とある一つの始まりの話
古いデータの中にあった、没作品でもあった話。
けれども、やっぱり出した方が良いかもと思いつつ、新規に作り直し、投稿してみました。
興味があれば、ぜひどうぞ。
「…‥‥ハクロ、いるかー?」
【クー!】
孤児院の裏庭にある倉庫の中で、僕が呼びかけると、鳴き声を上げて小さな子蜘蛛が嬉しそうに鳴きながら姿を現した。
「ほら、今日は配給で配られた牛乳も飲めるよ」
小さなお皿に注ぐと、てけてけと歩き、ハクロと名付けた子蜘蛛はごくごくと飲み始めた。
その様子が微笑ましく、僕は少し笑みを浮かべる事が出来た。
…‥‥僕の名前は、『-----』。
赤ん坊の時にこの孤児院に拾われ、育てられているが、それだけである。
なぜならば、僕の容姿は黒髪黒目。この国ではどうも不吉な色として考えられているらしく、いじめに遭うのだ。
院長に相談してみたが、そちらでも難色を示され、ただ孤児を幼い時に捨ててはいけないという決まりがあるからこそ、嫌々育てているようなものらしい。
そんなのであれば、拾わずにそのまま餓死させえておけばよかったのに…‥‥この孤児院の絶対的な魔法契約とやらが影響しているがゆえに、できないのだとか。
魔法契約とは、特殊な魔法が駆けられた書類上に書き、本人の意思が合致しない限りできないものであり、ここの院長の場合は先代から「ここに拾われた孤児たちを全員、引き取り手がいなくても15歳までずっと育て上げる」という事を契約させられたらしい。
まぁ、孤児院の予算を横領する気満々であった院長としては、ギリギリまで予算を削る気であり、「どのように育っても」良いように考えていたらしい。
‥‥‥なら、何故僕を拾ったのだろうか?
どうやら雨が降っていた日だったそうなのでまともに見ずにとりあえず拾い、世話をしようとしたところで気が付いたそうだ。
まぁ、何しても一応15歳まではここで育てられることが決まっているので、まだ良い方だろう。
他の孤児院の仲間たちからもいじめられて、石を投げられ、痛めつけられなどされてはいるが、「15歳までずっと育て上げる」という事があるので、死なされるような事はない。
それに、もう当の前から理解していたので、何があろうとも生き延びるすべを僕は身につけている。
なので、15歳になってここを追い出されれば、何処か誰もいない場所に住む予定だ…‥‥。
そんなある日、僕はとある子蜘蛛を拾った。
本当に大したこともなく、気まぐれで育てて見ることにしたのだ。
自然界は弱肉強食だし、僕がその気になればこの蜘蛛は簡単に潰せるだろう。
…‥‥けれどもなぜかそのような気は起きず、僕はそのまま蜘蛛にハクロという名を付け、育てていた。
しかし、どういう訳かこの子蜘蛛、成長が遅い。
普通の蜘蛛であれば、もうとっくの前に大きな親蜘蛛になっていそうなものなのだが‥‥‥いや、鳴き声を上げている時点で普通じゃないのかな?
いわゆる魔物というやつなのかもしれないが‥‥‥うん、気にしないでおこう。ハクロはハクロだし、孤児院から出る時に一緒に連れて行くのもいいかもしれないだろう。
気まぐれで育てている中で、僕はハクロの観察を行ってみた。
どうやら僕の言葉が少しわかるようで、簡単な指示で身を隠したり、小さな虫程度であれば捕獲できたりしている。
ちょっと毒も出せるらしく、僕に懐いているせいか、ある時いじめてきた孤児の一人の食事に毒を混ぜ、トイレから出られないようにしていたが‥‥‥まぁ、その後ストレス発散として殴られたので、余計なこと過ぎたように思えた。
何にしても、不思議な子蜘蛛である。
成長する様子もないが、大人の蜘蛛という訳でもない。賢いけれども、たまにこけて転がるなど、完璧という訳でもない。
見れば黒い体の蜘蛛だし……僕の黒目黒髪とおそろいだ。
「そう考えると、ちょっと似たもの同士なのかもね」
【クー!】
つぶやいた僕の言葉に対して、ハクロはうんうんと頷くように仕草をしつつ、そう鳴くのであった。
‥‥‥それから年月が経ち、明日、いよいよ僕は15歳となる。
この孤児院を追い出されるが、それでいい。もう、子どもでもないし、自力で生きていくすべもある。
孤児院の端っこ、奥の奥の方にあるさびれた場所にあった僕の寝床とも今日でお別れだ。
「さて、明日からいよいよ独り立ちか‥‥‥」
孤児院の者たちに殴られ、蹴られ、石を投げられ、色々と酷い目に遭ってきたが、このような地獄の場所から抜け出せるのであればもう済んだことである。
復讐も興味はあったが、流石にやる意味もない。やったところで、どうせ何も変わらないだろう。
「という訳で、今晩は一緒にここで寝ようか、ハクロ」
【ククー!】
最後の番ならば、友と共に寝ておきたい。
そして、明日からの独り立ちを夢見て、僕らは眠りにつくのであった‥‥‥‥
…‥‥バチバチッツ
「…‥ん?」
まだ暗い中、ふと聞こえた妙な異音に、僕は目を覚まし、身体が動かないことに気が付いた。
見れば、柱に僕の身体は何重にも縄で撒きつけられており…‥‥火が放たれていたのだ。
「ええっ!?」
その状況に驚愕している中、ふと外から声が聞こえてきた。
『おい、本当にここに火をつけていいんですかい旦那?しかも子供を縛っておくとか、色々と鬼畜ではあにですかい?』
『いや、大丈夫だ。あれはもう、用済みだからな』
片方は聞いたことがない声だが、返答をしていた声の方に僕は聞き覚えがあった。
あれは、ここの院長だ。
『黒目黒髪の子なんぞ、不吉すぎる!!15までは死なせることができなかったが、幸いにももうすでに日は変わり、今日で15となった。ゆえに、ようやく契約とは関係なく、始末できるのだ!!』
『そのついでに、ココを放火し、火災によっていったん全焼させ、復興のための支援金を求めるとか、業が深いですなぁ』
『はっはっはっは!!どうせ焼け落ちてあの小僧の死体が出ても、黒目黒髪の奴が死んだところで誰も気にせん!こちらは金も得られるし、これでまた出会う事もないだろうし、まさに一石二鳥なのだぁぁぁ!!』
声が大きいせいか、全ての会話内容が聞こえてきた。
うん、何と言うか‥‥‥院長、とんでもない畜生であった。
どうも僕がここを出てもまた出会う可能性が無きにしも非ずということで、ここで始末する気らしい。
しかも、孤児院をわざと炎上させ、復興のための金集めって‥‥‥この不審火だと集まらないような‥‥‥あ、そうか。僕のような黒目黒髪の不吉とされるような者がいるならば、誰も不振には思わないのかな?
案外頭を使ったのか、それとも偶然なのか……どっちにしても、これじゃもう助からない。
「あーあ‥‥‥ようやく、独り立ちできると思ったのになぁ‥‥‥」
しっかりと縛られているせいで、逃げることもできない。
もはや何もかも諦めて、せめて苦しくなければいいなと考えていた中で、ふと僕は気が付いた。
「‥‥あれ?ハクロは?」
寝付く前には、確かに僕の側にいた子蜘蛛、ハクロがいない。
見渡せる範囲を確認したが、どこも炎上しており、確認できない。
‥‥‥もしかしたら、燃え盛る前に危険を察知して逃げたのであろうか。
何にしても、それならそれでよかったのかもしれない。
こんな、生きる望みを持たれなかった僕よりも、ハクロの方が生きていてくれてよかったのだろう。
でも、できればともに逝きたかったとも思えたが‥‥‥まぁ、無理な話か。
「ああ、もうそろそろダメか‥‥‥」
ガラガラと音を立て、崩れていく孤児院。
熱波で焼かれるような痛みを感じつつも、もう僕に生きる希望はない。
結局、この世界での僕の居場所はなかったようで、最後に天井が崩れてきたのを僕は見た。
そして、同時に何かが飛び出してきたような気もしたが…‥‥そこで、僕の意識は失われたのであった…‥‥
【-----、っ!!】
(・・・・・ん?)
・・・・・ふと、誰かに僕は呼ばれたような気がした。
体の感覚から察するに、どうやら僕は生きているらしい。
あれだけのひどい火事だったのだが‥‥‥この声の主が助けてくれたのだろうか。
(……でも、まだ起きる気力が)
一度、この生をあきらめたせいか、身体が非常にだるい。
生きようとする気力が湧き出ないのだ。
(ごめん、僕はまだ起きることができな、)
【起きてください、-----っ!!そうじゃないと‥‥‥えいっ!!】
ぼむにゅうっ!!
(……んん!?)
突然、何かに鼻や口をふさがれて、息が苦しくなった。
生きようとする気はなかったはずなのに、その突然のふさがれた苦しさに、僕は思わず空気を求めもがきだす。
「ぐぐぐぐ、ぶはぁぁぁ!!し、死ぬかと思った!!」
色々と柔らかい感触はあれども、なんとか離れ、僕は新鮮な空気を吸えた。
ああ、生きているって素晴ら、
「‥‥‥ん?」
ふと、そこで僕は目があった。
どうやら、女性に思いっきり抱きしめられていたようで、口をふさいでいたのは彼女の見事な双丘だったらしい。
目の前にあった顔は、なんというか美しいの一言でしか言い表せないほどの美女であり、見覚えはなかった。
けれども、見覚えがないはずなのに、何故か不安とかもない。
「だ、誰…‥‥?」
【‥‥‥良かった、-----が目を覚ましてくれて!!】
問いかけたところで、その女性は目をうるうるさせて、思いっきり抱きしめてきた。
ぐにゅうっと形の変わる双丘の柔らかさにドキドキしたが…‥‥別の問題が起きた。
べきべきごしゃぁ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
まさかの抱きしめ死を味わう事になり、本日2度目の死を体感するのであった…‥‥
【ごめんなさい、-----!!】
なんとか僕が意識を取り戻した後、しゅんと落ち込むように、彼女はおとなしくその場に座った。
周囲を見れば、何処かの森の中で、近くに古川が流れているぐらいであろう。
そして今、目の前に大人しくいる彼女の見た目は綺麗な美女だが‥‥‥よく見れば、大蜘蛛の頭に腰かけているような姿をしている。
しかし、それは腰を掛けているのではなく、彼女の体の一部らしい。
‥‥‥要は、人間ではなく魔物と呼ばれる存在なのだとか。うん、でもそうは見えないな。
「えっと‥‥‥その前に聞くけど、誰?」
目の前のこんな美女、見た事も会った事もないはずである。
けれども、何か既視感を感じる様な…‥‥だれだったか?
【あ、この姿はなったばかりですが…‥‥私ですよ、-----。あなたに名前を付けてもらったハクロです!】
「‥‥‥え?ハクロ?」
【はい!】
「それって、あの子蜘蛛だったハクロ?」
【そうですよ!】
「‥‥‥‥はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
何をどうしたら、あのちっぽけな子蜘蛛がこんな蜘蛛美女になるのであろうか?
孤児院のいじめなどで、神などはいないと僕はなんとなく思っていたが、このありえない奇跡に神はいるかもしれないと、おもわず思ってしまうほどの衝撃。
とりあえず、詳しい話を彼女に聞いてみることにしたのであった。
―――――――――――――
‥‥‥あの火災があったのは、今朝のまだ早い時、星がまだ空にあった時間帯。
その時までは、まだ彼女……ハクロは小さな子蜘蛛の姿で、僕の側でスヤスヤと寝ていたそうなのだ。
だがしかし、突然衝撃が襲い、見てみれば何者かが僕の身体を持ち上げ、柱に縄で縛りあげていた。
なんとなく悪意を感じ取った彼女はどうにかしようと思ったが、子蜘蛛の彼女ではどうすることもできない。
せめて解決方法を探すために、外に慌てて出てみたものの、どうすればいいのかわからず、軽いパニックに陥ったそうである。
そんな中で、草むらの影にいたところ、あの院長と放火した人物の会話が聞こえ、僕を殺す気だと彼女は理解した。
そして、どうにかして手立てがないか慌てふためいたとき、ふと体の異変に気が付いたそうである。
そう、落ち着いて見れば…‥‥あの子蜘蛛の身体から、何故か今の蜘蛛に腰かけているような女性の姿になっていたのだ。
この姿、大きさであればどうにかなるかもしれないと思い、燃え盛る炎の孤児院に突撃し、柱に縛られていた僕の元へ向かい、縄を引きちぎり、僕を背中に結び付け、脱出。
ついでに遭遇した院長たちと出会い、何か驚愕していたようだが、僕を殺そうとしていたことを理解していたので縛り上げ、燃え盛る孤児院に放りなげたそうだ。
―――――――――――――
【あとは知らない。けれども―――――を助けるために、私はまずは熱くなっていた体を冷やそうと、この小川まで来て、水をかけたの】
そして、十分冷めたところで、濡れた体を乾かすためにもずっと僕の側にいて、色々な手当てもしていてくれたのだとか。
「…‥‥そうか、ありがとうハクロ。でも、なんでそこまでしてくれているの?」
子蜘蛛であった彼女を飼っていたとはいえ、命の危険もあった炎の孤児院に突撃してまで、僕を救い出そうとしてくれたのは、何か理由があるのだろうか?
【だって私、-----が好きだもの!!】
僕の疑問に対して、ハクロは僕を今度は骨も折らないように優しく抱きしめながら、そう答えた。
え?好きって…‥‥僕の事を?
…‥‥ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
そのあまりの驚愕に、僕は開いた口がふさがらない。
いや、元が子蜘蛛だった彼女ではあるが、見た目が物凄い美女な彼女に正面から堂々と言われると、物凄く信じがたいものもある。
けれども、伝わってくるこの感情は本当に僕のことを想ってくれているようで…‥‥心がじわっと温まるのを感じた。
【飼われていたけれども、私は-----の事が好きだった。子蜘蛛ゆえに、ただ付き従うだけだと思っていた。けれども、この身体になったので、想いを伝えられるのです!】
正面からそう堂々と言い切られると、断ることもできない。
というか、断る気も起きないというか…‥‥本当に、何かこう、温かくなるような、嬉しい気持ちがあった。
ああ、これがもしかして…‥‥愛情というやつなのかもしれない。
孤児院では向けられることなく、誰にも必要とされなかった冷たい日々。
けれども今、彼女は僕を求め、温かい愛情をくれているのだ。
「‥‥‥わかったよハクロ、僕も君が好きだ」
【-----!】
互いにギュッと抱きしめ合い、温かい愛情を一気に感じさせられる。
あの辛い日々から一転し、この日から僕はハクロと共に過ごすことになった。
とは言え、僕の紙の色や目の色は不吉でもあるそうで、人里離れた森の中に家を建て、そこに住まうことになる。
ハクロは僕の側に、僕は彼女の側に。
互いに互いを愛しあい、必要としあうこの関係。
‥‥‥それから数年後、子を授かり、家族が増えてさらに幸せが増すことになる。
家族が増え、愛情を注ぎ、子どもたちは大きくなって家を出ていく。
年月が経つと、孫、ひ孫と連れて来て、より一層にぎやかとなった。
風の噂では、子ども、孫たちが色々各地でやらかしまくって、異名が付いたり、国を持ったりしているそうだが‥‥‥うん、色々やり過ぎてないかな?
何にしても、元気にやっていたりするのはいいことだと思いつつも、ほどほどに抑えてほしいとも内心思ったりする。
ただ、それだけのやらかしだけに、世間では黒目黒髪は不吉という事は言われなくなり、むしろ何かしらの大事を必ずやらかし、富や名声を得つつも波乱万丈な人生を送る印と、言われるようになったらしい。
いい事だと思いたいが、その波乱万丈な人生を歩みたい人がいるのか、黒目黒髪になるとする者たちが出て、ちょっと問題になったりするそうだ。
‥‥‥まぁ、とにもかくにもいろいろあった。
さらに年月が経ち、いつしか僕は置いて、身体が動かなくなる。
目はそのままだが、黒髪は白髪となった。
ベッドに横になり、そばにハクロがよりそう。
【-----、今日は暖かい日ですよ】
窓を開け、暖かい風が入り込む。
彼女の美しさは年月が経ても変わらないようで、むしろ妖艶さが増したようにも思える。
孫たちも多くなり、時々遊びに来ていたが、今日は珍しく彼女との二人きりだ。
「ああ、本当に暖かい日だなぁ‥‥‥」
震える手を持ってもらいつつ、彼女の温かさを僕は感じ取る。
長い、長い年月が流れ、孤児院の日々を返すかのように、今日まで僕は平和に、幸せに過ごすことができた。
ハクロもそばにいるが、まだ朝早いのに、どことなく眠気が襲ってくる…‥‥
「ふわぁ‥‥‥ああ、朝だというのに、もう昼寝をしたいよ」
【そうですか-----。では、お布団は変えなくても良いですよね?でしたら私も……】
そう言いながら、体の構造的にちょっと無理があったので、上半身を横たえつつ、僕の布団の中に彼女が入りこむ。
【ふふふふ、-----。こうしていると、昔一緒に寝ていた時を思い出しますよね】
「そうだね‥‥‥」
あの時はまだ子蜘蛛だったが、今の彼女でもそのぬくもりは同じ様だ。
ただ、気のせいか目が少しだけ涙にあふれているような気がする。
―――――――ああ、そうか。彼女はもう、気が付いているのか。
魔物ゆえに、彼女の寿命は僕よりも長い。
そして、その寿命なのだが…‥‥僕の方はもう、尽きようとしていることに。
【-----、二つ良いでしょうか?】
「‥‥‥なんだ、ハクロ?」
理解していることを隠そうとしたのか、目を少し擦りつつ、ハクロが尋ねかけてきた。
【私は、-----にとって大事な人でしたか?】
「ああ、まちがいなくね」
【ふふふ、そう言ってもらえると嬉しいです】
にこやかに笑うハクロの笑顔を見ていると、徐々に眠気が、いや、お迎えが来ようとしているのか、僕の意識が薄れ始めた。
待って欲しい、まだ彼女と話したいのだ。
気力を振り絞りつつ、彼女の次の言葉を僕は待った。
【では、-----。せっかくですので、今日は一つ、ある魔法契約を結びませんか?】
「魔法契約を・・・・・か?」
【ええ……私はもう、理解しているからこそ、そしてこれから先が寂しくなることを見越して、ちょっと隠れて考え、作っていたものがあるのです】
そういうと、懐から彼女は一枚の書類を取り出す。
【-----、もし、貴方が生まれ変わるとしても、私はきっとあなたの側にいることをここに誓います。その時は、伴侶として、それが出来なくても何か別の形で、貴方と共にあるでしょう。そうしていることを‥‥‥-----は、許してくれますよね?】
「‥‥‥許す許さないじゃない。ずっと一緒で有り、君と僕の心が同じであれば、良い事だろう?」
【では、これに-----のサインを】
震える手を抑えつつ、その書類に僕の名前を記す。
そしてハクロも、名前を記す。
その瞬間に、魔法契約が成されたのか、書類が輝き、その場から消え失せた。
【‥‥‥これで、-----とも、ずっと一緒です】
「そう…‥だね…‥」
今ので力を使い果たしたのか、僕の意識は闇へ来ていく。
【-----、私は、絶対に‥‥‥‥】
最後まで聞き取れなかったが、それでも僕は内容が分かった。
そして‥‥‥‥この日、僕の寿命は尽きた。
ハクロはそれを感じ取り、涙を流したのであった‥‥‥‥
――――――――――――――――――――
…‥‥とある森の中、薬草採取のために奥へ進んでいる時、僕はある廃墟を見つけた。
「あれ?なんだこの家?」
相当な年月が経っているのかボロボロであり、一突きしただけで崩れそうである。
とはいえ、何となく感じ取れるものがあり、周囲を探ると墓が2つあった。
「‥‥‥夫婦の墓なのかな?」
名前はもうボロボロになって読めないが、相当仲睦まじい夫婦でもいたのだろうか?
跡を継ぐ人もおらず、もはや忘れさられたようにも思えた。
「まあ、関係ない事かな」
興味を持ったが、特に何もないようだし、薬草採取に戻ろうかな。
そう思いながらも、何となく懐かしさを覚える様な廃墟の位置を覚え、また来てみようかなと思っていた……その時であった。
【-----!!どいてどいてぇぇぇ!!】
「え?」
何か上から声が聞こえたので見れば、空から女の子が降って来た。
いや、正確には下半身の方に蜘蛛の身体…‥‥アラクネというやつであろうか?
何をどうしてかそのままの勢いで、僕はふっ飛ばされたのであった。
【本当にごめんなさい!!あちこちを糸で楽して移動していたら、ブチッと切れてしまいました!名前も知らない方、本当にごめんなさい!!】
「いや、ごめんで済むかこれ…‥‥死にそうなんだけど」
必死になって土下座されているが、僕の方は瀕死である。
薬草採取のために足腰はそれなりに鍛えていると自負はしていたが、流石に今のは想定外すぎる。
まぁ、それでも何とかある程度の薬草を採取していたがゆえに、それらを使用して何とか僕は復活した。
「ふぅ、死ぬかと思った……あーあ、これじゃぁ、もう一度取り直さないとな」
【本当にすいません!!】
見れば、その彼女は体の構造的に少々無理があるというのに、見事な土下座をしている必死さに、怒る気もない。
それに、事情によれば今のは本当に事故だったらしく、何でもすると彼女は言った。
「それならさ、薬草採取を手伝ってくれないかな?できれば品質の良さそうな奴とかを見つけるのに、僕だけじゃちょっときつかったりするんだよ」
【わかりました!!この私の命に代えても一生懸命お供してやります!】
「いや、それはやり過ぎだよね?」
ちょっとそそっかしいというか、なんというか……でも、憎めない。
苦笑いをしつつ、森の中で僕らは即興で仲間となり、薬草採取に移る。
‥‥‥それから数時間後、薬草を採取し終えたので、これ以上彼女がやる事もない。
けれども、まだ申し訳ないのか、それからしばらくしても彼女は僕から離れず、いつしか良い仲間となった。
いつのころからか分からないが、だんだん愛情の芽生え、好きになったような気もする。
まぁ、まだまだ恋なのかどうかも分からないが、今日も僕らはともに行くのであった‥‥‥‥
‥‥‥ここから何度も何度も、様々な世界で二人は再会し、関係を持っていく。
そのそれぞれで絆を深めつつ、また新たな物語の元となる。
この話が先なのか、あるいは別のものが先なのか、鶏が先か卵が先か、ちょっとややこしさも含んでいる……