2ー38 マインドダイブ
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「その人がアンナを治してくれるのかい? 頼む、アンナを、あの娘を助けて!」
クロマリアを連れて黄金の林檎亭に戻った俺達は、リサさんに彼女の事を紹介した。
「クロマリアと申しますわ。先ず言っておきたい事がありますの。私は夢魔族ですわ。それでも、私でも宜しいのですか?」
クロマリアがそう言うと、サングラスを外した。まさか当人がカミングアウトするとは思わなかった。魔族、夢魔族というだけで偏見を持たれるかもしれないのに、だ。それに魔族に助けを求めたくないという人もいるかもしれない。恐らくだが、もしリサさんがそれで不快を露にし、「魔族になんか頼りたくない」とでも言おうものなら、あっさりと断るつもりだったのだろう。だが、
「そんなの関係ないさね! だからアンナを! 礼は何でもする。だから!」
よほど切羽詰まった様子でクロマリアに頼み込んだ。一瞬面食らったクロマリアだが、本心だろうと理解するとリサさんを宥め、こう言った。
「分かりましたわ。お礼はソーマ様から既に頂いておりますから、気にしないでくださいましな。それに、まだ治せるかどうかは、そのアンナさんの状態を見ないと分かりませんわ」
「え、ああ……それもそうだね」
一人娘のアンナちゃんが、あんな事態になってしまったのだから取り乱すのも仕方がない。
「それで、アンナちゃんは?」
リサさんは俺とクロマリアをアンナちゃんの部屋へ招いた。相変わらず、ベッドの上で膝を抱えている。良くも悪くも変わっていない。
クロマリアはアンナちゃんに近寄ると、額を合わせる。どうも俺含め、男に対して極度の拒絶反応が起きるようだ。
「失礼しますわね……」
確か精神感応とか言う精神魔法だったか。今回のように相手の精神状態を詳しく知るためにも使ったりするのだが、実際の用途は違うらしい。確か心を読むとかどうとか。
「……これなら何とかなりそうですわね」
「ほ、本当かい!?」
「そうですわ。治療法も幾つかありますわ」
クロマリアはそう言うと小指を立てる。
「一つめはソーマ様が為されたこと、記憶に蓋をして封じることですわ。ただ、ひょんな事から記憶が蘇ってしまうことがありますわ。今回のように」
無論、俺のより強力なものにするそうだからそうそう解ける事は無いそうだが、やはり一抹の不安が残る。
そして次に――と薬指を立てる。
「人格を作り替える、或いは新たな人格を産み出す事ですわ。先の事を何とも思わないような。ああ、人格を作り替えると言っても、今までの記憶が無くなることはございませんわ。ただ、その人格がかなり問題あるものになるかもしれませんわね」
これは操心術だ。人格形成とか、そんなの。ゲーム、と言うか催眠系エロゲのようなことも出来る。
今回のは要するに、かなり攻撃的な、暴力的な性格になるかもしれない、ということだ。ゲームとかでも度々あるが、あまりの苦痛を味わったが為に新たな人格を作り出し、その人格に苦痛の記憶を押し付けた挙げ句、自分は心の殻に閉じ籠るとか。しかも新たに作られた人格は、そのせいで全てを憎む暴力的な性格になってしまったり。
そしてクロマリアが中指を立て、
「あとは、アンナさんの精神世界に入り、元凶を抑え、トラウマを克服することですわ。ただし、アンナさんは兎も角、精神世界に潜行した方に危険が及びますわ。最悪廃人になるかもしれませんわ。この場合は私ですわね」
確かマインドダイブ、だったか。この中では危険性が極めて高い。だが完治する可能性も高い。正にハイリスクハイリターンなのだが、これで失敗してクロマリアが壊れてしまうのは……
「その三つ、なのかい?」
「そうですわ。どれでも構いません、選ぶのは貴女ですわ」
中々酷な選択をする。特に最後の三つめ、クロマリアでもリスクが高過ぎる……ん?
「なあ、クロマリア。最後のやつだけど代わりに俺がダイブすることは出来るのか?」
「ええ、出来ますわ」
「それなら俺が潜ろう。トラウマを産み出した元凶だしな」
「ソーマ!? まだそんなことを!」
リサさんが驚愕と怒りの入り交じったような声をあげる。
「リサさんは気にするな、と言ってくれたけどさ、やっぱり俺個人としては納得出来てないんだよ。やはり自分が許せない。それに、償いってのもあるけど、俺が仕出かしたことくらい、確りと尻拭いしないとね」
「ソーマ、あんた……」
「ソーマ、本気?」
今まで黙っていたシンシアが俺に尋ねた。少し怒っている様にも見えるが。
「本気だ。俺の事を兄と慕っている娘だぞ。他人任せには出来ないよ」
「……はあ、ソーマは優しい。分かった、けど無事に戻ってくること。あと、私が、同じように大変な目に合ったら、助けること」
「はいはい」
シンシアは俺の決意に呆れたのか、溜め息を吐くも俺を同意してくれた。
要望に関しては軽く流したが、言われるまでもない。因みに、後日シンシアがアンナちゃん以上の大変な目に合うのだが、それはまた別の話だ。
「シンシア、あんたまで……分かったよ。そこまで言うのなら任せるよ。だからソーマ、アンナを助けてやってくれ」
リサさんが俺に頭を下げる。勿論、と俺は頷く。ただ、
「ひ、あ、あぁ……」
アンナちゃんがすっかり俺に怯えてしまっているのだが――
「そうでしたわね。今のアンナさんは異性に触れられるのを極度に恐れていますものね……アンナさん、大丈夫ですわ。次にに目が覚めた時は全て元通りですわ。『ディープスリープ』」
「あ…………すぅ…………すぅ…………」
クロマリアがアンナちゃんに『ディープスリープ』をかける。流石高レベルの精神魔法の使い手、アンナちゃんはあっさりと深い眠りについたのか、寝息を立てる。
リサさんが眠ったアンナちゃんをベッドに仰向けにする。
「『ディープスリープ』は『スリープ』と違い、そうそう起きる事はありませんの。夢すら見ることはありませんわ」
ああ、つまり『スリープ』はレム睡眠で『ディープスリープ』はノンレム睡眠なのか。
「ではソーマ様、アンナさんの額に手を」
俺はクロマリアに言われるがまま、アンナちゃんの額に右手をあてる。そして重ねるようにクロマリアが俺の右手の甲に右手を乗せる。その際俺とクロマリアの身体――肩が触れあう。
いくら夢魔族とは言え、綺麗な異性にに身体が触れるとやはりドキドキするな……
「むー」
それを見てシンシアが頬を膨らませる。いかんいかん、少し顔に出てたか?
「シンシアさん、お務め以外で貴女の良人を取ったりはしませんわ……さて、ソーマ様。これから貴方をアンナさんの精神世界に送りますわ。そこで一つ忠告ですわ。この娘の心の中にいるのは全てアンナさんですわ。それを決して否定しないでくださいませ」
ん? つまりアンナちゃんの精神世界でどんなに酷い言葉を投げ掛けられても、それはアンナちゃんの隠れた本心、それを真っ向から否定するな、ということだろうか?
「ではソーマ様、目を瞑り、気を楽にしてくださいませ。これからアンナさんの心の中に案内致しますわ……」
俺はクロマリアの言う通り目を瞑り心を落ち着かせる。そして――
俺の意識はアンナちゃんの心の中、精神世界へと潜っていった。
サ○コダイブではありません。マインドダイブです。やってることは同じですが。
知ってる人いるのかな、サイ○ダイバー……




