1ー36 証明の儀
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証明の儀――
魔王の子や魔王崇拝者をそれだと証明するための儀式。平たく言えば魔女裁判である。
「証明の儀さえ行えば、この者が魔王の子であり、邪悪なる存在であることが証明されるであろう」
先ずは、とワイズ司祭が先の尖ったペンのようなものを取り出す。某国民的RPGの毒針みたいな形だ。
「この針を刺し、血が出なければ魔王の子である!」
ワイズ司祭が俺に針を刺す。当然血は出ない。
「見よ! 血は出ない! これで魔王の――」
「それ、仕掛けがあるだろ」
「は? な、何を言っておる。仕掛けなど――うおっ、何をするか!」
ワイズ司祭の言葉をふさぐ。そして先の火炙りで脆くなった縄を強引に引きちぎり、針を奪い取る。
「ああ、やっぱりか」
針の先端を指で押す。針は指に刺さることなく引っ込む。魔女裁判でも定番の小道具だ。
「そら、試してみなよ」
俺はその針を民衆の一人に投げ渡す。
「……本当だ。これじゃ刺さるもんも刺さらねえ」
「待て、俺にも……マジかよ」
ざわざわと騒ぎだす。当然だ、証明の儀が嘘っぱちってバレたのだから。
「違う! 魔王の子がすり替えたんだ!」
サクラが騒ぐが、成る程、と頷く者と、そんな余裕あったか? と懐疑的な者と半々だ。
「けどよ、どうやってすり替えたんだ? 第一、調べた時にそんなもん持ってなかったんだろう?」
サクラが言い淀む。と言うか、今の声、なんか聞き覚えあるような……
「ええい! 次だ、次! 次こそ貴様を魔王の子と証明してやるわ!!」
☆★☆★☆★
炎の道。それを一言で表せば、正にそれだろう。
火は轟轟と燃え盛り、離れていてもその熱気は伝わってくる。
「この火は聖なる火、聖火である。この聖火は我ら聖職者やただの人を燃やすことはなく、あらゆる邪悪を焼き払う。即ち! 渡りきれず焼け死ねばこの者は魔王の子である。火傷を負ってもまた同じ」
やはりか、と溜め息を吐く。無論、また雨を降らせば問題はないのだが、生憎とMPが足りない。それに同じことをしても、それでは芸が無いというものだ。
「この道を火傷一つ負わずに渡りきれば、俺は魔王の子では無いということだな」
「渡りきればな。まあ、無理であろうがな」
俺の問いにワイズ司祭が下品な嗤い声をあげながら答える。
「言質、とったぞ」
俺はそう言うと、一歩を踏み出す。ゆっくりと、ゆっくりと、一歩一歩、炎の道を歩む。
観衆からどよめきの声があがる。それもその筈、俺は火に包まれながらも尚、平然としているからだ。
まあ、種明かしをするならば、魔法を使って火のダメージを受けないようにしているだけなのだが。
フレイムボディ。火属性魔法Lv4、身体に火炎無効特性を付与するというものだが、実はこれ、失伝している。つまり誰も知らない魔法だ。
では何故俺が知っていてこの魔法を使えるか、これまたなんて事はない、ナビーさんに教えてもらったからだ。魔法のLvが上がると、そのLv帯の魔法を教えてくれるのだ。勿論、教本に載ってない物も。
因みに、この魔法が失伝してしまったのは火炎系が無効化される代わりに水系が弱点になってしまうからで、なんとLv1魔法のウォーターショットで瀕死の重傷を負ってしまうのだ。それは迂闊に使えないだろう。
今回はなんの心配もないので使ったが、使いどころが難しい魔法でもある。
結局、俺は火傷一つなく渡りきった。
「そんな、馬鹿な……あり得ん、あり得んあり得んあり得ん!」
あり得ん、と申されましても、目の前で起きた事が事実なんですがね。
「貴様ぁ、何をした!?」
何をした、と言われたら魔法を使いました、としか。言わないけどな。
「さて、アイツは渡りきった訳だが、お前さんはどうなんだ。一つ試してみるか」
と、フードを被った男が言うと(やはり聞き覚えのある声だ)、ワイズ司祭をむんずと掴みとり、炎の道へ放り投げた。
「へ? うおわあああ! あち、あち、あっちゃああああああ!」
ワイズ司祭、思いきり熱がってますが。聖職者は火傷しないんじゃなかったか?
☆★☆★☆★
ユリシカの街には一筋の川が流れている。割と澄んでおり、さぞ生活には欠かせないだろう、と思いきや、ルミナス教が聖なる川なので勝手に入ってはいけない、としている。
「この川に流れているのは聖なる水である。貴様は10分ほど、この川に頭まで完全に入ってもらう」
ふむふむ、それで。
「もし川から浮かべば、貴様は魔王の子である。仮に浮かび上がらなくとも、死んでおれば魔王の子である」
いや、10分も息止めてれば普通死ぬだろ。意地でも俺を殺そうとしてるな。
「という訳だ。さっさと入らぬか!」
ワイズ司祭はぐるぐるに縛られた俺を蹴飛ばし川へと蹴り落とす。
派手な水飛沫が上がり、俺は川底へと沈んでゆく。いや、人間の身体って水に浮くものだから力入れないと駄目なんだよ。念のため川底の岩にでもなんとかしがみつく。
で、これから10分もの間、息を止めて川底にいることになるのだが。実はそこも問題では無かったりする。
ウォーターブリージング。水魔法Lv2。これは別に失伝とかしていない。南方にあるポートセリア、そこには所謂海女、と言うか、巣潜りの漁師が居るのだが、その人達が普通に使ってたりする。
ただ、この街では使う場も無いのか、知っている者は数少ない。恐らくワイズ司祭も知らないだろう。
しかし10分か……以外と長いぞ。
なあなあ、ナビーさん、何か面白い話とかない?
――いきなり振ってきましたね。
だって暇潰せるなら大した時間じゃないけど、何も無いんだよ。どうやって時間を潰せと?
――素数でも数えればよろしいのでは?
成る程。1、2、3、5、7、11、13……
て、そんなんで時間潰せるかあああああ!!
――マスター、我儘過ぎます。仕方ありません、では取って置きの話を……
あるんじゃないか、どれどれ……
……
…………
………………
聞くんじゃなかった……こえーよ!
――ですが時間は潰せたのでは?
む、もうそんなに経ったのか。縄を引っ張られ、引き上げられる。
しかしなんだな、釣り上げられた魚ってのはこんな気持ちなのかね?
「浮かび上がりはせんかったが、流石に死んだであろう。これでこの者は――」
「勝手に殺すな」
「まああああああああ!」
驚愕の声をあげるワイズ司祭。今にも目が飛び出そうな顔をしている。
「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁっ!! 何故死なん!? 何故生きておるのだあああああ!!」
コイツ、「馬鹿な」しか言えんのか?
「そうだ! 生きていられる筈がない。魔王の子だから生きておるのだ!」
「いや、さっきと言ってることが違うし」
「黙れえええええい! こうなれば……些か危険だが仕方あるまい。元の場に戻るぞ!」
まだ何かあるのかよ……もう諦めろよ。皆疑ってるぞ。
キリがいいので一旦ここで。




