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2ー35 トラウマ

お読みいただきありがとうございます。

面白いと思ったら評価やブクマ、感想等をしてくれると嬉しいです。レビューとかしてくれたら狂喜乱舞します。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 それは唐突に起きた。大きな悲鳴が食堂中に響き渡り、喧騒がピタリと止む。声からして女の子のようだが、ここにいる女の子は少ない。というか3人しかいない。

 内二人は俺と同じ席にいる。シンシアとオキュペテー。シンシアが年齢的に見て女の子かどうかは置いとくとして、外見は美少女だ。オキュペテーは言わずもがな。因みにオキュペテーの年齢は2歳にも満たない。ハーピークィーンの成長はことのほか早いのだ。

 まあそれはさておくとして、そうなると必然的にアンナちゃんとなる。俺は悲鳴があがった方に顔を向けると、そこにはへたりと座り込み、怯えた表情を見せるアンナちゃんがいた。


「いやあ、やあ……」


 この怯え方、見覚えがある。これは――


「アンナ!? 大丈夫かい? ちょっとお客人、一体アンナに何をしたのさね?」


 リサさんがアンナちゃんの元に駆け寄り、当事者であろう男性客を睨みつける。


「なにって、ちょっとお尻を触っただけじゃねーか。それなのにあんな大袈裟な悲鳴をあげやがって……ひっ」


 つまりセクハラを働いたということか。セクハラという概念があるかどうかは別として、この男の態度はあまりにも良くない。

 男の不貞腐れた態度に、リサさんはキッと睨み付け、男が怯む。

 だがそれよりもアンナちゃんの方だ。

 アンナちゃんは顔を青ざめ、目の焦点があってないように見える。カチカチと、歯を震わせ、精神状態も宜しくない。


「アンナちゃん、大丈夫――」


「いやあ! 来ないでえ!」


 俺はアンナちゃんに近付こうとするが、拒絶されてしまう。

 ああ、これは確定だな。あの男の何気ない行動のせいでアンナちゃんの――


 俺が催眠術で施した、封印していたアンナちゃんの記憶が甦ったのだった。



 ☆★☆★☆★



 アンナちゃんの状態を見るに、これ以上働くのは無理と判断したリサさんが、アンナちゃんを部屋へと連れていった。流石にこんな状況で食堂を開けるのは無理と判断したのか、リサさんが「すまないけど今日は店じまいだよ」と早々に閉店した。ある者は部屋へと戻り、またある者は家路につく。セクハラを働いた男はかなりばつの悪そうな顔をしていたな。

 今食堂に残っているのは俺とオキュペテー、アルザード達、暁の面々、それにリサさんだ。


「すみません、リサさん。俺があんなことしたばかりに……」


「別にお客人が……ソーマが悪い訳じゃないさね」


 リサさんはそう言うが、逆に言えば、俺のせいでああなってしまったと言える。その事はリサさんも重々承知しているのだろう。だから俺は悪くないと言ったのだ。


「さっきのアンナちゃんのアレ、ひょっとして前にソーマが言ったあの事が関係してるの?」


 エレナの問いに俺は首肯する。俺やユフィ達がルミナス教に捕らえられ、牢屋に入れられた時の事はアルザード達に話している。


「今になって思うと、もっと他にやりようがあっただろうに……あの時は頭に血が昇りすぎた」


 今更後悔しても遅い。後悔先に立たず。後の祭り。


「起きたことをぐじくじ言っても始まらんよ。今はアンナだちゃんだ。リサさん、あの娘は大丈夫なのか?」


 アルザードが尋ねるが、リサさんは横に首を振る。


「どうだろうね……案外一晩寝ればケロッと元通りになるかもしれない」


 それはどうだろう。まだあれからそう日にちは経っていない。トラウマを克服するにはあまりにも短すぎる。

 それにしても、よくよく鑑みれば、兆候はあった。アンナちゃんの頭を撫でようとしたら避けるように一歩下がったり、俺を兄と慕う割には距離を取っていたり。

 今更ながら、自分の不甲斐なさに怒りを覚える。


「兎も角、今日一晩様子を見るさね。お客人達も部屋に戻りな」


 リサさんがそう締めると、俺達もそれぞれの部屋に戻ることにした。



 ☆★☆★☆★



 夜が明けた。

 昨晩の事で、正直あまり寝れていない。気が付いたら夜が明けたという感じだ。

 一方、オキュペテーはぐっすり寝ていた。今も気持ち良さそうに寝ている。折角なので起こさないでおこう。

 俺は顔を洗い、眠気を取ると、一階のアンナちゃんの自室へと向かった。扉の前にはリサさんがいた。どうやらリサさんもあまり眠れてはいないらしく、目に隈が浮かび上がっている。


「おはようございます、リサさん」


「あぁ、おはよう……」

 

「あの、アンナちゃんは……」


 リサさんは首を横に振り、「アンナ、入るよ」とアンナちゃんの部屋の扉を開ける。

 窓をカーテンで閉めきっており、中はだいぶ暗い。そしてアンナちゃんはベッドの角で膝を抱えて座っていた。


「アンナちゃん、おはよう」


 俺はアンナちゃんに朝の挨拶をするが、心ここに在らずというか、反応が無い。もう一度呼び掛けるが、


「あ、ああ……やあ、来ないでえ…………」


 と、拒絶されてしまった。あの時と同じ、或いはもっと酷いかもしれない。

 前と同じように催眠術を施してもいいが、その場しのぎだし、何の解決にもならない。それに上手くいくとも限らない。

 俺は部屋を出ると、リサさんに尋ねた。


「アンナちゃんは、あれからずっと?」


「起きてるさね。何とか寝かせつけたと思ったら、相当酷い夢を見たんだろうね。すぐに目を覚ましちまう。まったく、寝ても覚めても悪夢の中とは笑えないさね」


 リサさんが溜め息を吐く。


「やっぱ、俺のせいですね……」


 自分のやらかしたことに今更ながら後悔する。


「ソーマ、次、同じこと言ったら怒るよ。あれはソーマのせいじゃない。全てはごうつくばりのワイズ司祭が悪いんだ」


「しかし……」


「経過はどうあれ、アタシ達の為にしたことだ。感謝こそすれ、恨んだりはしないさね」


 やり過ぎではあるけどね、とリサさんは付け加える。


「それで、どうするんだい? 前と同じように記憶に蓋をするのかい?」


「いえ、それだと問題の先送りになるし、何より、もう効かないしょう。時間をかけてゆっくりと治すしか……」


「その前にアンナが壊れそうさね」


「ええ、だからある程度時間が経過したら、アンナちゃんが精神的に大人になってから催眠術を解こうと思ったんですが……」


「その前にあの馬鹿のせいで強引に解けちまった、と。知らなかったとは言えなんて事してくれたんだろうね、全く」


 正直お尻を触られるだけで記憶の蓋が強引にこじ開けられるとは思わなかったが。


「どうしたもんかね……」


「俺よりも精神魔法に長けた人なら或いは。けどそうそういるわけ無いし、そもそも当てが無いし」


「当てなら、あるよ」


「「えっ?」」


 声のした方に振り向くと、そこにはシンシアがいた。


「精神魔法の使い手、私に、一人、当てがあるけど」


 


 

処刑騒ぎ後のアンナの不可解な行動はこれの伏線です。予想されていた方もいたかもしれませんが。

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