1ー15 黄金の林檎亭の姉妹?
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「ここが『黄金の林檎亭』でございます」
ウルフリードの薬屋を出、俺達は黄金の林檎亭に着いた。
日は傾き始めており、人も疎らになっている。
「二人ともありがとうな。で、ついでに頼みたいことがあるんだけど」
「頼みたいこと?」
「ああ。文字を教えて欲しいんだ。流石に今日は日も遅いから明日になるけど」
やはり文字が読めないのは色々と不便だ。で、誰かに教えてもらおうにもユフィとヘンリエッタさんくらいしか当てがない。
「分かりました。私でいいのなら喜んで! うふふ、明日はソーマさんと二人きり……」
いやいや、二人きりにはなれんでしょう。人のこと言えないけど心の声漏れてますよ、ユフィさん。
「お嬢様、御一人では何かと問題が起きそうなのですが。そもそもお嬢様御一人で外に出掛けることなど出来ませんが」
「そこはもうちょっと配慮してくれても……」
「お好きな方と二人きりになりたい気持ちも分からなくもないですが、立場というものを考えて下さい。それに明日は殉死した騎士の葬儀に行かなければならないのでは?」
実は冒険者ギルドに行く前に、騎士団の詰所でユフィを守って死んだ騎士達の遺体を引き渡している。
「そうでした……」
がっかりするユフィ。だが彼等はユフィを守る為にその命を散らしたんだ。当事者が出なくては話にならない。
因みに俺は行かない。行く義理も無いが、何より喧嘩しそうだし。主にクライスと。あと、黒髪を忌避する者もクライス以外にもいるだろうということで辞退した。
「ただ葬儀が終わった後ならば、問題無いでしょう。無論、私と一緒という条件付きですが」
「えー……」
ユフィがぶーたれるが、ヘンリエッタさんもそこは折れないらしい。
「もう、分かりました。それじゃソーマさん、終わったら迎えに来ますね」
「おう、何から何までありがとな。じゃあまた明日」
「はい、ソーマさん! 明日が楽しみです!」
「ではソーマ様、本日はこれで。あと……私のことは呼び捨てで構いません。そんな畏まらなくても結構ですよ」
「ま、まさかヘンリエッタ、ソーマさんのことを……ダメダメ! 駄目だからね!」
おお、そうなのか? まさかのハーレム展開なのか!?
「まさか。一侍従に畏まる必要などないというだけで、その様なことは決して。寧ろお嬢様を応援したい位です」
あ、そーなんだ。ちょっと、いやかなり残念。いや、ユフィの好意はすごく嬉しいんだけどね。
「え? ああ、そうなんだ。ヘンリエッタ公認なんだ……えへ、えへへへへ……」
ユフィが紅くなった頬を手で押さえながら腰をくねくねしている。「いやんいやん」と言う声が聞こえるのは気のせいじゃない。
「おーい、ユフィさんやーい」
「…………はっ! ソーマさん!? 何でも、何でもないですよ? ソーマさんとあんなことやこんなことなんて思ってないですよ!?」
「思ってたんだ」「そそそ、そんなことー!!」
で、何だよあんなことやこんなことって。
☆★☆★☆★
「では今度こそ。本日はこれで」
と一礼してユフィを連れて帰るヘンリエッタ。ユフィは余りの恥ずかしさに悶死しており、ヘンリエッタのなすがままだった。
なんとなく、あの二人は主従と言うより、姉妹みたいな関係なのだろうな、と二人を見てて思った。
それは兎も角、宿屋の中に入る。中は一階が食堂になっており、二階に上がる階段があることから、宿屋と食堂を兼ねているのだろう。
食堂にはオレンジ色の髪の女の子が掃除しているだけで客が誰も居ないのはまだ準備中なのだろう。
「あのー、すいません、宿をとりたいんですけど」
「はーい、ちょっと待ってくださーい」
呼び掛けるとその女の子がこっちに来た。髪を右側頭部に束ねている。所謂サイドテールというやつだ。年齢は13~4歳といったところか。そばかすが特徴の女の子だ。
「ごめんなさい、掃除がまだ終わってなくて。宿泊ですか?」
「ああ、部屋は空いてるかな?」
「はい、ちょっと待ってくださいね」
と言うと女の子はカウンターの奥へと消えていった。この場で留まるのもなんなので俺もカウンターの方へ行くことにする。
暫くすると女の子とよく似た、そのまま大人になったような二十歳位の女性が出てきた。髪は後ろで束ね、そばかすはないものの顔の造りはそっくりだ。さっきの娘のお姉さんだろうか?
「ごめんなさいね、お客人。お泊まりだったね、シングルでいいかい?」
まあ一人だしな。それでいいと答える。
「じゃあ一泊朝夕二食付きで100ディール、食事無しだと70ディールになるよ。どっちがいい?」
「じゃあ食事付き。とりあえず五泊で」
俺はそう言うとお姉さんに銀貨を5枚渡す。それにしてもはすっぱな口調だな。妙に合ってるかいいけど。
「はいよ。じゃあこれが部屋の鍵。案内するからついてきて」
お姉さんの後をついていくついでにちょっと質問してみた。
「さっきの娘は妹さん? 姉妹で宿屋を経営してるんですか?」
そう言うと、お姉さんは一瞬キョトンとした顔をし、そして豪快に笑い始めた。
「あっははは、違うよ、あの娘はあたしの娘さぁね」
ふーん、娘なんだ……て、娘!?
「嘘だろ!? どう見ても姉妹にしか見えねえ!」
「それはあたしが若く見えるってことかい? 嬉しいこといってくれるねえ。でも正真正銘あの娘、アンナはあたしの娘さ。
っと、自己紹介がまだだったね。あたしはリサ、この宿屋の女将をやってる。宜しくな、お客人」
「あ、ああ。俺はソーマ、暫く厄介になります。ところで、俺を見ても何とも思わないんですね」
これも疑問に思ってたことだ。街の人は一部を除いて大なり小なり俺を偏見の目で見ていた。だがこの親子にはそれがない。
「ここは主に行商人が泊まってくんだよ。それで他の国、レン国のこともよく聞くんでね。始めはどうかと思ったけど色々聞くとあたし達とそう変わらないって分かってね。それにこれは領主様もそうなんだけど、あたし自身あんたみたいな黒髪の人に助けてもらったことがあってさ」
そうなんだ。きっと街の中を探すとそういう人も居るのかもしれない。
「尤も、街の奴等の殆どは恩を仇で返す様な奴ばっかりだったどね……さて、ここがあんたの部屋だ。食事が出来るまで暫く間があるから、それまでゆっくりしてるといい。出来たら呼ぶから」
そう言ってリサさんは俺に鍵を渡すと下に降りて行った。
部屋はビジネスホテルのシングルと同じくらいの広さで、ベッドもそこそこ柔らかい。テーブルもあるのは部屋の中で食事が出来るようにだろう。それとトイレが完備してあった。よくこの手の小説では壺だったりするのだが、何故か洋式の、それも温水洗浄便座付き。
なんかこれだけ凄く違和感があるのだが……まあ便利だしいっか。けど紙が無いんだけど……
――洗浄後、温風で乾燥させるタイプですね。
…………ホント、時代が合ってない。何でだろ?
――さて、何故でしょうね。
んん? 何かはぐらかされたような。
――調べれば直ぐに分かることですよ。
はて、ナビーさん、少し嬉しそうだな。何か関係が? ……いやまさかね。
そうこうしていると、部屋をノックする音が。どうやら食事の準備が出来たらしい。俺は部屋を出、一階の食堂に向かうのだった。
次回は飯テロ……?