あの、姫乃さん・・・?起きてるかな?」
「はい!?なんでしょう?!」
明らかに姫乃の声が上ずっていた。
「俺、これから大事な話するから聞いて欲しいんだ」
「はい・・・」
姫乃の返事を聞いてから話を始めた。
「単刀直入に言うけど・・・俺、姫乃さんのことが好きだ・・・!いや、大好きだ!」
しばらくの沈黙の後に押し殺したような泣き声が聞こえてきた。
「ど、どうしたの!?なんかごめんね!もしかして嫌だった?」
「ち、違うんです・・・これは嬉し泣きなんです・・・!」
また少しの間、沈黙が流れる。
「え・・・っていうことは・・・オッケーってこと・・・でいいのかな?」
「はい!こんな私でいいのなら・・・お付き合いしましょう!」
「ありがとう、姫乃さん!これからは恋人としてよろしくね!」
明は嬉しさのあまり姫乃の手を握っていた。
「あ、あの・・・手・・・」
「あ!ご、ごめんね!嬉しくてつい・・・」
「いえ、私もいきなりで驚いただけですから・・・よければ朝まで握っててください・・・」
姫乃は赤くなりながらそんなことを言った。
「うん、分かった・・・姫乃さんの手柔らかくて暖かいね・・・」
「あの・・・明さん、隣に座ってくれますか?」
姫乃は言った。
「ちょっと照れくさいけど座るよ」
明は嬉しそうにはにかみながら姫乃の隣に座った。
すると姫乃が明の肩に頭を寄せてきた。
「明さんの肩大きくて、安心します・・・」
(姫乃さんと密着してる・・・!ヤバい、すごいドキドキしてる・・・!)
「姫乃さん俺、今心臓すごいバクバク言ってる・・・」
明の体温がどんどん上昇していく。
「私もすごくドキドキしてます・・・」
姫乃は明の手を自分の胸に触れさせた。
「ほら・・・すごく、ドキドキしてるでしょ・・・?」
その行動に明は一瞬かなり驚いた。
「姫乃さん!?何してるの!?」
「・・・」
しかし姫乃は何も言わない。
「・・・うん、姫乃さんも俺と同じなんだね・・・鼓動がすごく伝わってくる・・・」
明は姫乃の鼓動を感じて安心感や安らぎを感じていた。
「なんだろう・・・姫乃さんの鼓動感じてると・・・すごく落ち着ける・・・」
(ダメだ・・・色々落ち着いてきたけど・・・眠たくなってきた・・・)
「姫乃さん、俺眠たくなって・・・きたよ」
姫乃からの返事はなく変わりに規則正しい呼吸音だけが聞こえてくる。
「姫乃さん?」
明は隣にいる姫乃を見てみた。
「すぅー・・・すぅー・・・」
「寝ちゃったのかな・・・?」
(はは、可愛い寝顔してるな・・・しかしこの手どうするかな・・・)
明は姫乃の胸の上にある自分の手をみた。
「このまま寝るのもやぶさかではないが・・・起きた後がちょっと怖いなあ・・・」
(起きてる本人の前では言えないけど胸、結構あるんだな、姫乃さんって・・・)
明は眠りに落ちる前にそんな不純なことを思っていた。
「俺も・・・もう寝よう」
早朝5時、明は目を覚ました。
そのすぐ後に姫乃も目を覚ます。
「「・・・」」
二人は気恥ずかしくなって起きた時から沈黙したままである。
「あの、明さん・・・私かも一つ大事なお話があります」
明が顔を洗おうと部屋を出ようとしたとき、姫乃が話を切り出してきた。
「ん?何?姫乃さん」
「あの・・・昨日言えなかったんですけど・・・私、来月転校することになりました、親の転勤です」
明はそのことを聞いた瞬間に思考が停止した。
「・・・え?今なんて・・・?」
「来月転校するんです・・・」
明は部屋のフローリングの上に崩れ落ちた。
「なんで・・・それだったらあの時オッケーしなくてもよかったんじゃ・・・」
明は泣きながら言葉を絞り出した。
「明さん・・・泣かないでください、私だってこのままこの町に留まりたいんですよ?」
「そうだよな・・・俺が何言ってもどうこうなるようなことじゃないよな・・・」
明は項垂れ、声を殺して泣いている。
「私、向こうに行っても貴方のことを忘れません・・・!」
「おーい!お二人さーん!朝ごはんできたぞー!」
父親の一声で明はハッとした。
「・・・!・・・ご、ごめん、なんか取り乱しちゃって・・・ご飯食べに降りよう!」
明は少し無理をして明るくそう言った。
「はい・・・明さん、無理しないでくださいね・・・?」
明はその言葉を聞き流して下に降りた。
「「「いただきます!」」」
「あ、私ご飯食べたら帰りますね!」
「そうなの?もうちょっとゆっくりしていけばいいのに!」
父親は笑いながら言う。
「あはは、今度来ることがあったら何か持ってきますね!」
「お土産かい?気なんか使わなくていいのに!」
明はモソモソとパンを齧っている。
「ん?このパン・・・父親が焼いたのか?なんかいつものパンじゃない気がする」
明はいつも食べているパンではないことに気づく。
「ああ、今日初めてパン焼いてみたんだが、どうだ?」
「美味しいよ!ほんとに初めて焼いたのか?」
明は今まで食べたどのパンよりも美味しいと感じた。
「ほんとに美味しいです!また食べに来たいです!」
「おお、おいでおいで!いつでも待ってるよ!」
朝ごはんは父親のパンのおかげで和やかに終わった。
明は姫乃を家まで送ったあと父親と自室にいた。
「なあ、親父・・・姫乃さん来月転校するみたいなんだ・・・」
「・・・ホントか?」
「ああ・・・せっかく告ってオッケーもらったのにさ・・・」
明の落ち込み具合は凄まじかった。
「だろうな、お前が告白するの聞こえてたぞ、声が大きかったからなあ」
「うぐ・・・まあいい、それよりどうすればいいのかな・・・?」
明は父親に相談していた。
「それはお前次第じゃないか?お前のやりたいようにやってみろ!」
「俺次第、か・・・ちょっと考えてみるよ」
「おう、頑張んな!」
父親は明の部屋から出て行った。
「俺に出来ること・・・か」
明はそのことを考えすぎてその日は一睡も出来なかった。
(でもとりあえずの答えは出たような気がするぞ・・・!)
朝、明は眠い目を擦りながら授業を受けていた。
「おい、明そんなに眠たいのか?かなり船漕いでるぞ・・・」
「明さん、今日当てられる日じゃ?」
明は完全に寝ていて反応がない。
そして額を机にぶつけて起きるという痛い起き方をしてしまった。
「おでこ痛い・・・」
「なんだ、お前・・・いつ寝たんだよ?」
「寝てない・・・」
正直いって体調が優れない明であった。
「・・・ちょっと考え事してたら徹夜になっちゃったパターンだよ・・・」
「考え事って・・・私に関係してたりしますか・・・?」
「・・・?ちょい待ち!二人ともなんか怪しいな・・・?」
明と姫乃はあからさまに動揺した。
「な、何を言ってんだよ!?」
「そうですよ!?」
「うーん・・・ますます怪しいなあ・・・?」
明はかなり慌てた。
「よし、取引と行こう!」
「明さん、明さん!取引とかしてる時点でもうアウトですよ!?」
「取引か、いいだろう・・・」
悪友は何故か話に乗ってきた。
明は姫乃に聞こえないように悪友に耳打ちした。
「こちらは自分の秘宝級の本を全部くれてやるから何も聞かなかったことにしてくれ・・・!」
「うーむ・・・しれなら・・・いや、それとホントのことを言ってくれればこのまま引き下がろう」
「くっ・・・そう来るか・・・それならこちらも・・・そうだな・・・この前貸した5000円返してくれ・・・」
「・・・」
「あー・・・もう!分かった、言うよ!俺と姫乃さんは付き合ってる・・・というか付き合うことになった!」
「マジか・・・!姫乃さんおめでとう!そしてお前には・・・この!裏切り者めええええ!!!」
明は悪友に一番の急所を強打された。
「・・・!・・・っ!?」
「明さん?どうしたんですか?なんだかすごい悶えてますけど・・・?」
「明は今、女の子には分からない痛みに悶えてるんだよ!」
悪友が明を睨みながら言った。
「お・・・お前・・・種なしになったらどうするんだよ・・・大丈夫そうだけど・・・」
「大丈夫だ、ちゃんと加減はしてある!」
「・・・なあ、一回お前の脳みそかハラワタ抉り出してやろうか・・・?」
明は割と本気で怒っているようだ。
「は、明さん、落ち着いてください!」
姫乃は思わず明の手を握っていた。
「・・・!・・・バーサーク化するところだった・・・ありがとう姫乃さん」
「あの・・・明さん、そろそろ姫乃さんって呼ぶのはやめて、姫乃って呼んでください・・・」
姫乃は赤くなりながらそんなことを言った。
「ば、姫乃さん!?いきなりそんなこと言うと・・・!」
明は周囲のクラスメイト(主に男子を)見てみた。
「ほら、こいつら俺をめっちゃ睨んでる・・・」
男子たちは明に対して強い嫉妬と軽い殺意の籠った目で睨んでいる。
「ご、ごめんなさい・・・」
姫乃はシュンとなった。
「うわわ、そんなつもりで言ったんじゃないから、そんなに落ち込まないで!」
「うーん・・・俺、置いてけぼり・・・」
「・・・おまえらー、今授業中だぞー・・・?」
午前中の授業はハチャメチャで終わった。
放課後、明、姫乃、悪友の3人は家の近くの公園で談笑していた。
「明、お前昼休みめっちゃ揉みくちゃにされてたな!」
「笑いごとじゃねーよ・・・何が起きるかと思ったらすごい質問攻めにあってだなあ・・・結局昼飯食えなかった・・・」
明のお腹が盛大に鳴った。
「明さん、すごいお腹の音ですねえ・・・」
姫乃が少し笑いながら言った。
「くう・・・腹減ったー・・・姫乃さん何かないかな・・・?」
「ごめんなさい、今日は何も無いです!」
明は項垂れた。
「・・・晩飯までこの状態が続くのかあ・・・」
「仕方ない、カラオケにでも行くか?」
「食べるだけならファストフードとかでもいいような気もしますね」
「めんどいからファストフード店行ってからカラオケ行こうか?」
明はそうお提案した。
「まあ、それが妥当か!」
「久しぶりのカラオケ、楽しみです!」
そこから3人は駅前へ向かった。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
悪友がトイレに行く。
「姫乃さん、俺もトイレ行ってくるね」
明もトイレに行った。
「ん?明もトイレか?」
「まあな・・・お前にだけ言っとくわ・・・」
「何をだ?なんかくれんのか?」
「違うわ!・・・来月姫乃さん転校するみたいなんだ、今この話知ってるのは姫乃さん家族と俺と親父とお前だけだ・・・誰にも言うんじゃないぞ・・・?」
明は深刻そうな声で告げた。
「明・・・その話どこからの情報だ?」
「姫乃さんから聞いた話だ、嘘偽りはないと確信する」
「マジか・・・」
悪友は黙ってしまった。
「親の転勤らしいぞ」
「それなら仕方ないわな」
「まあ、暗くなってもカラオケつまらなくなっちまうし明るく行こうぜ!」
明は大きな声で言った。
「それもそうだな!居は楽しもうか!」
「そうそう!そうこなくっちゃ!」
「んじゃ、先に戻ってるなあ」
悪友が先に自分たちのルームへ戻っていった。
「なんだかんだ、我慢してたからめっちゃ出るな・・・」
明も用を足し終わってトイレを出た。
「お前、遅かったな・・・どんだけ我慢してたんだよ」
「このお・・・笑うなよ、姫乃さんまで・・・」
「ふふ、思わず笑っちゃいました」
姫乃は次に歌う歌を探している。
「俺も探しておこう!」
その時ルームの電話が鳴った。
「ああ、俺が取るよ」
電話に一番近い悪友が電話に出た。
「はい、はい分かりましたー、あと30分だけどどうする?延長する?」
「すまん、お金ないから撤収だわ」
「そうですね、私もお金無いです」
皆お金がない様だ。
「じゃあ、延長無しで、はい」
「あと30分・・・何を歌うか・・・」
「皆あと一曲ぐらいか?」
「だなあ」
明はようやく最後に歌う歌が決まった。
「はあああ!歌った歌った!」
「俺喉が死んだんだが・・・」
「私お腹空きました!」
3人は思い思いに喋っている。
「俺の空腹はどうにかなったけど今度は姫乃さんか!」
「姫乃さんよく食べるもんなあ・・・」
姫乃は軽く3人前の食べ物を食べていた。
「あれだけ食べてお腹空いたとわ・・・」
「ある種の人類の神秘だな・・・」
「むう・・・私そんなに食いしん坊じゃないですよ!」
姫乃は抗議の声を上げた。
「まあ確かに俺も小学生の頃は大食いだったからなんとも言えないなあ・・・」
「あの頃は成長期だったからなあ・・・」
悪友が遠い目をして言った。
「ともあれ今日はありがとうございました!またカラオケしましょうね!」
「だな、またこのメンツでカラオケ行きたいな!」
「月末ぐらいに行くか?小遣い入るし」
明はそう提案した。
「そうだな、朝からフリータイムで盛大に行きますか?」
「私も賛成です!・・・明さんとの思い出になるかもしれないですし・・・」
姫乃の言葉は途中から尻すぼみに小さくなっていった。
明と悪友は気にしないようにした。
「それじゃあそろそろ解散しますかねえ」
「今日は何やろうかな・・・」
「今日の晩御飯はなんでしょうか・・・」
3人が思い思いのタイミングで家路についた。
明は自室でどうするか考えていた。
「うーむ・・・久しぶりに姫乃さん誘ってゲームしようかな?」
明は姫乃とゲームをするかどうかで考え込んでいたのだ。
「でも、明日も学園だしなあ・・・」
いつもの習慣でゲーム機の電源を入れる。
「姫乃さんがインしてたら誘うかな!」
明はフレンドリストを見てみた。
「居ないか・・・ソロでマルチ行きますかね」
明は若干気落ちしてしまった。
それから二時間後に姫乃がインしてきた。
「姫乃さん来たから招待送るか!」
明は間髪入れずに姫乃にゲームへの招待を送った。
「来てくれるだろうか・・・?」
数分経って姫乃が来た。
「ゲームではお久しぶりですね!」
「ありがとう!来てくれたんだね!」
「・・・だ、だって明さんの誘いですもの・・・」
姫乃は照れたような感じで言った。
「う、その言い方はちょっと卑怯だよ」
「ふふ、明さんが赤くなってるのが容易に想像できちゃいます」
(くう・・・時々姫乃さん、小悪魔に見える時があるんだよな・・・)
明はよく姫乃にからかわれるのである。
「ささ、早速始めましょう!」
「よし!行こうか!」
そこから2時間ほど姫乃とゲームをしてから眠りについた明であった。
巡り巡ってついに月末が来てしまった。
翌日は姫乃の最後の登校なのである。
故に以前から3人で計画していた朝一から閉店までカラオケフリータイム大会を開催した。
「さあ、今日は閉店まで歌いまくるぜ!」
「「おおー!」」
3人とも何故かかなりテンションが高い。
休日の駅前は若者で混雑していた。
「しっかし・・・これ部屋取れるのか・・・?」
「大丈夫だ!ちゃんと予約しておいた!」
「よくやった!」
3人はぎゃあぎゃあ騒ぎながらカラオケ店へと向かった。
「朝一だってのにこんなに並んでるのかよ・・・」
「私待つの苦手です・・・」
「俺は全然平気だけどな!」
カラオケ店内は人で溢れかえっていた。
ただ皆予約していたのか明たちの受付の順番はすぐに来た。
「朝一から予約してた明ですが・・・」
「はい、こちらの部屋でよろしかったですか?」
「・・・はい、よっしゃ行こう!」
明は待ちきれないとばかりに小走りになっている。
「いきなり走り出すなよ・・・」
「二人とも待ってくださーい!」
明たちはルーム内に入ると早速歌う歌を探し始めた。
「時間はたっぷりあるからな・・・じっくり見定めて選ぼう・・・」
「俺はもう決めたぜ!」
「えーっと・・・綴り忘れちゃった・・・えーと・・・」
明はフリードリンクを持ってこようと立ち上がった。
「飲み物取ってくるけど何がいい?」
「俺コーラな!」
「私ジンジャエールで!」
二人の注文を聞いてから部屋を出た。
「あいつのは全部ミックスでいいや・・・この前の仕返しだぜえ!」
明は悪い笑みをしていた。
「後は姫乃さんと俺のジンジャエールをっと」
明は3人分の飲み物を持ってルームへ戻った。
「はい、おまちどーさまー!」
「・・・おい、なんか俺のすごい色してるんだが・・・?」
「明さん、ありがとうございます」
明はみんなの前に飲み物を置いた。
そして悪友が恐る恐る飲み物に口を付けた。
「うわ・・・なんだこの味・・・もしかしてお前全部混ぜやがったな・・・?」
明は知らんぷりしている。
「くそー・・・時々こんなトラップ仕掛けてくるよな、お前って・・・」
「この前の急所への強打・・・俺はいつまでも覚えてるからな・・・」
「くっ・・・あれの仕返しか・・・!」
悪友は顔を顰めながらも用意されたものはちゃんと飲んでいる。
「お前、そういう所は尊敬できるよ・・・」
「明さん、明さん!一緒にこれ歌いましょう!」
姫乃が選んだのは明が好きな歌であった。
「でもこれ・・・」
「いいのです!そんなの関係ないのです!」
「じゃあ、歌っちゃおうか!」
そして本格的にカラオケ大会が始まった。
「さすがにちょっと疲れた!」
「ですねえ・・・」
明はちょっと眠たくなってきていた。
「俺ちょっと眠い!」
「ちょっと休憩挟みましょうか!」
「えっと何か面白そうな映像とかないかな?」
悪友は面白そうなものを探している。
「明、これなんてどうだ?」
「んあ・・・?すまん寝そうだったわ・・・」
「あの・・・膝枕・・・」
姫乃が恥ずかしそうに言った。
「え・・・?嬉しいけど・・・いいの?」
「はい・・・」
明はその一言で眠気が一気に吹き飛んだ。
「おい、俺の存在忘れてないかい?」
「「!?」」
悪友の声で二人がビクリと反応した。
「は、ははは!じ、冗談に決まってるじゃないか!」
「そ、そうですよお!」
「そういうのは俺が居ないところでやってくれよー?」
悪友はおどけてみせた。
「「はい!」」
「うーむ・・・二人そろって返事しなくても・・・」
「そろそろ再開するか?」
明は自分が歌う歌を探し始めた。
「無視、しないでくれよ・・・」
「ははは、気にするな!」
明は言った。
明は自分の分の飲み物を飲んだ。
「・・・!?な、なんだこの何とも言えない味は・・・」
「ふははは!入れ替えてやったのさ!気づかなかっただろう?」
「くそお・・・!いつの間に・・・」
(自分で居れた飲み物だし飲むしかないか・・・)
明は顰め面をしながら全部混ぜドリンクを一気に飲み干した。
「うおおお・・・!我ながら最悪な味だった・・・」
「明さん、無理して全部飲まなくてもよかったんじゃ・・・?」
「いや一応俺が自分で入れたものだからねえ・・・」
姫乃が席を立った。
「私、明さんの口直しのジンジャエール持ってきますね!」
「おお・・・!姫乃さん!ありがとう、正直口の中かなりヤバいからね・・・」
(なんか舌がピリピリするな・・・何かタバスコみたいなの入れたっけ?)
悪友の方を見るとタバスコの容器を持っていた。
「おうふ・・・またお前か・・・舌がピリピリするじゃねえか!」
「ふはははは!どうだ!恐れ入ったかあ!」
姫乃がジンジャエールを持って帰ってきた。
「はい、明さん!」
「ありがとう、姫乃さん!」
「そろそろ歌う歌探すかあ・・・」
しかし3人ともまったりモードに入っていて誰も歌おうとしない。
そしてまったりして数時間が経過した。
「あと一時間もしない間に閉店だが・・・そろそろ歌いだそう!そしてラストスパートかけよう!」
悪友がマイクを握りながら言った。
「そうだな、一気に走り・・・いや、歌い抜けるか!」
明もマイクを持って立ち上がった。
姫乃もやる気満々なようだ。
皆がマイクを持って立ち上がった。
「じゃあまずは・・・これかな?」
明は某ゲームのOPを入れた。
「いい選曲だな!」
「ただ喉破壊しないようにしないとですね」
姫乃は悪友の方を見て言った。
「ははは・・・こういう熱い歌歌ってると、癖でね」
「うん・・・分かるぞ、俺もそうなんだよなあ」
「あはは・・・私もです!」
そして歌が流れだした。
「今日はすごく楽しかったよ!」
「はい、私も楽しかったです!」
「俺もだ、しかし疲れてかなり眠いな・・・ふあああ・・・」
現在、夜の11時である。
「11時か・・・そりゃ眠くなるわな・・・」
「私も眠いですう・・・」
悪友はカラオケ店から出るとすぐに離脱した。
「俺もう帰って寝るわ、んじゃおやすみー」
「おう、おやしみー・・・」
「おやすみなさーい・・・」
「俺たちも帰ろうか」
明は家の方へと歩き出した。
「・・・明日が最後・・・ですね」
「・・・そうだな・・・」
明と姫乃はまだ二人で居たいのか、かなりのスローペースで歩いている。
「私、明さんから離れたくないです・・・」
「・・・俺もだよ・・・」
二人は自然に手を繋いでいた。
「明さんの手、あったかい・・・」
「姫乃さん、ちょっと公園で時間潰そう」
明は姫乃の手を引いて公園の方へと向かった。
明と姫乃は公園のベンチに座っている。
二人とも喋らずに空を見上げている。
「姫乃さん・・・一つだけお願いしてもいいかな・・・?」
「・・・なんですか?」
明は一瞬、躊躇ってから口を開いた。
「姫乃さんを・・・抱きしめたいんだ・・・!」
「・・・はい、来て・・・ください・・・」
明はベンチから立ち上がって姫乃の前に立った。
姫乃もそれに合わせて立ち上がった。
「・・・!俺、ずっと姫乃さんを好きでい続けるから・・・!忘れないから・・・!」
「はい・・・!私も貴方のこと忘れません・・・!!」
明は姫乃のことを力一杯抱きしめる。
姫乃もそれに応えて明を強く抱きしめ返す。
しばらく二人は抱きしめあったままであった。
すると姫乃のスマホに着信があった。
「ひゃああ!?・・・こほん、お母さんからです」
姫乃は電話に出る。
「なあに?お母さん?・・・うん、そろそろ帰るね、うん、おやすみー」
「なんて言ってたの?」
明は何となく聞いてみた。
「いつ帰ってくるのーって、あとお母さんはもう寝るねーって感じの電話でした」
「うーむ・・・それならもう帰った方がいいのかな・・・?」
明は少し心配そうに言った。
「そう、ですね・・・じゃあ、コーヒーでも飲んでから帰りませんか?」
「そうだね、そうしようか」
明は自販機の方へと向かった。
「コーヒーコーヒーっと、俺は冷たいのでいいや・・・姫乃さんは暖かい方がいいのかな?」
明は自分の冷たいコーヒーと姫乃の暖かいコーヒーを持って姫乃のところへ戻った。
「はい、姫乃さんは暖かいコーヒーでよかった?」
「ありがとうございます!」
「熱いだろうからゆっくり飲んでね?」
再び二人はベンチに腰を下ろした。
「あつつ・・・自販機の暖かいってもうただの熱いってレベルに昇華してますよねえ・・・」
「だねえ、あれで何回舌を焼いたことか・・・」
(うおお・・・この時期に外で冷たいもの飲むのは少しキツイな・・・さみい・・・)
明は寒くなってきて少し震えている。
「あの、よかったらこれ少し飲みますか・・・?」
姫乃が飲んでいたコーヒーを差し出してきた。
「え?でも・・・それじゃ、間接キスに・・・」
明が姫乃の顔を見ると顔が真っ赤になっていた。
「あ、あの、えっと・・・」
姫乃はしどろもどろになりながらコーヒーを差し出してくる。
「あ、ありがとう、姫乃さん・・・」
明もおそらく赤くなっているだろう。
「・・・ふう、暖かいなあ・・・温まる・・・」
「ふふ、おじいさんみたいな雰囲気になっちゃってますよ?」
「はい、姫乃さん、ありがとうね!」
「はい・・・か、間接キス・・・」
姫乃は残りのコーヒーを一気に飲み干した。
「ははは、俺たち間接キスしちゃったね」
「むう・・・恥ずかしいから何回も言わないでください・・・」
姫乃はそっぽを向きながら立ち上がる。
「そろそろ帰りましょう・・・」
「だね・・・俺も親父が心配症だし・・・」
明は飲んだコーヒーの缶をゴミ箱の方に投げた。
「おっし!入った!」
「あの、明さん・・・途中まで一緒に・・・いいですか?」
「いいよ、一緒に帰るのもこれで最後になっちゃうからね・・・」
明と姫乃は手を繋ぎながら途中まで一緒に帰った。
「じゃあ・・・俺こっちだから・・・」
「はい、また明日・・・会いましょう!」
姫乃の言葉の最後の方は涙声になっていた。
「うん・・・!わかった!」
明も思わず泣きそうになったが必死で我慢していた。
そして二人は別れて家に帰っていった。
「おはようさん、明!」
「おはよー・・・」
明はなにか魂が抜けてしまったかのような感じになっていた。
「なんだ?どうした?・・・あれが原因かな?」
「そうだよ、それが原因でよ・・・」
「姫乃さん今日が最後だもんなあ・・・」
悪友は遠くを見るような目で言った。
「姫乃さんが転校してきてから凄く楽しかったよな・・・」
「待って、色々思い出して泣きそうになる・・・」
「分かったよ、落ち着くまで一人で居な」
悪友は気を利かせて教室の外に出て行った。
「・・・っ!ダメだ、我慢だ・・・!」
明がごにょごにょ言っていると姫乃が登校してきた。
「おはようございます、明さん!」
「お、おはよう、姫乃さん」
明はどこか挙動不審な感じになってしまっている。
そして明は意を決したような顔をして姫乃と向き合った。
「今日、いつまで学園にいるの?」
「お昼休みが終わる頃までです」
「じゃあ、昼休みになったら屋上に来てくれないかな・・・?」
姫乃は微笑みながら言った。
「ええ、いいですよ!」
「ふう・・・やっと落ち着いた・・・」
明は深呼吸して息を整えた。
「おい、明!落ち着いたか?」
するとタイミングを計っていたかのように悪友が戻ってきた。
「ああ、落ち着いたよ」
悪友は小声で姫乃に言った。
「今までありがとうな、姫乃さんが転校してきてから凄く楽しかったよ!」
「いえ、こちらこそ!私も楽しかったです!」
「俺もすごく大事な人と出会えてよかったよ・・・」
明は姫乃と悪友に聞こえないように言った。
「次はどこに転校するの?」
「次は関東の方ですね・・・ここからかなり離れちゃいます」
「うーん・・・長期休暇の時ぐらいしか遊びに行けないやつだなあ・・・」
そんな話をしていると担任がやってきた。
「皆ー、席につけー・・・えー今日は皆に残念な報告があります」
少しだけクラス内がざわついている。
「えー、この度、クラスの仲間である水谷さんが転校することになりました」
クラス内から残念がる声が上がる。
「親御さんの転勤だそうだ・・・明、残念だったな」
担任がいきなり名指しで明に言った。
「明、遠距離頑張れよ!そして爆発しろ!」
「姫乃さん!向こうに行っても私たちのこと忘れないでね!」
「あー・・・お前ら?俺がいること忘れてないか?」
担任が置き去りにされたままクラス内はどんどん騒がしくなっていった。
「皆さん・・・ありがとうございます・・・!」
姫乃は目に涙を溜めながらそう言った。
「とりあえず、水谷は昼休みの終わりぐらいまでは居るそうだから皆お別れ言っとけよー?特に明な!」
「だから!なんで!俺だけ!名指しなんですか!」
「いや、だって明は水谷の彼氏だろ?」
はっきり言われて顔を真っ赤にする明と姫乃であった。
「まあそういうことだ、ちゃんと悔いの残らないようにな」
担任は明に向けてウインクした。
「んじゃ、ホームルーム始めるぞー」
ついに最後の昼休みがやってきた。
「姫乃さん、後で屋上に来てよ」
「はい、朝言っていたことですよね?」
「うん、待ってるからね」
明は一足先に屋上に上がった。
「よう、明!どうしたよ?」
「お前こそ、どうしたよ?」
そこには何故か悪友がいた。
「ん?ああ、俺はこれだよ」
悪友はタバコの箱を取り出して明に勧めた。
明はそれを手で拒否して言った。
「お前、また吸ってんのかよ・・・懲りないやつだなあ・・・」
「まあ、いいじゃねえか!・・・なんでお前が屋上に?」
悪友が聞いてきた。
「ああ・・・姫乃さん待ちだよ」
「そういえばなんか昼休みになったとき来てって言ってたもんな、お前」
「そそ」
明はタバコの煙から逃げながら頷いた。
「とりあえずせめて姫乃さんが来る前にタバコは吸い終えろよ?」
「はいよー」
待つこと約10分、姫乃がやってきた。
「お待たせしました、明さん!」
「んじゃ、俺は教室に戻ってるぜ」
「来てくれてありがとう、姫乃さん」
ちょっとした沈黙のあと明は口を開いた。
「俺、姫乃さんと一つ大事な約束をしたいんだ・・・!」
「約束・・・ですか?」
「うん」
明は大きく息を吸い込んでから言った。
「・・・俺と姫乃さん、両方が20歳になったらまた再会しよう!!・・・ゲームで会えるじゃんなんて野暮なツッコミはなしでね?」
「リアルではなかなか・・・最悪会えなくなりますものね・・・」
「だから20になったら再会しよう!!」
明は大切なことなので二回言った。
「はい、必ずまた会いましょう!!」
「「・・・」」
二人はまたしばらく黙ったままである。
すると姫乃が口を開いた。
「あの・・・明さん、最後に・・・き、キスしたいな・・・って・・・」
「・・・!!う、うんいいよ!?」
明の声は変に上ずっている。
「俺、キスとか初めてでどうしたらいいのか分からないよ・・・」
「わ、私だって・・・初めてですよ・・・」
二人は顔を見合わせながら言っている。
次第に二人の距離が縮まっていく。
(ち、近い・・・姫乃さんの顔が近い・・・!)
明は口から心臓が飛び出そうなほどドキドキしている。
姫乃は目をキュッと閉じている。
(これは俺から行くべきなんだろうか・・・?)
「明さん、早く・・・ドキドキしすぎて頭クラクラしてきました・・・」
「う、うん分かった・・・!」
(くそう・・・もう突っ走るしかないか・・・!)
明は震える姫乃の顔をジッと見つめる。
「姫乃さん、行くよ・・・?」
「・・・!」
明は姫乃の唇に触れるだけの軽いキスをした。
「ん・・・」
「はあ・・・はあ・・・なんでこんな息切れみたいになってるんだ・・・?」
姫乃はどこかポーっとしている。
(緊張しすぎて手汗で手がベトベトだ・・・)
「姫乃さん、時間は大丈夫?」
「は!・・・な、なんですか?明さん」
姫乃は顔を赤くしたまま明の方を向いた。
「時間は大丈夫なのかな?って」
そう言われて姫乃は慌ててスマホで時間を確認した。
「あ!もうそろそろ迎えが来る時間です・・・!明さん、また絶対に会いましょうね!!」
「うん!!約束だからね!!」
姫乃は走って屋上から去って行った。
そして数年後、明は地元の会社に就職していた。
「明先輩、今日中途採用の人が来るみたいですよ!」
「なんだ?なんでそんなにワクワクしてるんだ?」
(あれ?なんかデジャヴ・・・?)
明はデジャヴを感じて首を傾げる。
「んで、どんな人が来るんだ?」
「僕の情報によると凄く美人な人が来るらしいですよ!」
「まあ、お前情報なら確かだな、一応楽しみだな」
(うーん・・・学園生時代にもこんなことがあったよなあ・・・まさか姫乃さん・・・はは、まさかね)
明はそんなことを思うのであった。
「先輩、なんかソワソワしてますね?」
「そんなことないぞ?いつも通りだ!」
明と後輩は始業まで話をしながら時間を潰した。
そして始業前の朝礼の時間になった。
「えー今日は新入社員の紹介も兼ねて朝礼を行います」
こじんまりとしたオフィスの中が少し騒がしくなった。
「今回の人は・・・いや、言わないでおこう・・・」
「どんな人なのかな?少し興味あるな!」
「ごほん!あー、ちょっと静かにしてくれないか?」
上司の咳払いで一気に静かになる。
そして上司がドアの方を向いて手招きした。
また一瞬だけざわついたが、上司の一睨みでまたすぐに静かになった。
そしてオフィスのドアが開けられる。
やってきたのはどこか見覚えのあるような女性であった。
(どこか姫乃さんに似てるな・・・)
明は内心ドキドキしていた。
「本日よりこちらで働くことになりました、水谷です、よろしくお願いします!」
「かなりの美人さんじゃないか!これはやる気も出るってもんだ!」
(水谷・・・?姫乃さんの苗字じゃないか・・・いや、苗字が同じ別人の可能性も・・・)
「先輩、僕が思ってた以上に可愛い人が来ましたよ!?」
明の耳に後輩の声が入らない。
目の前にいる女性がもしかしたら姫乃かもしれない可能性に明は嬉しさのあまり震えていた。
「それじゃあ、デスクはー・・・あいつの隣のデスクを使ってください」
上司は明の隣のデスクを指で指し示しながら言った。
(お、俺の隣かあ・・・ホントに姫乃さんだったら天国だなあ・・・)
明は上の空状態であった。
「ヤバい・・・朝礼何も聞いてなかった・・・」
明は頭を抱えてうんうん唸っている。
迂闊な先ほどの自分を殴り飛ばしたい気持ちでいっぱいになる明であった。
明が頭を抱えて唸っていると新入社員の女性が話しかけてきた。
「あ、あのどうしたんですか?さっきからうんうん唸ってますけど・・・」
「いや、気にしないでって言っても隣で唸られたら気になるか!」
「はい・・・」
明は苦笑しながら言った。
「先輩、これどうするんですかー?」
「ああ?どこだ?見せてみ?」
「ここなんスけど・・・」
明は後輩に的確に指示を出している。
「おお、分かりました!」
後輩は走って自分のデスクへ戻って行った。
「あいつめ・・・これであれ教えてやったの3回目だぞ・・・まあ頼りにされるのは嬉しいんだが・・・」
「面倒見がいい人なんですね」
「おっとごめんね、自己紹介まだだったね!俺は南本って言うんだ!皆はみなさんとか、もとさんとか呼んでるけど水谷さんが呼びたいように呼んでな!」
「分かりました!」
話していると明はいきなり頭をはたかれた。
「私語してないでちゃんと仕事しろい!」
「ははぁ!」
仕事が終わり新入社員の歓迎会が開かれることになった。
明は新入社員の女性の隣に座ることになった。
会場は近場の居酒屋を貸し切りにしてとのことであった。
「先輩、歓迎会いつもこの居酒屋ですよね?」
「だなあ、なんでだろう?」
明は常々疑問に思っていた。
「噂だとこの居酒屋の店主、元は俺らの会社の社員だったみたいだぜ?」
「へえ、じゃあ俺たちの先輩ってところか?」
話ながら歩いていると目的の居酒屋に着いた。
「よっしゃ、今日はどんどん呑むぞー!」
明日は日曜日だから皆が呑む気満々である。
「今日もよろしくねー、オヤジさん!」
「おう!いらっしゃい!」
明は姫乃を座敷席の中央に誘導した。
「今日の主役は水谷さんだからね!ささ、座って座って!」
「は、はい」
新入社員は少し恥ずかしさと戸惑いが交じり合ったような表情をして頷いた。
「お前らも好きな所に座れよー、俺は水谷さんの隣なあ!」
すると大ブーイングが起こった。
「なんでお前が水谷さんの隣なんだよ!?変われよ!」
「「そうだ、そうだー!」」
「まあまあ、指示したのは俺だからそんなに騒ぐなよ」
(あの上司こういうときは助け船出してくれるから嫌いになれないんだよな・・・)
明は新入社員の隣に腰を下ろした。
「水谷さんはどんなお酒飲むの?俺は大体ビールなんだけど!」
「私もビールですね、あとは缶チューハイとか!」
「よし!オヤジー、生二つ!大ジョッキでたのんます!」
数分待つと料理と共に生ビールがやってきた。
他の社員のところにも生ビールが並べられていく。
「よし、皆、ジョッキ持ったかー!?・・・では、カンパーイ!!」
「「かんぱーい!!」」
そして新入社員歓迎会が始まった。
明はある程度アルコールが入ったあと新入社員に質問をしてみた。
「水谷さんってもしかして学生の頃は親の転勤でかなり転校してた?」
「え?ええ、そうですけど・・・」
新入社員は怪訝な顔をして明のことを見る。
「じゃあさ、この町に・・・富士枝の学園に転校してきたこともあるでしょ?」
「はい・・・」
(もおうちょっと核心に迫ってみるか・・・)
「・・・クラスは3-Aで明と宮本と大体一緒にいた?」
「そうですけど・・・ちょっと怖いですよ・・・?」
(これ以上はダメか・・・一番聞きたいことを聞こう・・・!)
「・・・君は、もしかしてだけど・・・水谷 姫乃さん・・・?」
「・・・っ」
新入社員はおそらく恐怖で震えている。
「・・・二人が20になったら再会しよう・・・」
明は新入社員に聞こえる程度の小声で言った。
「・・・!」
新入社員は驚いたように明の方を見る。
「俺、半年前に20になったよ・・・!」
新入社員は更に驚いたようだ。
何かを言おうと新入社員は口をパクパクさせている。
「も・・・もしかして・・・明さん・・・ですか?」
新入社員はやっと言葉が出てきた。
そして明はその言葉に頷く。
「うん、明だよ、おかえり姫乃さん!」
新入社員、改め姫乃は今度は嬉しさで震えていた。
姫乃は目に涙が溜まっている。
そして姫乃はいきなり明に抱き着いた。
「明さん・・・!明さん!!会いたかったよお・・・!やっと再会できた・・・!」
「うわ!ちょ・・・まっ・・・!姫乃さん!?びっくりするし、人もいるんだよ!?」
明は困惑気味に言った。
「いやです!離れていた分ずっとぎゅーってします!」
「姫乃さん!?離れて!嬉しいけど離れて!」
姫乃は顔を真っ赤にして目を潤ませている。
「姫乃さん!?もしかしてかなり酔ってるな!?」
「わたし、酔ってなんかいません!」
「酔ってる人は大体そう言うの!」
姫乃はかなりの力を出しているのか、なかなか引き剥がせない。
「むう・・・なんで引き剥がそうとするんですかー!」
「そりゃ、皆が居るからに決まってるでしょ!?」
明は他の社員が気づく前に姫乃を沈静化させたかった。
・・・が遅かったようだ。
「お?元さんが新人ちゃんに抱き着かれてるぞ!」
「ああ・・・気づかれた・・・」
明は一瞬げんなりした顔をした。
「ああ!明さん私に抱き着かれてるのに変な顔したー!」
「すみません、加賀さん・・・この子引き剥がしてくれます・・・?」
「あん?まのままでもいいじゃねーか!女の子に抱き着かれるなんて羨ましいやつめ!」
「「だなあ・・・」」
明は諦めたように姫乃から手を離した。
「あは!やっと引き剥がすの諦めましたね!」
姫乃は更に密着していく。
(あー・・・!俺の胸板に柔らかいものが当たっているううう!!)
そのせいで明も顔がさらに赤くなった。
「あ・・・あれ?急に眠たくなってきちゃった・・・」
急に姫乃の力が抜けた。
「・・・?お休みタイムなのかな?」
明は姫乃を揺さぶってみた。
「んう・・・すー・・・すー・・・」
「ありゃ、ほんとに寝てる・・・オヤジさーん!布団か毛布ないかな?」
明は店主に聞いてみた。
「あん?どうした?誰か酔いつぶれたか?」
店主は奥からタオルケットを寄越してきた。
「ありがとうなー」
明は借りたタオルケットを姫乃にかけてあげた。
「・・・ふふ・・・明さん、大好きー・・・むにゃ・・・」
「ちょ・・・!何という寝言を・・・!」
明は周りの皆を見てみた。
近くにいた社員たちは皆ニヤニヤしながら明のことを見ていた。
(これ、来週からめっちゃからかわれるやつじゃないのか・・・?)
明はため息を吐きながら姫乃の寝顔を見ている。
(俺、やっぱり姫乃さんのこと大好きなんだな・・・寝顔みてるだけですごいドキドキしてるし)
明も姫乃の隣に寝転んだ。
「・・・おい!・・・おい!起きろ!」
「うーん・・・あと5分・・・」
「あと5分・・・じゃない!もう店閉まるぞ!」
明は飛び起きた。
「す、すみません!つい寝ちゃって・・・」
「うん、それは気にしてない!二次会は来る?来ない?」
上司は笑いながら聞いてきた。
「ああ、ひめ・・・新人さん見てるんで遠慮します」
「おお、そうか!じゃあ月曜日な!」
「はい、今日はお疲れ様でした」
明は上司を見送ってから店主に話しかけた。
「オヤジさん、この子みときたいんだけど少しだけ」ここにいさせてよ」
「ん?ああ、いいぜ!」
「いつもありがとな!」
明は姫乃の顔を見ながら店主にお礼を言った。
「明、その子は恋人か何かか?」
「うん、俺の大事な・・・大切な人だよ」
「ほう・・・式の時は俺も招待してくれや!」
明は顔を赤くした。
「その時は料理お願いしますね!」
「おうよ!料理なら任せとけ!・・・んじゃ俺は二階にいるから帰るときは声掛けてくれ」
店主はそう言って自宅である二階に上がって行った。
「・・・」
明は久しぶりに再会した恋人が隣で寝ていることに少しだけ困っていた。
「うーん・・・寝顔は可愛いんだが・・・おしゃべりしたい」
明はそう思っていた。
姫乃の体を少しだけ揺する明。
「うーん・・・あと5分ー・・・」
「姫乃さんは何を言ってるんだ・・・」
明はもう少し姫乃が起きるのを待ってみることにした。
「姫乃さんー、早く起きないと置いてちゃうよー」
もちろん明にそんな気はないが。
「・・・むう、今起きまひたよー・・・ううー、ちょっと気持ち悪いですー・・・」
「姫乃さん、大丈夫?もうちょっと休んでから帰る?」
明は姫乃を心配そうな目で見ている。
「だ、大丈夫です!多分・・・でも、明さんがお姫様抱っこしてくれたら元気になれるかもしれないです!」
「うぐ・・・外でするのは恥ずかしいなあ・・・じゃあ、大通りに出るまででいいかな?」
明は腕まくりをしている。
「じゃあいくよ!よっと・・・姫乃さんちゃんとご飯食べてる?かなり軽いよ?」
「今でも学園生時代の頃と同じくらい食べてますよ?」
その言葉を聞いて明は口を大きく開けたまま固まっている。
「姫乃さん・・・それマジで・・・?」
「はい、本当ですよー?」
「くそう・・・俺も食べる量、学園生時代から変わってないのに5キロほど太ったというのに・・・」
姫乃が明のお腹を撫でる。
「・・・でも、お腹は出てませんよ?脂肪とか贅肉よりも筋肉で体重増えたのでは?」
「姫乃さん、くすぐったいよ!!」
明は声を上げて笑いそうになるのを必死に我慢していた。
「はあ・・・はあ・・・もうちょっとで大声出して笑っちゃうところだったよ、もう・・・」
「あはは、ごめんなさい!久しぶりの再会なんでいたずらしたくなっちゃったんです」
その姫乃の言葉に明は赤くなった。
「よ、よし!外に出るよ!・・・姫乃さんそこの引き戸開けてくださいなー」
「はーい」
明は大きな声で二階にいる店主にお礼を言った。
「オヤジさーん、おりがとねー!新人ちゃん目覚ましたから帰りますねー!!」
「おうよー!!気ィつけて帰れよー!!」
「それじゃ、行こうか!」
明は姫乃をお姫様抱っこして居酒屋の外に出た。
「明さん、ありがとうございました!おかげで元気になりましたよ!」
「俺もありがとうな!姫乃さんの可愛い寝顔を堪能できたからね!」
明は笑いながら言う。
姫乃はその言葉に耳まで赤くなっていた。
「むう・・・」
「「・・・」」
しばらく二人は無言のまま公園のベンチに座っていた。
「ねえ、姫乃さん・・・もし・・・もし今ここで俺がけ・・・結婚しようって言ったらどう答える・・・?」
姫乃は突然のことで上手く言葉を選べないでいた。
「・・・もうまどろっこしいのはやめよう・・・姫乃さん!俺と結婚してください!」
「・・・!」
姫乃は更に赤くなってフルフル震えながら泣いている。
「はい・・・!はい!私はその言葉を・・・待っていました・・・!!」
姫乃は明に抱き着く。
明はびっくりしながらも姫乃の頭をやさしく撫でていく。
「ありがとう、姫乃さん・・・大好き・・・いや、愛してる・・・」
姫乃は明の胸の中で気が済むまで泣きまくった。
「姫乃さん、落ち着いた?」
明は姫乃に缶コーヒーを手渡した。
「はい・・・すみません、あまりにも嬉しすぎて・・・」
姫乃は恥ずかしそうに俯いてしまった。
「あんなに泣いたのここから引っ越したとき以来です・・・」
「そんなに泣いちゃったんだ」
「そりゃ・・・初めてできた友達らしい友達とも・・・明さんともお別れだったんですから泣きますよ・・・」
明は話題を変えるために別のことを聞いた。
「・・・姫乃さん、式いつ挙げる?」
「とりあえず・・・今年中には結婚したいですねえ・・・」
「姫乃さん、明日暇かな?何も予定入ってなかったら俺の家に来てほしいんだ」
(姫乃さんに婚約指輪を・・・喜んでくれるだろうか・・・?)
明は20になった日に婚約指輪を購入したのであった。
「はい、明さんの家に行くの物凄く久しぶりでワクワクドキドキです!」
「昼飯時に来てよ!親父に言ってたっぷり料理作ってもらうからさ!」
それを聞いて姫乃は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「はい!行きます!私もクッキー焼いて行きますね!あとお泊りセットも!」
「ほんと俺たちがいる会社、土日休みでよかったよ!」
(姫乃さんが泊りに来るのか!とりあえず部屋の細部までチェックしとかないとな・・・!)
「俺も姫乃さんのクッキー凄く楽しみだよ!学園生のころ食べたのめっちゃ美味しかったからさ!」
明は紅茶も美味しかったよ!と付け足した。
「ふふ、明日が楽しみです!」
「俺もだよ!ワクワクしすぎて寝れなくなるかも!」
明は笑いながらそんなことを言った。
「むう・・・ちゃんと寝ないとメッ!ですよ?」
「だね、寝る努力はしてみるよ!」
そういうと明は自宅の方へと歩き出した。
「ちゃんと寝てくださいねー!今日はありがとうございました!おやすみなさーい!」
「姫乃さんもおやすみー!!」
そういうと明は走り出した。
(早く帰って部屋のチェックしないと!)
明は全速力で家まで走って帰った。
「な、なんか学園生の頃にもこんなことあった気がする・・・疲れた・・・」
明は自宅の玄関先でぜえはあ言っていた。
「なんで全力疾走なんてしてしまったんだ・・・姫乃さん来るのは明日の昼だってのに・・・」
(とりあえず中入って一息入れよう・・・)
明が玄関ドアを開けるとそこには父親がいた。
「お、オヤジ・・・そんなとこで仁王立ちして何してんだ・・・?」
「さっき外から姫乃ちゃんが来るとかなんとか聞こえたが・・・帰って来たのか、この町に?」
「ああ・・・職場も同じだしデスクも隣同士だよ」
父親は感慨深く思った。
「そうか姫乃ちゃん戻ってきたのかあ・・・あのクッキーまた食べたいなあ・・・」
「明日、クッキー持って泊りにくるぞ?」
その言葉を聞いて父親は子供のように飛び上がって喜んだ。
「よっしゃああ!!何時ごろだ!?昼か?夜か?ご飯いっぱい作らないと!!」
「おま・・・!近所迷惑だろうが!それに大人だろうが!大人しくしろよ!」
「お、おお・・・すまん、嬉しくてついな!」
(まったく・・・子供かよ・・・まあ親父らしいといえばらしいんだが・・・)
明はそんなことを思いながら苦笑していた。
「親父はもう寝てろ、明日かなりの量の料理をつくらないといけないんだから」
「だな、お前はどうするんだ?」
「俺は部屋のチェックをしてから寝るよ」
明はそう言って二階の自室へと向かった。
「さてと・・・まあ、見た目は問題・・・無いな!」
明は部屋のチェックを始めた。
「次は隙間っと・・・よしここもオッケーだな・・・」
(あとはクローゼットを確認したら寝よう)
「クローゼットは・・・ここもよし!じゃあ、着替えて寝るか!」
明はタンスからパジャマを取り出して着替えだした。
「明日は変な時間に起きないようにしないとな」
そう言って明は目覚まし時計をセットして布団に潜り込んだ。
(あ、なんだかんだで眠れそうだな・・・)
そして数分後、明は寝息を立てていた。
朝、明は目覚ましが鳴る前に目が覚めていた。
今は父親と一緒に料理の準備をしている。
「これどうすればいいんだ?」
「それは皮剥いてボウルの中に放り込んどいてくれ」
「はいよー」
(うーん・・・かなり久しぶりに包丁握ったが・・・中々怖いな・・・)
包丁を握る手が僅かながら震えている。
「あーもう、明は買い出し行って来てくれ!料理の方は俺に任せろ!」
「はいよー、何買ってきたらいい?」
「そうだなー・・・大量の肉と野菜かな!種類は問わないぞ!」
明は財布を自室から取ってきて近所のスーパーに向かった。
「んじゃ、適当に籠にぶち込んでいきますかねえ!」
明は肉、野菜を適当に買い物かごに放り込んでいく。
「おーい!おーい、明ー!」
するとどこからか呼ぶ声が聞こえてきた。
明は声の主を探している。
「こっちだ、こっち!」
明は声のした方に振り向いてみた。
そこには学園の卒業式以来会ってなかった悪友の姿があった。
「おお!!お前か!!久しぶりだな!卒業式以来か?」
「そうだな!元気だったか?」
「お前はここに残った組か?」
明は聞いてみた。
「おう、でも仕事忙しくてなかなか連絡できなかったんだよなあ・・・」
「・・・いきなりなんだが、姫乃さんが帰って来たんだ」
「マジか!姫乃さん戻ってきたんだ!」
明は悪友を誘ってみることにした。
「そんで今日俺の家に姫乃さん来るんだけどお前も来るか?」
「ああ・・・すまん、今日は用事あって行けないんだ、また誘ってくれや!」
「そうか、なら今度誘うわ・・・連絡先変わってないよな?」
明はポケットからスマホを取りだした。
「変わってないよ!なんかあったら連絡くれ!じゃあな!」
そういって悪友は去って行った。
明も会計を済ませて家に帰った。
昼前、姫乃は明の家に着いた。
「ちょっと早かったですか?」
「いんや!丁度いいタイミングだったよ!」
姫乃が来てからすぐにリビングぼ方から父親の声が聞こえた。
「おーい!ご飯できたぞー!」
「ほらね?今ご飯できたみたい」
姫乃は靴を脱ぎ棄ててリビングに突撃していった。
「そんなにお腹すいてるのかねえ・・・?」
明もリビングに入っていった。
するとやはり大量な肉料理が机いっぱいに置いてあった。
「うーん・・・やっぱりこの量はすごいな・・・」
「おじさん!これ全部食べてもいいんですか!?」
「ああ!全部食べてもいいよ!・・・でも俺たちの分は残しておいてね?」
父親は苦笑しながら言った。
「そうですね、分かりました!」
それを聞いて明は驚いた。
「え・・・?もしかしてこれ全部食べるつもりだったの?」
「え・・・?そ、そんなことはありませんよ?」
姫乃はちょっとだけワタワタしながら言った。
「まあいいや!姫乃さん、食べよう!」
「さあさあ、俺特製の料理をご賞味あれ!」
3人は一斉に手を合わせた。
「「「いただきまーす!!!」」」
(しかし・・・この量は・・・見ただけでお腹いっぱいになる・・・というか胸焼け起こしそうだな・・・)
明は目の前にあるものから手を付けていった。
「・・・美味い!・・・ってええええ!!?」
明は姫乃の方を見て大きな声を上げた。
姫乃の前にある料理が秒刻みでどんどん減っているのだ。
「姫乃さん!?前以上にがっついてるけど大丈夫なのか!?」
「ふぇんふぇん・・・んっ・・・大丈夫ですよ!」
姫乃はにっこりしながら答える。
「な、ならいいんだけど・・・喉詰まらせたらダメだよ?」
「はーい!」
姫乃は子供のような返事をして食事に戻った。
(俺は目の前にあるやつだけでお腹いっぱいになりそうだ・・・)
明は自分のペースで食事を進めていた。
「おじさん、ごちそうさまでした!美味しかったです!」
「「え!?はや!?」」
明と父親が同時にハモった。
「まあ俺ももう食べ終わるんだが・・・」
父親も食べ終わったようだ。
明はそのあと10分後に食べ終わった。
「ふう・・・食った食った・・・」
3人は昼ご飯を食べた後リビングでのんびりしていた。
「姫乃さん、親父には話していいかな?結婚のこと」
「はい、お母さまにも話しておいてくださいね!」
明と姫乃は小声で話していた。
「なあ、親父・・・話があるんだが聞いてくれるか?」
「お?なんだ?聞くぞ?」
「今年中に姫乃さんと結婚するつもりなんだ!!」
結婚すると言った瞬間に父親の表情が固まった。
そして次第に嬉しそうな笑みに変わっていく。
「おお、そうか・・・そうか!姫乃ちゃんと!とりあえず金の心配はするな!俺が出してやる!」
「・・・姫乃さん、速攻でオッケーが出たね・・・」
「はい!次は私の親ですね!多分、私の親もすぐにオッケー出すと思いますよ!」
明は父親の即決にあっけにとられていた。
「・・・じゃ、じゃあ・・・今度の土日に姫乃さんのご家族にご挨拶に行こうか!親父はどうする?つか来ないとだめだわな!」
「行くしかなかろう?それが礼儀ってもんだろう」
「う、うーん・・・礼儀と無縁な親父が言っても・・・」
明の言葉に姫乃がクスリと笑った。
「明めえ・・・笑われちゃったじゃないか!」
父親も笑いながら言った。
「とれま、姫乃ちゃんの家に行くのは来週の土日、でいいのかな?」
「はい、それで行きましょう!」
「・・・何か3人でできるゲームないかな?」
突然明がそう言った。
「なんだ、急に?」
「いや、のんびりしてるんだし惰性で皆でゲームしたいなーって」
「私はやりたいです!」
二人が父親に目を向ける。
「まあ、俺も久しぶりにゲームしてみるか!」
「決まりだな!パーティーゲームでいいかな?」
姫乃と父親が頷く。
「それじゃあ何か適当に持ってくるわ」
そして晩御飯までゲームをして楽しんだのだった。
「ふう・・・晩飯は普通でよかった・・・」
(正直、あの量は見てるだけで胸焼けするからなあ・・・)
明は姫乃の方を見てみた。
「むう・・・」
量が少ないせいか少し不満げな顔をしている。
「ふと疑問に思ったんだけど姫乃さん、よく、むう・・・って言うよね」
姫乃はキョトンとしている。
「もしかして無意識で言ってたの?さっきも言ってたけど」
「無意識です・・・」
姫乃は恥ずかしそうに顔を赤くした。
「まあ、可愛いから問題ないんだけどね!」
「むう・・・」
「ははは、また言ったぞ?・・・では、いただきまーす!」
「「いただきまーす!!」」
3人は同時に同じものに箸をのばした。
「しかし・・・姫乃さん、どんなゲームでも強いのな!」
「俺があのゲームで負けるとは思わなかった・・・」
「親父、ボロボロだったもんな!」
明たちはゲームの話をしながら晩御飯を食べている。
姫乃は速攻で食べ終わっていた。
「姫乃さん食べるのはや!」
「そうですか?普通に食べてただけなんですけど・・・」
姫乃は首を傾げている。
「そういえば、姫乃さんは新婚旅行どこにに行きたいとかあるかな?」
「そうですねえ・・・とりあえず国内がいいです!」
「・・・参考までに親父は新婚旅行はどこに行ったん?」
明は父親に聞いてみた。
姫乃も興味があるようだ。
「俺か?俺の場合は・・・箱根だったな!」
「箱根かあ・・・メジャーすぎる気がするなあ・・・」
明はうーんと唸った。
「明さんはどこか行きたい所とかあるんですか?」
「極端になるけど北海道か沖縄かな!」
「綺麗に北と南って感じだなあ・・・」
父親は微苦笑している。
「私その中なら沖縄がいいです!」
姫乃が手を挙げて言った。
「ほほう、それじゃあ沖縄にするか?」
「はい!沖縄は初めてですから!」
姫乃は目をキラキラさせている。
「よっし!沖縄で決定!」
「あ、俺お風呂溜めてくるわ」
父親が席を立った。
「・・・姫乃さん、後で渡したい物があるんだ」
明は小声で姫乃に言った。
姫乃は何かを期待するような顔で頷いた。
「分かりました!お風呂から上がった後でいいですか?」
「うん、楽しみにしててね!」
明はとびきりの笑顔で言った。
「一番風呂は私がいただきます!」
「ああ・・・また一番風呂取られた・・・」
「なんで親父は一番風呂に拘るんだ・・・」
肩を落とす父親をみてそんな言葉が出てきた明。
「一番風呂が一番気持ちいいんだよ!入れたてのお湯だから!」
父親は駄々っ子のようにジタバタし始めた。
それを見て明は笑った。
「ははは!ほんと親父は変わらないなあ!子供みたいだぞ?」
「うるさいわい!仕方ない、俺は二番目に入るぞ!」
明はしばらく駄々をこねる父親を見て笑っていた。
「上がりましたー!次の人どうぞー」
「親父ー、いてらー」
「おう、入ってくるわー」
父親は風呂場に突撃していった。
「・・・姫乃さん、ちょっと俺の部屋に来て欲しいんだ」
明は姫乃を自室へと誘った。
自室へ入ると机の引き出しの中から婚約指輪を取り出した。
「姫乃さん、目を閉じて・・・」
「は、はい・・・」
そして明は姫乃の指に婚約指輪をはめた。
「姫乃さん、目を開けて?」
姫乃はゆっくりと目を開ける。
すると姫乃の顔がだんだん嬉しそうな笑顔に変わっていく。
「婚約指輪・・・気に入ってもらえたかな・・・?」
「はい!物凄く素敵な指輪です!」
「よかった・・・!姫乃さんのために一生懸命考えて購入したんだ!」
明は涙目になりながら笑った。
「おーい!上がったぞー!」
父親が風呂から上がったようだ。
明は風呂に入る準備をしている。
準備をしていると姫乃が後ろから抱き着いた。
「明さん・・・本当にありがとうございます・・・」
姫乃は明の頬に軽くキスをした。
「う、うん・・・!お、俺お風呂入ってくるね!」
「はい、いってらっしゃい!」
明は顔を赤くしたまま風呂場に向かった。
「おおう、寒・・・お湯がぬるくなってたから仕方ない・・・風邪ひく前に布団に入るか」
明はそんなことを言いながら自室に入った。
「お帰りなさい、明さん!」
自室に戻ると姫乃が出迎えた。
「うん、おかえり・・・それはいいんだけど・・・なんでそんな際どい恰好してるの・・・?」
姫乃は半裸の状態であった。
顔を赤くして姫乃は言った。
「あ、あの・・・えっと・・・ぱ、パジャマに着替えようとしてただけですよ!?」
「ああ、上がって来た時私服だったけ!」
「そ、そうです!・・・あ、あっち向いててくださいい!!」
湯気が出そうなほど真っ赤になって姫乃は言った。
「ご、ごめん!!部屋の外にいるから着替え終わったら呼んで!」
そう言うなり明は部屋から出て行った。
数分後、姫乃からオッケーが出たから明は部屋に入った。
「さっきはなんかごめんね!」
「いえ、気にしないでください!」
(ダメだ・・・さっきの姫乃さんの姿が頭と目に焼き付いてる・・・)
明は頭を振って気分を入れ替えようとした。
姫乃がクローゼットに近づいていた。
「ん?ゲームするの?」
「はい!久しぶりにあのゲームやってみたくなって!」
「オッケー!準備するから少し待ってて!」
明はクローゼットからゲーム機を取り出した
そして準備を済まして電源を入れた。
「よし!今日もやりますかあ!」
「おー!」
明と姫乃は日付が変わるまでゲームをした。
「・・・ん!・・・さん!明さん!朝ですよ!起きてください!」
翌日、明は姫乃に叩き起こされた。
「ふあああ・・・もうちょっと寝たかった・・・」
「何言ってるんですか!私お昼には家に帰るんですから時間を無駄にはしたくないんです!」
姫乃にそう言われて明はそういえばそうだったと思い出した。
「おーい、おふたりさーん!朝ごはんできたぞー!」
明が眠そうな顔をしていると階下から父親の呼ぶ声がした。
「・・・顔洗ってから降りよう・・・眠い・・・」
「私先に降りてますね!」
姫乃は先に降りて行った。
そして顔を洗った明も下に降りた。
「今日の朝ごはんはパンですね!またあのパンが食べられるんですねえ・・・!」
「そそ!今日のために材料を買っておいてよかったよ!」
「あ、このあとキッチン借りてもいいですか?クッキー焼くんです!」
明と父親はクッキーという単語に反応した。
「いいよ!また姫乃ちゃんのクッキーが食べられるんだね!」
明は待ってましたと言わんばかりにガッツポーズをしている。
「あはは!そんなに喜んでもらえて嬉しいです!いつもより気合入れて作りますね!」
「よし!明、速攻で食べて片付けるぞ!」
「合点承知!」
明と父親は文字通り速攻で食べ終え、速攻で片付けをした。
姫乃は食べるのが元から早いので更に速攻であった。
「じゃあ、今からクッキー焼くので待っててくださいね!」
クッキーは昼ご飯時に焼き終わった。
「姫乃さん、もう昼飯時だけど食べてかえるんだろ?」
「はい、せっかくクッキーも焼いたので!」
「んじゃ、帰るとき送っていくね!」
父親が料理の盛り付けをしていた。
「おじさん、私手伝いますよ!」
「おお!そうかい?じゃあ頼むよ!」
姫乃は明に頷いてから明の父親の方へと向かった。
(うーんクッキーの香りで食欲が刺激されるなあ!)
昼ご飯は麺類のようだ。
「昼飯は麺か!」
「おう、お前の好きな塩ラーメンだぞ!」
「あ、私も塩ラーメン大好きです!」
姫乃は嬉しそうにしているが少し残念そうでもある。
「姫乃さんなんか少し残念そうだね?」
「麺類って消化が早いからすぐにお腹減っちゃうんです・・・」
姫乃はそう言ってお腹をさすってみせた。
明はそれに頷いていた。
「うん、それ凄く分かる!腹減るの早いよね!」
姫乃も凄く頷いている。
「おまちどーさまー!俺特製塩ラーメンだぞ!」
「早く食べましょう!」
「それじゃあ・・・」
明が息を吸い込む。
「「「いただきまーす!!!」」」
3人は一斉にラーメンに口を付けた。
「あっちい!なんかいつもより熱くないか!?このラーメン!」
「俺も気合入りすぎたのかもしれんなあ・・・」
父親はしみじみとした顔で言った。
「そんな顔して言っても熱い事に変わりはねえわ!俺、猫舌って知ってるだろうが!」
「そんなに熱いですか?・・・うーん普通のような気がするんですが・・・」
姫乃はごく普通にラーメンを食べている。
「・・・うそーん・・・てことは親父も普通に感じるの?」
「ん?そうだな、普通だな!」
「親父、猫舌じゃなかったっけ?」
熱いラーメンを何事もなく食べている父親に対して疑問に思った。
「ああ、なんかいつの間にか普通に食べれるようになってた!」
「なんだよ、そのいつの間にか飲めなかったコーヒーが飲めるようになってた的なのは!」
明は思いっ切り笑っていた。
(ふう・・・話してる間に少し冷めたようだ・・・やっと普通に食べられる!)
「というか二人とももう食べ終わってるのかよ!」
「明さんが遅いだけですよ!」
「そうだな、明が遅いだけだな」
何故か明がボロクソに言われている。
「・・・猫舌なだけなのに・・・」
明はしょんぼりしながら食べていた。
そして数分後、明もようやく食べ終わった。
「・・・お待ちかね、クッキーターイム!」
父親がそんなことを言った。
「飲み物は私特製の紅茶ですよー!」
「「よっしゃー!」」
明と父親がハモる。
姫乃は手際よくクッキーと紅茶を準備していく。
「焼きたてクッキー・・・やっぱりいい匂いだ・・・」
父親は早くも腹の虫が鳴き出している。
「・・・親父?腹鳴ってんぞ・・・」
「いやあ、ははは・・・恥ずかしいなあ・・・」
「はい!準備できました!」
姫乃の言葉に明と父親の顔が凄い笑顔になっていく。
「よし、それじゃあ・・・」
「「「いただきまーす!!」」」
言うや否や明は一枚クッキーを食べる。
「ーっ!やっぱりかなり美味い!」
「だなあ、これお金取れるんじゃないか?」
姫乃は褒められて悪い気はしないようだ。
逆に恥ずかしくなって顔が若干赤くなっている。
「この紅茶も・・・うん!やっぱり美味い!」
「どうやったらこんなに美味しく淹れられるんだ・・・?」
父親は疑問に思っているようだ。
「それはですねえ・・・企業秘密です!」
「あらら・・・でも明と姫乃ちゃんが結婚すればいくらでも食べられるし飲めるんだから最高だ!」
「そんな大きな声で言うなよ・・・恥ずかしい・・・」
明と姫乃は顔を見合わせ赤くなる。
「あうう・・・」
「おいこら、人のこと忘れて見つめあってるんじゃない!」
父親が謎のツッコミを入れる。
「ああもう!訳の分からんツッコミを入れるな!」
姫乃は頭から煙が出そうなほどに赤くなっている。
「ははは、すまんすまん!」
「ほんっとに子供だな親父は・・・」
「あはは・・・でもそこがいいんだと思いますよ?」
昼食後のデザートタイムは終始和気藹々とした雰囲気で進み終わった。
「んじゃ、姫乃さん家まで送ってくるわ」
「あいよー、気ィつけて行けよー」
デザートタイムが終わって片付けをしてから姫乃はすぐに帰ることになった。
「おじさん、おじゃましましたー!」
「はいよー!またおいでー!」
明と姫乃は連れ立って家を出た。
二人は少しの間、無言で歩いていた。
「・・・明さん、今回もありがとうございました!」
「いえいえ、俺の方もありがとうね!」
「来週が楽しみです!」
姫乃の言葉に明は首を傾げた。
「来週?・・・なんだっけ・・・?」
「むう・・・来週私の両親に挨拶に行くって言ってたじゃないですか!」
「ははは、冗談だよ、冗談!ちゃんと覚えてるよ」
明は笑いながら言った。
「ホントに覚えてますか?」
「うん、本当だよ」
「・・・なら良かった」
明は公園の前で立ち止まった。
「ちょっと待ってて飲み物買ってくる!」
そういうなり明は公園の自販機に走っていった。
そして数分も経たない間に戻って来た。
「はい、いつものコーヒーだけど大丈夫かな?」
「はい、ありがとうございます!」
明は気分を変えてコーヒーではなくコーラを購入していた。
「それじゃあ飲みながら行きましょう、お行儀悪いですけどね」
「あはは、そうだね」
10分ほど歩いていると姫乃の家に着いた。
「へえ、ここが姫乃さんの家か・・・」
「はい、前もここでしたよ!」
「よし!場所は覚えたよ!来週が楽しみだ!」
明は満面の笑みで言った。
「じゃあ、また職場で!」
「うん、じゃあまたね!」
明と姫乃は手を振って別れた。
一週間後、明と父親は姫乃の家に挨拶に来ていた。
「ようこそ、明さん!」
「うん、ちょっとドキドキしちまう・・・」
「お、姫乃ちゃん、こんにちわー!」
明の父親は微妙に挙動不審になっている。
「おい、親父、なんだあたふたして・・・みっともねえ・・・」
「し、仕方ないじゃないか・・・」
(まあ、俺もかなり緊張してるしなあ・・・)
すると奥の方から姫乃の両親が出てきた。
「やあ、君が明君だね!まあ、上がって上がって!」
「ふふ、これからよろしくねえ!」
「は、はい・・・うむむむ・・・」
(緊張で・・・胃がキリキリする・・・)
明と明の父親は胃の辺りをさすっている。
「は、明さん・・・いらっしゃい・・・」
姫乃はいつもとは違う感じのワンピースを着ていた。
そして親の後ろに恥ずかしそうに隠れて顔だけを覗かせている。
(姫乃さん!それ可愛すぎますよ!?)
「まあ、玄関で棒立ちになってても仕方ない・・・お邪魔します!」
「ささ、こちらです!」
明たちはリビングに通された。
数時間後、明はあっけにとられていた。
「はは・・・こんなにあっさり結婚にオッケーが出るとは思わなかった」
「うん・・・俺も予想外だった・・・」
明たちは今日、姫乃の家に泊まることになった。
「うう・・・緊張して眠れそうにないいい・・・)
明は父親と別れて姫乃の部屋に入った。
(うう・・・無理だ・・・色々ヤバい・・・)
「ちょっと外の空気でも吸ってくるか・・・」
明は家の外に出た。
「いつつ・・・胃が痛いし目が冴えて眠れない・・・」
(俺の部屋ならそこまで緊張しないんだが・・・)
「やっぱり姫乃さんの家で姫乃さんの部屋で寝ることになったからなのか・・・?」
明は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「ふう・・・戻るか・・・」
昼、明と姫乃は目にかなり濃いクマを作っていた。
「「ね、眠い・・・」」
「お前、何時まで起きてたんだ・・・?ずっとゲームしてただろ?」
「二人とも徹夜だじぇ・・・」
姫乃はリビングの机に突っ伏してうんうん唸っている。
「皆さん、お昼ごはんが出来ましたよー」
「「わーい・・・ご飯ー」」
(これで少しは回復できるかな・・・!)
「おお、和食ですか!和食久しぶりで楽しみですわ!」
明の前にアユの塩焼きとみそ汁、たくあん、白ご飯が出てきた。
(肉が出てこなくて助かった・・・今、肉食ったら死ぬ・・・)
姫乃の前にはカツ丼が置かれていた。
「ひ、姫乃さん・・・カツ丼なんか食べるの・・・?」
「はひい・・・お肉、食べないと寝込むですう・・・」
「そ、そうか・・・」
明はその発言にびっくりしている。
「そろそろいただきましょう!」
「そうですね!」
「「いただきまーす!」」
昼食後、明と明の父親は姫乃の家でのんびりしていた。
「明さん、今日は何時ぐらいに帰るんですか?」
「今日は一休みしたらもう帰るよ」
「先週の私と同じような感じですね」
姫乃はそれが普通とでもいうように明の隣に座った。
二人とも昼食を食べる前よりかはマシな顔色になっている。
「しかし・・・徹夜でゲームはやりすぎたね・・・」
「はい・・・調子に乗りすぎました・・・」
二人は今後は徹夜でゲームはしまいと思うのであった。
「明、とりあえずあと30分ぐらいしたら帰るぞ」
「はいよ、了解した」
(とりあえず・・・帰ったら思いっきり寝てやる!)
すると姫乃が立ち上がった。
「それじゃあ、私お茶淹れてきますね」
「あ、ありがとう!」
姫乃はキッチンの方へと消えて行った。
「紅茶ならいいなあ・・・」
「だなあ!」
数分待つといい香りの紅茶が出てきた。
「やった!紅茶だ!」
「うーん・・・いいねえ・・・!」
明と父親は一気に覚醒した。
「ふふ、ありがとうございます!」
姫乃は笑って応えた。
「姫乃さんが淹れた紅茶飲むとかなりリラックスできるからいいんだよー!」
「疲れも吹き飛ぶよな!」
明と父親はうんうんと頷きあっている。
「熱いからゆっくり飲んでくださいね!」
姫乃は手際よく紅茶を淹れていく。
「ありがとう、いただきまーす!」
「ありがたい、明日からもっと頑張れる気がするよ!」
姫乃は二人から褒められて少し気恥ずかしくなっていた。
「い、いえ!こちらこそありがとうございます!」
そして紅茶を飲んだあと明と父親は姫乃の家を出た。
姫乃の家に挨拶に行ってから数か月後、明と姫乃はついに結婚した。
今日は結婚式の日である。
「・・・めっちゃ緊張するし・・・色々ヤバい・・・」
「はい、それにウエディングドレスってなんだか恥ずかしいです・・・」
「そのドレスめっちゃ可愛いな・・・!」
明は姫乃に見惚れていた。
「むう・・・恥ずかしいんですからそんなに見ないでください・・・!」
姫乃は手で顔を隠した。
「ははは、照れてる姫乃さんはもっと可愛いなあ!」
「・・・もう知りません!」
(可愛いなあ、もう・・・でもこのやり取りでなんとか緊張少しは解れたのかな・・・?)
「・・・姫乃さん、緊張は解れた?」
明は姫乃に笑いかけながら言った。
「はい、なんかすみません・・・ガチガチになっちゃってました」
「はは、俺もいい感じに緊張解れたから・・・ありがとうだよ!」
姫乃と明は二人で笑いあった。
「お二人とも準備はできましたか?」
すると会場の係りの人がやってきた。
「「はい、準備できました!」」
二人は少し緊張を残しながらも晴々した面持ちで会場へと向かう。
会場に入った瞬間、物凄い勢いの拍手と歓声に出迎えられた。
「・・・すげえ・・・これは圧倒されるなあ・・・」
「すごくびっくりしました・・・」
二人は半ば呆けた顔をしていた。
「というか人数多すぎないかい・・・?」
「はい、何人ぐらい来てくれたんでしょうか・・・?」
中には明の見覚えのない人物までいた。
「あの人誰なんだろう?姫乃さんの親友かな?」
「はい、ここから引っ越した後に移り住んだ町で仲良くしてくれた方です」
「なんだかんだ姫乃さんは友達多いんだね!」
明はニコリと笑って言った。
「ふふ、そうみたいです!」
そこから明と姫乃は楽しい結婚式を堪能した。
明と姫乃はちょっと挙動不審な感じになっていた。
今はいわゆる誓いのキスの直前である。
「さすがに多くの人の前でキスするのは恥ずかしいなあ・・・」
「はいい・・・顔が熱いですー・・・」
二人は顔を赤くしながら神父の前まで歩いて行った。
神父の前に着くと神父が小さな声で言った。
「二人とも、緊張してるのかい?」
「「はい・・・」」
「はは、初々しいなあ・・・これから頑張るんだよ!」
神父は笑いながら二人を見た。
「「頑張ります!」」
「・・・それじゃあ、一歩前に出て」
「「はい」」
明と姫乃は一歩前に出た。
二人が前に出たことを確認すると神父が頷いた。
「汝南本 明は、この女水谷 姫乃を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻にのみ添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」
「誓います」
明ははっきりした口調で答えた。
神父は姫乃の方を見ながら頷いた。
「汝水谷 姫乃は、この男南本 明を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫にのみ添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に、誓いますか?」
「誓います!」
姫乃は緊張からか少し上ずった声で答えた。
それを聞いて神父は姫乃に笑ってみせた。
「皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれたこのお二人を神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう」
神父はここで一旦言葉を切った。
「宇宙万物の造り主である父よ、あなたはご自分にかたどって人を造り、夫婦の愛を祝福してくださいました。今日結婚の誓いをかわした二人の上に、満ち溢れる祝福を注いでください。二人が愛に生き、健全な家庭を造りますように。喜びにつけ悲しみにつけ信頼と感謝を忘れず、あなたに支えられて仕事に励み、困難にあっては慰めを見出すことができますように。また多くの友に恵まれ、結婚がもたらす恵みによって成長し、実り豊かな生活を送ることができますように。わたしたちの主によって」
そこで再び神父が言葉を切った。
「アーメン」
「「「アーメン」」」
「・・・それでは二人とも、誓いのキスを・・・」
明と姫乃は互いに向き合った。
明はベールを上げた。
姫乃は目を瞑っていた。
そして明はゆっくりと姫乃の唇にキスをしようとする。
姫乃は緊張からか少し震えていた。
「大丈夫だよ、姫乃さん・・・力抜いて」
明は耳元でそう言った。
姫乃は体の力を抜いた。
そして二人は小鳥のついばみのような軽く触れるようなキスを交わした。
会場はけたたましいほどの拍手と歓声で溢れていた。
「・・・姫乃さん、これから死ぬまで・・・ずっと一緒にいような・・・」
「はい・・・私たちは何が起きてもずっと一緒です・・・」
二人は思いっ切り抱きしめあった。
~終~