1ー19 はじめてのおしごと 前編
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あれから一夜が明けた。
幸いにも最後まで理性は保てた。その代わり悶々としてしまい、寝るのに時間がかかった。おかげで少々眠い。
因みに今日もアンナちゃんに起こされた。またも朝のテントをバッチリと見られてしまった。別の意味で立ち直れない。
今日は朝イチでガラフの所に赴き、装備を受け取りに行く。その後は冒険者ギルドで依頼を受けるつもりだ。
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「来たな。出来とるぞ」
俺は火鼠の皮鎧を受け取ると早速装備する。軽くて採寸もピッタリ、動きも殆ど阻害しない。いい仕事してますね。
あとフードをおまけしてもらった。フード自体20ディールと安く、払っても問題なかったのだが「遠慮するな」と強引に渡されてしまった。なのでありがたく貰っておく。
因みに、火鼠の皮鎧のお値段は2000ディール。HPポーションの倍である。
フードを被り、これで本格的な冒険者の完成だ。
「おにーさん、似合ってるよ」
「有り難う、モーラ。世辞でも嬉しいよ」
「別にお世辞じゃなかったんだけどな……」
俺は代金を払い、冒険者ギルドへと向かった。
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今日も冒険者ギルドは賑わっている。と言うか、ある話題で持ちきりだった。
「なあ、ボルドー捕まったらしいな」
「おお。何でも強姦罪らしい」
「いつかやるとは思ってたんだよ」
「それよりもさ、アイツを縛ってたロープと貼り付けられた紙がとんでもない代物らしいぞ」
「はあ? たかが紙とロープだろ」
「いやいや、調べてみたら材質が全く分からないらしい。だから再現も不可能だと」
「マジかよ……」
意外と広まるのが早いな。そんな話題で持ちきりの冒険者を傍目に、依頼の掲示板の方へと赴く。
受けられる依頼は現ランクとその上一つ。つまり俺が受けれるのはEとFの依頼となる。それぞれに目をやるが、ランクFの依頼は主に街中のものばかりだ。報酬も30~50ディールとかなり安い。ランクEからは採取や討伐の依頼が加わるので報酬も高くなる。採取や討伐は採ってきた数、討伐数によって報酬額が変わるので人気が高い。
俺は少し考えたあと、二枚の依頼用紙を剥ぎ取りカウンターの方へと向かう。
「ようこそ冒険者ギルドへ。何かご依頼を受けに…………」
んん? この受付嬢主何か聞き覚えのある声だな。てか見覚えがあるぞ。主に胸が。
「「あ」」
そうだよ、昨日あの強姦魔に襲われそうになった娘じゃないか!
「そっか、キミ、ギルドの受付嬢だったんだ」
「はい! 昨日は助けて頂き有り難うございます! そっか、冒険者の方だったんですね。あ、わたし、ポーリーっていいます」
「ポーリーって言うんだ。俺はソーマ、まだまだ駆け出しの、と言うか今日が初仕事のF級冒険者だ。宜しくな。で、この依頼を受けたいんだけど」
「はい、ゴブリンの討伐とキシャル草の採取ですね。承りました、頑張ってくださいね。それと……」
「うん?」
「終わったらですね、その、お礼を兼ねて一緒にお食事でも……」
と、頬を紅らめながら俺を誘ってきた。
「「「「「なにぃぃぃぃぃ!?」」」」」
一斉に絶叫する冒険者達。主に男が。
「ば、馬鹿な、馬鹿なぁ!」
「なんであんな奴が……」
「畜生、俺だって、俺だって……!」
「もげろ」
「俺、黒髪とか関係なくあいつに殺意芽生えたわ」
「そうさ、これは夢だ、夢に違いない……あは、あはは…………」
嘆く者、妬む者、羨む者、現実逃避する者、中には殺意だけで人が殺せるならって目をしているのもいる。要するに、
こええ。めっちゃこええ。
俺は脱兎するが如くギルドを脱け出すのだった。
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街を出て街道沿いのカエラの森を目指す。カエラの森とは俺とユフィ達が野営をしたあの森で、大抵の薬草はここで手に入る。かの有名なマンドラゴラも自生している。魔物もそれなりに居り、森の表層部では先のフォレストウルフや今回の討伐対象でもあるゴブリン、一角兎といった初心者向けの魔物が出てくる。奥に行くほど強い魔物が出てくるので、俺のような初心者からベテラン冒険者まで安定して稼げる場所である。だだ、深奥部には誰も行ったことが無く、どのような危険が潜んでいるか全く分からないらしい。
しかし、受けたのはいいけど、キシャル草ってどんな草なんだ?
――分からないで受けたのですか?
あー、ナビーさんが居るからなんとかなるかなー、と。
――他力本願にも程があります。まあ、いいでしょう。キシャル草とはHPポーションの調合に必要な薬草の一種です。わりと独特な葉の形をしてますのですぐに分かるでしょう。
独特な形と言われても……
――……では何処にあるか分かるようにしましょう。ゲーム等でアイテムがある所が光って見えるアレです。
おお、なんと便利な。流石ナビーさん、そこに痺れる憧れる! あと惚れる!
――……マスター、意外とタラシですね。
え? 俺タラシ? 自覚全然無いんだけど。
――無自覚ですか。ある意味質が悪いですね。まあ、惚れるというのは半ば冗談でしょうけど。と言うか、
一体何人の女性がマスターに好意を寄せていると思っているのですか?
……あー、その話は置いといて。兎に角、これで採取も捗るというものだ。実際本当に感謝してるよ。
――恐悦至極に存じます。
さて、それじゃ本格的に探すとしよう。
森の中を散策していると、光点を発見。成る程、こんな感じか。確かにゲームっぽい。
キシャル草は確かに独特な形をしている。鏃のような形をした葉が束になっている。葉の一枚の大きさはだいたい20cm程。それを丁寧に抜き取る。
他にもないか探すと、なんとかあと2つ見つけることが出来た。
そして採取を続ける内にナビーさんがいつもの警告をしてきた。
――警告。敵対反応あり。ゴブリンです。戦闘体制を。
さて、それじゃ今度は討伐依頼を果たすとしようかね。俺は鞘から剣を抜き、構えるのだった。
後半へ続く(byキートン山田)