突っ走りさま~なぜなぜ編~
楽しんで頂けると幸いです!
雲一つない、日曜のまだ風の冷たい早朝の時間。
「ふふぅ~ん、いぇ~い!」
どこの町にも一つはありそうな古びた神社で、ノリノリで掃除している高校生くらいの少女がいた。今にも持っているほうきでギターを弾き始めそうだ。
黙ってじっとしていれば立派な巫女姿の少女の名前は"かよ"こと親しみを込めて"突っ走りさま"と呼ばれている。
「今日もびゅーてぃふるな天気ね!」
う~んと伸びをしてニカッと空に向かって笑った。
ゆったりした時間を過ごすかよに、突然元気な声がぶつかってきた。
「突っ走りのお姉ちゃん!」
「うん?」
かよも負けじと元気にクルッと振り向く。
そこには小学校3年生ぐらいの少年が立っていた。
「つっぱり?ふーあーゆー?まぁいいや!はろー!!」
相変わらず一人で盛り上がる。
いつもは引かれるが、少年はさらにグッとかよに詰め寄る。
「これあげる。」
右手の拳を突き出す。つられてかよも右手の手の平を差し出す。
少年が拳を広げると小さい塊がかよの手の平に落ちる。
かよはそれをつまみ太陽にかざす。
「みすてぇりぃー味?」
正しくはキャンディ謎味。銀に輝く袋に大きなハテナマークが特徴的だ。一体どんなお味なんだろうか?
「それ、おさいせん」
少年は少しうつむきながら、さっきとうって変わってポツリと言った。
そんな少年に対してかよは、
「わーお!てんきゅー!」
ニカッと笑った。
喜ぶかよにホッとした少年は息をフッとはき、
「ねぇ、ここは願いを叶えてくれるんでしょ?」
と聞いた。
かよはきょとんとした顔になり、う~んと首を傾げ
「あい.どん.のー!願いは自分で叶えるもの!!」
ピースサインも追加する。
「…でもどんなお願い?」
かよのポリシーは、願いは自分で叶えるものだが、お賽銭を頂く限りはそのお手伝いをする!その意気込みで巫女をしている。
聞かれた少年は再びうつむく。
「……」
しばらく無言が続く。
そんな少年をかよは珍しく無言で見守る。
「…あのね…質問に答えてほしいんだ。」
ポツリと少年は言った。
「おーけー、おーけー!いいよ!」
かよは元気に構える。
がばっと顔を上げ少年は叫んだ!
「なぜ!ぼくは質問をするんですかーー!!」
静かな境内に響き渡る。
少年は肩を上下させた。
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ちなみに皆さんはこの質問にどう答えるだろうか?
まぁ大体の人は、
『何でも気になる年頃だからな。』
『そうやって疑問に思うのは良いことよ。』
何て言って適当に流してしまうかもしれない。
さあ、突っ走りさまはどう答えるのだろうか?
~~~~~
かよはにっこり笑い、
「なぜ、なぜ、なぜって事だね!」
楽しそうに言った。
「そんなの決まってるよ!皆と、とーくしたいんでしょ?」
「……!?」
少年はかよの答えを聞いて目を見開いた。
「だって質問するって事は誰かと話してるってことでしょ?君は話す為に質問しているんだよ!」
まだ小さい少年は一生懸命、今までの事を思い返す。
質問することが大好きな少年はお母さん、お父さん、先生にいつもなぜ?なぜ?なぜ?と聞き回った。最初は嬉しそうに答えてくれるけど、次第に面倒がって遠ざかっていった。
遠ざかってそのまま戻って来ないかも…そんな不安から少年は言葉数が少なくなり、話さなくなっていった。
そして休みの日曜日。早くに目が覚め、ベットの中でじっとしているのが嫌になった少年は、素早く着替え家を飛び出した。
自然と足は学校でちょっとした話題になっている、願いを叶えてくれる"突っ走りさま"の神社へと向かっていた。
そして境内の中で楽しそうにしている"突っ走りさま"を見て、
“話したい”
何かを質問したい!という気持ちより、一緒に楽しく話したい思いが勝ったのだ。
「そうだ、ぼくは…」
『すごいな!そんな事が気になったのか!いいぞ、教えてやる!』
『面白い質問ね!嬉しいわ!』
質問をして皆が褒めてくれて…楽しく話して…
少年は質問から広がる世界が好きだった。だから質問が好きになったのだ。
「ぼくは…もっと話して、質問も…たくさんしたい!」
少年はかよの目をぐっと見た。
かよもぐっと見返し、にっと笑った。
「おーけー、おーけー!じゃあ今から行こう!」
「えっ?どこに?」
戸惑う少年を残し、かよは一瞬姿を消し、そこにいた。かよの横には台車が現れていた。
「ここに乗って!」
促されるまま少年は上に乗る。
「ねぇ…行くってどこに?」
「決まっているよ!公民館にれっつごー!」
「えぇ!?公民館?」
「いえす!だって今皆が集まって、ラジオ体操してるから!皆といっぱい、とーく出来るよ!」
「えっ?あっうん?」
「れっつごー!」
状況が飲み込めない少年を連れて台車はロケットスタートした。
「あぁーーーーーー!!」
少年の悲鳴が境内に置き去りにされ、二人の姿は消えた。
後日談として…
もちろん少年は従来の明るさと質問への執念を取り戻し、毎週学校休みの土日の朝は公民館通いをしている。
だが、それ以上に気になることが皆さんあると思う。キャンディの謎味だ。
「これどんなふぅれーばーかな~?」
かよはぱくっと口に放りこんだ。
「…?みすてぇりぃー味だ!!」
この質問には答えてくれそうにない。
読んで頂きありがとうございました!