2ー8 真実は明かされ事実は覆る
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黄金の林檎亭、食堂。
俺はテーブルに突っ伏していた。
先の騒動は他の人達にも耳に入ったらしく、アルザードは「やるじゃねーか」とサムズアップし(それに応えたのはシンシアだったが)エレナは「三人同時? ドン引きだわ……」と引かれ、マシューは「子孫繁栄大いに結構。善き哉、善き哉」と呵々と笑い、ドルトスは無言で頷く。アンナちゃんには「お兄ちゃんのエッチ」と言われ、リサさんは「ウチはそういう宿屋じゃないんだけどねえ」と呆れ返る始末。
穴があったら入りたい。寧ろ穴掘って埋まりたい。
「これで、既成事実はなった。責任、とってくれる、よね?」
シンシアが勝ち誇った顔をしてそう言った。何で何もしてもいないのに責任をとらにゃあかんの。まるで美人局じゃないか。
「あんまりだ……折角魔王の子というレッテルから逃れられると思ったのに。これからは『性欲魔人』とか『女の敵』とか『スケコマシ』とか『夜の魔王の子』とか言われるんだ。終いには『近付いたら孕まされるわよ』とかありもしないことで誹謗中傷受けるに違いないんだ……」
「いや流石にそこまでは……」
ポーリーは否定するが俺のネガティブモードはまだ止まらない。
「伯爵の耳に入ったら間違いなく伯爵に殺されるだろうな。無実の罪でまた処刑されるんだ……死にたい」
「うぇえ!? いくら何でもそんなことは……………………あ、あり得るかもしれません。ど、どうしましょう!? 私、どうしたら!?」
俺の自虐的な呟きを聞いたユフィが頭の中でその情景を思い浮かべたのか慌てる。
「え? ひょっとして、私達のせいで、ソーマ、処刑される?」
シンシアも動揺し始める。
「ええ!? そんな、嫌ですよ! わたし達ソーマさんにまだしてもらってないのに…………………………あ」
ポーリーが盛大に自爆する。
「まだしてもらって、ない? どういう事かな、それは」
ポーリーの自爆発言にエレナがユフィ達に詰め寄るのだった。
☆★☆★☆★
エレナの尋問のおかげで、幸いにも俺の尊厳は守られた。
シンシアは正座、ユフィとポーリーは今回の騒動が街の人達の耳に入ったらどうなるか想像したのか、顔を赤くしてテーブルに突っ伏している。
「……もう表に出られません」
「痴女呼ばわりは嫌ぁ……」
こればっかりは広まってない事を祈りたい。尤も、男の俺と違い、大半は聞かなかったことにするんだろうが。ただ、下衆い男は群がってくるだろう事は容易に想像出来る。まあ、そういう輩は俺が吹っ飛ばすが。
因みに、ユフィ達が一番堪えたのはアンナちゃんの「ユーフォリア様達の方がエッチだったんだ……」という発言だった。
「ま、まあ、その、なんだ。誤解が解けて良かったな」
アルザードが罰が悪そうな顔をしながら言った。
「その代わり、今度はユフィ達が凹んでますがね」
まあ、身から出た錆、自業自得である。そもそも何故シンシアに相談するのか。エレナならこうはならなかったかもしれないのに。
「で、どうする。今日の迷宮探索は止めとくか?」
「行きますよ。あまり気分じゃないけどね」
アルザードの問いに俺は答える。
「そうか。ソーマが良いなら良いけどよ」
アルザードはチラリとシンシアを見遣る。
「正座、辛い……」
当たり前だ。辛くなければ罰にならない。それにしても、正座も伝わってんだな。
「反省した?」
「した。したから、もう堪忍して」
そうか。反省したか。だがエレナはそこまで甘くないらしい。
「じゃああと10分で勘弁してあげるわ」
「え、エレナの鬼ー」
御愁傷様である。
余談だが、ユフィが無断外泊したことに激怒したクリスト伯爵は、暫くの間ユフィを謹慎処分にしたとか。
祝賀会はともかく外泊は認めなかったようだ。親として当然だろう。
☆★☆★☆★
ユフィは屋敷へと戻り、ポーリーはギルドに出社するため自宅へ戻った。そして俺達は迷宮へ向かった。
ユリシカでは単に『迷宮』と呼ばれているが実際には『ユリシカ迷宮』という名前がある。街の名前がそのままついているだけだが、果たして迷宮が先か、それとも街が先なのか。
場所はユリシカの街から東へ、凡そ二時間程。
迷宮の構造は地下に降りていくタイプで、全部で五層らしいという話だ。何故「らしい」とつくのかと言うと、この迷宮では一層毎に階層ボスが居り、倒すことで次の層に行けるのだが、第五層のボスを攻略したという話は聞かない為、第五層が最下層なのか、はたまた下に続くのか判明していないとのこと。
今回は第一層、出来れば第二層はクリアしたいとのこと。それで俺の実力を測るらしい。
迷宮に辿り着くと、そこそこに賑わっており、入口周辺には様々な施設が設置されていた。宿泊施設や薬屋だけではなく、ギルドの簡易詰所なんかもある。ここで得た素材や魔石はここで売ることが出来るそうだ。また、何かあった時――例えば魔物の氾濫の予兆が発生した時に、即座に報せる為の馬なんかも居る。
……そう言えば乗馬技能まだ持ってないな。
「アルザード、乗馬技能はあった方がいいのか?」
「そうだな。あるに越したことはないな。だが無い奴の方が多いからそこまで気にすることはないぞ。なんなら教えてやらんこともないが」
とアルザード。成る程、あった方が何かと便利だろうからお願いしよう。尤も、今はそんな暇は無いのだが。
「装備品や所持品のチェックはしておけよ」
アルザードがそう言うと、他の面子もチェックし始める。そう言えば誰も背嚢を持っていないなと思ったら、全員アイテムボックス持ちだった。何かと便利なこの技能、持っていて損は無いので、大抵の冒険者は持っているそうだ。逆に持ってない者は冒険者としては二流以下だとか。
それは兎も角、俺も装備品と所持品のチェックをする。武器がスティレットだけでは心許ないので、今回はベレッタも使用することにする。ポーション類は最初購入してそれっきりだ。最初の依頼の時にHPポーションを一本使ってしまったが、それ以降は使用していない。
「それは……何か一回り小さくねえか?」
アルザードがベレッタを見て首を捻る。
「そう? その場に居なかったから、分からないけど」
「ああ、形は似てるんだが、やはり一回り小さいな」
側にいたアルザードだからこそ気付いたのだろう。
「確かにデザートイーグルとは別物だよ。けどこれもかなりの殺傷能力はある。それにこっちの方が使い勝手いいし」
本当はスナイパーライフルが一番使い勝手が良いのだが、恐らく迷宮内では小回りが利かなくて不便だろうから今回はお預けだ。
チェックも一通り終わり、ポーションの所持数を伝える。やはり必需品なのか、皆それなりの本数を所持している。
「よし、それじゃ行くぞ。第一層だからといって気を弛めるなよ」
アルザードの掛け声の下、俺達は迷宮へと赴くのだった。
次話から迷宮探索。




