2ー32 ブランドン・バージェス
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俺は屋敷の門戸を叩く。が、反応は無い。
「中、誰モ居ナイ?」
オキュペテーが疑問を口にするが、誰も居ない、というわけでは無い。屋敷からは人の気配を感じる。こうしていても埒があかないので、門を開くと、中には如何にも荒くれものという感じの奴が数名。待ち構えていたのかどうかは分からないが。
「おい、ここはバージェスさんの家だ。勝手に入り込んで、一体何のようだ?」
「……一応ノックはしたんだけど」
「んなこたぁ、どうでもいいんだよ! さっさと答えろ!」
荒くれものの一人が声を荒げる。この高圧的な態度は脅しのつもりだろうか。以前の、この世界に来る前の俺ならビビって逃げ帰るとこだが、力を付け、相手の力量をある程度計れるようになった今では、そう怖れる程ではない。
「ガルドに用がある。居なければブランドンさんでもいい。取り次いできてくれ」
「ガルドさんなら今は居ねえよ。てか呼び捨てとはどういう了見だゴラァ!」
うーん、マフィアとかそんな感じを想定していたんだけど、こいつらまるでチンピラだな。
「ブランドンさんならいざ知らず、ガルドのような屑にさん付けする必要はあるのか?」
俺は荒くれものを睨み付ける。
「てめえ!」
激昂した荒くれものが俺に殴りかかるが、俺はそれをカウンターで殴り返す。殴られた男はそのまま倒れ失神した模様。
「痛い思いをしたくなかったらブランドンさんを呼んでこい」
あまり下手に出ると付け上がりそうなので高圧的に出る。ついでに威圧するよう睨み付ける。
「ぐ、こいつ……」
「騒がしいぞ、てめえら! 一体何の騒ぎだ!」
二階の方から大きな声が響いた。恰幅のよい、如何にもマフィアのボスといったような出で立ちだ。ブルドッグを彷彿させるような顔立ちだ。歳のせいなのか、はたまた不摂生のせいなのか、頭はすっかり禿げ上がっている。
「ぶ、ブランドンさん、こいつが――」
「あんたがブランドンさん。ガルドのことで話がある」
荒くれものの声を遮り、ブランドンに要件を伝える。ブランドンは俺を上から品定めでもするかのように睨み付けてくる。
「……ふん、街の英雄、悪魔殺しにして魔王の子、『死音』か」
「街の英雄かどうかは知らないが、確かに『死音』の二つ名を授かっている者だ。あと魔王の子は甚だ不愉快だ」
「……そうかい。おい、こいつは俺の客人だ。余計な手だしはするんじゃねえぞ。それじゃ『死音』殿、おめえの話を聞こうじゃねえか」
ブランドンはそう言うと俺を部屋へ促した。
☆★☆★☆★
ブランドン直々に彼の部屋へ案内され、そのままソファーに促される。俺達はそのままソファーに座る。ブランドンも対面し座り、葉巻を吸う。嗜好品としてかなり高価なはずだ。
「知ってると思うが俺がブランドンだ」
「ソーマだ。知ってるだろうが『死音』の二つ名持ちだ」
お互い簡単に自己紹介をすませる。ブランドンは徐にオキュペテーの方を見遣る。
「気になってはいたが、その娘はガルドが買い取った魔物だな。一度見たことががある」
「オキュペテーダヨ。ヨロシクネ、オジサン」
子供が見たら泣き出しそうな顔をしているブランドンに挨拶する。しかもおじさん呼ばわり。当のブランドンは顔を歪ませる。笑ってる、のか?
「そうかそうか、オキュペテーというのか。前見たときはこの世の終わりみたいな顔してやがったが……いい顔するようになったじゃねえか」
「ウン、御主人ハイイ人。オキュペテーの番!」
「ぶっははは! そうかそうか御主人でしかも番か! ハーピークィーンの番になるたぁ、男冥利につきるってもんだぜ、おめえ」
何が可笑しいのか、ブランドンが口を開けて笑う。成る程、こうやって笑う様はダンの言う通り極悪人って訳でもなさそうだ。
「いや御主人は兎も角、番は……て、その話は置いといて。ブランドンさん、そのガルドのことで話があります」
さっきまでバカ笑いしていたブランドンが一瞬で真面目な顔をする。
「……家の馬鹿息子がおめえに何か仕出かしたのか? その事での苦情なら帰んな」
「別に俺にどうこうした訳じゃない。先ずはこれを聞いてくれ」
俺は先の録音したやり取りをブランドンに聞かせる。
「……それは会話を録音する魔導具か何かか? いやそれより今の話の内容は本当か?」
「ああ。隷従の首輪を使ってな」
「……そうか」
ブランドンが葉巻を吸い、紫煙を吐く。暫しの沈黙のあと、ブランドンは口を開いた。
「店の……娼館の娼婦達は?」
「薬漬けにされてた。一応解毒の魔法は使ったが……復帰は厳しいかもな」
「そうか……」
ブランドンが沈痛な面持ちを浮かべる。
「あそこの娼婦はな、元々はスラムにいたガキ共だったんだ。特に顔立ちの良いのを選んでな、男が悦ぶ事を教えて娼婦にした。やってることは外道だと言われても仕方がねえ。その自覚もある。だがあいつらはスラムで飢えて死ぬくらいなら、と喜んで娼婦になったよ。それなのに……」
確かに褒められる事ではない。俺も正直どうかと思う。だが彼女達は娼婦となることで自分の命を繋いだ。実際、娼婦は借金奴隷が多く、中には店にきた客と結ばれ、そのまま買われ、夫婦となり、幸せに暮らしている者も居るらしい。彼女達もその可能性があった。だがそれを実の息子と娘が潰してしまったのだ。しかも廃人寸前に追い込まれるというおまけ付きで。
ブランドンは奴隷商ではあるが、なるべく良い所に買ってもらい、少しでも幸せになってもらおうと文字や計算を教えたりしていたそうだ。それは今でも変わらず、スラムの子供達に色々教えている。それは一人立ちさせ、スラム以外でも暮らしていけるようにしているのもあるが、子供達を敢えて奴隷にし、良いとこに売り付けるということもしている。中には子宝に恵まれていない夫婦に養子として売ったこともあるという。スラムの子供の中には薄々気付いている子もいるらしいが、やはり今よりはいいと文句一つ言わない。それどころかブランドンを慕っている。その結果、スラムの元締めみたいなものになってしまったそうだ。
「ガルドもシェーラも、もう俺の子じゃねえ。金を盗むくらいの可愛い事には目を瞑るが、クスリに手を出すなとは何度と言い聞かせたんだがなあ。しかも俺が育てた娼婦をヤク漬けにするとかよぉ」
ブランドンはさも怒り心頭といった様子でガルドとシェーラとの縁切りを宣言した。
「じゃあガルドは?」
「おめえの好きにしな。あいつが死のうが俺には関係ねえ事だ。あんなのよりスラムのガキ共の方が大事だしな」
案外、クリスト伯爵やギルドマスターが言うような酷い人間では無いのかもしれないな。やってることは外道と言ってもいい程だが。
それにしても、血の繋がった息子や娘を『あんなの』呼ばわりとはね。
兎も角、ブランドンの言質はとったし、後はガルドをしょっぴくだけだ。俺はその事をブランドンに伝え、部屋を退出する。すると、誰かが来たのか、階下が騒がしい。さっきの荒くれもの達が一人の男を取り巻き、へこへこ頭を下げている。
その男は大柄で、粗野な雰囲気を纏っていた。腰には剣を帯剣している。そして手には――
俺は急いで階段を降り、その男と相対する。
「お前、それ、どこで、手に入れた……?」
「あぁ、なんだ貴様。親父の客か? まあいい。これは偶々通りかかったガキから貰ったもんだ。うめえなこれ」
男はそう言うと手にした物にかぶりつく。
「貰っ、た?」
あり得ない。だって、それは、俺が、あいつらにやったもので――
「おうよ。ちょーっと渋ったがな、俺様が説得したら差し出してくれたぜ」
「その子達、は?」
動悸が早くなる。息が苦しくなる。嫌な予感がしつつも聞かずにはいられなかった。
「さあな。今頃はこれで腹空かせなくてすむと喜んでるんじゃねえか。尤も、あいつらも犬の餌になってるだろうがよ。クハハハハ!」
男が手にしていたのは俺がダンとマリーに渡した沢山のパンとコーラだった。
当初、ブランドンは血も涙も無い極悪人でしたが、大幅に変更してこうなりました。




