1ー34 捕らわれのソーマ その4
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皆大好き催眠術回だぜひゃっほう!
催眠術――
術とあるが、その実精神魔法である。『スリープ』と並び、精神魔法の基礎となる魔法である。
エロゲや漫画、薄い本なんかで度々出てくるのだが、そこまで強力ではない。そんな自分の思い通りに操ったり、性格を作り替えるといったことは出来ない。そこまでいくとそれは高Lv精神魔法の操心術や精神支配になる。催眠術はせいぜいある程度認識を変える位だ。例えば俺のことを「お兄ちゃん」と呼ばせたり……話がそれた。
兎も角、当然俺は使えない。元の世界ではその手のジャンルのエロゲや漫画にお世話にはなったが、習おうとか思ったことはない。なので、その手の経験が無いから、学ばない限り使えない筈だ。
――勿論、今のマスターが精神魔法を使えない事は承知しています。なので、今からそのノウハウを直接脳内に叩き込みます。
そんな事が出来るのか? まさか他の技能や魔法とかも?
――はい。ただし、いっぺんに流しますと、マスターの脳に多大な負荷を与えます。下手をすれば廃人になりかねません。なのでマスターには自力で学ばれたいのですが、今回は急を要します。些か痛みが走りますが、そこは我慢してください。
些かって因みにどれくらい?
――そうですね……麻酔無しで抜歯する位でしょうか。では始めます。
は? え、ちょ、心の準備が! という抗議も虚しく、俺の頭の中に精神魔法が脳内に書き込まれる。そして激しい頭痛。のたうち回る程の痛みに声が出そうになるが、心配をかけまいと我慢する。
どれくらいの時間がかかったのだろう、恐らくほんの1~2秒だろうが、やけに長く感じられた。だが、今の俺が精神魔法、催眠術が使えるようになったのは分かる。これで何とかなる筈だ。
「リサさん、このままだとアンナちゃんは普通の生活を送れないと思います。催眠術で何とかなるとは思いますが……正直賭けになります」
「そりゃ構わないし、治るなら寧ろやってほしい位だがね……賭けってのはなにかい? 更に悪化するってのかい?」
「悪化することはないと思います。ただアンナちゃんが催眠術にかかりやすいかどうか……」
「そんなことかい。ダメ元なんだ、やってくれ」
リサさんの了承を得たことですぐさま準備にかかる。正直言うと振り子のようなものが欲しかった。メトロノームとかでも良かったのだが、モノが無い。元の世界の貨幣は何故か無いし、お約束である5円玉に糸をくくりつけ、というのは出来ない。
まあ、無くても出来なくは無いんだが。
俺は元の世界の数少ない友人から誕生日のプレゼントで貰ったジッポライターを取り出す。しかし、友人はどのような意図でこれを選んだのだか。尤も、まさかこのような形で役立つとは思わなかったが。
格子から手を出すと、その分アンナちゃんが後ろに下がる。今まで普通に接してくれてた分、悲しくなるが、そんな気分を押し込めて、ライターの火を点ける。
「アンナちゃん、この火を見て」
アンナちゃんがビクリと強張るが、素直に言うことを聞く。
「それじゃ、この火を見ながら数字を一から十まで数えようか。そして十まで数えたら、また一から数える」
こくりと頷くとアンナちゃんはゆっくりと数字を数える。十まで数え終わるとまた一から。それを何度も繰り返す。
「いーち、にー、さーん、しー……」
ここからだ。声に魔力を乗せる。あとはアンナちゃん次第。
「『アンナちゃんは数を数える度に少しずつ、少しずつ意識が遠退いてゆく。そして次に十を数えた時、アンナちゃんは眠りに落ちていく』」
「はーち、きゅー、じゅー………………」
アンナちゃんは目を開けたままに、意識が落ちる。アンナちゃんはかかりやすい方なのだろう。どうやらうまくいったらしい。
「『アンナちゃん、俺の声が聞こえる? 聞こえたら返事して』」
「はい、聞こえます……」
虚ろな目をしたままアンナちゃんが答える。
「『アンナちゃんは、今日とても怖い思いをしたよね。話してくれる?』」
「はい、今日いきなり、騎士の人達が来て、牢屋に入れられて、そして、知らない男の人に襲われそうになって……そして、そして、わたしを触ったらバラバラに、なって……」
泣いている。声が震えている。これ以上は酷というものだ。
「『そう、怖い思いをしたんだね。それじゃあ、特に怖かったのを忘れよう』」
「忘れる……」
「『今、アンナちゃんの目の前に箱があります』」
「箱がある……」
「『その箱の中に、怖かった思いを入れちゃおう』」
「箱の中に入れる……」
「『箱の中に入れたら、蓋をして、鍵を掛けよう』」
「蓋をして、鍵を掛ける……」
「『そうすれば、ほら、もう怖いことはもう思い出さない』」
「思い、出さない……」
正直、本当に思い出せなくなったのかは分からない。だが、ここで俺が半信半疑になっても仕方がない。リサさんも固唾を飲んで待っている。今は上手くいくことを祈ろう。
「『アンナちゃん、これから三つ数えると、アンナちゃんは目を覚まします。いくよ、一、二……』」
さあ、あとは結果を御覧じろ、だ。
「『三!』」
「ふえっ! ……あれ? わたし今まで何を……」
アンナちゃんの目が覚めた。少し質問してみるか。
「アンナちゃん、この牢屋に入れられてからの事、覚えてる?」
「え? うーん、何かあったの?」
ほっと息を撫で下ろす。これでもう大丈夫だろう。
「ありがとう、お客人」
リサさんがお礼を言う。
「? どーしたの、お母さん。何かあったの?」
「いーや、何でもないさね」
後日、調べたところ、ポーリーとモーラもかかりやすい事が分かった。ユフィとリサさんはかかりにくい、というか、ユフィには全くかかる気配が無かった。本人はどんな感じなのか興味津々だったようだが、かからないと知ると凄く残念がってた。
そして、アンナちゃんの心の傷が相当深く、完全に治ってないのを知るのはまた後の話だ。
☆★☆★☆★
朝になった。陽の光が届かないため分からないがナビーさんが大まかな時間を教えてくれた。やはり、寝具がないのは辛いのか、皆眠りが浅い。
ユフィ達にパンと水を渡し、食べ終わって暫くした後、ワイズ司祭が入ってきた。
「お早う、牢屋の寝心地はどう……だった…………」
俺達の様子を見てワイズ司祭の言葉が詰まる。当然だろう、俺は傷一つ無く、ユフィ達も至って平然としているのだから。寧ろ睨み返している。
「な、馬鹿な……何故女共が発情していないのだ。いやそれよりも、何故貴様は傷一つ無いのだ!?」
「さあ、なんでだろうな」
茹で蛸のように真っ赤になったワイズ司祭に惚けたように返す。
傷はハイヒールで治しました、ユフィ達には解毒の魔法をかけました、と言ってもどうせ信じないだろうし。
「成る程ぉ、どうやらこの魔王の子は再生能力を有する程に血が相当濃いらしいな。いいだろう、ならば遠慮なくやらせてもらう……」
やはり自分の都合のよい解釈をするワイズ司祭。
「おい、この魔王の子を拷問室に連れていけ。そして女共に痛め付けた姿を見せてやれ。魔王の子を痛め付ける代わりに浄化の儀を受ける、と言わせる位になぁ」
そして今日も俺は拷問を受ける。だが、ワイズ司祭の目論見は外れ、誰も懇願する事はなかった。そもそも、ユフィ達には何があっても俺の代わりに浄化の儀を受けるなと、懇願するなと伝えてあるのだから。
ユフィ達も俺のボロボロに傷ついた、痛々しい姿を見て、何度も自分達が代わりに浄化の儀を受けようと、思っていたのかもしれない。だがそれだけはさせてはならない。それこそがワイズ司祭の狙いなのだから。だから、辛いだろうが、決してワイズ司祭に甘言に乗らないでくれ、そう、頼んだのだ。
結局、ワイズ司祭の行動は俺の白魔法の、回復魔法の熟練度をあげるだけだった。
そして、遂に俺の処刑の日が訪れる――
エロ展開じゃなくて残念だったな!
文中にある通り、この世界、フィナレアスでは催眠術はそれほど強いものではありません。仮に、もしエロいことをしようとすると、解けます。尤も、そういう行為が出来るようになる高Lv精神魔法の操心術がありますが。因みに精神支配は更にその上。操るどころか作り替えるんだから、ねえ……




