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重音の詩人  作者: 鎖宮紫庵
一章 旅立ち
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1-3



子供たちに囲まれて、温かなシチューを食べる。シュオールを放置していることを気にかけながら、後でパンをもらってくるしかないか、と考える。彼の入っているポケットには何も入れていない。お腹すいてるだろうな、とか考えてたら、子供たちの会話に上の空になっていた。

いつの間にか、鞄のポケットを開けられていたらしい。

「なあに、これー!」

一人の女の子がシュオールをつまんでいた。

「おい馬鹿、離せよ!なんだよ!」

ぎゃあぎゃあわめくシュオールと、興味津々で集まる子供たち。その声で大人たちも集まってくる。僕は歓迎されたけど、妖精のシュオールは、

「ほら、かわいそうだから離してあげて」

なんとか女の子の手からシュオールを取り返す。隠し通すことはできなかった。

「ルーシェ、なんだそいつ?妖精か?」

「ええと、その…旅の、仲間なんです…」

妖精族は人を惑わす―。様々な伝承。詳細は違えど、どの伝承も最終的にはそう結論付けられている。確かに間違ってはいない。妖人族は子を成せない。妖精族に惑わされ、妖精との間に子を成した人族でなければ、生むことはできない。僕らの母親は必然的に人族となる。しかし、母親は子が幼いうちに死んでしまう。魔力に狂い、死んでしまうのだ。

怖い。糾弾され、攻撃されたら。僕もろともならまだいい。嫌われるのだって構わない。でも、シュオールが、殺されたら―。

「妖精と一緒に旅してる吟遊詩人なんて初めて聞いたぞ。でもそうか、考えてみれば同じ場所に住んでるんだからあり得るよな」

ログではない、別の人の声。

「なあ、そいつ仲間なんだろ?俺たちは別に魔族に偏見なんか持ってない。攻撃してくるならともかく、あんたはいいやつだ。あんたはそいつが俺たちに拒否されるのが怖くて隠してたんだろ?なら無駄な心配だ。仲間なら歓迎するぜ?たとえあんたが吸血鬼と旅してようがな!そうだろ、みんな?」

楽しそうに笑うログ。それに賛同する声。状況が飲み込めないとでもいうように、きょろきょろするシュオールに、ログが手を差し出す。

「話は聞いてたかもしれないけど、俺たちはあんたも歓迎するぜ。おおっと、踏まれないようにだけは気を付けてくれよ!」

シュオールも見事に打ち解けた。すばしこく飛び回る彼は子供たちにだいぶ人気だし、危惧しすぎたのかな、なんて思う。でも油断は禁物。今回はきっと運がよかっただけだろう。


「そろそろ歌を聞かせてくれないか?夜も更けたし、子供たちを寝かせなければならない」

一人の青年に声をかけられる。周りにいた数人の人がその声に反応して、僕の歌を聞こうという姿勢は波紋のように広がっていく。既に眠そうな顔をしている子供を見て、奏でる歌を決めた。妖精族が小さな子供に眠るまえに歌う歌。素敵な夢を、と願いを込められた歌。妖精とエルフが幼少期に一番最初に覚える歌と言っても過言ではないだろう。

準備が終わると、シュオールが僕の肩に腰かけて頬をつついた。

「どうせバレてんだし、俺もいいだろ?」

僕らはどちらも音楽が好きで、よく一緒に演奏していた。僕は竪琴、シュオールは横笛。了承の意味を込めて微笑むと、彼は小さな鞄から白い横笛を取り出した。小動物の小骨を削って作られた小さな笛。サイズに見合わない、大きな音を出す笛だ。だから僕の歌にもかき消されない。

目配せして、音を奏でる。蔦の楽器は僕らによく馴染み、音にも馴染む。夢を操ることはできなくても、夢を願うことはできるから。目を閉じて、風に音を乗せて。音に感謝と願いを乗せて。

弾き終わって目を開けると、控えめな拍手が聞こえた。子供たちは眠ってしまったらしい。だから大きな音をたてないように気を付けているのだろう。

「二人で弾くの、いいな。眠くなってきた…」

前列にいたログがあくびをする。妖精の子守歌ですから、と言うと通りで眠いわけだと頭を掻いていた。

「それ、他の所でもやるの?」

今度は女性だ。

「シュオールが歓迎されていれば。多分、ここに来た時のように隠していると思うのであまりやらないかと」

「もったいないわ。シュオくんが隠れていても吹けるなら、隠れて一緒に吹けばいいのに」

「確かに。吟遊詩人が少ないわけでもないだろうし、一人で弾いているはずなのに音が二つ聞こえるのはいい特徴になるかもしれないぞ」

「魔族嫌いが顕著なところではやらなきゃいい。そうだな、魔法とでも言っておけばいいんじゃないか?」

シュオールを見ると、にやりと悪戯っぽく笑っていた。

「いいじゃねえか、面白い。俺たちは二人で一人の吟遊詩人ってことか。そうだな、重音(かさね)の詩人、って名乗るのはどうだ?」

僕は少し笑って。

「本人もこう言ってるし、そのスタイルで頑張ってみようかと思います。ありがとうございます」


翌朝、彼らと別れて僕らは旅を続ける。僕らは東へ。彼らは西へ。四大魔族の所を巡りたい、という話をしたら東にある国の場所を教えてくれた。此処からなら、歩いて一日程度。大陸東部では一番大きな国、グリシア。お肉とお酒が名産の技術国だ。僕らは菜食中心の生活をしているけど、そこはそれ。禁止されているわけでもないし、食べられないわけでもない。野菜の方が体に馴染みやすいだけだが、生まれてこのかた肉は食べたことがない。少しでもいいから口にしてみたいとは思う。シュオールも興味津々だったし。技術国、というのも気になる。絡繰りの技術は裕福な国しか持ち合わせていないし、動力は人力と相場が決まっている。そんな中、たった二つの国が人力以外の動力を使っているという。そのうちの一つがグリシアで、蒸気機関を動力にしているのだとか。初めて見る物が沢山ありそうだ。ちなみにもう一つは、大陸中央付近に位置する王国ヴェルムナーラディアだ。この国はいろいろと特殊で、行ってみたい国の一つでもある。

「ルーシェ、グリシア観光は俺もできっかな?」

「さあ。魔族に優しいかどうかは聞きそびれちゃったし」

「大きい国なら数日滞在してみるのもいいかもな」

「一日じゃ楽しみきれなさそうだし、そうしようか」

まだ見ぬ国に思いを馳せながら。

僕らは「重音の詩人」としての一歩を踏み出す。

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