2ー18 脇差
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俺とシンシアはガラフ工房に赴いた。中に入るとモーラが出向いてきた。
「いらっしゃーい、ておにーさんか。パパー、おにーさんが来たよー」
モーラがそう言うと、奥からドタドタと慌ただしい音をたててガラフが姿を現す。てかモーラってガラフのことパパって呼ぶのな。それはさておき。
「おお、待っておったぞ。で、ブツはどこじゃ?」
言葉だけだと些か物騒な響きだが、勿論そんなことはない。俺はブツ――灰鬼の皮を取り出す。
「うむ、確かに灰鬼の皮じゃな。久々に見たわい」
「久々って、そんなに出回らない物なのか?」
「少なくとも2年は見とらん。迷宮でも相当レアじゃからの、グレイオーガは」
つまり殆ど流通が無い素材ということか。
「ふむ、これだけあれば鎧と籠手、具足も作れそうじゃな。どうする?」
「お願いします。で、肝心のお値段は?」
「1500、じゃな」
以外と安いな。
「因みに、素材を用意しとらんかったらもっと高いぞ。灰鬼の革鎧の流通値は確か7000じゃったか」
おおう。火鼠の革鎧の3倍以上だよ。円に換算すると約84万円。因みに間に合わせで購入したチェインメイルは300ディール、約36000円也。
元小市民の俺にはどっちも高いんだけどな。普通に買えてしまう今の俺の懐事情。
「あと、作ってほしい物があるんだけど……」
俺はそう言うとガラフに詳細を説明する。
何かというとグローブなんだが、指の部分が剥き出しになっているアレである。フィンガーレスグローブとかいうやつ。形状からも厨二心を揺さぶるものだが、別にそういうつもりはない。銃を使うのに普通のグローブでは不便だからだ。
ガラフは「面白い形状をしとるな」と言いながらも快諾してくれた。別に灰鬼の皮でなくてもいいので、こちらは格安、と言うかモーラが作るそうだ。
「ま、半人前でもこれくらいは作れるじゃろ」
「むー。いつになったら一人前と認めてくれるのさ」
ガラフの言葉にモーラが頬を膨らませる。
「せめて数打ち位は余裕で作れるようにならんかい」
「むー」
それは……半人前と言われても仕方無いんじゃなかろうか。
「それはそうと、ソーマよ。ちと見てほしい物があるのじゃが……ちょっと待っとれ」
ガラフはそう言うと奥に行き、暫くすると何かを手にして戻ってきた。
「ほら、これじゃ」
それは大体45cm程の長さで、反りの入った片刃の剣、と言うか刀だった。ただし鐔は無く、柄も日本刀とは違う、ショートソードのものだが、紛れもなく刀だ。
ガラフはそれを俺に手渡す。シンシアも興味本意で覗いてくる。
「これは……脇差、か? 長さから見ると中脇差か」
「ほう、ワキザシ、と言うのか。お主の言った鍛造、じゃったか? あれで漸く拵えた一振りじゃ。中々上手くいかなくての。苦労したわい」
一月で俺のいい加減な説明で脇差を一振り拵えるとか、流石ドワーフというべきか。
「最初はウチガタナを造ろうとしたのじゃがな、これが中々難しい。何度も失敗したわい」
それはそうだろう。日本刀――打刀は一朝一夕で出来るものじゃない。先人達も何度も繰り返し、技を磨いていったのだ。とは言え、この様子だと打刀の完成もあと一息と言ったところだろう。
「綺麗……これって、あそこに飾ってあるのと似てる。けど、本当に武器?」
シンシアが疑問を抱く。
確かに武骨な両刃の長剣に比べると細身だ。だがその斬れ味は段違いだ。それに鋳造と鍛造では強度も違う。見た目に騙されてはいけない。
「これ、試し斬りしても?」
「おう、構わんぞ。こっちじゃ」
そう言うとガラフは俺達を裏に案内する。そこには金属製の鎧が立て掛けてあった。恐らくは試し斬り用に設置したものだろう。
ガラフは鎧を拳で叩く。まさかそれに斬りつけろ、とでも?
「これでどうじゃ?」
そのまさかだった。幾らなんでも金属鎧は斬れないって。せめて革鎧とかにしてほしい。けどガラフの好奇に満ちた目を見るとそんなこと言えない。何気に付いてきたシンシアとモーラもワクワクしているのが丸わかりだ。
俺は溜め息を吐くと脇差を片手正眼に構える。そして鎧を袈裟斬りにする。するとどうだろう、何の抵抗もなく、まるでバターみたいに鎧が斬り裂かれたのだ。
ガラフは驚嘆の声をあげ、シンシアは目を丸くする。モーラも唖然としている。
流石の俺もこれには驚いた。金属鎧が柔かったのか、それともこの脇差が斬れ味が凄まじいのか。
「うっは。マジかよ……」
「いやー、ソーマの腕もあるじゃろうが、まさかこれ程とは思わんかったわい」
いやいやいや、幾らなんでもこの斬れ味はおかしいでしょ。普通こんな硬いものを斬れば刃こぼれするのに、なんともないとか。
「ひょっとして、数打ちの剣くらいなら断ち斬れる?」
「おお、それは是非とも試さなくては!」
シンシアよ、それは流石に無理というものだ。てかガラフも乗らないでくれ。
「流石にそれは……」
「持ってきたよー」
モーラ仕事早っ! て何故二振りも?
「いやー、剣の腹だと普通に断ち斬れそうだし? なら剣の刃からもどうかなって」
……脇差はソードブレーカーとは違うんだが。いやソードブレーカーでもレイピアは兎も角ブロードソードとか折るの無理じゃなかったか?
で、三人を見れば期待の目を向けている。
仕方ない。先ずは剣の腹を斬ってみるか。シンシアが剣を台座に置く。
俺は脇差を剣目掛けて振り下ろすと、スパッと斬れた。
「「「おー!」」」
歓声をあげる三人。気持ちは分かるよ、俺だってそうだし。
「じゃあ次」
シンシアがまた剣を取る。今度は台座に置けないのでシンシアが手にしたままだ。肩の高さで、水平に。剣の腹が俺の方を向いてる感じだ。流石にこれは無理だろうと思っていたのだが……
スパッ! カラン!
……斬れました。それも綺麗に。しかも脇差の方は刃こぼれ一つしていない。
「は、はは……マジかよ。もう訳わかんねえよ」
ここまで来ると笑うしかなかった。
「儂が言うのもなんじゃが、とんでもない代物じゃな」
それに関しては激しく同意する。これほんとに脇差しか?
「それはソーマが持っていけ」
「いいのか?」
「構わん。儂もいい勉強になったしの。そのお礼じゃ」
「……なら鞘と柄と鐔もちゃんと拵えてくれ。」
流石にこれは不恰好だ。その辺しっかりとガラフに説明する。
「むう、分かったわい。ちゃんと拵えるから、今度来たときに防具と一緒に渡すわい」
というわけで脇差とはいえ、日本刀を得ることが出来たのだった。
因みにこの脇差、後に何本か店頭に並ぶことになったのだが、その値段が10000ディールと異様に高く、普通の冒険者ではとても手が出せない一品になってしまった。ただ、欲しがる者も多く、より一層依頼をこなす冒険者が増えたとかどうとか。
「それはそうと、この二振りの剣は買い取ってもらうからの」
計ったな、シャ○!!
一応ながら。黒鉄の剣の方がまだ優秀です。使っている素材が普通ではないので。




