1ー18 既視感
今までで一番長くなってしまった……
例えどんなに治安が良くても犯罪が起きない、ということはない。それはユリシカでも同様だ。
傷害や窃盗、詐欺に果ては殺人に至るまで。そこに人がいる限り犯罪は無くならない。
「うぅ~、幾ら近道とは言え、やっぱり怖いよぉ」
いつもは陽が傾かない内に仕事を終わらせ、大通りの方を帰り道にしているのだが、今日はたまたま仕事量が多く、全てを片付けた時はどっぷりと陽は落ちていた。
普段通り、大通りからでも良かったが、それだと帰りつくのが遅くなってしまう。なので近道とは言え普段は誰も通らない様な狭い通路を利用することにしたのだが、それがまずかった。
「やあ、お嬢ちゃん。一人? 危ないから送ってあげようか?」
通路を塞ぐ様に二人の男が立っていた。一人は如何程な優男だがニヤケ面で台無しにしている。もう一人は背が低くつり目の男。こちらも口許がにやけている。
「い、いえ、結構です。一人で帰れますから」
彼女はそう言うと後ずさる。が、二歩ほどの下がったところで背中に何かが当たった。
後ろを向くと彼女の見知った、禿頭の大男がいつの間にか道を塞いでいた。
「人の親切は受け取っておくものだぜぇ、ポーリーちゃん」
「ひっ!」
彼女、ポーリーが小さい悲鳴をあげる。
「そんなに怯えなくても大丈夫。俺達は君を家まで送る。そのぶん君はお代を払ってもらう。その身体でね。勿論、前払いで」
優男の台詞に二人が下卑た笑いをする。
「や、やだ……」
涙目のポーリーが断るが、当然男達は無視し押さえつける。
「きゃああっ!」
「クケケ、叫んでも誰も来ねえよ」
「いつかポーリーちゃんのムチムチボディを堪能したかったんだ。楽しませて貰うぜ」
「さぁ、無駄な抵抗しないで、お互い気持ちよくなろうね」
「い、いや……いやあああああっ!!」
☆★☆★☆★
あれからユフィが持ってきた本全てを読めるようになり、ノートに書き写したりして(これも皆驚いていた。紙自体高価らしい)ほぼ理解出来るようになった。ステータスを確認すると技能に『フィナレアス西方言語Lv2』が追加されていた。
……何故にLv2?
それは兎も角、時間もかなり経っており、夕食の時間になっていたのでユフィ達もお暇することとなった。
余談だが、勉強は食堂ではなく俺が寝泊まりする部屋でやっていた。また、ユフィが計算が苦手とも知った。
まさか二桁の足し算を間違うとは思わなかったよ……
結果、俺が時々教えに行く羽目になった訳だが、ユフィが嬉しそうな顔をしていたなあ。
他にもエントゥアから簡単な魔法、生活魔法を幾つか教えてもらった。とは言え殆どストレージに入ってるアイテムで充分賄えるものだったので、使い道があるかどうか。『ウォーター』とか『ティンダー』とか、精々『ブリーズ』と『アイス』くらいか。『ライト』は手が塞がってる時に有用だな。しかも生活魔法の中では使えない人もいるらしい。ま、魔術師と言われる人達は当たり前に使えるそうだけど。
兎も角有意義な時間だったのには違いない。
「それではまた後日」
「ソーマさん、また算術教えて下さいね」
「ソーマ殿は魔法の筋が良い。魔術師向きなのかもな。では縁があればまた」
それぞれ会釈をし、彼女達は帰っていった。
夕食を食べ終え(本日の献立はビーフシチュー)、さてこれからどうするか、という時にナビーさんがとある提案をしてきた。
――マスター、これから街を散策しましょう。
何で? てか何故に夜?
――マッピングです。行った所、見える範囲でないと表示されません。
ナビーさんがマップを表示する。てかナビーさんマジ万能だな。
――恐縮です。
成る程、空欄が目立つ。ユリシカの街全体の殆どが埋まっていない。
でも、夜だと不審者と思われなくね? それにこれからは一人で行動するんだから、別段昼でも……
――暇があればそれでもよいのですが、マスターはこれから冒険者として生活していきます。果たして昼に散策する時間がとれますでしょうか?
むう、そう言われると……まあ、このままだと手持ち無沙汰だしナビーさんの提案に乗ることにした。
夜の街は昼とは違い静かだ。街灯はあるものの人通りは殆どない。屋台とか畳んでいる。
但し、例外も存在する。冒険者ギルドはまだ明かりが着いている。
大通りを少し逸れるとまだ賑わっている区画があった。酒場が密集している歓楽街だ。よく見ると露出の高いドレスを着た女が客引きをしている。彼女は恐らく娼婦だろう。他にも何人かおり、娼館の中へ消えていく。生憎、俺を誘ってはこないようだが。誘われても行かないけどな。
――でも興味はあるのでしょう?
そりゃ男だからね、興味が無いと言えば嘘になる。それとも不潔とか不健全とか思ってる?
――いえ全く。寧ろ健全かと。
ご理解があるこって。
少し進むと少し暗くなってきた。街灯の明かりが届いてないのだろう。なので覚えたばかりの『ライト』を発動する。『ライト』は持続時間は大体6時間程。任意で消すことも出来るが再度着ける時は再発動させなければならない。また光量もある程度抑えたりも出来る。
「成る程、これくらいの明るさか。眩しくなく、それでいて割りと遠くまで見えるな」
独りごちる。別に懐中電灯でもよかったんだけどね。
と、その時、奥から何か女性の悲鳴らしき声が聞こえた。声の元へ行ってみると、一人の女性が三人の男に襲われかけている。
って思いっきり既視感を感じるんだけど。
――奇遇ですね、私もです。
はあ、と溜め息を吐く。まあ助けないという選択肢はないし、行きますかね。
光量を抑え、禿頭の大男(なんか見覚えがあるな)に向かって、
「ノックしてもしもーし!」
思い切り頭をぶん殴った。
「げはっ!? 誰だ!……て」
大男が振り返る。あ、見たことあると思ったらこいつボルドーじゃねーか。流石に向こうも誰か気付いたらしい。
「てめえ! あの時の黒髪野郎!!」
「黒髪!?」
「ああ、ボルドーが言ってた……」
うわぁ、予想はしてたけど敵愾心半端ねえな。約一名、優男風のやつは警戒という感じだけど。女の人もちょっと怯えている。なんか虚しい。
「この野郎……また俺達の邪魔しようってのか!」
またって……やっぱあの時ユフィ達を襲おうとしてたのね。てか俺達って他の二人は初対面なんですがねえ。
「ぶっころ―」「まあ待て、ボルドー」
殴りかかろうとしたボルドーを優男が制止する。
「なぁ、あんた。ここは見逃しちゃくれないかな?」
「は?」
いやなに言ってんのこいつ。見逃すつもりなら最初から助けに入らないよ。
「その代わりと言っちゃあなんだけど、その娘、最初に食っていいからさ」
ちらりとその娘を見る。ウェーブがかった赤い髪をツインテールにし、垂れ目で赤茶色の瞳。そのせいか顔は幼く見える。ただ出るとこは出て引っ込んでるとか引っ込んでる、胸もお尻も大きい安産型。いかにも男が好きそうな体型をしている。
「へえ、なかなかに魅力的な提案だね」
「悪い提案じゃないだろう? ここは一つ……」
「だが断る」
「は?」
馬鹿じゃねぇの? てか馬鹿じゃねぇの?
大事なことなので二度言いました。だからそんなことするくらいなら最初からその娘を助けないって。それに、
「どうせ罪を俺一人に擦り付けるつもりだったんだろ」
図星だったのか、優男が顔を赤くする。
「貴様ぁ、おい! この男を殺れ! こいつは魔王の子だ、殺したって罪にはならねぇよ!」
うわ、予想通りの展開だ。
「はっはぁ! そう来なくっちゃな。こいつにはムカついてたんだ、遠慮なく殺らせてもらうぜ」
「クケケケケ、俺様のナイフでズタズタにしてやんよ」
何か背の低い奴は薬でもやってんのか? それともこれが素なのか? 兎も角俺に向かってくる大小コンビ。
俺も構えをとる。但し、ボクシングではない。それは――
「くたばれや、おらあ!」
ボルドーが相変わらずの大振りのパンチを繰り出す。それをあっさりと避けローキックを放つ。
「ぐがっ!」
痛みで体制を崩すボルドーの首を押さえ込み、顔面に膝蹴りをいれる。ムエタイの技、カウ・ロイだ。
そう、今回の構えはムエタイ、立ち技最強とも言われる格闘技だ。だが、当然カウ・ロイなんて使ったこともなければムエタイを習った事もない。身体が自然に動く、そんな感じだ。本当はティー・カウ・コーンを出そうと思ったが、何となくだけど今は使えないな、と感じ、カウ・ロイに切り替えたのだが、綺麗に入ったな。そのままボルドーは崩れ落ちる。
「てめえ、やりやがったな!」
チビ男の無造作なナイフの突きをバックステップでかわし、パンチからの肘打ち。やはりクリーンヒットしてしまった。そのまま気を失うチビ男。コイツら素人か?
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
二人があっさりと伸されてしまい、逃げようとする優男に駆け寄り回し蹴りを放つ。
「ぶぎゃっ!」
と情けない声をあげて気を失った。
うーん、俺が強いのか、コイツらが弱すぎるのか、よく分からんな。取り敢えず、この3人組をロープで縛り付けとこう。ついでに『この者強姦魔』と書いた紙を貼り付けとく。
さて、
「キミ、大丈夫?」
「は、はは、ひゃい!?」
ありゃ、怖がらせちゃったかな? 噛んでるし。
「えと、立てる?」
「だだ、だいじょう……あれ? 腰が抜けて立てない……」
あー、うん。あれだけ怖い思いしちゃったからなあ。そう考えるとユフィって意外と肝が座ってる。
「仕方ない。ほら、おぶってやるから」
「ふぇ!? あ、あの……」
「あ、それともお姫様抱っこがいい?」
「い、いえ、その……」
「……やっぱり黒髪の俺に助けられるのは嫌だったか?」
自分で言っててなんだが、もしそうならかなり凹む。てか泣く。泣いて走り去る。
「そそ、そんなことありません! その、助けてくれて、とても嬉しかった、です」
良かった。これで罵倒でもされたら心がポッキリ折れる自信がある。男ならぶん殴るが。
「そうか。……それで、おんぶとお姫様抱っこ、どっちがいい?」
「え、えと、じゃあ、おんぶで……」
「了解、じゃあ乗って」
俺は、彼女に背を向けて屈む。そして彼女が俺の背にのっかかる。
むにゅ。
今そんな擬音が聞こえた様な気がしたんだけど。と言うかですね、彼女のメロンサイズの胸が当たってるんですが! あと手に太股の感触が! 役得とは言えこれはヤバい。
「あの、どうかしましたか?」
しかも彼女がしゃべる度に息が首筋に当たるんですが!
「いやいやいや、何でもない何でもない。そ、それより家はどこかな?」
「え、あ、あっちです」
と、彼女の指示に従いながら家に送っていくのであった。
悶々としながら。
――果たしてマスターの理性は彼女の家に着くまで持つのでしょうか? 凄く心配です。
うん、ちょっと自信ない。
お読み頂き有り難うございます。評価やブクマ、感想などしてくれると嬉しいです。
本来この話はもう少し後に入れる予定でした。けどここで入れないと話が上手くいかなくなってしまうので急遽ここに入れることにしました。因みにこれで主なヒロインは出たことになります。まあメインはユフィなんだけどね。
それはそうと、ノクターンで何か書きたくなってきたんだけど、どうしよう……