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重音の詩人  作者: 鎖宮紫庵
二章 蒸気と武装の国グリシア
6/9

2-1



そこはまるで砦のようだった。

高い壁がぐるりと国全体を囲み、門には門番が立っている。壁を越えて、煙が空へ立ち上って行くのが見える。

「魔族か。国内で魔法は使わないように。」

「それだけでいいんですか?」

「ああ。攻撃の意思がない者なら誰であろうと我が国は歓迎する」

 ポケットの中で様子見させていたシュオールが、会話を聞いてぴょこんと顔を出す。

「んあ、なんだ…?」

「もう一人いたのか。何故今まで顔を出さなかった?」

「ああ、すみません。起こすのを忘れてしまっていて…」

シュオールが寝ていて気づかなかった、ということにして謝っておく。門番の対応を見て、正式に入国するか判断したなんて口が裂けても言えないし。

「…まあいい。妖精族だな。同じく、国内で魔法を使わなければ入国を許可する」

「魔法っつったって…俺たちはいるだけで植物が元気になったりしちゃうんすけど」

「それは問題ない、というか仕方がないだろう。意図的に使用しているのでなければ構わない」

数日の観光で、滞在。魔法を使わないことを条件に、僕らは入国を許された。うーん、魔族友好国家なのか、敵対国家なのか。少なくともすんなり入国できただけ、いいのかもしれない。


「にしてもすげぇなぁ」

 魔法というのがどこまでかわからないから、ということでシュオールは肩に乗っている。

「なんというか、ちょっと僕らは住めなさそうだよね」

 国の奥の方に立ち並ぶ巨大な建物。そこから煙が沢山立ち上っている。渡された地図を見ると、どうやら工場、というものが並んでいるそうだ。僕らのいるところは中央街。この国は中心に街があり、外側は工場が立ち並んでいるようだ。その後ろにそこまで高くはない山があって、これはかつて鉱山だったと地図に書いてある。

「見たことねえもんばっかだ。確か、廃坑ってのは見学できたんだっけ?」

「だったはずだけど…とりあえず宿を探そう。話はそれからだ」

 地図を見ながら街を歩く。珍しいものに心を躍らせながら、宿を探す。少し歩いて、レンガでできた小さな宿を見つけた。大きな歯車を模した看板と、煙突のついた建物だ。

「すっげえなあれ。本でしか見たことねえよあんなの」

「歯車のこと?あれがいくつか組み合わさって、歯がかみ合って回ることで動力を伝える…だっけ」

「確かそんなん。そういうのがいっぱいあるんだろ?ここ。同じ大陸にあるとは思えないよな」

「技術力が抜きんでてるよね、ほんと。蒸気機関の仕組みとかは他国に売ってないみたいだし」

 そんな会話をしながら扉をくぐると、受付には恰幅の良いエプロンをした女性がいた。

「あらいらっしゃい!ご宿泊で…って、あらあらあら!」

 活発そうな光を宿した瞳が見開かれ、彼女は胸の前で手を合わせる。

「もしかして、妖人族の方?肩にいるのは…妖精族の方、よね?」

「まあ、そうですが…」

「ようこそ『歯車亭』へ!ほらここ、煙ばかりで空気が悪いでしょう?そのせいかエルフが滅多に来ないのよ!私も初めて見たわ!」

 手を取られぶんぶんと握手される。シュオールも小さな手をそっと指で取られて軽く振られている。

「エルフの吟遊詩人がいる、って話はよく聞くけど、実際に会ったのはこれが初めて!しかも妖精さんを連れているなんて聞いたことないわ!もしかして、あなたも吟遊詩人なの?」

「え、えっと…そういうことになる、のか…?」

「…一緒に演奏するから、そうなるね」

「二人セットの吟遊詩人!珍しいお客さんに出会っちゃったわぁ」

 肯定すればその人、おそらく宿の主人であろう彼女のテンションは目に見えてわかるくらいに上がっていく。

「ここ、面白い国でしょう?私も旦那と数年前に移り住んできたんだけど、最初の頃は目に見えるものすべてが新鮮で飽きなかったわよ。今はもう慣れちゃって、そうでもないけど…」

 女主人の話はとめどなく続く。僕らはもう相槌を打つしかできなくなっていた。

「あらやだ、長い間引き留めちゃったわ。お部屋とお食事はどうされます?食事は朝と夜、食堂で提供しているけどお部屋に運ぶこともできるわ。どちらかだけ、というのもできるし…あなた方は確か、お肉は食べないんでしたっけ?」

「部屋は一つで。食事は、野菜メインだとありがたいですが…お肉も少し、食べてみたいなとは。できますか?」

「ええ、勿論!少量でもおいしく食べられる料理があるの。あれ、でも食べられないと聞いたことがあるけれど…」

「食べられないというか…消化が野菜より遅いらしいです。そもそも妖人族は妖精と人のハーフですから、食べれないはずがないですし。妖精も大丈夫だったよね?」

「エルフよりさらに消化は遅くなるけど、食べれないわけじゃないらしいから、まあ大丈夫だろ」

「まあ、それは嬉しい!ここのお肉はとってもおいしいから、食べないなんてもったいないもの!」

 鼻歌でも歌いそうな勢い、いや放っておいたら踊りだしそうな勢いで帳簿に書きとめていく。

「食事代…そうね、妖精さんの分も含め一人分でいいわよ。お部屋も少し安くします。そのかわり、夕食の時何か曲を食堂で披露してくださらない?宿泊客は少な目だけど…私が聴きたい、っていうのが本音なのは置いといて。どうかしら?」

「はい、喜んで。二人で演奏して大丈夫ですか?」

「こちらこそお願いします。大事なお客様だもの、何かあったらきちんと対処しますわ」

 四日間の宿泊料金と食事代。お金は前払いらしい。この大陸では通過が共通だからとても助かる。

「そうそう、それとこの国は魔族友好…ってほどでもないけど、魔族を嫌っているわけじゃない。でもやっぱり反魔族派はいるのよね。宿にいる場合はこちらで対処できるけど、街中ではそうはいかないわ。人気のない場所に行かない方が身のためよ」

「お心遣い、ありがとうございます。気を付けて観光しますね」



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