2ー28 従魔契約
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奴隷の男を無力化し、ハーピークィーンを文字通り眠らせ、そしてドレスの女を気絶させて縛った俺は、改めてこの地下室を見渡す。
部屋はそこそこの広さで、俺が来た部屋の扉の他にも、もう一つ扉がある。女はここから逃げようとしたのだが、果たして何処に通じているのやら。
それとハーピークィーンが吊るされていた下には桶のようなものがあった。それ以外にも角に数個の桶がある。中には透明な液体が入っており、滑り気がある。恐らくこれが妖鳥の潤滑液だろう。
…………さて。
俺は桶を手にすると、桶ごとストレージに投げ込む。
――マスター……
いやほら、悪用されるのもあれだし、かといって捨てるのももったいないよなあ。だったら俺が何かに活用するのがいいんじゃないかなあ、と。
――ローションと媚薬の素材位にしか使い道はありませんが。
……よし。桶一つぶんを除いてウルフリードに売ろう。
――……
そこで沈黙しないでくれますかねえ!?
それは兎も角、男奴隷とハーピークィーンが着けている首輪だ。俺は未だに立ち上がろうともがいている奴隷男の傍に寄る。
男は俺の足を掴もうとするが、ショックボルトで麻痺させる。女が気絶しても命令は活きているのだろう。
俺は男が着けている首輪をよく観察する。武骨な、何の飾り気の無い金属の首輪だ。後ろに繋ぎ目があり、それを外せば首輪を外すことが出来るのだが、ガッチリと嵌まっている。一応鍵穴らしきものがある。どうやら一度嵌めると鍵が無いことには外せないようになっているのだろう。そして首輪には文字が刻まれている。
――マスター、文字には魔力が通っている様です。
つまり契約魔法、書面契約の首輪バージョンということか。首輪を外せば契約は無効となる筈だ。正直紋章契約じゃなくて良かった。アレは契約者、主が破棄しない限り効果があるからな。
因みに首輪には彫られている内容は、
・この首輪を着けられた者は着けた者の奴隷となる。
・汝に首輪を着けた者を主とし、絶対服従せよ。
・主の命令は絶対である。これは汝の意思、感情に関係無く、身体は命令を実行する。
こんな感じだ。見事なまでに人権無視である。
俺は男の猿轡を外す。
「すま、ない。命令されて、身体が、言うことを、聞かない。止めて、くれて、感謝、する……」
まだ痺れが残っているのか喋り辛そうなのか、途切れ途切れで男が謝罪する。
「あの、娘、にも、魔物、とは言え、酷いこと、を、した……」
やはりハーピークィーンを犯すよう命令されていたのか。
「そうか。許されるかどうかは知らないが、あの娘の目が覚めたら謝っといた方がいいだろうな」
「そう、する……」
少しづつだが、麻痺、と言うか感電から回復し始めているようだ。
「なあ、この首輪を無理矢理外したら死ぬ、何てことは無いよな?」
「分から、ない。けど、オデの意思を無視して勝手に動かされるのは、死ぬことよりも嫌だ。外せる、のか……?」
「多分、な。けどそれで死ぬ可能性が無くもないが……」
この手の物は、無理矢理外そうとすると爆発したり、魔法でポックリ逝ったりというのは、小説とかでは定番だったりする。
「いい。やってくれ……それで死んだとしても恨むことは、しない」
何とも、胆の据わった奴隷である。とは言え、死んだりしたら俺が堪らないのだが……ここは腹を括る。
「じゃあ、やるぞ……『アンロック』」
これも付与魔法の一つ。文字通り『アンロック』は鍵を外す魔法だが、失伝を通り越して存在すら消された魔法だ。理由は至って単純。悪用されるからだ。確かにこんな魔法使えたらお金とか盗み放題だ。そりゃ存在自体抹消するだろう。それはさておき。
カチリ、と鍵が外れる音、そして首輪が外れ、床に落ちる。
男には何も異常はない。どうやら最悪な事は起きなかったようだ。
「外れた……お、おお、オデの思うがままに身体が動く! ありがとう、ありがとう……」
男は号泣しながらも俺に感謝の言葉をあげる。
さて次はハーピークィーンの番だ。彼女はまだ眠っている。起こしたら性的に襲われそうなので、眠らせたまま『アンロック』を発動。こちらも何の抵抗もなく首輪の鍵が外れる。俺は彼女から首輪を取り外すと、未だ気絶しているドレスの女に嵌める。別に俺の奴隷にするつもりはない。尋問の為だ。ついでに猿轡も噛ませる。
決して如何わしい理由何かじゃないんだからねっ! とツンデレってみるが、自分で言うのもなんだが……
キメェ。
――男性のツンデレはちょっと。
うん、自覚してる。やらなきゃ良かったと後悔もしてる。
さて――
「ウ、ン……」
ハーピークィーンが目を覚ました。『スリープ』はそこまで深く寝ることはないし、効果時間もそう長くない。
「おはよう。目覚めはどうかい?」
「オハヨウ、ゴザイマス……ッ!? ハナレテッ! マタカッテニ……!」
「勝手に?」
「カッテニ……カッテニ…………アレ?」
「首輪なら外したぞ。もう大丈夫だ」
俺の言葉にハーピークィーンは喉元に手(?)をやる。
「ナイ、ナイ……クビワ、ナイ! ウ、ゥ……ウワアァァァァァン! アリガトウ、アリガトォ……!」
やはり辛かったんだろうな。彼女は泣きながら何度もありがとうと感謝の言葉を出す。
「これで君は自由だ。好きな所に行くといい」
俺は彼女にそう言うが、彼女は、
「イクトコ、ナイ。カエルトコ、ナイ……ヒック、ウゥ…………」
今度は別の意味で泣き始めてしまった。
何でも、この娘には姉が二人いるらしく、産まれて暫くは一緒に暮らしていが、やがて成長すると互い今いる縄張りを得る為に争うことになったそうだ。そして彼女はいち早く脱落し、追い出された。そして弱っていたところを偶然通りかかった冒険者に捕らえられ、5万ディールで売られたとか。因みに彼女は、魔物だから金銭感覚に疎く、値段だけ聞いたがそれがどれくらいなのか全く分からなかった。5万ディールはかなり、と言うか滅茶苦茶高いぞ。
しかしそうなると困ったな……
――マスター、一つ提案があります。あの娘を従魔として従えるのです。
ナビーさんが提案を持ちかけてきた。しかしそれだとあの女とそう変わらない。正直気が引けるのだが。
――しかしそれが行く所の無い彼女にとって一番良いことだと思うのですが。それにマスターはヘタレですから、変な事はしないでしょう?
最後のは余計だよ! 兎も角、ちゃんとその事を伝えて、あの娘がそれでいいならそうすするさ。それが嫌なら、また何か別の案を探そう。
「なあ、行く所も帰る所も無いんなら、俺の従魔にならないか?」
俺はハーピークィーンにそう伝える。
「ジュウマ?」
「あー、そうだな。俺の仲間にならないか、ってことなんだが……」
「ナカマニ……イイノ? ホントニ?」
「ああ。君さえ良ければ、だけど」
「……ナル! ジュウマニ、ナル!」
「そ、そうか……」
彼女の気迫に気圧されてしまったが、従魔になることに了承してくれた。後は……
「じゃあ、俺の前に立って。じっとしててくれ」
彼女は俺の言うことを聞き、俺の前に立ち、裸身を惜しげもなく晒す。
……ゴクリと俺は唾を飲み込む。幾ら魔物とはいえ、こんな可愛らしい女の子の裸を見るのは役得と言うかなんと言うか。それは兎も角。
俺は彼女の喉の下、丁度胸の谷間に手を置く。そして、従魔契約を執り行う。
従魔契約、正しくは紋章契約だが、相手の身体の一部に紋章を刻み、契約する魔法だ。基本契約内容は、首輪に彫り込まれていた内容と同じなのだが、それはさすがに気が引ける。なので内容を変更する。
「一つ、汝は俺、ソーマを主とする。
一つ、汝は無為に人を傷つけてはならない。ただし、自己の身に危険が及ぶ場合はその限りではない。
一つ、汝は主の命令に対して拒否しても良い
一つ、汝と主は一部の技能と祝福を共有する。共有するのは言語理解、ナビゲートシステム、フィナレアス西方言語とする」
――マスター!? 技能と祝福の共有とか何を考えてるのですか!?
ナビーさんが頭の中で驚愕の声をあげるが知ったことか。俺は酷い目にあったこの娘を救いたい。ならば命令とか強要させちゃ駄目なんだ。それに共有させた方が良いと思うんだ。他は兎も角特に言葉を知るのは絶対にいい筈だ。
「エ!? ソレデ、イイノ?」
「汝、同意するか否か」
「スル! ギノウトカシュクフクトカワカラナイケド、ドウイ、スル!」
「ならばこれより汝はこれより俺の従魔である」
「ウン!」
これで契約は成った。そして彼女に紋章が浮かび上がる。普通は手の甲なんだが、翼だしなあ、別のところに紋章が……て、何で下腹部? しかも何でハートをあしらった形なの!? これじゃ従魔紋というより……
――淫紋ですね。煩悩にまみれましたか?
しまったなあ。これじゃ別の意味で従魔にしたようなもんじゃないか。とは言え、契約が成った今、消すことも出来ないし、あーあ。
とりあえず。
「これから宜しくな、オキュペテー」
「ヨロシク、御主人! ……オキュペテー?」
「名前だよ。いつまでも名無しって訳にもいかないからな。嫌だったか?」
オキュペテはギリシャ神話に出てくるハーピー三姉妹の末妹の名前だ。この三姉妹は普通のハーピーと違って美しい姿をしている。それから因んだのだが。
「ウウン、嫌ジャナイ。オキュペテー、オキュペテー! アリガトウ御主人、大好キ!」
ハーピークィーン、オキュペテが感極まったのか俺に抱きついてきた。良かった、どうやら気に入ってくれたみたいだ。とは言え色々当たっているんだが……
「……御主人トナラ、番ニナッテモイイヨ」
オキュペテーが何か呟いたが、聞こえなかった事にしよう。
神話において、オキュペテーにはアエロー、ケライノー、という姉が居ます。ただし、本作で出るかどうかは不明です。
因みにオキュペテーは速く飛ぶ者と言われています。




