2ー36 夢魔族
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当てがある――
シンシアのその一言は俺達に希望を与えた。その人に頼めば何とかなるかもしれない、そんな一縷の望みに賭けて、シンシアに案内してもらったのだが――
「またここか……」
俺は顔に手をやり、溜め息を吐く。
そこは昨日も来た歓楽街の娼館区画だった。しかも朝早く。
リサさんにはアンナちゃんを看てもらう為に残ってもらったのは正解だったかもしれない。というか、朝帰りの客の視線が痛い。しかもシンシアと一緒なのだから、果たしてどのように写っているのやら。
「ソーマ、こっち」
と、シンシアが俺の手を引っ張りながら、娼館へと入る。その娼館は『妖精館』と書かれていた。
確か、とある下世話な商人から聞いた話では、ハーフエルフが娼婦を務めているそうだが……成る程、エルフ=妖精という考えか。あと美人揃いで、しかも基本ハーフエルフは不妊なので、一番安心して利用出来る事から割と人気があるとか。
「……実は当てと言うのは口実で、まさかここでヤるとか変な事考えてないだろうな」
「……その手があったか」
「おい」
「当てがあるのは本当。ただ、その人がここの娼婦なだけ。けど、ソーマが望むなら、いいよ? なんなら、その人と一緒に」
「しねーよ」
いや興味はあるけどね、3人で、とかさ。けど、そんなことよりも――
「今はアンナちゃんだ」
「まさか先にアンナと? 私なら、いつでもうぇるかむなのに?」
「いい加減そのピンクな妄言は止めろ」
「ん、冗談。先ずアンナを治す。そのあとで私とアンナと……」
いや分かってねーだろ。俺は迷わずシンシアの頭に拳骨を落とす。漫画で派手な擬音が出るくらいに激しくだ。あまりの痛さにシンシアが頭を押さえしゃがみこむ。
「うぅ、いたひ……ちょっとしたお茶目な冗談なのに……」
「その冗談は笑えん。兎も角、その精神魔法の使い手はここにいるんだろう。早いとこ紹介してほしいんだが」
「うぅ、分かった。今大丈夫かどうか聞いてみる。それと……私を傷物した責任、とってね」
「馬鹿なこと言ってないで早くしろ!」
と怒鳴ると、シンシアは逃げるように受付の女性(この人もハーフエルフだ)の元へ向かった。
二人とも仲が良いように話している気がするな。なんか、「シンシアちゃんなら沢山客がとれるよ」とか聞こえるな。あと、俺の事を話してるっぽいが、そんなことより目当ての人物のことはどうなんだ。シンシアにその事を目で合図する。シンシアは分かったと言わんばかりに頷くと、漸く本題に入ったようだ。
「ソーマ、丁度、最後の客のお相手が、終わったところだから大丈夫だって。どうする? 今からでも行く?」
ということは今日のお務めは終了ということか。仕事終わりに頼むのは些か気が引けるが、かと言ってアンナちゃんをあのまま放置する訳にはいかない。
「すぐに案内してくれ」
そうして、俺はその精神魔法の使い手がいる部屋へと案内された。周囲の部屋から時々喘ぎ声が漏れ聞こえる。つまりここは所謂その人の『仕事部屋』ということだ。
シンシアが扉をノックする。暫くして中から声がした。
『あら? 先程の殿方が最後だと聞いたのですが、追加の指名が入りましたのね』
「違う、私」
『あらあら。シンシアさんでしたか。珍しいですわね。少しお待ちになって下さいませ』
「分かった」
暫くすると、中から声が聞こえた。
『もう宜しいですわ。どうぞ、中にお入り下さいませ』
俺達は扉を開け部屋の中に入る。中には一人の女性がいた。男心を擽るような半透明の服、と言うか下着、ベビードールを着ている。身体つきも出るところは出て、引っ込んでるところは引っ込んでいる、正しくダイナマイトバディ!
顔もかなりの美人だ。ウェーブかかった金髪に同じくたれ目がちな金色の瞳。口許の黒子が更に妖艶さを醸し出す。そしてハーフエルフ特有の尖った耳。
だが、それ以上に目を引く特徴があった。
肌の色が青い。病的な蒼白さではない。文字通り青いのだ。そして白目の部分が黒い。とても普通の人間には見えなかった。
「あらあら? シンシアさんだけでなく殿方もいらっしゃっていますのね。やはりこの殿方のお相手をすればよいのですわね」
「違う。確かに、3人でしっぽりするのも、吝かではないけど」
まだ諦めてなかったのか……
「シンシア、この人が?」
「ん。そう言えば紹介がまだだった。ソーマ、この人はクロマリア。私の知る限りでは一番の精神魔法の使い手。クロマリア、この人はソーマ。私と同じB級冒険者にして、私の恋人」
「まあ、そうだったのですの。良かったですわね、シンシア。こんな素敵な殿方の恋人になるなんて」
「違う。少なくともまだそんな関係じゃない」
「けどポーリーと一緒に公認になった。あとお姫様とも」
ああ、そう言えばそうでしたね。あとユフィとの仲を付け加えるように言うの止めてくれませんかね。
「それはそれは……それだけの女性に好かれるとは、素晴らしい殿方ですわね」
どう素晴らしいのかは敢えて聞かないでおくとして、だ。どうしても気になってしまうのだが。
「クロマリア、さんでしたね。その肌の色は……」
「ああ、やはり効いてないのですわね。他の殿方に限らず、シンシアさんにも普通の肌の色と誤認していますのに」
「ソーマ、クロマリアの肌の色がどうかした?」
成る程、シンシアにはクロマリアの肌の色は普通の肌色に見えてるっぽいな。
「この部屋に入られた方には、私の肌の色を誤認させるよう魔法をかけておりますの。けどソーマ様には効果がないようですわね」
「クロマリアさん、貴方は一体……」
「私は夢魔族、俗に言う魔族ですわ」
☆★☆★☆★
割と勘違いされるが、夢魔族を含めた魔族と悪魔は全く別である。現に悪魔は死ぬと魔石を残して消滅するが、魔族はそうならない。だが、長く人間と敵対していた為に同格に扱う事が多い。事実、魔王の元に就いた者もいるらしい。
だが、だからと言って、果たして魔族は悪なのかと言うと、そうとも言えない。案外俺同様、容姿や能力で迫害されてきたからかもしれない。
人間は、少しでも身体的特徴が違うだけで、平気で差別したり迫害したりするからな。元の世界の俺が容姿だけで散々な目に会っていたように。髪が黒いというだけで魔王の子と揶揄されたり。
無論、全員が全員、という訳ではないが、ユフィのような人達は圧倒的に少ないのだ。と、それはさておき。
で、夢魔族だが、確かに精神魔法を得意にしている種族だ。容姿的な特徴はクロマリアのように青い肌と白目にあたる部分が黒い、つまり黒目だ。あと耳が少し尖っている。なので肌の色と目の色が違うだけで、あとはハーフエルフに似ている。
因みに、よくインキュバスやサキュバスと混同されるが、インキュバスもサキュバスも実際には相当醜いらしい。また、夢魔族は別に精気を糧にしない。その為、インキュバスやサキュバスと揶揄されると猛烈に怒る。
「それにしても、あまり私に敵愾心をお持ちにはならないのですね」
「別に貴女が俺に何かしたわけじゃないですからね。まあ、驚きはしましたが……けど夢魔族か。初めて見た」
「そうですわね。少なくともこの街には夢魔族は私しかおりませんわ。けどグラスベルには普通におりますのよ」
グラスベルか。確かフィグネリアと敵対している北の大国だっけ。様々な種族が暮らしていて、そして実力主義の国だっけ。ユリシカからは王都であるアルデバラードを経由しなければ行けないから、行くことはほぼ無いだろうけど、少し興味はあるな。
「ところで、私に何の用ですの? まさかシンシアの彼氏自慢とかで連れてきた、とかでは無さそうですわね」
「まさか。貴女の精神魔法に用があってね。実は――」
俺はアンナちゃんの事を話した。ワイズに捕らえられ、あわや犯されそうになったこと。それを何とか助けたがトラウマを与えてしまったこと。その事を記憶に蓋をして忘れさせていたこと。そして、ひょんな事から記憶が蘇り、精神に異常をきたしていること。それらをクロマリアはただただ黙って聞いていた。
「成る程、用件は分かりましたわ。要はそのアンナって娘を助けてほしい、そういうことですわね」
「理解が早くて助かる。なら――」
「私もそのアンナさんを助ける事は吝かではありませんわ。ですが、タダで、という訳にはいきませんわ」
「無論、謝礼は用意する。言い値を言ってくれたら払おう」
だが、クロマリアは頭を横に振る。
「別にお金は要りませんわ。ところで私、魔力貯蓄と精魔流転という祝福を持っていますの」
……何故自分の祝福を明かす?
「魔力貯蓄は名前の通り、魔力を貯め込む事が出来ますの。ただ、普通にしていただけでは貯めることは出来ませんの。そこで、精魔流転の祝福ですわ。これは精気を魔力に変換出来る祝福ですの」
えーっと、つまり……
「性行為をして貴方の精気を体内に取り入れば、それを魔力に変換出来、貯める事が出来ますの。あ、口から飲む事でも問題ありませんわ」
要するに……
「報酬は貴方の精気ですわ。大丈夫、痛くありませんから。あ、シンシアさんは、後学の為に見ておくとよいですわ」
後学って何が!? てかクロマリアは何俺のズボンを下ろそうとするの!? ってシンシアも一緒に下ろそうとするな!!
………………
…………
……
敢えてここで起きたことは語らないでおこう。強いて言えば、凄く気持ち良かったことと、未だ童貞だということか。
「ご馳走さまでしたわ。とっても濃厚で美味しゅうございましたわ」
勘弁してください。
やってることはサキュバスと変わらないクロマリア。




