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重音の詩人  作者: 鎖宮紫庵
一章 旅立ち
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1-2



日が暮れてきている。僕らはあまり口も利かず、ただ進んだ。シュオールが少し離れたところまで偵察に行ってくれているが、街らしき影は見えないという。

「…どうすんだよ、ルーシェ」

「んー、いずれは通る道だけど野営はあまりしたくないんだよね」

「そうはいっても何もないじゃねえか」

「もう少し進ませてよ。夜目が効くから進めないわけじゃないし、街道なら魔物だっていないだろ?」

「…まあいい。最後、もう一回偵察行ってくるわ。あー、一応目印ねえ?」

僕は太陽に手を掲げ、短く詠唱する。ふわりと、一人の光の精霊が答えてくれた。僕の手の上でふわふわと漂っている。精霊召喚は媒介となるものがなければできない、と言えば聞こえはいいけど、呼びたい精霊に関するものならなんだっていい。

「これで見えるかい?」

「上等。行ってくるわ」

ひらりと彼は飛んでいく。それを見送って、また移動を再開する。日は落ち切ってしまったけど、まだ明るいから問題なく進める。

行く当てはない。でも、行ってみたいところはある。四大魔族―大いなる竜がかつて使っていたといわれる四つの魔法を使える魔族。『炎の火竜族』『水の人魚族』『土の鬼族』『風の吸血鬼族』。魔族は一つの種族に一種類の魔法しか使えず、この四種族以外に炎や水、土や風の魔法を操れる魔族はいない。というか、いないに等しい。

四大魔族は大陸の四方を司る。北に吸血鬼族、南に火竜族、東に鬼族、西に人魚族。彼らのところは巡ってみたいと思うのだが…大陸は広い。徒歩だと無理があるだろう。どこかで馬でも手に入れられればいいけど、生憎今は馬を買えるような資金は持ち合わせていない。

少しして、彼は問題なく戻ってきた。

「おい、朗報だぞルーシェ。距離はあるが近くに遊牧民がいる。合流できれば、街の情報とか手に入るかもしれない」

「確かに。こういうのはプロに聞いたほうが早い。案内頼んだ」

光の精霊を帰してシュオールを先頭に進んでいく。前方に山羊を連れた遊牧民たちが見えた。野営の準備をしているらしい。シュオールが鞄のポケットに潜り込んだのを確認して、僕は彼らに近づいて行った。


「すみません、このあたりに町はありますか?」

僕に気が付いて近くまで来てくれた人に聞いてみる。気さくな笑みを浮かべた褐色の男性だ。

「旅人さんか。町ならあるにはあるが、かなり距離があるぞ。今から行くならやめとけ」

「あ、大丈夫です。ありがとうございます」

「おい、夜になるぞ!正気か…って、お前さん、エルフか」

怒気をはらんだ声で止められたが、僕の種族に気づいて安堵したような声に変わる。拒否されなくてよかった、と内心思いながら、街道に戻りかけた足を止めた。

「はい、だから大丈夫ですよ。夜目も効きますし」

「あー、そういう問題じゃないんだがな…魔族連中はどうもこう、自分を大事にしない節がある気がするんだが、俺が見てきたやつらが馬鹿なだけなのか…」

その人は頭を掻きながら、困ったように僕を見ている。

「竪琴持ってるし、あんた吟遊詩人だろ?エルフの歌は疲労を癒すって聞いたことがある。一晩の宿と食事の代わりに、ぜひ聴かせてもらえないか?」

「ええと、お誘いは嬉しいんですが…僕は今日森を出てきたばかりだし、吟遊詩人を名乗るには日が浅すぎるというか、なんというか…ご期待に沿えるような歌が披露できるかも、わかりませんし」

歌に自信がないわけではない。でも、不安ではある。ううん、もう少し練習してから森を出るべきだった。

「旅慣れしてないってことか。なら尚更だ。人間流でよければいろいろ教えてやれるし、仲間も歓迎してくれるだろう。歌だってほら、練習だと思って聴かせてくれよ。エルフはみんな生まれつき歌や絵が上手いみたいな話が本当かどうかもわかるしな!」

基本的に人が好きなのだろう。その人は、冗談めかしながらさらに僕を誘ってくる。ここまで言われたら乗らないほうが失礼だろうなと、その誘いに甘えることにする。


バシバシと僕の背中を叩いて、ログと名乗ったその人は遊牧民たちのところへ僕を案内してくれた。男女はまばらで、子供もいる。

「準備中悪いな。新米吟遊詩人のエルフに会ったんだが、面白そうだったし一晩泊めてやることにした。歌も聴かせてもらえるそうだが、今日旅を始めたらしいから、お手柔らかにって感じだ。まあ俺が提案したんだがな!そういえばお前さん、名前は?」

「ティアドルーシェ、と言います。長いのでルーシェでいいですよ」

ログは大きな声でそう言って、僕に楽しそうに笑いかけた。人々のざわめきに混じってログはいつも強引なんだから、なんていう声が聞こえて、僕みたいに引き入れられた人がいそうだな、なんているかもわからない先人につい思いを馳せてしまう。子供たちが数人、僕に寄って来た。

「えるふってなあにー?」

「まぞくなの?まほうつかってよ!」

「なになに、まほう見せてくれるのか?」

わいわいがやがや。僕は魔法使えないのに。

魔法の代わりに精霊を召喚して見せたり、女性陣に顔が整ってると褒められてちやほやされたり、男性陣と力比べしてみたりと、大きめの焚火の周りで僕は引っ張りだこだった。人族って魔族嫌いって聞いたんだけどなぁ。彼らは各地を巡っているから、順応力というか自分たちと違うものを受け入れることに抵抗がないんだろう、ということに勝手にしておいた。妖人族だから、というのもあるのかもしれない。


夕食を食べているときに、事件は起きた。



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