1ー13 ガラフとモーラ
連日暑い日が続きますが、熱中症には気をつけてください。と言いつつ自分がなったんですがね!
「熱中症である!」(byギム・ギ○ガナム)
「そちらの方にお売りする商品はございません。お引き取りください」
店に入り、店員の第一声がこれだった。
冒険者ギルドを出て、先ずはどうするか、ということで武具を揃えようとユークリッド商会の店に行くことにした。
ユークリッド商会は、武器や防具は勿論、ポーション等の薬や日用品に至るまで何でも取り扱っているこの国有数の商会だ。
「はぁ、またですか。何とかなりませんか」
「わが社の方針ですので、どうしようもありません」
ユフィが粘るが全く取り合ってくれない。
――とりつく島もないとは正にこの事ですね。
全くだ。
――尤も、マスターに見合うだけの物はありませんが。質もよくありませんし、このままここにいても無駄な時間を過ごすだけです。
ふーん、そうなんだ。ならここにいても意味は無いか。
「ユフィ、もういいよ。ここには質の良い物は無いみたいだ」
「なっ!?」
俺の台詞に店員が驚く。まあ、こういう所は質より量だしな、それを指摘されたら戸惑うのも仕方ない。
「あら、そうなのですか? 品揃えが良いからてっきり……」
流石に粗悪品は置いてないだろうけどね。
俺達は踵を返し、店を出た。店員が何やら騒いでいるが無視だ無視。どうせろくなことを言ってないだろうし。
しかしそうなると、これからどうするか。
「他に何処か当てはありませんか?」
「当ては無くもないですが……」
俺の問いにヘンリエッタさんがそう言うが、何とも歯切れの悪い答えだな。
「兎も角付いてきてください。話はそれからです」
☆★☆★☆★
ヘンリエッタさんの案内で来たのは小さな武器屋だった。中から何かを打ってる音が聞こえる。
「こちらです。恐らく街で一番の鍛冶師が営んでいる武具屋です。ただ……」
街一番の、か。何故ここを最初に来なかったのか、腑に落ちないとこがあるが。
「ただ、物凄く頑固者でして。以前は旦那様も贔屓にしていたのですが、先程のユークリッド商会が強引に……」
ああ、何となく分かった。要するにユークリッド商会にお得意様を取られたってことか。で、それを根にもって売ってくれないかもしれない、と。けどこればかりは会ってみないと分からない。
ということで中に入ることにした。
「いらっしゃいませー!」
中に入ると奥から可愛らしい女の子の声が。そして小走りでこちらに来た。身長は俺の腰辺り、ピンク色の髪を側頭部で結んでいる。ツインテール、というには短めだ。服はオーバーオールっぽい。恐らく店番の子だろう。
「あ、お久し振りです、ヘンリエッタさん」
「はい、モーラ様」
どうやらヘンリエッタさんとは顔見知りのようだ。
「それで、今日はどのようなご用件で?」
「はい、この方に見合うだけの武具を用意したく」
「いいよー、適当に見てって」
少なくとも門前払いはされずにすんだらしい。お言葉に甘えて武器を物色する事に。
剣や槍、斧といった武器がそれぞれの樽に入れられている。大鎌とか蛇腹剣の様な中二病くすぐる武器はないようだ。
いや、あっても買わないが。普通に使いにくいだろ。ただ、それにしても……
――数打ち物ですね。それも適当に造ったとしか言いようがない物ばかりです。
そうなんだ。その辺の目利きとか無いから分からんが。目利きとか鑑定系の技能学ぼうかしら。
それでも何か無いか色々見て回ったら、日本人には馴染みの深い武器を見つけた。反りの入った片刃の剣。
「刀……か?」
そう、刀だ。だが何か違和感がある。と言うか違和感しかない。
「お兄さんもそれに目が行っちゃいます? それはおとーさんが以前見た物を独自で再現した一品物なんですよ。アタシが言うのもなんだけど、おとーさんの最高傑作だよ。領主様も欲しがったくらいなんだけど、何故かおとーさん売ろうとしなかったんだよなぁ、何でだろ?」
「何でも何も……これ『擬き』じゃん」
俺の言葉にカチンときたのか、女の子……モーラが絡んできた。
「ちょっと聞き捨てならないんだけど。おとーさんの最高傑作にケチつける気? 擬きってどういうことかな?」
「そうです、ソーマ様。素人の私から見ても素晴らしい物だと思うのですが」
ヘンリエッタさんもモーラに同意する。ユフィもこくこくと首を縦に振っている。
「俺も実物見たことあるんだけどね。まず刃文が無い。それにこれ、ただの鉄で鋳造してない? あと恐らく型枠作って鉄を流し込んで鋳造してるんじゃないかな? そこの数打ちと同じように。それに……」
それに吸い込まれる様な美しさが微塵もない。
以前、日本刀展で実物を見たとき、その美しさに魅了された。ただの人殺しの武器なのに、美しいと感じてしまったのだ。
まあスプリング刀なんて物もあるが、アレは例外。
「だから『擬き』なんだよ。あんたのお父さんもそれが分かってるから売ろうとしなかったんじゃないか?」
「おう、何か騒がしいと思ったら客か」
奥、恐らく工房だろう、一人の男が出てきた。背が低いがどっしりとした体格、長い髭。ひょっとして……
「ドワーフ?」
「そうだ。儂はガラフ、そこのモーラの父親にして『ガラフ工房』の主でもある」
分かりやすい店名だな。
「それで、何を騒いでたんだ?」
「おとーさん聞いてよ。このお兄さんね……」
と今までのことを説明するモーラ。それを聞いたガラフは「成る程な」と納得し、
「坊主、こいつの言った事は本当か?」
「本当だけど」
「成る程、そうかそうか……」
何か様子が変だな。怒らせたかな? まあ、あんなこと言われたら誰だって怒るだろうけど、言わずにはいられなかったんだよ。
「くっくっくっ……」
ん? 笑ってらっしゃる?
「ぐはははははっ! 『擬き』か、違いねぇ。その通り、こいつぁただ形だけ似せただけの偽物だ」
「おとーさん?」「ガラフ……様?」「どうしちゃったの?」
一同呆然。一体何が愉快なのか?
「あのー、俺、コレにケチつけたんだけど。何で機嫌良さそうなの?」
「何言ってやがる。失敗作を誉められて嬉しい奴がいるもんかよ。全く娘といい領主といい見る目が無さすぎる。その点坊主はしっかりと見抜きやがった」
「えー!? アレ失敗作なの? じゃあ何で店頭に飾ってあんのさ?」
モーラの指摘も当然だ。ガラフ程の職人なら寧ろ失敗作は処分する筈だ。
「分かる奴が来るのを待ってたんだよ。だからコレは売り物じゃねえ。それと坊主!」
「はい! 何ですか!?」
「気に入った。いいもんくれてやるからちょっと待ってろ」
と、奥に引っ込み、一振りの剣を持ってきた。鞘に入っており、一見何の変哲もないただの剣に見える。
「これは……」
「儂の最高傑作だ。今のところはな」
手にしてみると、数打ち物よりも重く感じる。鞘から抜くと、刀身が黒い両刃の剣だった。造りも数打ちの様な適当さがない。それにしてもやけに手に馴染む。
「ある日夢でな、その失敗作の真贋を見極めた者にそれを渡せってお告げがあってな。で、それがお前さんだったってことだ。だからそれは坊主の物だ」
「夢のお告げって……そんなあやふやなもので…………」
「いえ、案外馬鹿に出来ないものですよ。実際それで命を救われた方もいるそうです」
ユフィがそんなことを言う。へー、そうなんだ。確かに魔法とかあるからそういうのもあるのかもしれない、と納得する。
「じゃあ代金……」
「くれてやると言ったろうが。タダだ、タダ」
それは嬉しいけどやはり申し訳ない気が。
「何言ってるのおとーさん!? それって3万ディールはする代物だっていってたじゃない!?」
ほら娘のモーラもそう言ってるし、て3万? 360万円もするんかい!? 流石に気が引けるわ。
「儂がいいっつったらいいんだよ」
しかしガラフも譲らない。ああ、成る程、確かに頑固だ。しかし幾らなんでもタダと言うわけには……と、そう言えば。
「あの、コレはいけるクチですか?」
と酒を飲む様なジェスチャーをする。
「おう、好物だ。それがどうかしたか?」
それなら、とビールを一缶。
「ん? なんだこりゃ?」
「ビール、まあエールの一種です。取り敢えず飲んでみてください」
おう、と、ガラフがビールを一気に飲み干す。
「なんじゃこりゃあ!? キンキンに冷えてて喉越しもエールとは全然違うじゃねえか! こんなうめえエールは初めてだ!」
エールじゃなくてビールなんだけどね。
「え、そんなに美味しいの?……ボクも飲んでみたい…………」
モーラも興味を示す。てか、モーラってボクっ娘なのか。いやそうじゃない。いいのか? モーラってどうみても未成年なんだけど。
「おう飲め飲め。それと坊主、もう一杯くれ」
「じゃあボクも……」
やっぱりドワーフは酒好きなのね、と溜め息をつき、ビールを二人に渡す。
「ぷはぁ! うめえ。いくら飲んでも飲み飽きねえ旨さだぜ。坊主、おかわり!」
「うわあ……美味しい。こんな美味しいの初めて飲んだ……お兄さん、一体何者? あとおかわり」
「あのー、防具も欲しいんだけど……って聞いてる?」
そして突如始まってしまった宴会。くそ、飲兵衛どもめ! ビールなんか渡すんじゃなかった……
「あの、ソーマさん、私にも……」
「お嬢様はご遠慮ください」
良かった。ヘンリエッタさんが常識人でホント良かった!
……………………色々手遅れだけど。
「「おかわり!!」」
よろこんで! じゃなくて防具も買わせろー!!
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