1ー10 エドモン・クリスト伯爵
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「旦那様、ソーマ様をお連れしました」
ヘンリエッタさんが扉をノックして、そう言うと扉の奥から「入れ」と声が聞こえた。
「失礼します」
中に入ると、二人の男性と一人の少女、ユフィが居た。二人の男性の内一人は執事のウィリアムさんで、もう一人が先程の声の主だろう。30代そこそこのイケメンで、さぞ若い頃は、いや今でもモテモテなんだろうな。プラチナブロンドの髪をオールバックにまとめ、瞳の色は翠色。服も派手さは無いが決して貧相ではなく、寧ろ高級感が漂う。おそらくは彼がユフィの父親だろう。
「君がソーマ君だね。僕はエドモン・クリスト、このユリシカの領主を務めさせてもらっている。これでも伯爵の地位に就いている」
「初めましてクリスト伯爵、自分はソーマといいます」
「はは、そう堅くならなくていいよ。君の事はユフィから色々聞いてる。君がいなければユフィがどうなっていたことか……本当に感謝している」
そう言って頭を下げる。ユフィの父親だけあって凄く好い人そうだ。それに割と気さくで話しやすい。
「兎も角、先ずは褒美を与えないとな」
と、クリスト伯が言うと、ウィリアムさんから何かが入った小袋を手渡される。中を見ると金貨が10枚程入っていた。
「10万ディール入っている。娘の命を救ってくれた報酬にしては些か少ないかも知れんが是非受け取ってほしい」
「ありがとうございます」
受け取ったはいいが、10万ディールってどれくらいなんだ? クリスト伯の口ぶりではそれほど高くない様だが。
――おおよそですが1ディールは1ドルと思って下さい。
ふぁっ!? つまり約1200万円ってこと!? 全然安くなかったよ!
「さて、立ち話もなんだ、座って話をしよう」
☆★☆★☆★
「という訳です」
ソファーに腰掛け、今までの事をクリスト伯に話した。ただ、異世界転移のことだけはぼかした。
「成る程な。しかし転移事故に巻き込まれるとは災難だったな。いやユフィ達からすれば幸運だったろうが」
それに関しては同意する。それに災難かどうかはともかく、色々役得はあったし。あの場面はしっかりと脳内フォルダに保管済みである。勿論この事も言ってない。言ったら物理的に首が飛びそうなんで。
しかし、転移事故ってあるのか。頻度はそこまで高く無いらしいのだが。
「それにしても、盗賊団か。ルドルフも言っていたが、この周辺では確認されていなかったんだがな。最近になって流れてきたか?」
「それなんですが、盗賊って質の良い武具を使っていることあるんですか?」
「末端なら兎も角、規模の大きい所、例えば『双頭の蛇』の頭目や副頭目なら上質どころか魔法の武具を用いているが、それがどうした?」
ではこれを、と盗賊が身に付けていた剣と皮鎧をストレージから出す。
「これは……成る程、そういうことか」
クリスト伯は一人納得したようだが、俺には今一見当がつかない。大体の予想はつくが……
「恐らく、いやほぼ確実に僕達を邪魔だと思ってる連中の仕業だね」
「邪魔? では私達を襲ったのは只の盗賊ではないということですか?」
ユフィはピンとこない様だ。
「つまり、クリスト伯を目の敵にしている誰か、恨みや妬みを持つ貴族か、或いは何らかの組織の仕業ってことだよ。で、クリスト伯爵は何か心当たりがある、と。そういうことでしょう、クリスト伯爵」
「御名答。恐らくはルミナス教の手の者だ。と言っても確証がある訳じゃ無いんだけどね」
「ルミナス教?」
「そう、僕はルミナス教が嫌いでね。この国の国教なんだが、些か問題がある」
問題? 金の問題だろうか。宗教は金が絡むからな。
「因みに金じゃない。まあ、確かにそれもあるが、一番の問題は人種差別だ。そしてそれはソーマ君にも関係している」
「俺に……それって、ひょっとして」
「魔王の子」
やはりか。
「ルミナス教では魔王は黒い髪、黒い肌、紅い瞳をしていたそうだ。だからそれらの特徴を1つでも持つ者は魔王の血を引く者、つまり魔王の子と蔑む」
そういうことか。それでクライスは俺を魔王の子と呼んでた訳か。しかし――
「そもそもルミナス教の奴等は魔王を見たことあるのか? いや、そもそも魔王なんて本当に居るのか?」
「居る。居た、と言うのが正しいか。50年程前に勇者によって倒されたからな」
居たのかよ。しかも勇者ときた。
「ただ、魔王を直接見たのは勇者だけだろうな。ルミナス教は勇者から魔王の特徴を聞いたらしいが、果たして」
成る程、でっち上げの可能性もあるってことか。
――見もしないのにいい加減なことをほざきますね。
うわ、ナビーさんが怒っていらっしゃる。確かに見たことないからな、いい加減なこと言ってすまん。
――あ、違います。マスターにではなくルミナス教に対してです。勘違いさせて申し訳ございません。
そうなんだ。
「そういう訳で、ソーマ君にとってこの国はかなり居づらいかもしれない。ユリシカは幾らかマシだろうがそれでも嫌な思いをするだろう。だから僕としてはこの国に留まらず東のレン国か北のグラスベル帝国に行くことをお薦めするよ」
クリスト伯はそう提案するが、それをユフィが猛反対してきた。
「お父様!? それは余りにも酷いではありませんか! レン国は砂漠越えを、グラスベルも王都を通る必要があります。ましてやグラスベルは敵国ではありませんか!」
「ユフィ、僕は何も彼が嫌いだから言ってるんじゃないんだ。寧ろ彼の為を思ってだね……」
「だからって私の命の恩人を追い出すようなことは余りにも……」
ユフィ泣き出しちゃったよ。一番の当人が蚊帳の外って、どうなんだ?
「旦那様、私からもお願いします。せめてソーマ様の意見を聞いてからでも良くはないですか?」
「ヘンリエッタ、君もか……分かった。ソーマ君、君はどうしたい?」
どうしたい、か。クリスト伯が俺の事を思って言ってるのは分かる。しかしユフィの言う様に砂漠越えや、王都を通るのも危険過ぎる。
「正直レン国だとかグラスベル帝国とか言われても、右も左も分からないので俺に聞かれても……ただ、クリスト伯爵やユフィ、ヘンリエッタさんと会ったのも何かの縁だと思うんです。だから出来ればこの街に居させてはくれませんか?」
これが運命の出会いとか言うつもりはない。ただの偶然だ。けどここで別れたら、恐らく二度とユフィ達には会えないだろう。折角の出会いを大切にしたいし、別れたくない。そう思うのは俺の我儘だろうか。それに、ここに転移した理由もきっとある。俺は、そう思うのだ。
「……………………分かった。そこまで言うなら僕は君を歓迎しよう。ただ、幾ら僕がルミナス教を嫌ってても、この街にもルミナス教が浸透してしまっている。僕も便宜を図るが、どうしても不愉快な思いをさせてしまうだろう。そこはご容赦願いたい」
「分かりました。そこは自分で決めた事ですから、なるべく我慢しますよ」
「はは、なるべく、か。取り敢えず、ようこそ、ユリシカの街へ。僕は君を歓迎するよ」
「良かった……私も歓迎します。これからも宜しくお願いしますね、ソーマさん」
ユフィやクリスト伯、ヘンリエッタさんの様に受け入れてくれる人は居ないかもしれないが、少なくともこの人達が居る。この街に留まる理由はそれで充分だ。
「ところでソーマ君、君は娘の事をユフィと呼んでいたが、君とユフィはどういう関係なのかな?」
……………………oh
伯爵の名前はモンテ・クリスト伯から。因みにドラマは見てません。