2ー45 そして誰もいなくなった
ゲティ視点にするか三人称にするか迷った結果、ゲティ視点にしました。
ゲティ視点
「クソッ!」
俺様ことゲティは二ヶ月ぶりに自宅へ帰るとリビングのソファに腰かけ、酒を煽るように飲んだ。元来は親父の酒だが知ったことじゃない。
決闘に負けた後、俺達はある契約を課せられた。
それはあの魔王の子とその従魔、そしてウシ乳魔女に直接的にも間接的にも一切危害を加えないこと。それに加え、半径100m以内に近付かないこと。もし破ったら呼吸が出来なくなること。
非常にムカつく事だが、決闘に負けた事もあり、その契約を飲まざるを得なかった。だが所詮口約束だ。そんなの守る必要もない、そう思っていたのだが、いきなり息が出来なくなった。息苦しくなり、俺達は逃げるようにギルドから出ていき、ある程度離れると息が出来るようになった。
この契約のせいで俺達はユリシカの冒険者ギルドに立ち寄ることすら出来なくなったのだ。
「クソッ、クソッ!」
あの魔王の子め! 絶対に許せねえ!
だがどう足掻こうとヤツに危害を加える事は出来ないのだ。それが例え間接的なものであろうともだ。
「あらあら、荒れておりますわね、お兄様」
酒が入りすぎて鈍くなったのか、いつの間にか妹のチェルシーがいた。俺様と同じ緑色の髪とつり目がちな紫色の瞳、しかも髪型は今日日誰もやらないであろう縦ロールだ。英雄、バートン家の一員でありながら非常に困った性癖を持っている。
その妹が俺様を嘲笑うかのようにクスクスと嗤う。
「うるせえ! てめえ、態々俺様を嗤いに来たのかよ」
「その通りですわ、と言ったらどうしますの?」
「てめ……!」
俺は立ち上がりチェルシーに殴りかかろうとするも、チェルシーは笑みを浮かべたまま、動こうともしない。すんでのところで拳を止める。
「あら、殴りませんの? ま、流石に実の妹に酔った勢いで女に手を出すような恥知らずではありませんわね」
俺はこの妹に口で勝てた事がない。俺様は舌打ちするとソファに身体を埋め、再び酒を煽る。
「はあ、そんなに父様の酒をお飲みになって、怒られても知りませんわよ。尤も、その父様は二度とこの家に戻る事はありませんけど」
チェルシーが妙な事を言ってきた。確かに今のこの状況を見れば親父が怒鳴り付けてもおかしくないのだが、どういう意味だ?
「父様は捕まりましたわ。色欲の粉を使って幾人もの娼婦を廃人にしたとかで」
詳しく聞くと、親父がちょくちょく足を運んでいた娼館では、色欲の粉を用いて娼婦にそれを飲ませては事に及んでいたそうだ。その事がとある冒険者によって摘発され、そこを利用していた者は軒並捕らえられたとか。中には衛兵隊長もいたとか。とんだ屑だな。流石の俺様もクスリを使うほど落ちぶれてはいない。
「恐らくは除爵、奴隷落ちもあり得ますわね」
「はあ!? 馬鹿じゃねーの? 英雄の血を引いてるヤツがとんだ恥をさらしやがって」
「今の兄様もそうですけどね」
「んだとゴルァ!」
「決闘に敗れ、酒に溺れるとか、情けないにも程がありますわ」
「……何故知っている」
「噂で持ちきりですわ。三十人で挑んだにも関わらずたったの二人に負けた、と」
……いくらなんでも噂が拡がるのが早すぎやしねえか? まさかあの魔王の子が言いふらしやがったのか!?
クソッ! 何処までも卑劣なヤツ!
「ふふっ、誰が噂を拡げたのでしょうね。兄様は結構評判悪いですし、本当、誰なんでしょうね」
「……」
「そうそう、父様の一件。とある冒険者というのは魔王の子らしいですわ」
何処までも俺達を邪魔しやがる!
「嗚呼、素晴らしいですわ。早く私を拐ってくださいませ、魔王の子様ぁ」
魔王や魔王の子に拐われたいという拐われ願望があるチェルシーが腰をくねらせ、気色の悪い声をあげる。顔も涎を垂らして女がしてはいけない顔をしている。頭の中では一体どんな妄想を浮かべているのやら。
俺の事を情けないと言うが、そう言うお前は変態じゃねえか。そんな気持ち悪い妹から逃げるように俺様は自室へと足を運んだ。
☆★☆★☆★
翌日――
深酒のしすぎか、頭が割れるように痛い。完全な二日酔いだが、だからと言ってこの街に長居はしたくない。
ユリシカの冒険者ギルドは利用することが出来なくなったが、それなら別の街のギルドに所属先を代えればいいだけの話だ。それにこの街に居ても後ろ指を指され侮蔑と憐憫の目を向けられる。こんな街とはとっととおさらばだ。
玄関の扉を開けると、そこには仲間、否部下達が門戸の前に集まっていた。
「よう、それじゃさっさとこの街を出るぞ。否、折角だ。森のマンドラゴラを根こそぎ採ってくか?」
マンドラゴラの採取は一回につき原則一人辺り二本とされているが、それはユリシカのギルドだけだ。戻る気も無い俺様達には関係ない話だ。だが、
「悪いけどゲティさん、俺達は抜けさせてもらう」
こいつらが何を言っているのか一瞬理解出来なかった。抜ける?
「あんたと一緒だと笑い者にされるんだよ」
「あんたのおかげでいい思いしてたけどよ、今回の事で俺達ゃ酷い目にあったんだ」
「おまけに隊商の護衛の契約も外れちまったよ」
「たった二人にボロ負けするようなレギオンに用は無いってよ」
「という訳で抜けさせてもらうわ」
「俺も」
「私も」
「じゃあな。もしどっかですれ違っても無視するんで」
皆踵を返し、俺様の元から去っていく。そして誰も残らなかった。最初から組んでいたパーティの面子も誰も居ない。
「は、はは、なんだよそりゃ…………クソ、クソッ、クソクソクソッ! 魔王の子めえ! ……いいさ、俺様の恩恵も無くてどうやってやっていけるか見物だぜ、クソッタレどもが!」
事実、俺様の元から去った奴等は依頼を受けることさえままならず、誰一人冒険者を続けられなくなったらしいが、それは俺様の与り知らないところだ。否、正しくは知る事すら出来なかった。何故なら――
☆★☆★☆★
「う、ここは……」
記憶が混濁している。確かあいつらと袂を別けてから、俺様は一人でカエラの森に行き、マンドラゴラを採取していた筈だ。
それから、ああ、思い出してきた。妙な触手に襲われて、どでっ腹を貫かれて、そして――
「死んだのか、俺様は……」
独りごちる。貫かれた腹の痛みはもうない。回復魔法か或いはそれに準ずるもので処置したのだろうか。ただ、下半身に何か巻き付いている感じがする。そして両腕にも。何かに吊らされているようだ。
だが感触があるということはまだ死んでないということだ。どういう状況なのか、周りを確認する。
緑一色だ。地面も何もかも蔦に覆われている。その蔦が俺様を拘束しているようだ。そして俺様と同じように拘束されているヤツが数人いる。
「おい、大丈夫か……」
俺様は一番近くにいる女(結構若く、どこそこ可愛い)に訪ねるが、反応が無い。顔を見れば死んでいる訳ではない。ただ息が荒く、恍惚とした、蕩けた表情を浮かべている。
「……ん、あぁ…………ん……」
女が艶かしい声をあげる。そして、
「吸ってぇ、もっと吸ってえ!」
女が狂ったように喘ぎ声を放つ。そう、まるで快楽に溺れるかのような。女に巻き付いている蔦を見ると、何かを吸っているのかのように一部が瘤のように膨らみ、そして瘤は奥へと流れていく。
そして一際まるで絶頂したかのような大きな声をあげたかと思ったら、みるみるうちに頬が痩けていく。否、頬だけでなく全身が干からびていく。だが、女の口に別の蔦が突っ込まれ、何かが流し込まれる。それを女は何の抵抗もなく飲み込むと、元の姿に戻っていく。
……なんだこれは。何なんだこれは!?
魔物なのか? 魔物の仕業なのか? だが俺様はこんな魔物は知らない。まさか俺様もあの女のように壊れてしまうのか? 無様に快楽に耽り、溺れてしまうのか? それも飼い殺しみたいにされて!?
俺様は恐怖した。
「うふ、うふふ……」
何処からともなく女の笑い声がした。あの蔦に巻かれている女のではない。別の何かだ。
笑い声が近付いてくる。そして、俺の目の前の地面の蔦が分かれ、一人の女が姿を現した。薄緑の肌をした女、恐ろしい程の美女だ。髪も緑色、よく見ると髪は植物の蔦だ。瞳は血のように赤い。下半身は蔦に覆われ、女から吸いだした何かを取り込んでいる。
アルラウネだ。つまり俺様達を拘束しているのはコイツということだ。
「おいテメエ、さっさと俺様を開放しやがれ!」
俺様は荒々しく怒鳴るが、アルラウネは完全に無視している。それどころか、
「ふふ、なんて活きの良い……一体どれ程の生気と魔力を有しているのか。楽しみですね」
アルラウネの柔らかい笑みに俺様はゾッとした。
コイツ、俺様のことを餌としか思っていねえ。英雄の曾孫でB級冒険者のこの俺様を……!
「さあ、これから産まれる私の娘の糧となりなさい。代わりに快楽と悦楽を与えましょう。うふ、うふふ……」
「よせ、止めろ、やめ……あ、ああぁぁぁぁぁぁ!」
そして俺様は快楽の渦に飲まれ、快楽を求め、いつしか自我を失うのだった。
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