1ー35 ソーマの処刑
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何日かぶりに外に出る。地下牢の暗さに慣れてしまったのか、太陽の明かりが眩しい。
これから俺は公衆の面前で火炙りの刑に処される。
ルミナス教会から処刑の場まで拘束されながら歩かされる。ユフィ達も同様だ。街路には俺達を一目見ようと野次馬が集まっている。
「死ね! 魔王の子!」
誰かが俺に罵声をあげ、石を投げる。それを皮切りに、俺は罵声を浴びかけられ、それはユフィ達にも届く。
中にはユフィ達に石を投げつける者もいた。
「つっ!」
石がユフィの額に当たる。当たったところからうっすらと血が滲み出ている。
「こらこら、女子に石を投げつけるで……あだっ! 誰じゃ、我に石を投げたのは!」
ワイズ司祭がユフィ達への投石を諌めようとしたら、流れ弾が当たってしまった模様。ざまあない。
が、女性を傷付けるのはやはり良しとしないのは俺も同意だ。尤も、理由はお互い全く違ったりするのだが。
女の子の顔に傷でも残すのは流石に可哀想だ。俺はこっそりとユフィに『ヒール』をかける。それに気付いたユフィがすまなそうな顔をする。
なるべくならMPを消費したくないんだけどな。女の子の顔に傷を残す方が耐えられないよ。
ただ、ワイズ司祭の言により、投石が俺に集中してしまったのだが。あと……
「あいたっ! じゃから我に……ぶべっ! 誰じゃ!? 我に馬糞を投げたのは!」
誰か知らんが、投げたヤツグッジョブ。
☆★☆★☆★
普段は憩いの場として、屋台が出、様々な人達が安らぐ広場だが、今日は大きく様変わりしていた。
それは俺を火炙りにする為の公開処刑場。処刑場の周りには大量の藁が積まれている。
俺はその場に身動きがとれないよう取り付けられる。
既に多くの人が集まっており、これから始まる惨劇を今か今かと待ち焦がれているのが見て分かる。見渡すとやはりというか、歪な笑みを浮かべたイスカがいる。
「ようこそ、敬虔なるルミナス教の信徒達よ。今日集いし皆は幸運である。何故ならば、邪悪なる魔王の子を火炙りにし、我らルミナス教こそが正義であることを知らしめることが出来るのだ!」
「殺せー!」
「早く火炙りにしろー!」
ワイズ司祭の演説に俺への怒号と歓声が響き渡る。と言うか、先に怒号が聞こえたような。
「そして更に! 此度はこの魔王の子に惑われし、この魔王崇拝者を、魔王の子が死んだ後、この場にて浄化の儀を執り行う。我と思うものは参加を許そう!」
再びの歓声。寧ろこっちの方が大きい。しかも男ばかりだ。
「俺も参加するぞ!」
「俺もだ!」
「ユーフォリア様に浄化の儀……ゴクリ」
浄化の儀がどのようなものか知っているようで、多くの獣どもがユフィ達をいやらしい目で見る。
「待つがよい。まずはこの者の処刑が先じゃ。この者は――」
ワイズ司祭が如何に俺、魔王の子が邪悪で罪深いかを延々と述べる。その事に民衆は怒り「殺せ!」と連呼する。
……やはり変な違和感を感じる。さっきから最初に罵声をあげる声が同じだ。それだけじゃない。石を投げつけられた時も同じ声だ。そういえば最初に投石したのも。
……ああ、成る程。
――サクラがいますね。
そう、サクラだ。群衆心理というヤツで、このような場では最初に誰か言い始めば、すぐに伝播しあっという間に拡がる。尤も、対処しようにも今更手遅れではあるが。
一頻り演説が終わると、松明を持った男が数人現れる。
「さあ、時は整った。火をくべよ!」
ワイズ司祭がそう言うと、男達が藁に火を着ける。
歓声が響き渡る中、ユフィ達の悲痛な叫びが聞こえる。彼女達を悲しめちゃいけない。それに俺も死にたくないし、何よりまだ約束を果たしていない。
俺はとある魔法の詠唱を始める。
「『火よ、風よ、水よ、我が声を聞け。
我は天の理を知る者也。
熱き火は風を熱し、風は天へと昇る。
風は雲を生み、雲は雨を降らせ、大地をそそぐ。
火よ、風よ、水よ、我が声を聞け。
我は天の理を知る者也。
我が魔力を以て、この地に雨を降らさん!
コントロールウェザー・コールレイン!』」
呪文の詠唱は歓声にかき消され、誰にも聞こえることはなかった。だが、魔法はしっかりと発動していた。
「ん? なんだ、雨……か?」
観衆の誰かが気付く。
頭上には積乱雲が、そしてポツリポツリと雨が降り、直ぐ様豪雨となる。
「ば、馬鹿な、雨だと!? これでは火が、火が消えてしまうではないかぁっ!」
ワイズ司祭の悲痛な声も虚しく、雨は激しく降り注ぎ、止んだ頃には完全に鎮火していた。
コントロールウェザー・コールレイン。
文字通り気象を操作し雨を降らせる魔法だ。必要Lvは火属性及び、風属性と水属性がLv4。Lv4は普通なら習得に20年以上かかると言われている。仮に適正があったとしても、学び始めてから10年はかかるだろう。それが3属性、普通なら先ず無理だ。
それだけでも困難なのに消費MPは100とかなり高い。今の俺の最大MPが150、一回使えば、或いは発動しなくても一回しか使えない、極めて燃費の悪い魔法だ。
この魔法が使えるようになったのは俺の祝福と高いMPのおかげだ。今回ほど童貞だったことと、おまけで技能習得率成長率上昇(極大)をくれたこの世界に感謝したい。
いや、童貞で救われるとか些か虚しくなるが。
「馬鹿な、雨、雨だと……こんな、こんなことが起こり得る筈がない……」
呆然とするワイズ司祭。
「どういうことだよ……」
「なんで雨なんか……」
「神はあの魔王の子を殺してはいけないとでも、そう言うのですか……?」
観衆も皆、騒然とする。そういえば天候操作は神の御業、だっけ。
「あ、ああ、ソーマさん、良かった、本当に良かった……」
「こんなことがあるんですね……」
「でも神様がソーマさんを殺しちゃいけないって言うんだから従わないといけないよね?」
「おにーさん凄いや」
「またあの光景を見る羽目になるのかと思ったけど……神様も粋なことしてくれるもんさねぇ」
ユフィ達は逆に喜びの声をあげている。だがワイズ司祭は違った。
「そ、そうだ。我らが神が魔王の子を生かす筈がない。魔王、そう、魔王がこやつを助ける為に雨を降らせたのだ!」
いやいや、天候操作は神の御業と広めたの、ルミナス教じゃん。言ってることが矛盾してるだろ。
だが、サクラがそれに追従する。
「そうだ! 神が生かす訳ない!」
「魔王が雨を降らせたんだ!」
「これは神の意思じゃない! 魔王がやったことなんだ!」
だが皆戸惑っているのだろう、教義と発言が食い違っているからか、今一つ伝播しない。
それにどうする? 雨で湿気た藁に火を着ける事は出来ないぞ。
「証明の儀だ。証明の儀を執り行う。これでこの者が邪悪なる魔王の子であると判別するのだ!」
ワイズ司祭が叫ぶようにそう言った。
……証明の儀? またロクでもない事じゃないだろうな?
シリアス展開はまだ続きます。
え、馬糞? 知らないなあ(棒)




